映画『ボトムス ~最底で最強?な私たち~』感想|バカバカしくて痛快な爆笑コメディ (original) (raw)

この映画のコンセプトを端的に表すなら、劇中でも言われていた通り「女子版『ファイト・クラブ』」になります。でも、幸いなことにこのファイト・クラブのことは口外しても構いません。日本では劇場未公開となりましたが、映画『ボトムス』は道行く人に叫んで布教したくなるほど面白いんです!

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映画『ボトムス ~最底で最強?な私たち~』はAmazonプライムビデオで見放題配信中。

基本データ

予告編

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キャスト&スタッフ

左から、レイチェル・セノット、エマ・セリグマン、アイオウ・エディバリー

映画『ボトムス』には、今最高にアツいキャストとスタッフが集結しています。主演のレイチェル・セノットとアイオウ・エディバリー、監督のエマ・セリグマンは、過去に何度もコラボしたことのある旧知の仲。

具体的には、エマ・セリグマンの前作『Shiva Baby(原題)』ではレイチェル・セノットが主演しており、レイチェル・セノットとアイオウ・エディバリーはコント番組『Ayo and Rachel Are Single(原題)』を共同で製作しています。今回の映画『ボトムス』では、エマ・セリグマンとレイチェル・セノットが脚本を担当しています。

この「軍団」には、もう一人、モリー・ゴードンを加えることもできます。彼女は、エマ・セリグマン監督の映画『Shiva Baby』でレイチェル・セノットと共演し、ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』でアイオウ・エディバリーと共演し、自身の監督作の『シアター・キャンプ』(Disney+で配信中)にもアイオウが出演しています。

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アイオウ・エディバリーはForbes誌による2022年版の「30 Under 30」(30歳未満の特筆すべき30人)のハリウッド&エンターテインメント部門で選ばれており、他の3人も2023年版の「30 Under 30」に選出されています。本当にノリにノッている軍団なのです。

ちなみに、私はアイオウ・エディバリーの作品をかなり見ている方だと思いますが、これまでの作品ではあまり彼女のコメディエンヌっぷりを十分に見ることができませんでした。でも、この映画のアイオウ・エディバリーは本当に面白い。さらにファンになりました。

サブキャラだとヘイゼルが良い。演じているのは、ルビー・クルズ。ドラマ『メア・オブ・イーストタウン』や『ウィロー』に出ていたそうです。トーマシン・マッケンジーみたいな雰囲気もあって、好き。

感想

New York Magazineより

この映画の宣伝文句の一つが、"Finally, the horny, bloody, lesbian incel comedy America has been wating for"(アメリカが待ち望んでいたセクシーで血みどろなモテないレズビアンのコメディがついに現れた)というもの。一見すると意味不明な文章ですが、実際に映画を観ればとても適切な紹介文だとわかります。

まず、セクシーであるか、正確にはhorny(欲情している)かどうかというと、まさにその通り。下ネタ盛りだくさんです。PJは映画の冒頭でヤリまくりたいと宣言し、親友のジョージーも意中の女子がいます。その流れで、花形のチアリーダーとヤルために護身術クラブを始めるのですから、これほどhornyな映画はありません。

次は、血みどろ(bloody)であるかどうか。これもその通り。護身術クラブとはいえ、誰も正しい護身術を知らないので、活動内容はほぼ殴り合っているだけです。その結果として、クラブのメンバーはどんどん傷だらけになっていきますが、そうなればなるほどカッコよく見えてきます。

極め付きは、ラストシーン。未見の人のために具体的には書きませんが、バカにならない流血量になります。そこまでやるのかと笑ってしまうほど。現実世界で考えたら明らかにやりすぎですが、これは映画の話。面白ければ何でも良いんです。

あくまでも映画の話だと思って見るのは冷めているように感じるかもしれませんが、この映画に関してはあえて既存の青春映画のパロディをやっているところが多分にあるので、それはそれで一つの見方としてアリなのかなと思います。例えば、序盤の高校のシーンで「これで授業が終わりなの!?」という台詞がありましたが、これは青春映画あるあるです。映画の中ではいつも、主人公たちがわーわー騒いでいたら、いつの間にか授業時間が終わっているんですよね。現実では全然終わらないのに。

続いて、lesbian incel comedy(モテないレズビアンのコメディ)という部分。レズビアンのコメディであるのは説明するまでもなく事実ですが、形容詞であえてincelという言葉を使っているのが面白い。

インセルとは、普通は異性愛者の男性に対して使われる言葉で、自分がモテないことを勝手に女性たちのせいにしている人のことを表します。インセルがミソジニー(女性嫌悪)と結びつくと最悪なのですが、ひとまずそのパターンは置いておいて、ここでは「モテない」というくらいの意味で捉えておいてください。

モテない異性愛者の男子が主人公のコメディは、過去にも少なからずありました。有名なのは、『スーパーバッド 童貞ウォーズ』と『アメリカン・パイ』。どっちも男子高校生が童貞を捨てようと頑張る話です。00年代のアメリカでは、こういったコメディ映画が大ヒットしていました。下品でバカバカしいけど、そういう青春も確かにあって、懐かしくもあり、その友情や下手な恋愛に憧れる気持ちがなくもない、みたいな感情になる映画です。

モテない女子が主人公の映画も、例えば『小悪魔はなぜモテる?!』などがありますが、男子が主人公のものと比べると少ない。レズビアンが主人公となると、数年前まではほとんどなかったはずです。2020年の映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』が初の(?)非モテのレズビアンのコメディということになるかもしれません。

ただ、監督らのインタビューでは「女子版の『スーパーバッド』みたいな映画がもっと観たい」というような発言があります。『ブックスマート』はとてもよくできた面白い映画ですが、ある意味"お行儀が良い映画”だった(下ネタは盛りだくさんですが)とも思うので、もっとバカバカしくて大笑いできるようなコメディを作りたかったのかなと私は推察します。

実際に映画を観れば、よくぞやってくれたなと感じられます。ハジけてますよね。最初のシーンからネタが詰め込まれて、最後までそのテンションで突っ走っていきます。しかも、血みどろの戦闘あり、女子同士のキスあり、NG集ありと、やりたいこと全部やったなという感じです。

とにかくエネルギッシュで痛快な映画です。『スーパーバッド』の時代とは色々価値観が変わって、そのことによる内容の変化を"ポリティカルコレクトネス”と呼ぶのは自由ですが、それは必ずしも表現の委縮を意味するものではありません。映画『ボトムス』は、今のハリウッドでも思いっきりハジけたコメディ映画を作れることを証明してくれたのですから。

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