元ワナビ日記 (original) (raw)

最終話まで視聴。
素晴らしかった!!!

『海のはじまり』大変いいドラマでした。でもなんか異様に叩かれているので、Filmarksだけでなくこちらでも絶賛感想を載せたい。

『自分にとって大切なものを選択すること』『選択を尊重すること』『選択を理由に自分を不幸にしないこと』そんな“選択”というものを1クールかけて丁寧に描いている。それでも選ばなければならないものを選んで、幸せになる、という当たり前だけれどできないことを、父性を軸にじっくり追いかける1クールは非常に有意義だった。

どのキャラもいい奴で、誰もが誰かを想っている。だけど同時に、誰もが本当に大切な選択をどこか無意識的にためらって、そのために取ってしまう別の選択肢によってほんの少し傷ついている。
そんな中である日突然父親になった主人公が、不在のまま通り過ぎていた父性の獲得と愛する人の死を獲得するまでの長い物語をここまで静かに丁寧に描くドラマは、テレビにおいては非常にチャレンジングなのではないか。たっぷり間をとった、説明しすぎない、ともすれば視聴者の誤読すら恐れずに俳優と演出に託したシナリオはかなり稀有なものだ。
何かを選択すれば誰かに負荷を負わせることになるかもしれないし、何かを捨てることになるかもしれない。それでも右往左往しながら選んだ彼らの爽やかな最終話での姿は泣ける。
海と夏は共に水季の死を二人で受容していき、一方で弥生は二人との家族関係を通して過去の経験から自分を縛っていたものに気付いて別れる。子供が突然現れる系ドラマって多々あるけれど、この結論は珍しい。ここを凄く丁寧に描いていて、弥生さんが自分で規定してしまった“母性”から解放され友人になる道を選ぶことを肯定する点が、私がこのドラマの一番好きなところだ。
選択のドラマだからキャラが身勝手に見えるというのはわかるけれど、しかし、その他者を勝手に身勝手と決めつけてその人の極めて個人的な選択を阻害する姿勢って、社会を生きづらくさせる以外になんか意味ありますかね? みんなを薄っすら暮らしにくくするだけじゃない?

しかし本作を観ていて、これだけ丁寧に描いても『弥生さんを解放しろ』(解放されたから弥生さんは軽やかに最終回を迎えたんだよ)とか『全部水季のせい、あいつ頭おかしい』(変人なのは事実だが、基本的に夏君は自分で選んだろ)とか『学童に預けろ』(育児ドキュメント観てんの?)みたいな感想が出るSNSは本当に不思議だ。ドラマを受容する姿勢はない誤読多めのわりに異様に加害欲求はある。ヤフコメ民か? ドラマより滝沢ガレソでも観てた方が楽しいんじゃないか。

『鋼鉄紅女 IRON WIDOW』を読んだので感想を。すごく面白かった。

作者は中国系カナダ人女性作家のシーラン・ジェイ・ジャオ。英語圏でバカ売れしているヤングアダルト小説だ。

あらすじ:華夏ホワシアの辺境の娘、則天(ゾーティエン)は、異星の機械生物・渾沌(フンドゥン)と戦う人類解放軍に入隊する。巨大戦闘機械・霊蛹機に搭乗し、人類を滅亡させんとする渾沌と戦うのだ。霊蛹機は男女一組で乗り、〈気〉で操るが、ペアの女子は多くが精神的重圧から死ぬ。ある密計のため、則天はあえてパイロットに志願し、過酷な戦いに身を投じるが……。中国古代史から創造された世界で、巨大メカが戦場を駆ける! 英国SF協会賞受賞の傑作アクションSF。

(公式サイトより引用

巨大変形戦闘機械が戦場を駆ける! シーラン・ジェイ・ジャオ『鋼鉄紅女』発売!|Hayakawa Books & Magazines(β)

)

作者は日本アニメからの影響を公言しており、特に本作は『ダーリン・イン・ザ・フランキス』の後半の展開に覚えた不満がひとつの原動力になったそうだ。フランキスを観たことがなくても、日本のアニメ好きなら本作が受けている無数の影響を拾えるだろう。本作に出てくる巨大変形ロボ”霊蛹機“は男女一対のパイロットを必須とし、女性パイロットが操縦席に座ると、男性パイロットが後ろから女性側を抱くように座る。そんな日本のロボットアニメが古いジェンダーロールとエロ演出のために作り上げたタンデム操縦席が、海を渡ってカナダの作家の手でフェミニズム文学としてのテーマに変換される。国境を超えるアニメの力と、作家という生き物の強さが見えてくる。

