若者を追いつめる「強者のアドバイス」…けんすうさん、もっとやさしく擁護して! (original) (raw)

SNSで目立つのは、強者たちの意見。「顔出し実名で発信しろ、自分をメディアにしろ」「若いうちは失敗しろ。リスクをとってチャレンジしろ」「キャリアプランを設計しろ」…かっこいい。まぶしい。

が、そんなことばかり言われても無理です! 誰かほっこりした人に、「別にそんなこと必要ない」って擁護してほしい…。

と思い、取材を申し込んだのがけんすうさん。華やかな経歴を持つ実業家なのに、どんな相手にも偉ぶることなく低姿勢。彼なら、若手ビジネスマンたちが悩まされる「こうすべき!」に対して「そんなことやらなくていいです」と擁護してくれるのでは?

けんすうさん、お願いします!

〈聞き手:ライター・小沢あや〉

「顔出し・実名」で発信しなくてもいい。内容と表現の掛け算で勝負!

【けんすう】1981年生まれ。19才で学生コミュニティ「ミルクカフェ」を立ち上げ、大学在学中にネット企業の社長に就任。2006年、リクルートに入社。2009年に退職し、nanapi代表取締役に就任

小沢

まず、けんすうさんに擁護してほしいのは「SNSで顔出し・実名で発信すべきだ!」という意見からです。

今、田端(信太郎)さんや箕輪(厚介)さんのように、顔出し実名バーン! 強気ゴリゴリ! なビジネスマンが目立ちまくっていますよね。そのなかでけんすうさんは、あだ名とイラストアイコンですが…

おなじみのこのアイコン

けんすうさん

顔出ししたくなかったらしなくていいと思いますよ。

僕、意外とTwitterで本名すら出してないんですよ。今も匿名ユーザーっていう設定でやってます(笑)。

小沢

そうなんですね…! 発信内容も、誰も傷つけないような、“まろやか”なものだなあって思います。

SNSでは強い発信が人気になるといわれますが、そんなスタンスでもいいんでしょうか?

けんすうさん

はい。無理に過激なこと書かなくていいと思うんですよね。

たとえば僕、人の悪口を書くと、「自分の悪口も言われるんじゃないか!?」って思っちゃうんです。「自分がしている行動=他人も同じことをしているはず」って考えちゃうじゃないですか。

だから、とにかく褒めるようにしています。「僕も今ごろどこかで褒められてるんだろうなあ」って思えるので、幸せです。

けんすうさん

SNSの発信って、「内容と表現の掛け算」ですよね。でも、その発信の評価は「表現にひっぱられる」と思うんです。

僕、イケダハヤトさんやはあちゅうさんが炎上した内容を、パクって表現だけ変えて投稿するっていう実験をたまにやってるんですよ。

このツイートも賛否両論あったものの、そこまで責められるべきものかは疑問ですが…

小沢

ほんとだ!表現をマイルド補正しているだけで、まったく同じことを言っている!

けんすうさん

あっちはめちゃめちゃ燃えてるのに、こっちには「さすがです!」と賞賛コメントがついたりするんですよ。内容は同じでも表現が違うだけなのに。つまり、賞賛されるのに「顔出し・実名」や過激な表現はマストじゃないってことです。

ちなみに、こんなことやっている僕のほうが性格が悪いとは思ってます。はあちゅうのほうが、よっぽど正直で誠実ですよ(笑)。

小沢

そのフォローも“まろやか”ですね。はあちゅうさんは素直!

あくまでもマイルドを貫くけんすうさん

発信の内容はなんでもいい? 継続できることを見つけてみよう

小沢

「SNS」に関しては、「発信しろと言われても、書くことがない」という人がすごく多いです。

けんすうさん

僕が昔好きだったブログで「数えるブログ」ってのがあって。「電卓のボタンを数えました。32個です」「モスバーガーのポテトMは30本でした」みたいに、淡々といろんなものの「数」を数えて発信してるんですよね。

こういうのだと、発信する内容なくても、継続できるじゃないですか。誰でもできますよね。発信することはなんでもいいんですよ。

小沢

すごいですね…

でも、そんな内容で人気になるんでしょうか…?

けんすうさん

バーグハンバーグバーグのシモダさんも、10年以上前に「メシを残すことで有名な西田」っていうブログをやってたんです。彼の同僚の西田さんが絶対にご飯を残すんですけど、それをひたすら写真にとってあげているだけっていう(笑)。

当時大人気だったんですよ。

小沢

(検索しながら)ほんとに残飯が並ぶだけのブログですね。しかも、書籍化してる!

けんすうさん

誰でもできるものってたくさんある。でも、ほとんどの人は行動しないんです。

だから、動けばチョロいですよ。内容はなんでもよくて、行動量が大きい人が一番ウケるんです。

細かい「キャリアプラン」を立てるとショボくなる。大きなビジョンだけ持とう

小沢

続いて伺いたいのが、「若いうちにこれからのキャリアプランを立てるべきだ!」という意見。

これについてはどう思いますか? 会社の面談でも、やたら聞かれるけど難しいじゃないですか。時代だって急速に変化するし、長期目標の立て方がわからないです。

けんすうさん

僕は、「キャリアプランとか立てなくていい」と思ってます。

必要なのは、大きな「ビジョン」です。それを混同しているのが問題なんですよね。

けんすうさん、ホワイトボードに図を描きはじめた。一番上にあるのが「ビジョン」。一番下にいるのが「自分」のようだ

けんすうさん

「自分が人生でどういう状態になりたいのか」という最終的な目標です。

「キャリアプラン」って「計画」なので、短期的になっちゃうんですよね。「まずどこどこの会社に入って、○年後に転職して、○年後に起業して…」とか、どうしてもショボくなっちゃうんですよ。ボトムアップで考えてしまうというか。

