『MIDNIGHT EYE ゴクウ』イベント(不完全)レポ (original) (raw)

寺沢武一原作、川尻善昭監督の傑作OVA『ゴクウ』と『同II』のブルーレイ化合わせでイベントがある!ということで、先日ジリオンvsボーグマンのイベントで行ったばかりの池袋新文芸坐へ。

イベントはまず作品が上映され、その後トークゲストの丸山正雄氏、浜崎博嗣氏と、司会のアニメスタイル小黒祐一郎氏が登壇した。

丸山氏は手塚治虫氏が立ち上げた虫プロダクションからキャリアをスタートさせており、創業メンバーとしてマッドハウスに参加、MAPPA、M2も氏が立ち上げている。間違いなく日本アニメ界のレジェンドのひとり。

丸山氏の『ゴクウ』でのクレジットは「設定」だが、プロデューサーとして紹介された。いわゆる「アニメーションプロデューサー」的な役割であったと思われる。

いまでは監督として知られる浜崎氏は、本作ではキャラクターデザインと作画監督を担当。タツノコ時代では『昭和アホ草子 あかぬけ一番!』(1985年)や『アウトランダーズ』(1987年)でキャラデザを手掛けていたが、川尻作品のキャラデザは本作が初。昨年の『赤い光弾ジリオン』(1987年)(浜崎氏は作画監督として参加)上映会に続き、筆者としては2回目のナマ浜崎監督となった。

zillion-archive-room.hateblo.jp

以下のテキストは筆者の記憶を元にトークの前後関係などを整理したもので、ゲストの発言を正しく再現してはいないことをご留意いただきたい。明らかな間違いなどありましたらコメント等でご指摘いただけますと幸いです。

日時:2024年7月13日19時開始

場所:池袋新文芸坐

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新文芸坐×アニメスタイル Vol.178

『MIDNIGHT EYE ゴクウ』

『MIDNIGHT EYE ゴクウⅡ』(ともに1989年)

丸山正雄(以下丸山) ゴクウ、今回初めて観た人は?

(約8割ほどが挙手)

丸山 川尻さん(監督の川尻善昭氏)がここにいない理由なんだけど、「もう過去の人だと思われて人なんか集まらないだろ?」って本人が言ってて。某所*1から出てこない

丸山 『ゴクウ』は『獣兵衛忍風帖』(1993年)や『吸血鬼ハンターD』(2001年)に繋がるホップステップになった作品。今回、ブルーレイのリマスターを一緒に見てたら、監督いわく「意外と面白いな?」と

丸山 原作の寺沢武一さんや川尻さんがアメコミ風を日本でやったのがこの『ゴクウ』。それがアメリカでまたパクられ…というのが面白い。自分は川尻ファンなので、彼にもっと仕事してもらいたい

丸山 こちらの浜崎さんも『シグルイ』(2007年)という凄い作品を監督した人で、まだまだやってもらいたい。この作品(『ゴクウ』)のときは川尻監督と組んでもらった

小黒祐一郎(以下小黒) 浜崎さんは僕にとってはあかぬけ一番!の人です(笑)

浜崎博嗣(以下浜崎) 川尻作品の美意識が大好きで、一緒にできて楽しかった。とはいえ、緊張のほうが先に来たかな? 二作目(『ゴクウII』)のほうがこなれた感があるかな

丸山 ゴクウは3で劇場版をやる話があったが、(川尻監督が)「劇場をやるならオリジナルがやりたい」ってことで、それが『獣兵衛忍風帖』になった

丸山 川尻さんは『夏への扉』(1981年)と『浮浪雲』(1982年)で、それぞれ映画一本分のレイアウトを一人でやった。そんな事が出来るのは日本では宮崎駿川尻善昭のみ

丸山 川尻作品のアメコミに通じる黒、ブラックの使い方の上手さ。これはジブリにはない。これ、もうあんまり日本のアニメでは見られない。早すぎたのかも

丸山 浜崎さんはなんでマッド(マッドハウス)に?

浜崎 タツノコのときにマッドの制作から声をかけられまして。(『妖獣都市』(1987年)の)絵コンテが凄かった。画面のコントラストや世界観の完成度、アニメーションとしての動きのみならず、とにかく画面が動的で驚いた。あと、話が来たときは35分の作品だったのに、実際(スタッフに)入ったらカット数が倍になっていて、そちらにも驚きましたね*2

丸山 浜崎さんのラストパート以外は、『妖獣都市』の全パートで監督がラフ原描いてるんだよね。川尻さんは『(まんが)世界昔ばなし』(1976年〜)で1話まるまる絵コンテまでやるようになり、だったら演出もできるじゃん!ってことでどんどんやらせた

