日本教育No.539 (original) (raw)
今月号が届きました。いつもありがとうございます。
(私の提言)
全ての人に金融知力を:鈴木達郎氏(NPO金融知力普及協会理事・事務局長)
- 自分の人生を豊にするには、自立した消費者・生活者として、お金とどう向き合うかを考えるための教育が求められており、これを中立的な立場で担うこと
- ①自分とお金の関わり方を考える力、②身につけた知識を実践できる力、③周りの人々に金融の知識を教えることができる力
- 全国高校生金融経済クイズ選手権(エコノミクス甲子園)の実施や、リアビズ高校生模擬起業グランプリなどを実施
- リアビズ:実際に資金を使い仕入れ、製作、広報活動し、商品をネット販売、決算書類作成や経理の実務と運営を体験するプログラム
- 高校生のうちに限りなくリアルなビジネスを経験することで、起業家の育成や地域の特性を活かした産業の創出など、高校生の人生設計やキャリア形成につながることを目的
- 金融経済教育というと難しく捉えがちですが、ゲーム課金などに何万円も使ってしまう中高生がいるのは、自分の収支について全体像が見えていないからでは
(特集:教職とウェルビーイング)
教育の当たり前を確認する視点に:鈴木寛氏(東京大学教授・慶應義塾大学教授)
- GDP至上主義から卒業し、幸福を再定義し、真のウェルビーイングを追求する時代と考え、社会的問題の解決を目指す起業家の育成に注力。
- 世界ではすでに幸福度を政治に取り入れる動き。フランスのサルコジ大統領は幸福度指数という考え方。OECDがウェルビーイングに関する国際指標提案。国連がWorld Happiness Reportで世界幸福度ランキング発表。
- 日本でも学習指導要領の中に取り入れ、教育振興基本計画にも日本柱の一つにウェルビーイングの向上。
- 日本の教育、学力面では読解力や科学・数学のリテラシー面で世界のトップクラス。一方で、子供たちの幸福感は参加国中で最低レベルという結果。
- 学校への帰属意識は世界と比べて高く、学級経営に力を入れてきた学校現場の取り組みの成果現れている。
- 家庭や保護者との関係で「家族から支えられている」という感覚の低さが問題に。受験の問題や家族からネガティブな評価ばかり受けている現状からは、地域社会の大人たちからの前向きな評価を受ける機会をどう作るかなどの課題。自律学習の経験の少なさも課題。
- 不登校の子供が小中学校で約30万人に急速に増加。ますます子供たちのウェルビーイング向上が喫緊の課題。
- 世界で共通しているのは獲得型のウェルビーイングであること。10段の梯子をイメージして、今の自分がどのレベルにあるのかを尋ねたり、5年後はどこまで行きたいと思うか、などの質問。7段目の位置にあると、ウェルビーイングが比較的高いと評価される。
- しかし、それだけではないのではないか。教育基本計画に日本発の協調に基づくウェルビーイングを発信する、とあるように、獲得的幸福と協調的幸福のバランスを重視するという点に、日本発や日本社会に根ざしたウェルビーイングの特徴がある。
- ただし、それが日本の現状の教育で実現しているかどうかは、改めてしっかりと見直し、取り組みを強化していく必要がある。
- 教員の職業的魅力を高めるためには、過重労働や処遇の改善も大切だが、それとともに、成長実感(自己成長や他者貢献などの実感)の機会が大切。
- 教頭・副校長の「働く幸せ」の意識には、自身の成長を実感することの影響が大きいことが示唆された。詳しい調査結果は、パーソナル総合研究所のサイト(教員の職業生活に関する定量調査)のを参考に。
- 子供の視点からは、仲間と一緒にプロジェクトに取り組むという体験が、一人一人のウェルビーイング向上につながる。特に人と人とのつながりという視点から、中学校や高校の年代の子供たちの成長にとっては欠かせない要素になる。
- 別の調査結果から、高校時代に偏った受験勉強のみをしてきた生徒は、社会体験の機会が少なく、コミュニケーション力の不足などもあり、大学入学後も20歳を過ぎれば、ほとんど成長しなくなるという報告も。
- しかし、教育の本質からすると、単に受験技術を身に付けさせればよいというものではないという「当たり前」を、ウェルビーイングの概念やそのための調査結果を通して、改めて確認できる。
- 校長先生などに期待したいことは、教育の本質、一人一人の生徒の成長の実感や幸福感の育成が、教育のみならず、人生においていかに大切なことかを保護者に啓発していただきたいということ。
- ウェルビーイングについての各種の調査結果からも明確なのは、家庭においてウェルビーイングを高める機会がとても少ないという問題。
- 保護者もまた、子育てに対する不安や、SNSなっで受験問題の不安を煽られて、情報に振り回される現実がある。
- 学校生活を通して、どのような成長の機会が一人一人の子供に必要であるか、を保護者に語りかけていただきたい。
