Fun/Done/Learnによるふりかえりレポート / 学び・楽しさにフォーカスするアクティビティ紹介 (original) (raw)

Fun/Done/Learnとは

2018/10/29-31に沖縄で行われた、Scrum Coaches Retreat in Okinawaにてコーチたちによって提唱されたふりかえりの手法です。Fun/Done(Deliver)/Learnの3つの輪を書き、チームでふりかえった結果を付箋で貼っていくというシンプルな手法です。1

2018/10/31にやっとむ(@yattom )さんのQiita記事で概要が記載されていますので、まずはこちらをご参照ください。
ファン・ダン・ラーン(FDL)ふりかえりボード

実施してみようと思った経緯

やっとむさんの記事を見て、一目でいい手法だと直感して、今すぐにでもやりたい、と思ったためです。ふりかえりにはさまざまな手法がありますが、ふりかえりでは「楽しさ」にフォーカスした手法は驚くほど少ないのです2。チームが前向きになり、対話をしながら、より前に進むためのアクションを考えるには、「楽しい」という感情がよい方向に作用します。
また、「学び」にフォーカスすることで、チーム全員が前進できるよいアイデアが生まれやすくなる傾向にある、と考えています。
この「楽しさ」「学び」という2つの要素が盛り込まれているアクティビティですから、これはやってみたい、と思ってやってみました。
どんな雰囲気でやったのか、というのも伝われば幸いです。

この記事の前提

あくまで「実践レポート」としてお読みください。まだこのアクティビティは発展途上で、いろんな人にいろんなやり方で試してもらって、意見をもらう段階かなと(勝手に)考えています。
この記事では私なりの知見をアクティビティにMIXしておりますが、もしこのアクティビティを見てFun/Done/Learnをやってみたいと思った方は、まずはじめはやっとむさんの記事を見て、フラットな気持ちで自分なりに取り組んでみていただければと思います。
ファシリテーションの参考になる情報は多少含まれていますが、参考にする程度にとどめていただけますと幸いです。

実施における前提

今回、下記の条件でFun/Done/Learnを行いました。

実施者
新人4名。アプリ開発研修のふりかえりとして。ふりかえり経験は「Timeline+KPT」を2回やっただけ。

ファシリテーター
全体ファシリは私が実施。ただし、内部の進行は基本的に新人にお任せ。

全体の流れ
計60分。
・(05分)DPA + グランドルールの復唱
・(15分)Y(やったこと) / (Timeline)
・(25分)Fun/Done/Learn
・(01分)ドットによる優先順位付け
・(03分)T(Try)
・(08分)A(Action)
・(02分)+/Δ

進め方レポート

流れはふりかえりのファシリテーションを考えてみるに準じます。

1. 目的を考える

今回は「新人研修における学びを深めること」と最初から決めていました。また、新しいアクティビティをすることにより「ふりかえりの楽しさ・奥深さに触れてもらう」こと。そのため、学びを次に活かすアクションを決めるのは必須で、次点で自分たちでふりかえりを考え、作ることをやってもらうことを構成に活かすことを考えました。

2. 構成を考える

最初に考えた構成は以下のとおり。
・場作りなにか
・やったこと
・Fun/Done/Learn
・+/Δ

あとは現場の状況に合わせつつ可変、くらいのゆるさで。
写真は初期のアジェンダ。(※右側は+/Δ。後述します)
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3. 事前準備をする

4. 空間を創る

5分前からみんなで事前準備をしました。
・飲み物の準備
・ペン・付箋の準備
・前回のTryの貼ってあるホワイトボードの移動
・DPA(ふりかえりのグランドルール)の貼ってあるホワイトボードの移動
・音楽を流す

5. 場を作る

ふりかえりの導入として、アジェンダを見せながら以下の話をしています。
「今回、最近生まれたばかりの新しいアクティビティであるFun/Done/Learnというのをやってみたい。本当は今週もKPTをやって、みんなでふりかえりに慣れていってもらおう、と考えていたけれど、このアクティビティもきっと楽しく、みんなにとって学びの大きいふりかえりにできると思う。」
とそんなかんじでふりかえりをスタート。