全編通して男尊女卑、典型的な家父長制社会の描き方は中国的に見えるがその実はっきりとどこの社会にも存在するそれだ。支配的な男性社会はそこに支配のトップ層の男たちによって女性だけでなく男性も蝕み、さらに女性が女性を踏みにじる構造まで創り出す。そのおぞましさへ苛烈に反発する主人公の武則天の姿は熱い。

それでいながら本作はかなり王道のロボットアクションの構造から逸脱しない。巨大変形ロボ、必殺技アリ、パワーアップイベントあり、どこかでみたようなパイロット二人の息をあわせる特訓あり、三角関係あり、さらには怪物とのバトルから発展した人間対人間があって、ラストには最近の日本の作品でよく見る“隠された世界の真実”まで現れる。そんな典型的な、ベタなアクションものの構造を取りながら、その構造のままで女性主人公の反権威ストーリーが作ること自体が、ヤングアダルトの定番に対するアンチとしての姿勢が示されている。本作で主人公は「悪者にとっての悪夢」として社会規範をぶち壊す過激な英雄になるが、本作それ自体が、既存の価値観を子供たちに植え付けるこれまでのエンタメをひっくり返そうと言う大きな挑戦になっている。これまでの定番の物語がそのままの形で中を変えても成立するという事実、それは既存の物語こそ正しいとする価値観に対する悪夢だ。素晴らしき悪夢、大歓迎。

いわゆる『頭空っぽにして楽しめるロボットアクション』としても読めるし、空っぽの頭に本作が詰めてくれたものを眺めてじっくり再度楽しむことだってできる。よい本だ。

反家父長制としての女性主人公像自体は既に既存のものがあるとは思うが(日本では少ないけれど)、そこからさらに手を広げて主人公と彼女を取り巻く二人の男の関係がポリガミーになっている点はかなり新鮮だった。とことんやってやるという作家の意欲が見えて楽しい。

本作はヤングアダルトなのだが、ハヤカワで出ているからか文章や単語のチョイスは大人向けというか、ちょっと固い気がする。英語がわからんので向こうのヤングアダルトの文体がわからないが、日本向けに出すなら一回いまのヤングアダルト(またはラノベ)の作家が書いてみてほしいなとは思った。斜線堂有紀とか。

非常に面白かった。おすすめ。

黒沢清監督の最新作『クラウド』を観たので感想を。ネタバレありです。

ジャパンプレミアの抽選に当たり、公開前に鑑賞。公開前ですが、特にネタバレ解禁日などは通知がありませんでしたので、明記こそしませんがオチまで含めた感想を書いています。

素晴らしい映画でした。黒沢清ファンなら心配無用の内容なので絶対観た方がいいし、黒沢清監督作未見の方でも緊張の途切れないスリリングな作劇は飽きずに一気に突き進むし、菅田将暉さんはじめどのキャストも素晴らしいのでおすすめ。こういう映画がめっちゃヒットしてほしい。

あらすじ:クリーニング屋で働く男・吉井(菅田将暉)はラーテルのハンドルネームで転売ヤーとして活動していた。転売ヤーに専念するため、吉井は恋人のアキコ(古川琴音)と共に群馬の山奥に移住する。転売を続ける吉井だったが、ネットでは無法な転売を続けるラーテルへの憎悪が渦巻いていた。暴走する憎悪はついにエスカレートし、吉井は正体不明の集団から襲撃を受ける。

以下、結末までネタバレあり。ネタバレを見ない方が絶対に楽しめるので未見の方はまず映画館へ。

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映画『ラストマイル』を観たので感想。ネタバレありです。

あらすじ:“ブラックフライデー”前夜、世界規模の巨大ショッピングサイトから配送された商品が爆発する事件が発生。それは単なる事故ではなく、何者かが意図的にしかけた爆弾だった。次々と同じショッピングサイトで購入された商品が爆発する連続爆破事件を前に、物流倉庫のセンター長・舟渡エレナは事態の収拾にあたる。もはや国民生活の生命線となったショッピングサイトの配送を止めることはできない。エレナは物流を止めずに爆破を止めるため、連続爆破事件の謎に挑む。