- 「教員のウェルビーイングなしに、子供のウェルビーイングはない」という視点から、教員自身が成長を実感できる機会、時には学校外のさまざまな機械でリフレッシュして、学校に還元してもらうためにも、成長の機会を教員に積極的に紹介して、送り出していただければ。
知的・発達障害のある子どものウェルビーイング:西村健一氏(島根県立大学人間文化学部教授)
- 幸せはある意味で主観的なもの。何を幸せと感じるかは一人一人違う。私たち教師は、良質な体験や時間を提供していく必要。
- 主観的なものではあるが、それを育てていくには、それを支える環境を整えていく必要。
- 子どもの多様性に応じた支援をする場合、まずは一人一人の子ども(個)の多様性のほかに、その子どもを取り巻く家庭や地域の多様性を踏まえる必要。
- サン=テグジュペリ「星の王子さま」では、キツネとの交流の場面、「関わったことがある人への責任」の大切さが語られる。
- それと同じく、学校の先生方も、これからの未知の世界にも対応できる子どもを育てていくために、学校という限られた時間で子供に知識などを伝えるだけでなく、一生涯にわたって学び、知識を活用していけるような力をつけさせ、子供に寄り添い伴走していく姿勢が求められている。
- 令和5〜9年度の教育振興基本計画が閣議決定、新コンセプト「2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成」とともに、「日本社会に根ざしたウェルビーイング」について掲示。生きがいや人生の意義など将来にわたる持続的な幸福。個人を取り巻く場や、地域、社会が持続的に良い状態であることを含む包括的な概念であると説明。
- 獲得的要素と協調的要素の両立を目指した「調和と協調」に基づく日本型のウェルビーイング提唱。今後、国際的に発信していく。
- 昨年、「知的・発達障害のある子のウェルビーイング教育・支援実践」という本をまとめた。
- 島根県の出雲市と雲南市の例。①ユニバーサル柔道アカデミー島根、②雲南市の社会教育プログラム。
- 二つの事例より。運動に関しては苦手、嫌いという子供や若者が増えている。そもそも運動は脳を活性化させたり気分転換になっったりと上手に取り入れることが人間らしい営みに。
- スポーツというと日本では勝ち負けが意識されるが、アメリカでは順位ではなくて運動量の多さを心拍数で競うという評価をしている学校も。
- 勝ち負けのないゲームや協力しないとできない運動など、プログラムを工夫することが、障害の有無に関わらず、運動嫌いの子どもをなくしていくことにつながるのでは。
- 教職員集団といっても、ウェルビーイングの視点に立つと、一人一人の教職員によって、その内容も変わってくる。
- やりがいを持って働ける環境づくりを整えるうえで、管理職の役割は大きい。
ウェルビーイング・コンピテンシーを育む:坂倉杏介氏(東京都市大学)
- なぜウェルビーイングなのか?それをどのように学校教育に取り入れていけば良いのか?
- 人に関する学問は、悪い状態については熱心に研究してきたが、良い状態については後回しにされてきた。
- モノやサービスが充足され社会の問題が複雑化すると、目の前の困難の単純な解決だけでは済まなくなる。
- 様々な研究や社会のしくみづくり、究極的には、人間のウェルビーイングの実現。
- ウェルビーイングの多面的な側面が明らかに。
- **①医学的ウェルビーイング**:健康的な概念にもとづくもの、単に病気でないだけでなく、身体的・精神的に問題なくかつ社会的にも良好な状態。
- **②快楽主義的ウェルビーイング**:前向きな感情や満足度など、快感情(楽しい・美味しいなど)から考えるもの。
- **③道徳的ウェルビーイング**:人間の真の幸福は短期的な快楽だけでなく、人生の意味の追求にあるという考えにもとづくもの。何かに対して努力したり、社会貢献したりする時に得られる充実感。
- 厳密には分けられないが、それぞれ異なる側面を意識することで、理解しやすくなる。
- 身に付けるべきコンピテンシー:不確実な中で目的に向かって進んでいくために必要な、好奇心や想像性、強靭さ、自己調整といった力。それとともに、他者のアイデアや見方、価値観を尊重したり、その価値を認めること。また失敗や否定されることに対処したり、逆境に立ち向かって前に進んでいく力。
- ラーニング・コンパスに先立つOEDD2030に次の一節:単に自分が良い仕事や収入を得るということだけでなく、友人や家族、コミュニティや地球全体のウェルビーイングのことを考えられなければならない。
- 自分と他者、社会と環境全体のウェルビーイングのために行動できる主体を育てる必要があるということ。
- ウェルビーイング教育の根底には、それぞれの幸せを重視するという温度感とは別の水準の危機感がある。そして、従来の教育が暗黙に構造的に持ってしまっている、一人ひとりの人生の成功のために知識やスキルを学ぶ(他者と競争して勝ち残る力を身に付ける)というフォーマットの問い直しも含まれているのではないか。