新人同士仲は非常によく、コミュニケーションもしやすい状況だったので、基本的には場作りはなくてもふりかえりにいい具合に入れる、と思っています。ただ、「ふりかえりをする」ことにスイッチを入れてもらうために、以前決めてもらった「DPA(所謂グランドルール)」の見直しと復唱を行うことにしました。
前回より、ちょっとだけ具体的になったのを見て一安心。一人ひとつずつルールを読み上げてもらって、本題へ。

6. データを収集する

Fun/Done/Learnだけだと思い出しに偏りが大きく出る可能性がある、かつ、チームにとってのアクションにつながる可能性が減ってしまうことを考慮して、ここまで2週間で「Y(やったこと)」は毎回やってきたので、何もいわずに今回もやることにしました。
時系列にどんなことをやったのか、というのを個人で思い出してもらって、共有。
今回意識してもらったのは「他人がやっていたこと」「チームの動き」にも着目してもらって付箋を書くということ。前回より、チームにより寄り添った意見が出てきたように思います。
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ここでいよいよFun/Done/Learnです。
まずはFun/Done/Learnの説明から。

「Fun, Done, Learnの3つの円のなかに、イベントや感情などを書いていこう。さっき出した「やったこと」から付箋を移動してもいいし、「やったこと」は抽象的なものも多かったから、より具体的に書き直して貼ってもいい。」

「Fun, Done, Learnのどこに貼るかはみんなに任せるし、どんなことをFun, Done, Learnに貼ろうかというのもみんなに任せる。話し合って決めてほしい」

「ただし、Doneだけイメージができないと思うので、先に例だけ言っておくと、「新人研修を終了させるために、何かしら前進したもの」かな。そこも具体的にどんなことを貼るのかは考えてみてね」

「このFun/Done/Learnのやりかた自体も私は詳しいわけじゃないので、みんなで考えながらやっていこう。いったん10分でみんなで貼り付けるワークをやってみて、そのあとどうしたいかみんなに聞こうと思う。」

こんな説明ではじめます。
そうすると、こんな会話が生まれました。

A「これ、Doneかな」
B「いや、できてないっしょ。Funだけじゃね」

C「やったことの付箋移動するね。これLearnだな」
D「これはFun/Learnだなー」

あまりFun, Done, Learnの定義に関わる話は出てきませんでした。
ただ、会話をしながらどこの分類なのか、自分が書いた付箋はどこか、というコミュニケーションが生まれます。
全員が「やったこと」を移動しようとしはじめたところで、こんな会話が。

A「やったこと全部分類すればいいんじゃないかな」
B「スペース足りなくなっちゃうよ、それ」
C「必要なやつだけでいいでしょ」

ここでフォローをちょっと入れる。

「付箋を全部分類しようとすると、大事なものがなにかが薄まってしまうよね。やったことのなかでも、特に大事だな、と思うもの、Fun, Learnだな、と思うものだけに注目して貼ればいいんじゃないかな」
「あとは、**前回のTryはどうだっただろう。Fun, Done, Learnのどれに入るかな。**また、できたもの・できなかったものは理由も考えてみよう」

こんな感じで10分、ワイガヤしながら分類が進んでいきました。

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つぎは、「今の一連の活動でどんなことを感じたか」「次どんな風にしていきたいか」をチームに問います。
そこで出てきた意見は以下のようなもの。
・右下(Learn)に持っていくように何か考えるといいんじゃないか
・分類しながら意見を深めていったものをリストアップして、もっと話したい
・意外とDoneしてたものが多い
・中心(Fun/Done/Learn)のものがない…
・FunをDoneに持っていきたい

上記意見を統合し、かつ、チームがいい方向に持っていけるよう、以下を提案。
・意見を深めていきたいものをリストアップするために、まずはドット投票しよう
・ドット投票したものの中から、Fun, LearnをDoneに持っていくためにどんなことをすればいいか考えよう

全員で合意し、次のフェーズへ。

7. アイデアを出す

まずは、Fun/Done/Learnのなかから、以下の観点で「ドットによる優先順位付け」をしました。
・チームがより加速するために、Fun, LearnをDoneにしたいものはどれか
・6-3-1票で投票
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(※黄色のものは前回のTryです)

ある程度想定できましたが、それなりに偏りました。
ただ、「Doneにするためのアイデア(チームを前進させるためのアイデア)」の候補が出ていたのが非常によいところです。