丸山 でも『(SF新世紀)レンズマン』(1984年)の監督と言われるのは不本意なんだと。「演出したつもりがない」って。レンズマンのコースターのシーンが長くて、まず半分に削って、それでも「まだ長い」って自分は言ったんだけど、そこは(川尻氏は)譲らなくて。実際そのシーンは森本晃司の素晴らしい原画だったけど、完成したら「やっぱ長すぎるね…」と(場内笑)

丸山 これで作画から演出に意識が変わった。浜崎さんたちの登場で「絵は自分より上手い人に任せよう」となったことが、演出に専念できるようになった理由。作監をやらなくなって演出ができるようになった

丸山 ゴクウは制作途中の川尻コンテを原作者に見せたら、すぐ納得してくれた。これが(原作の)寺沢氏がアニメの演出をやるきっかけになったのかも知れない

丸山 川尻さんはコンテを描くのがとても早い。普通の人の10倍の早さで描ける。昔はすごい描き込んでて、「そんなになんでも自分で描かなくていいんだよ」って言ったけどね

丸山 川尻作品はやっぱり日本的じゃない、ドライなところがアメリカ人とかにも受けたのだと思う

小黒 でもその川尻監督も『ストップ!ひばりくん』(1983年)でコンテ描いてる。かなりハチャメチャ

浜崎 川尻さんは叙情など、日本的な(価値観を大事にする)人、という印象を持ってます。『子連れ狼』(原作は1970年〜)がやりたい、と言ってましたね

丸山 (自分としては)情緒ではなくハードボイルドをやりたい人(と見ている)

『(迷宮物語走る男』(1987年)がなかったら『RED LINE』(2010年)はない。小池(健)くんが川尻路線を継いでくれている*3

ここで『ゴクウ』の音楽を担当したKAZZ TOYAMA氏が登壇

小黒 「音楽」担当に2人並んでいるのはどういった分担で?

KAZZ TOYAMA氏(以下KAZZ) 自分はタケカワ(ユキヒデ)氏と同じ会社で、タケカワ氏がハードボイルドのメロディを書けなかったので自分に任せ、タケカワ氏はその上がりを「いんじゃない?」という係(会場笑)

丸山 タケカワ氏はソングライターなのでメロディは素晴らしいが劇伴はいつもやらない。999(『銀河鉄道999』(1979年))もそう。川尻監督も音楽にうるさいけど、自分が音響監督に「監督の意向は無視していいよ!」と言ったりしてる(会場笑)

KAZZ 川尻さんはカッコイイ。OEDO808(『電脳都市OEDO808』(1990年〜))も一緒にやってる

左から小黒氏、丸山氏、浜崎氏、KAZZ TOYAMA氏

丸山 このイベントで「川尻ファンは(まだまだ)いるよ!」と伝えたい。自分のもの(川尻監督作品)をやって!といつも言ってるけど、やってくれない。昔のマッドみたいにちゃんとした原画家がたくさんいる現場じゃないとやりたくないみたい

小黒 川尻さんには新作をやって欲しい!ぜひ伝えていただきたいです(会場拍手)

昨日は「【新文芸坐×アニメスタイル vol.178】HDリマスターBlu-ray発売記念 寺沢武一川尻善昭のスタイリッシュアクション 『MIDNIGHT EYE ゴクウ』」を開催しました。皆さま、ご来場ありがとうございます。上映もトークも充実したものになったと思います。これからもよろしくお願いします。 pic.twitter.com/dGDFCJi4Rw

小黒祐一郎 (@animesama) 2024年7月13日

*4

(レポートここまで)

上映された素材はおそらくリマスターされたブルーレイ版のものと思われるが、派手なスペルミス(「CROSE」など)が直っていなかったのは大画面で見ると少々むずがゆく感じた。しかし内容はいま見ても素晴らしい。特にゴクウの如意棒アクションのスクリーン映えはハンパなく、『ゴクウI』の摩天楼に飛ぶラストシーンの高揚感は劇場で本作を観る醍醐味に溢れていた。(その意味では如意棒アクションのない『II』のラストは若干物足りない)

自分は10年前の川尻善昭ナイトにも参加しているが、今回は明らかに客層が違っていた印象。アニメスタイルイベントの常連客なのかもしれない。そのアニメスタイル小黒氏は、トークの文脈から外れていることがわかっていても自身の入れたい情報をちょくちょく突っ込んでいて、つくづく業の深いオタクだと感じた。アニメ様の共感度爆上がり(笑

高齢の丸山氏は生前葬を行ったりしているがぜんぜん元気で、浜崎氏の発言を食ってしまう場面もあり、そのパワフルさにとにかく圧倒させられた。

また今回、『獣兵衛忍風帖BURST』、そして絵コンテは完成しているという『獣兵衛忍風帖2』の制作が完全に止まっていることがわかったのは少なからずショックだった。外資でもクラファンでもなんでもいいのでなんとか川尻監督がご健在のうちに実現を…!と祈らずにはいられない。