けんすうさん

ビジョンは大きく、遠くに置いていたほうがいいんです。

遠くに行くにはいろんなルートがあるから、「紆余曲折あっても、なんとなくこの方向に進んでいればいいや」って大きく考えられますよね。「とりあえず西のほうに動けてるからOK」って。

一方で、計画だと次の一歩を考える重要性が高くなるので、細かくなってストレスがたまる気がします。

大きなビジョンからキャリアプランをざっくり決めるくらいならいいんですけど、それだと3年に1度くらいきちんと計画を見直したほうがいいと思います。

小沢

大きなビジョンを描くには、どうしたらいいですか?

後で振り返ったとき、できなかった自分を責めたくないからか、どうしても考えが小さくなっちゃうかもしれないです。

けんすうさん

何の制限もないとしたら、というルールのもと「やりたいことリスト」を100項目つくるといいですよね。

みんなにおすすめしてますよ。「台湾に行く」というレベルから「1000億円持つ」「世界平和」でもよくて。

小沢

小さなものから大きなものまで。

ちなみに、けんすうさんのやりたいことリスト上位には、なにがあるんですか?

けんすうさん

こんなに偉そうに喋ったけど、100個もやりたいこと浮かばなかったんですよね。僕、ビジョンとかあんまりないなーって。

「膝の病院に行く」というのを8年間放置してたけど、この間実現しましたね。やっぱり夢は思いつづけると叶うもんですね。

けんすうさん

大きいのだと「世界一のサービスをつくる」「戦争をなくす」とかですね。

小沢

「この領域でシェアNO.1」とか、具体的には書かないんですね?

けんすうさん

たとえば、サイバーエージェントの藤田(晋)さんも「21世紀を代表する会社を創る」っていうビジョンを設定したから、今の会社があるんだと思うんです。ソーシャルゲームやったり、Abema TVやったり。

20年前に「インターネット広告の事業で売上いくらの会社を…」とか言ってたら、こうはならなかった。「遠くにビジョンを設定したから」こそ、大枠で動けたんだと思うんですよね。

小沢

たしかに。だから制限をつけずに大枠でビジョンを作るのがポイントなんですね。

「リスクをとれ」って言われたら…「リスク」の意味を考え直してみよう

小沢

「若いうちは失敗しろ。リスクをとってチャレンジしろ」という堀江貴文さんの意見があります。これも、普通に考えると「リスクなんて犯したくない」となるんですが…

けんすうさん

これに関しては、「リスク」への考え方を変えたほうがいいと思います。

とくに「リスクを管理」することの重要性を認識してほしいです。

けんすうさん

会社員の人は「会社を辞めるリスクをとって、起業すべきか」とか考えるじゃないですか。

でも、リスクって金銭的なことだけじゃなくて、心身に負担がかかるとか、ビジネス的に成長できないとかも含まれるんです。それらを考えにいれて動くべきだってことです。

「会社員でいればリスクが少ない」っていうわけでもない。異動になって、合わない上司と嫌な仕事をさせられたらどうしますか?

けんすうさん

転勤も、命じられてから転職活動しても間に合わないですよね。すぐやめてもいい状態にしておく、というのは会社員のリスク管理の一つだと思うんですが、それができていない人も多いんじゃないでしょうか。

結果として、我慢するしかなくなって体調を壊す、ということもありえます。

僕はリクルートにいた3年間で、成長したなって思う。けど、起業した後の半年間のほうが、学びは断然多かった。経験量を考えると、絶対に起業したほうがいい。「会社員のままでいるほうがリスクが高い」と思ったんです。

けんすうさん

田端さんとか箕輪さんも、Twitterで超自由にやってるけど、会社に怒られたら「じゃあ辞めて、他に行きます」って堂々と言える立場じゃないですか。リスクとっているようで、彼らはきちんとリスク管理できてるんですよ。

逆にいうと、彼らがTwitterをやめたり、おとなしく会社員をやったりすると管理できないリスクが増えるはずです。

なので、リスクをとってああいう行動をしているわけじゃなくて、リスクを管理下におくためにやっているのではないかなと。

小沢

会社に所属しながら、次の手を打っている。そう聞くと、リスクという言葉の印象が変わってきますね。同じ場所にとどまりつづけるほうがまずい。

けんすうさん

そして、チャレンジの度合いもどんどん上げていくことが大事なんです。

堀江さんもいろいろなことにチャレンジしていますよね。たとえばロケットを打ち上げましたが、落下して炎上してたり。でも、あれは彼にとってリスクでもないし、失敗でもないと思います。

むしろ堀江さんが何もしないまま、評論家っぽいことだけやってたら、ファンも減るし先細りする。そう思うと、ガンガン面白いことをしてやっていくほうが、より信用が集まり、大きくておもしろいことができる。

そっちのほうがはるかにリスクが少ない、っていう解釈ですね。

R25世代が言われがちな強めアドバイスに対し、独自の視点でアドバイスをくれたけんすうさん。

次回もけんすうさんにお話を聞きます! テーマは、「人見知りでも即実践できるビジネスの小技」…。自ら「豆腐メンタル」と名乗るけんすうさんはどんなお話をしてくれるのか? 明日更新予定です!

〈取材・文=小沢あや(@hibicoto)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=いしかわゆき(@milkprincess17)〉