生まれてはじめて書く人のための、小学生向け小説執筆マニュアル(手順書) (original) (raw)
創作論とか小説の書き方みたいな本について言うと、作家やその周辺の人が書いているせいか、かつてはその困難さを前面に掲げて、結果的に創作行為の神秘性を保守する手合が多かった。
近頃は「誰でも書ける」みたいなのも随分増えたけれど、タイトルだけ付け間違えたようなのが多くて、あいかわらず、もったいぶった文士臭さが抜けてない。
探す場所を間違えたのだと考え、はなっから「創作行為の神秘性」なんて受け付けない人たち向けに書かれたものを探した。つまり子供向けである。
学校の課題になったりするせいか、アメリカのものに、手続きだけに注力した実にアッケラカンとしたのが多かった。
ネットでフリーで手に入るものだと、National Novel Writing Month(通称:NaNoWriMo ※)のYoung Writers Program用ワークブックが、ほぼ同じ手続きを小・中・高校生向けの3種類に書き分けていて、読みやすいしオススメだ。
※NaNoWriMo(ナノリモ)は、毎年11月に開催される、1ヶ月間で50000ワード(英語だと175頁ほど)の小説を書くという、プロも素人も参加する数万人規模のイベント。いわば「ライティング・マラソン」の巨大版。もちろん全員が〈完走〉できるわけではないが、商業化された作品も生まれている。今ならまだ参加に間に合う。 http://nanowrimo.org/
http://ywp.nanowrimo.org/workbooks
最初はただ、このワークブックの紹介記事を書こうと思ったのだけれど、書いているうちに本物からどんどんずれてきてしまったので、記事自体をマニュアル形式にした。
それでも2/3くらいはYoung Writers Program用ワークブックのelementary school版を参考にしている。
つまり小学生向けの、生まれて初めての小説の書き方ではあるけれど、何しろ1ヶ月で1冊を書くNaNoWriMoに参加しようという人向けなので、けっこう本格的である。
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君のなかの編集者を追いだそう
君が書いたものに、下手だとか、クソだとか、いろいろ言ってくる奴がいるだろう?
そう、君の心のなかにいる奴だ。
そいつは男だろうか、女だろうか? 若い?年寄り? 何を着て、どんな顔をしてる?
姿を想像して、下の箱の中になるべく詳しく描いてみよう。
描けた?
そしたら、切り抜いて4つに畳んで、タンスの奥か、洗濯かごの底か、机の下の引き出しに突っ込むか、なんなら君のペットの犬小屋に預けてしまおう。
さあ、これでもう、君が書くのを邪魔する奴はいない。
何が小説を小説にするのか?
という訳で、君はこれから小説を書くわけだけども、小説ってなんだろうね?
君が読んだ中で一番の小説を、下の欄に書いてくれ。
書いた?
じゃあ、次の質問を考えて欲しい。
1.その小説についてどんなことを知ってる?
2.一番重要な登場人物は誰?それはどんな奴?
3.何についてのストーリー?どんなことが起こる?
4.それはいつ、どこで起こった?つまり舞台はどこ?
5.他の人に「この小説を読むべきだ』と、おすすめするとしよう。どこがいいの?って聞かれたら、どう答える?
今の質問は、君がこれから書く小説にも当てはまる。
まだぼんやりとしか思い浮かばないかもしれないけど、答えてみよう。
1.君がこれから書く、その小説について、今の時点でどんなことを知ってる?
2.一番重要な登場人物は誰?それはどんな奴?
3.何についてのストーリー?どんなことが起こる?
4.それはいつ、どこで起こった?つまり舞台はどこ?
5.他の人に「この小説を読むべきだ』と、おすすめするとしよう。どこがいいの?って聞かれたら、どう答える?
