四隣人の食卓 ク・ビョンモ (original) (raw)

四隣人の食卓 ク・ビョンモ

小山内園子訳 書肆侃侃房 韓国女性文学シリーズ 図書館本

破果』『破砕』で65歳の女殺し屋を描いて、母性を否定したク・ビョンモ。もう一つ邦訳されているのは本書『四隣人の食卓』で、家族とコミュニティがテーマとなっている。追い詰められていく、育児世代の妻たちのリアルな声がなんとも苦しい。でも面白い。

韓国都市部の高い地価を背景に、少子化対策として国家が建設したのは「夢未来実験共同住宅」だ。公営住宅の格安家賃が大きなメリットだが、入居条件が厳しいので、12戸の内まだ4戸しか埋まっていない。

都心からかなり離れた山あいで通勤圏ギリギリ、商業施設もなく、ましてや近くに保育園も幼稚園もない辺鄙なところに住んで、「10年以内に3人の子供を持つことが条件」だなんて、政治家のジイサンや硬直した考えのお役人が考えそうなミッションじゃないかと思う。要するに、共働き家庭が排除されることになるよね。

周りから孤立した状態の4家族は、共同で子育てする場を作り、料理を分担し、通勤の車に相乗りして親密な関係になろうとするのだが、その先の不穏な空気が予想される展開ではある。無意識の男性優位・母や嫁としての役割・同調圧力・経済格差など、日常に潜んでいる矛盾が女性目線で語られる。架空の設定の上に俯瞰して描かれる、4人の女性のリアルで普遍的な心理があり、彼女たちの気持ちに共感して、昔々、集合住宅に住んでいた子育て時代の事を思い出し、心拍数が上がってしまった。

以下は図書館に返す前の覚書きなので、少々ネタバレ

韓国は夫婦別姓なので名前が覚えにくいが、入居した4組の家族構成は冒頭の人物リストにあり、把握しやすい。入居順に、

①有名企業勤務のシン・ジュガンと元幼稚園教諭のホン・ダニと4歳と3歳の年子の男児

②親族の会社に雇われたコ・ヨサンと専業主婦カン・ギョウォンと4歳男児に乳児(女児)。

③会社員ソン・サンナクと在宅ワーカー(フリーイラストレーター)のチョ・ヒョネと1歳5か月の女児。

④映画監督を挫折して専業主夫をしているチョン・ウノと薬局で受付アルバイトをしているソ・ヨジンと一人娘のシユル5歳。

それぞれの家族は問題を抱えながらも毎日を何とか過ごしているのだが、共同保育のルールが押し付けられ、まず音を上げたのが在宅ワーカーのヒョネ(③妻)。娘の昼寝の合間にしていた仕事ができなくなってしまった。協力的でないヒョネにイライラするのがリーダー的存在のダニ(①妻)。ダニはヨジン(④妻)の作る手抜き料理に無添加品を要求する。ダニの夫ジュガン(①夫)は、通勤の相乗り相手のヨジン(④妻)に接近し始めるが、ヨジンは嫌なのにはっきりと断れない。人に言えない経済的問題を抱えているギョウォン(②妻)は、とうとうウノ(④夫)に悩みを打ち明ける。

大騒動の末に最終的に4家族のうち3家族が共同住宅から出ていった。残ったのは・・・