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山田尚子監督の最新アニメ映画『きみの色』を観たので感想。

あらすじ:全寮制カトリック学校に通う女子高生・日暮トツ子には、人を見るとその人の“色”が見えるという不思議な力があった。うつくしい“色”を持つ同級生の作永きみのことが気になるトツ子だったが、ある日きみが退学したことを知る。きみの目撃情報を集め、バイトする書店を探して街を彷徨うトツ子は、古書店でギターをひくきみを発見する。偶然その書店に居合わせた高校生の少年・影平ルイとの会話が思わぬ方向に転がり、三人は突然バンドを組むことになった。

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NHKラジオのラジオドラマシリーズ、青春アドベンチャーで放送された新作『リニューアル』を聴いたので感想。

あらすじ:

23世紀。人類は治療法のない流行り病に苦しんでいた。そんな時「リニューアル」という新種の寄生植物が発見される。宿主の養分を吸い、その身体を乗っ取り新しく生まれ変わる能力があるという。病に対抗できる手段として期待されるが……。

「リニューアル」を発見した学者夫婦を中心に、近未来の地球、そして宇宙を舞台にした、少し不思議なファンタジーSF。(公式サイトより抜粋)

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シャニマスアニメ第二期の劇場先行上映『アイドルマスター シャイニーカラーズ 2nd Season 第2章』を観ました。

以下、ネタバレあり。

第一章に続き、第二章もシーズン1よりぐっと良くなっている。つくづく惜しい。
原作コミュ「海に出るつもりじゃなかったし」「アンティーカのファン感謝祭」「薄桃色にこんがらがって」をベースにした四話で構成されている。どれもアニメに置き換えるにおいてかなり丁寧な再構築がされており、キャラクターの心象を丁寧においつつ退屈にはならない、シーズン1をふまえた上でグレードアップした内容になっていた。
一章とは異なりライブパートはないが、エンディングには新曲が使われ、その点でも見どころあり。
ノクチル紹介となる話では、樋口円香を視点に置くことが効果的に機能している。突然放り込まれたアイドルの世界、透が走れば走る幼馴染たち、しかし樋口には透がアイドルを選んだ理由がわからない、という個別コミュなしでは説明しにくいノクチルの微妙な関係性を丁寧に演出していた。円香を視点に置くことで、透の真意は謎のままミステリアスな才能の塊として演出でき、かつ小糸の頑張りが本当は彼女たちを動かしていることもわかるシナリオにできていて、この工夫はかなりうまい感じ。幼馴染には打ち明けない透が、真乃のひとことでアイドルへの意識を変えるシーンは第二章で最も美しいシーンになっていた。ここのアレンジもアニメ化のよかったところ。

アンティーカ、アルストはシーズン1から続く掘り下げで、こちらも良い。特に薄桃色は、一度キャストが演じた物語を再度演じることで芝居が変化しており、特に千雪の演技については抜群にブラッシュアップされていた。またファン感謝祭にはまさかの咲耶父が登場で背景を知るファンを泣かせにくる。

原作要素の詰め込み、コミュの整理、キャラの服装や所作により物語の立体感、どこをとっても丁寧で非常に見ごたえがあった。非原作ファンにどう映るかというとわからないけれど、Pなら楽しめるところは多いのではと思う。

シーズン1ではあまり効果的な場面がなかった3D作画だが、シーズン2ではライブの他、今回の並ぶノクチルの間をカメラが通り抜けるカットなどやっといい使われ方が出てくるようになった。
また効果的に使われる目のアップなど、アイドルものとしての演出もばちっと決まったものが出てきている。これがシーズン1でできたらなあ。

その分、プロデューサーは添え物になってしまっているので、ここのところは終盤戦に期待したい。

第3章ではちょこ先輩が軸になるストーリーがあるようで(あすみちゃんからのラインが伏線になっている)原作のどれが元になるのか含め楽しみなところ。

劇場がガラガラだったのでシーズン3はないのだろうけれど、今回の出来をみると本当にもったいないなと思う。

本編終了後の撮影OKタイムはいつも特段の必要性を感じていなかったのだけれど、前に座っていたオタクが女性キャラの胸だけアップで個別に撮影していて、こういうカメコ精神には向いているサービスなのかもなとしみじみ。