今はまだ、よく分からないことも多いだろう。
あとで変更することになってもいいから、とにかくイメージやアイデアを書きだそう。
次に、ひとつずつアイデアを深めていこう。
核となるアイデアを見つけよう
小説はフィクション、つまり「うそ話」だ。
フィクションの設定は、大抵「もし~だったら」というフォーマットに沿っている。
僕らもこれをつかって、小説の核となるアイデアを見つけてみよう。
つぎの3つの箱が並んだ表を使う。
もし~だったら | 予想される結果 (常識的) | 踏み越えた結果 (脱常識的) |
---|---|---|
左の箱には「もし~だったら」を、
真ん中の箱には、その仮定から予想される常識的な結果を
右の箱には、それらを踏まえた/踏み越えた結果を書いていく。
「もし~だったら」から素直に導き出される結果を捨て置き、ひねったり一部ひっくり返したりしながら、それ以外のアイデアを得るのがミソだ。
たとえば『ロビンソン・クルーソー』という小説は、
もし~だったら | 予想される結果 | 踏み越えた結果 |
---|---|---|
もしも無人島に一人流れ着いたら | どうしようもなくて死んでしまう | 一人で家も畑もつくって結構いい暮らしをする |
というのが核になっている。
この設定(の成功)は、以後何世紀にも渡って、いくつもの模倣作を生み出した。
落語の『芝浜』という話があるけど、これは
もし~だったら | 予想される結果 | 踏み越えた結果 |
---|---|---|
もしも大金を拾ったら | 贅沢してすぐ使い果たす(悪銭身につかず) | 拾ったことを夢だと思い、真面目に働いて成功する |
という感じになっている。
この落語のおかげでむしろ、「夢だと思い、真面目に働いて成功する」の方がポピュラーになっているけれど、それくらい成功した物語だとも言える。
レイモンド・カーヴァーの『大聖堂』という小説だと、
もし~だったら | 予想される結果 | 踏み越えた結果 |
---|---|---|
もしも見えない人に大聖堂を説明するとしたら | 言葉を尽くしても結局説明できない | ******************** |
踏み越え方は伏せ字にした。よかったら、実際に読んでみるといい。
この3列の表は、全体の設定を考えるのにも、細部の展開を考えるのにも使える。
いきなりは、うまい踏み越え方が思いつけないかもしれないが、「もし〜」「(常識的)」「(そのひねり)」をいくつも書いてみるといい。
君の小説の登場人物を決めよう
1.とりあえず名前を付けておこう。主人公の名前は?
2.主人公は何歳? 若い?年寄り?
3.主人公は何者? 人間?動物?それとも話のできる消しゴム?
4.主人公はどんな格好をしてる? それともう一つ。主人公には、その見掛けからは想像できない特徴があるものだ。それは何?
5.主人公はどこに住んでいる? そして、その場所が好き?それとも嫌い?
ここまで答えられたら、「心の内の編集者」で使ったテクニックを使おう。つまり、主人公を描いてみよう。いま出た特徴はすべて盛り込むこと。姿を想像して、になるべく詳しく描いてみよう。
描けた?
じゃあ、質問を続けよう。
6.主人公は喜んですることって何?
7.主人公が好きな食べ物は?映画は?歌は?本は?
8.主人公が他の誰にも負けないことって何?
9.誰だってついてない日があるけれど、主人公はそんな日は何をするだろう?
10.主人公が腹を立てることって何?
11.主人公が悲しむことは?
12.主人公の家族はどんな家族だろう?
13.主人公が誰にも話してない秘密は?
14.主人公が、知らない誰かに初めて会った時、どうするだろう?
15.君は、主人公のどんなところが好き?
16.主人公のどんなところが嫌い?
17.主人公を3つの言葉で表すと?
18.主人公に今まで起こった最高の出来事って何?
19.主人公に今まで起こった最悪の出来事って何?
20.もしも主人公が宝くじで大金を当てたら、何に使うだろう?
※同じ質問を、主人公を助ける仲間や、主人公を邪魔するライバル/悪役についても考えてみよう。
ストーリーの素を考えよう
登場人物については結構イメージが固まってきたと思う。
では、ストーリーにとりかかろう。
ストーリーとは、どういうものだろう?
難しいことは抜きにして一言で言い切ってしまえば、
すべてのストーリーは「宝探し」
か、そのバリエーションだと言っていい(大体はあっている)。
要するに、途中いろいろあるけれど、主人公が最後には値打ちのあるものや大切なモノを手に入れる、というのがストーリーだ。
これからおおまかに、君の小説のストーリーを考える訳だけれど、「宝探し」なのだから、3つのことを決めよう。
1.主人公が求め、最後に手に入れる〈宝物〉は何か?
2.主人公が、宝探しを続ける〈動機〉は何か?