8. アクションを決定する

投票後、Tryの案を出してもらいます。
これまでチームで2回KPTをやっていたため、「KPTのTやるよー」で通じるのがよいところ。
「ラウンドロビンであとで共有するから、まずは一人で黙々と書こう。大事だと思うものから書いてね」とリードします。
3分間のアイデア出しのあと、全員でラウンドロビンで共有し、再度ドット投票をしてアクションの候補を決定します。
アクションの候補を決定したあと、具体的でないアクションをより具体化する話をしてもらって、ふりかえり終了です。
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チームの全員の問題点が共有され、解消するための足がかりになっただけでもよい結果になったかな、と。

9. ふりかえりを終了する

+/Δで、Fun/Done/Learnのやりかたをふりかえってもらいました。
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出てきた意見は以下のとおり。

+(plus / ふりかえりのよかった点・継続すべき点)
やったこととFun/Done/Learnの組み合わせがよい
やったことを思い出してから、紐付けしていくほうがイメージしやすい
・チームの動きを包括的に見れた気がする
Doneがあるのでアクションを考えるときにゴールを見据えやすい

Δ(delta / ふりかえりの改善すべき点)
Funを出すのが難しかった
・うまくいかないとDoneが少なくなりしそう
Fun, Learnを先に出してから、Doneを考えるとよさそう

初物でしたが、タイムボックス内に収まり、かつ前に進めるアクションもできたのでよいのかな、と。ふりかえりのアクティビティの説明込みで60分に収まっていますので、説明が少なくて済むのもよい点かもしれません。
この結果を受けての詳細なFun, Done, Learnのふりかえりは後述。

10. ふりかえりのふりかえり

というわけで、Fun, Done, Learnを自己流にアレンジしてやってみたのですが、今回の進め方での感想です。

Funはどうしても出しづらい
"Fun"を考えてみて、といわれてもなかなか出てこないのがふりかえりの難しいところです。
これはKeepを出すのが難しい問題と似ているように思います。時系列データを出したことで多少Funが出しやすくなった感はありますが、場作りでGood&Newをするなど、「よかったことは何か」をはじめに考えて「前向きスイッチ」を入れるだけでも、意見はでやすくなるかもしれません。

共通用語が生まれる
FunDone, FunLearn, DoneLearnのように、コミュニケーションのなかで勝手に用語が生まれます。共通用語でしゃべるとコミュニケーションの質も向上しますね。語呂もいい。

Fun,Learnから考えるとよさそう
左のDoneから考えがちですが、Fun, Learnから考えて、どれがDoneに分類されるか、を考えていったほうがよさそうです。Doneのみのものからアイデアは生まれづらく、自分たちの情報共有やモチベーションupのためのみに活用する、と考えたほうがいいかもしれません。位置的にはFun(上), Learn(左), Done(右) とすると、視覚的にもおのずとFun, Learnから考えることができそうです。そのあと、Doneに持っていくためにどうすればいいのかを考える際にも有用ですね。

あえて分類方法を委ねるメリット
今回のチームではFun, Learnの定義の話は生まれませんでしたが、チームによってはこの会話によって、コミュニケーションが非常に活発になりそうです。ただ、この分類に時間を割きすぎてももったいないので、あとで提示できる分類例、はあってもいいかもしれません。

Fun,Done,Learnだけやったらどうなるか
Fun, Done, Learnのそれぞれが出にくくなってしまいそうな気がしますが、単品でやってみたい気持ちはあります。「思い出し+KPT」のように、「思い出し+Fun,Done,Learn」がいいのか、それともYWTのように単品で完結できるのか。おそらく前者だとは思いますが、もし単品でいけるのであれば非常に汎用性の高いフレームワークだということが立証できそうです。
ただし、その場合ファシリテーションの力量に拠ってしまう場合もあるので、注意深く観察してみようと思います。

Next Action
上記改善点を加えたうえでやってみたいと思います。そのうえで、再度Fun,Done,Learnのみの手法として私なりのやりかたをまとめてみようかと思います。

(参考)学び・楽しさにフォーカスするアクティビティ紹介

Fun/Done/Learnに類似したアクティビティを紹介します。一部私の感想も混じっています。
需要とやる気があれば、個別にアクティビティを詳しく紹介する記事も書こうかと思います。

