親の認知症、あなたの母は「横断歩道の白線」をまたげるか (original) (raw)

親の認知症、あなたの母は「横断歩道の白線」をまたげるか

「親の物忘れが多くなっています。でも、ただの加齢によるものなのか認知症なのか、わからなくて不安なんです」

これは本誌に寄せられた、読者からの一通の相談メールだ。高齢の親を持つ読者世代のなかには、同じ悩みを抱える方も多いはず。親の認知症の兆候を知ることができる、いい方法はないのだろうか。

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「歩幅で、認知症の兆候を見抜くことができます」

と教えてくれたのは、国立環境研究所に所属し、『たった5センチ歩幅を広げるだけで「元気に長生き」できる!』(サンマーク出版)を執筆した谷口優氏(医学博士)だ。

谷口氏の参加した東京都健康長寿医療センターの研究チームは、歩幅や歩調と、脳の認知機能の関係性について1000人を追跡調査し、最終的に666人の検査結果を分析している。

「足を運ぶリズム(歩調)については、速い人も遅い人も、脳の機能には影響していませんでした。ところが歩幅については、狭い人ほど認知機能低下のリスクが高いことがわかりました」(谷口氏)

具体的な分析方法はこうだ。666人を歩幅の順に「広い人」「普通の人」「狭い人」の3分の1ずつ区切る。すると、広い人に比べて、普通の人は1.22倍、狭い人は同じく3.39倍も、近い将来に認知機能の低下が見られたのだ。

「この研究で歩幅が『広い人』と判断したのは、歩幅65センチでした。また、延べ6500人の歩幅の変化と認知症の関係を調べた研究成果もあります。この研究では、全体の約2割は高齢期でも歩幅が広く保たれ、ほかの2割は加齢とともに歩幅が狭くなったことが示されています。

そして、歩幅が加齢とともに狭くなった人たちの認知症のリスクは、広く保たれた人たちに比べて、2倍高いというものでした。この研究でも、高齢期に歩幅が広く保たれる2割の人は、65センチ以上を維持していました。2つの調査結果を総合すると、歩幅が65センチあれば、認知機能は大丈夫だといえると考えています」(谷口氏)

では、歩幅が65センチあるかどうか、簡単に知る方法はあるのだろうか。谷口氏は、横断歩道の白線に注目している。

「横断歩道の白線は、幅が約45センチです。そして、多くの人は足のサイズが20センチ以上あると思います。つまり、片足の爪先を白線の手前に合わせて跨いだとき、もう一方の足の踵部分が白線を踏まずに越えれば、歩幅が65センチ以上あるといえるでしょう」(谷口氏)

歩幅は65センチが一つの目安

なぜ、歩幅が認知機能と関係しているのだろうか。

「脳梗塞があると歩幅が狭くなるということは、欧米の研究で判明しています。さらに、脳の萎縮や脳の血流量の低下でも歩幅が狭くなったり、歩くのが遅くなります。つまり、歩幅は脳の健康状態を教えてくれるチェックポイントのひとつなんです」(谷口氏)

横断歩道以外では、親と同じ歩調で歩いた際に、親の歩行が遅れる場合も、親の歩幅が狭くなっている証左だ。

「ご自身の歩幅も確認してみてください。アルツハイマー型認知症の場合、脳内に変化が生じてから発症まで20年かかります。70代、80代で認知症の保有率が上がるので、逆算すると40代、50代から、歩幅が狭くなっている場合があります」(谷口氏)

親の歩幅に問題はなくても、親の物忘れが気になる方もいるだろう。そこで、認知症に詳しい長尾クリニックの長尾和宏院長に、日常生活でわかる認知症チェックリストを作成してもらった。

「ひとつでも該当した場合、認知症予備軍の可能性があります。現在国内には、認知症の方が460万人います。そして認知症と正常の間にある軽度認知障害(MCI)の方が400万人いると推計され、65歳以上の4人に1人が認知症、または認知症予備軍といわれています」(長尾院長)

だが、認知症は「予備軍」の段階で気がつけば、予防することができるという。

「認知症予備軍であるMCIは、生活習慣の改善などで14%~46%の人は正常に戻ります。一方、放置すると5年以内に50%以上の人が認知症に移行します」(長尾院長)

予防策のひとつとして谷口氏が提案するのは、歩幅を広げて歩くことだ。

「運動の強度が上がり、脳のネットワークの活性化や、脳の血流量アップの効果が高まります。その結果、認知症の要因のひとつであるアミロイドβの蓄積の抑制が期待できます。つまり、認知機能の低下にブレーキをかけられるのです。

また、広い歩幅で歩くためには筋肉も大切です。歩幅を意識したウオーキングと同時に、筋肉のもととなるタンパク質の摂取を忘れないでください」(谷口氏)

年末年始は、実家に帰省して親の歩幅をチェックしてみてほしい。

【親の認知症を見抜く10個のチェックリスト】

□化粧がうまくできなくなっている
□料理がうまく作れず、味がおかしくなっている
□今切ったばかりの電話の相手を忘れている
□買ったことを忘れ、同じものをたくさん買い込む
□ゴルフで自分のスコアが数えられない
□テレビドラマの内容が理解できなくなった
□家の近所でも道に迷うことがある
□買い物で小銭を使えず、お札しか出さない
□約束した日時や場所、約束したこと自体を忘れる
□家の中や庭に、ごみが放置されている

→1つ該当したら「軽度認知障害」の可能性あり
→2つ以上該当したら専門医に相談すべし!

(週刊FLASH 2019年12月3日号)