鞄に二冊 (original) (raw)
2018年8月22日刊。「月刊少年ガンガン」で2018年3月号より連載中。原作はいわゆる漫画原作ではなく小説で、shirakabaは原作単行本のイラストレーター。漫画化にあたってイラストのイメージに寄せたということなのだろう。
広告で断片的に読んだ記憶はあるが、改めて1巻を読んでみた。とても読み応えがあった。
紙越空魚は埼玉の大学生。ふとしたきっかけで「裏世界」を発見。自分の孤独を癒すべく足を踏み入れるが、「くねくね」に遭遇して死にかけたところを仁科鳥子に助けられる。仁科鳥子は友人・冴月が「裏世界」で行方不明になってから冴月を探してこの世界に何度となく足を踏み入れている。たまたま空魚の危機を目にたというわけ。
鳥子は空魚に「裏世界」の探索の協力を依頼。空魚はやめた方がいいと直感するが、鳥子に引きずられ、付き合う羽目に……
最近はやりの「異世界もの」とはまるで異なる。彼女らは転生したわけではなく、現在の日本で生きて生活しているし、「裏世界」へ行くにあたって何かのチート能力を授けられたわけでもない。
「並行宇宙もの」は昔からそれこそ数多くあって、その流れに位置づけられるのかも知れない。
今のところこの「裏世界」がどういう世界でこちらの世界と何処でどのようにつなかっているのかまるで謎だが、そもそも、ひたすら「気味が悪い」「気持ちが悪い」場所であるのがミソである。
空魚は大学生だったが、鳥子はいくつくらいなのであろうか。服装からすると高校生のようにも見えるが、精神年齢は空魚より上に見える。空魚と同年代なのだろうか。
- タカノンノ「推し殺す」1(バンチコミックス)
2024年3月8日刊。「くらげばんち」で連載中。
冒頭部分は恐らくtwitterかなにかで断片的に見た記憶がある。このたび1巻を購入し読んでみた。
ちょっと震えが来た。
小松悠は高校時代に漫画家として人気を博し単行本を出すが、一冊出したところで何も書けなくなってしまい、漫画を描くのを断念する。大学へ進学したら、入学式の日に大森卓(小松悠のペンネーム)の大ファンだという女性・三秋縁と知り合う……
三秋縁の大森卓への憧れやプロ漫画家になることへの執念、小松悠の漫画に対する愛憎ないまぜの複雑な感情、小松が大森だと知る先輩・朝井の生暖かい視線など、様々な思いが絡み合っていく。大学漫研特有のいい加減さや懐の広さなどもうまく表現されている。
ナルミの「漫画は一人で描くものでしょ」はわかる気がする。漫研はアマチュア活動だから、プロを真剣に目指す人は所属しない方がいいのかも知れない。
それにしても今の子は、漫画を描く➡SNSで発表する➡バズったらデビュー、みたいに考えるんだね。日々大勢の人に作品を見てもらえる・評価にさらされることがモチベーションというのはわかるし、実際それで何人もプロになっているわけだけど、プロを目指すならこれはという出版社に持ち込んで編集者に見てもらう方が近道だと思うがな……
絵柄に覚えがあると思ったら、「ショートショートショートさん」の作者だった!
- 麻生羽呂「今際の国のアリス」1, 2, 3(少年サンデーコミックス)
「少年サンデーS」で連載された作品(2010年12月号~2015年5月号、その後週刊少年サンデーへ移籍)。単行本は、1巻は2011年4月18日刊、2巻は2011年9月21日刊、3巻は2012年1月23日刊。全18巻で完結。
ある日突然、あるグループが、ある学校が、ある地域社会が、神か悪魔のような超自然的能力を持つ者によって強制的にとあるゲームに参加させられ、クリアできないと死ぬ……という作品は、私は「ACMA:GAME」(「週刊少年マガジン」2013~2017年連載)が初見だ。先行する類似の作品があったのかどうかはわからない。あまりに荒唐無稽な話だと、自分はさほど興味は持たなかったが、単行本22巻、実写ドラマ化され、劇場版も制作されたから、人気はあったのだろう。
その後、類似パターンの作品を次々に目にすることになる。現在は一大ジャンルを築いているといってもいい。
本作はその系列になるだろう。ある日突然地球が爆発のような強い光に包まれ、その後……。主人公の有栖良平(アリス)、苅部大吉、勢川張太の腐れ縁三人は、見知らぬ世界で目覚める。元の世界とは地続きだが一年半くらい経過している模様。彼ら以外の人間は消滅。その後、他にも人はいることがわかるが、圧倒的少数であり、世界は一切の生産を行なっていない。だから食べるものも朽ちかけたスーパーやコンビニに残っている缶詰や乾物くらいしかなく、電気も使えない。
そこで知り合った紫吹小織から、定期的に各地で開催される「げぇむ」を切り抜けることで数日単位で寿命が与えられるが、「げぇむ」に参加しなかったり参加してもクリアできないと殺されることを教わる。
という設定である。この三人組とシブキの四人が協力して「げぇむ」を次々とクリアし、そして……という展開かと思ったら、最初の「げぇむ」は確かにそうなるのだが、次の「げぇむ」ではアリス以外の三人が死ぬ。という衝撃の展開となる。これにはびっくり。小山ゆうの「あずみ」では、仲の良い腕っこきの仲間たちが、第一話で半分になってしまう展開で驚かされたが、その時以来かも知れない。初回に登場し、主人公とバディを組んで長く残ると思われた登場人物が序盤で死ぬ、という話は他にあるだろうか?