そして自動販売機のボタンを押すとジュースが出てくるような感じで、簡単に〈宝物〉が手に入ってはストーリーにならないから
3.主人公が〈宝物〉を手に入れるために乗り越え無くてはならない〈障害〉は何か?
この3つはストーリーに無くてはならないものだ。
簡単には決まらないかもしれないだろうから、まずは思いつくかぎりいくつも候補を書き出していこう。
〈宝物〉 | 〈動機〉 | 〈障害〉 |
---|---|---|
※これだけでも、最低限、ストーリーは出来そうだけれど、同じ質問を、主人公を助ける仲間や、主人公を邪魔するライバル/悪役についても考えておくと、単純でない深みのあるストーリーができる。
プロットを組み立てよう
ストーリーに無くてはならない3つ〈宝物〉〈動機〉〈障害〉が決まったら、プロットを組み立てよう。
おもしろい小説には起伏がある。どんどんと盛り上がっていって、最高潮に達すると、あまり間を開けずフィナーレへ向かう。
このあたりのことを図に表したものがある。
大人たちは「フライターク・ピラミッド(モデル)」と呼んだりするけれど(グスタフ・フライタークという昔のドイツの作家に由来するから)、ぼくらはプロットのローラーコースターと呼ぶ。
1.はじまり(BEGINNIG)
物語の紹介。どこが舞台か、主人公が誰でどんな奴か、敵は誰か、などなど、ストーリーがわかるよう情報が提供される。しかし、すべてを説明するのはやり過ぎ。謎がある方が、読み手は先が読みたくなる。
このパートは普通、そんなに長くない。
→とりあえず、主人公と、物語の舞台、その他を示す文を3つ書いてみよう。
後で手直しするから、書き出しに悩むことはない。
だいたいどういう内容を書くことになるか、メモみたいな感じで。
2.後戻りできない出来事(EXCITING EVENT)
最初の事件が起こる。大事件ではないが、この後、ストーリーをひっぱる事件のきっかけになるもの。それまでの主人公の生活が一変する出来事。冒険の始まり。
つまりここでローラーコースターに乗り込むと、最後まで事件が次々起こり、降りることは出来なくなる。ドミノ倒しの最初のドミノ。
主人公とストーリーを共に進む仲間に出会ったり、宝の地図を拾ったり、なんかそういうことが起こる。
これによって主人公は物語に巻き込まれ、〈宝物〉を追いかけることになる。
→どんな後戻りできない出来事が起こるか、3つの文でメモしよう。
主人公のこれまでの生活や行動が中断して、今までない事件がつづくきっかけとなる出来事だ。
仲間との出会いも会った方がいいかもしれない。
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3.上昇する展開(RISING ACTION)
ストーリーの緊張が増す展開。他のパートよりも、ここが一番長くなるはず。
いくつもの〈障害〉が次から次に現れる。主人公は何度も敵に追い詰められたり、一時的に負けてしまったりするかもしれない。
ハッピーエンドものなら、クライマックスにいたるまでに、主人公の状態は相当ひどいことになっているはず。
→3〜4つの出来事を考えよう。
出来事を経るごとに、主人公たちは〈宝物〉に近づいていくけれど、〈障害〉の方もどんどん手強くなる(〈敵〉をうまく使おう)。
4.クライマックス(CLIMAX)
ストーリーの方向が転換する。ハッピーエンドものなら、主人公サイドの事態が良い方へ、敵の事態が悪い方へ変わり始める。
物語が一番盛り上がるべき重要な場面である。
→クライマックスは、いままでのストーリーの流れが急に変わるところだ。
ハッピーエンドものなら、読み手は、主人公の勝利と敵の敗北を期待している。
読み手の期待に応えつつ、予想を裏切る出来事ならば最高だ。
どんな出来事が起こるか、3つの文でメモしよう。
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5.下降する展開(FALLING ACTION)
クライマックス後は、一気に話が進む。下降する展開は、分量としては短く、しかし出来事の変化としては多い。つまり足早に、事態がどんどん進むことになる。
ゲームならラスボス戦。ハッピーエンドものなら、主人公は敵を打ち負かし、〈宝物〉を手に入れる。
伏線を回収し、読み手が納得するラストシーンへ急ごう。
→クライマックスで方向転換ができているなら、何を書くか悩むことはあまりないだろう。
ここも3つの文で、書くべきことをメモしておこう。
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6.おしまい(END)