学びにフォーカスしたもの

YWT

出自は下記ツイートから深堀りしていけそう。

YWTは、もともとJMACの技術KIの一つの手法です。IT系に広まったのは、TISが技術KIを導入していたからだと思います。

YWTのWを習得するには時間がかかるので、TISでは社内コンサル制度を作ってやっていたんですけど、途中でなくなって、形式的にYWTを埋めるようになりました。

— 鈴木三紀夫 (@mkoszk) 2018年10月30日

①Y(やったこと)
②W(わかったこと)
③T(つぎやること)
の3つの問いにより、学びを深めていき、次のアクションを決める。
軽量なフレームワークながら、使いこなせばチーム全員が前向きなよいアクションを出すことができるようになるのが、好き。

Celebration Grid

Management3.0より。
①成功・失敗の軸
②ミス・実験・プラクティスの軸
の2軸/計6象限で実施したイベントを収集し、学びを祝いあう。
「みんなで学びをお祝いしあおう!」という前向きな感情になれるのが好き。

学習マトリックス

書籍「アジャイルレトロスペクティブズ」より。
①続けること
②課題・改善
③新しい学び・気づき
④感謝
の4象限でイベントを収集し、分類する。
感謝が入っており、チームビルディングの一助にもなる。好き。

ORID

出自不明。私はXP祭り2017で知ってから愛用している。
①Objective Question(事実)
②Reflective Question(感情)
③Interpretative Question(学び)
④Decision Question(決定)
の4つの問いの順に、学びを深めていく手法。
ワークショップ・研修など、学びを深化・強化するのに非常に有用なアクティビティ。好き。

4Ls

Fun Retrospectivesより。
①Liked(好きなもの)
②Learned(学び・教訓)
③Lacked(課題)
④Longed for(今後の望み・期待)
の4象限にアイデアを分類する手法。
Liked, Learnedをみんなで考えていると雰囲気がよくなる。好き。

FLAP

Fun Retrospectivesより。
①Lesson Learned(学び・教訓)
②Accomplishment(成果)
③Problem(課題)
④Future Concerned(将来の懸念)
4Lsに比べると問題解決志向。学びが最初に来ているので、リリースイベントなどのふりかえりに使うといい感じの効果を発揮する。好き。

楽しさにフォーカスしたもの

喜怒哀(Mad Sad Glad)

書籍「アジャイルレトロスペクティブズ」より。
①喜び
②怒り
③哀しみ
の3つで感情とイベントを収集し、分類する。
ここに「楽」を入れちゃえば楽しさにフォーカスできる。
英語だと語呂のせいか「Mad, Sad」が先に来ますが、喜楽哀怒の順番で出していくといいのではないかと。怒・哀は削ってもいいんじゃないかな、と思うアクティビティ。

さいごに

初物のアクティビティをやるときにはいつもワクワクするものです。みんなで楽しく新しいものをチャレンジしてみる、という文化を作れていたのもよかった点かなと思います。
Fun/Done/Learnは、そのアクティビティ自体がFun, Learnにあふれています。今回やってみて、非常によいアクティビティだと感じました。ぜひ、「やってみよう」と思ってくれた人が増えたなら嬉しいです。

また、いろいろなアクティビティをみると、**楽しさにフォーカスしているものがいかに少ないか3**、というのがわかります。ただし、場作りのなかで楽しさにフォーカスするものが多いので、ようは使い分けによってどうとでもなるのですが、多くの現場ではアクティビティ単体で使うことも多いでしょう。Fun/Done/Learnはフレームワークとして軽量かつ分かりやすいというのは非常に魅力的です。

(あと、いろんな手法をふりかえって書いていて、どの手法も満遍なく好きなんだなーと再認識しました。全部に得意なところがそれぞれあって、全部楽しいです。)

みなさまも、よいふりかえりライフを。

注釈

  1. 2018/11/04現在、FDL, Fun/Done/Learn, ファン・ダン・ラーン と色々名前がぶれているようです。正式名称が決まったら書き直します。
  2. 場作りにおける「楽しさ」にフォーカスしたものは結構多い(※3)ですが、それ以外のアクティビティで、となると少ない。もし、いいアクティビティをご存知でしたらぜひ教えてください。やってみたいです。
  3. 場作りに関するアクティビティはふりかえり読本 場作り編~ふりかえるその前に~に色々載せていますので、そちらもあわせて見ていただけると幸いです(宣伝)