その後アリスは宇佐木柚葉という女性と一緒に行動することになる。実写ドラマでこの人物を土屋太鳳が演じたことを知ってしまったので、彼女は長く生き残るのだろう。
- 西香はち「波うららかに、めおと日和」1(コミックDAYSコミックス)
2023年3月8日刊。広告で見て興味を持ち、1巻を購入。作者は初めて見る名前だが、話の合間のコメントといい、前作「花と紺青 防大男子に恋しました。」といい、夫(彼氏)が自衛隊員かなにかなのだろうか。
昭和11年、関谷なつ美は江端瀧昌と結婚。江端は帝国海軍中尉で、結婚式の日も訓練が入り、夫不在のまま式が執り行われた……。
こと男女に関して初心過ぎる二人の新婚生活を描いたラブコメ。ドキドキしながらも少しずつ距離を詰めていくところがいい。この時代はAVもネットもないから、知らない人は本当に何も知らなかったのかも知れない。ただ軍人は、いつ死ぬかわからないから子つくりは大切のはずで、まずは……とはならなかったのだろうか。同僚にもそれを指摘されるシーンもあるが。
- じゅうきゅう「男友達と女友達」上、下(ナンバーナイン)
2024年5月17日刊。同じクラスの千夏と高久は互いに相手に好意を持っているが、相手の気持ちには気づいておらず、自分が片想い中だと思っている。千夏は高久の気を引こうとあの手この手を仕掛けるが……
互いの気持ちがわかっていないのは当の二人だけで、クラスメイトは皆二人が相思相愛であることはわかっており、早く告白して付き合えよ! と思っている。
そんな鈍感・純情・不器用な二人のどきどきラブコメ。
二人を見守る高久の姉・巴と花屋の店員・沙恵の存在が効いている。
作者はtwitterで作品を発表しており、本編はだいたい覚えがあったが、番外編は初めて見た。単行本書き下ろしか? 番外編で物語の深みが増した。
- 藤沢チヒロ「しおからいなみだ」(ナンバーナイン)
2019年11月29日刊。短編集。「恋の歓楽街」「しおからいなみだ」「実る夏」「片想い」「春の雨」「刹那の王国」「愛してるよベイビー」「ゴンドラの上」所収。「COMIC MIU」「フォアミセス増刊」掲載作品(2000~2004)。
ネットで「シュレーディンガーの揚げ物」という作品を目にしてちょっと素敵だなと思い、同じ作者の作品を読んでみようと購入。
ちょっと切ない大人の女の恋物語を描いたもの。いろいろ捻りがあって一筋縄ではいかない(ところが面白い)。
「恋の歓楽街」は盗ったとか盗られたとかではなく、長期間二股していた男がクズだと思うけど、その行跡を知っても婚約者は結婚したいと思うものなのだろうか。「愛してるよベイビー」は一見ハッピーエンドだけど、これレイプだよね……。
雑誌掲載作品なのに、秋田書店ではなくナンバーナイン刊なのも切ない。
以前にも取り上げたことがあるが、再読して改めて名作だと思った。
前回は、五頭が三四郎のことを認めているところに感動すると書いたが、三四郎も五頭のことを認めているのは、ドリームチームの旗揚げ公演で五頭がスノウマンに惨敗した時、河口に「あいつは日本一のスープレックスの遣い手だった」と言っている。
志乃と三四郎の仲がいいのも楽しい。単に仲がいいだけではなく、志乃が三四郎の性格をよく理解しているところがいい。
作中、三四郎や五頭らの年齢は正確にはわからないが、三四郎は27~28歳、五頭は31~32歳と思われる。本間ほたるは高校三年生だから18歳だろう。つい最近ネットで30歳の男と18歳の女の間に恋愛が成り立つかどうかで話題になっていたから、このカップルの年齢差は興味を引いた。漫画の展開上はあまり不自然には感じないが、冷静に考えれば、ほたるが五頭を好きな気持ちは大人への憧れのようなもので、恋愛とは違うと思うし、五頭がほたるに恋愛感情を抱くのは「ええー」と思う。その後二人は結婚し、仲良く生活していることを知ってはいるのだが。
通して読むと、名作だけに、話のねじれが気になる。それは、途中でいつの間にか「打倒赤城」に目標がすり替わったことだ。
本作のテーマは「インディー団体がいかに生き残っていくか」のはずで、実際、三四郎がドリームチームに参加した際に「第一の目標は借金の返済」とはっきり言っている。もちろん利益を上げるためには客を集めなければならず、ではそのためには……となるわけだが。
五頭は赤城に壊された上にFTOを追い出され、赤城に対する恨みはあろうが、それは「新団体を作ってFTOより大きくする」ことであり、赤城を痛めつけたいわけではない。かつての僚友・柳が赤城と対戦し、再起不能になるところも見たが、だからといって三四郎がその復讐を買って出るいわれはない。
赤城はデビュー後シングルで4人に負けており、その後は現在まで不敗。負けたのは三四郎、五頭、柳、田中で、三四郎以外の三人には復讐を果たしている。三四郎にはまだ。その上赤城の憧れの女性であった志乃と三四郎は結婚したわけで、赤城の側には三四郎に対する強い恨みがあったと思われる。しかし、三四郎はそうではない。
そもそも復帰のきっかけが赤城に自分のプロレスを否定されたから、とか、自分が地上最強と思っている三四郎にとって、最強を自称する赤城は許せなかったとか、理由はあろうが、薄弱であるように感じられる。リングリーダーを吸収し、田中プロレスやプロ柔道の残党も受け入れたドリームチームはかなりの大御所になっており、団体内でも対戦カードには不自由しない。こんぴらプロレスなど友好団体もある。今は地道に地方を回って実績を作るべき時期だろう。
まあ、観客が増えた、借金が減ったと書いてあっても読者にとっては「だから何?」なわけで、漫画としては悪役の赤城を倒す方向にシフトせざるを得なかったのだろう。