ハッピーエンドものなら大団円。主人公はストーリーの最初よりも良い状態になっている。
→書くべきことはすでに書いている。残りは、主人公が〈宝物〉を手に入れた後どうなったか、だけだ。
後戻りできない出来事(EXCITING EVENT)が起こる前の、日常に戻ってもいい。けれど、冒険前とはどこか違っているはず。
ここも後で手直しするつもりで、3つの文で書くべきことをメモしておこう。
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地図を描こう(小説の舞台を設定する)
小説の設定を固めるために、舞台設定をしよう。
そろそろ文章を書くのに飽きてきた頃だと思うから、物語がおこる舞台の地図を描いていこう。
プロットを読み返して、物語世界の全体地図を描こう。
それぞれの出来事がどこで起こるか、印をつけて番号を振ろう。
ひとつの出来事が起こる場所について、より詳しい地図を描いておくのもいい。
たとえば小説が主人公が暮らしている部屋から始まるのなら、部屋の見取り図を描く。
仲間や敵についても、彼らの町の地図や家や部屋の見取り図を書いてみる。
すべてを使う訳ではないけれど、地図や見取り図を描いてみると気づくことがたくさんある。
例えば、世界(宇宙)をまたにかけた壮大なファンタジーを考えたつもりが、すべてが主人公が住む街とその隣の村だけで起こっていることに気付いたり……。
いずれにしろ、気付きは小説にディティールや深みを加えるはずだ。
タイムラインを作ろう(小説の背景を考える)
タイムラインとは年表とか日程表のことだ。
プロットを読み返して、時間の流れを書き出しておくと、絶対に役に立つ。
物語に矛盾がなくなり、登場人物の行動にしっかりした動機付けや根拠がうまれ、複雑な伏線も処理しやすくなる。
できれば、物語がはじまるもっと前から、物語が終わったもっと後まで書いておくといい。
主人公の一生だけでなく、その親や先祖、子や子孫まで広げてもいいが、あまり壮大になるとタイムラインをつくっただけで「お腹いっぱい」になってしまって「小説を書くまでもないや」とやる気が削がれることもあるから、そこはほどほどに。
小説を書こう
これで準備ができた。
君はもう登場人物について十分知っているし、プロットも組み立てたし、舞台設定もかなり詳しくできあがった。
もういきなり書き始めても大丈夫なくらいだ。
まだ準備が必要?
だったら、こんな手がある。
一番最初の質問に、今の時点で答えてみるのだ。
1.今から書こうとしている、その小説についてどんなことを知ってる?
2.一番重要な登場人物は誰?それはどんな奴?
3.何についてのストーリー?どんなことが起こる?
4.それはいつ、どこで起こった?つまり舞台はどこ?
5.他の人に「この小説を読むべきだ』と、おすすめするとしよう。どこがいいの?って聞かれたら、どう答える?
今なら、30〜50個くらい、箇条書きにできるだろう。
それは、これから書こうとするシーンかも知れないし、登場人物の行動かも知れないし、セリフかもしれない。
順序や相互の関係は気にせず、とにかく〈今の時点で知ってること〉をありったけ書き出してみよう。
よくわからないところ、まだはっきりしないところは〈?〉マークでも付けておけばいい。
できるだけたくさん書き出したら、今度はプロットを見ながら、ストーリーの順に並べ替えてみよう。
ストーリーのつながりでいうと、抜けているところがわかるだろう。なにか抜けているかをメモして、ここにも〈?〉マークを付けておこう。
それが終わったら〈?〉マークのところを、ひとつずつ潰していいこう。
どんなシーン、どんなアクション、どんなセリフ・・・が入ればいいかを考えていこう。
この作業は完璧にやり終える必要はない。
ある程度やれば、自分が書こうとしている小説がどんなものか、これまでになくはっきりしてくるはずだ。
手がウズウズしだしたら、小説を書き始めよう。
登場人物やプロットや舞台設定や、今作ったメモを見ながら、そして頻繁に書き換えながら、進んでいこう。
実際に小説の文章を書くにあたっては、次の記事が参考になるかもしれない。
・物語は作れたがどんな文章で小説にしていいか分からない人のための覚書 読書猿Classic: between / beyond readers
・無料でここまでできる→日本語を書くのに役立つサイト20選まとめ 読書猿Classic: between / beyond readers
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