【令和6年度 技術士第二次試験問題 建設部門 道路科目 Ⅲ-1】について考える。【模範解答イメージあり】 (original) (raw)

〇問題文

急速に進む人口減少と少子高齢化、巨大災害リスクなどの増大するリスクに加え、低成長期を迎える我が国の国際的地位は低下しており、その危機感は、今次策定された新たな国土形成計画において、「時代の重大な岐路に立つ国土」として示されている。

こうした状況の中、今後の我が国が経済成長を取り戻し、安全で活力ある国土を形成していくためには、世界水準の、賢く安全で持続可能な国土の基盤ネットワークの構築が鍵となる。

今後、日本を取り巻く社会経済情勢を踏まえ、2050年の将来を見据えた次世代の高規格道路ネットワークの求められる役割などを考慮し、適切な対策を実施していく必要がある。このような状況を踏まえて、以下の問いに答えよ。

(1)次世代の高規格道路ネットワークの求められる役割の実現に向けて、道路に携わる技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、その課題の内容を示せ。

(2)前問(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

〇問題文把握

まずはしっかり問題文を読み込み、背景・現況などを把握しましょう。

背景:今後の我が国が経済成長を取り戻し、安全で活力ある国土を形成していくためには、世界水準の、賢く安全で持続可能な国土の基盤ネットワークの構築が鍵 ← ワイズネット(WISENET)のことですね

現況:2050年の将来を見据えた次世代の高規格道路ネットワークの求められる役割などを考慮し、適切な対策を実施していく必要がある

という情報が問題文から読み取れます。

これは、令和5年10月31日に公表された「高規格道路ネットワークのあり方 中間とりまとめ」の内容と同じものです。

この資料を読み込み、理解しているかを問う問題になっています。

パッと資料(記者発表資料)を見た印象としては、「シームレスなサービスレベル」「技術創造による多機能空間」「自動物流道路(オートフロー・ロード)」などが重要キーワードになりそうです。

(1)の問題文では、

「3つの課題を抽出」となっていますので、例年同様、課題を3つ挙げる必要があります。

また、「それぞれの観点を明記したうえで」となっていますので、例年同様、それぞれの観点をはっきり記述する必要もあります。

必須Ⅰのように「投入できる人員や予算に限りがあることを前提に」という一文はありませんので、人員や予算についての課題やリスクでもOKということになります。

問題文は「次世代の高規格道路ネットワークの求められる役割の実現に向けて」となっていますので、「役割」そのものは課題でも解決策でもないということになりそうです。資料には、「経済成長・物流強化」など7つの役割が挙げられていますが、これらがメインとして登場してはいけないということなのでしょう。

資料には4つの重点課題が明記されています。

課題①世界に伍する経済再興・国際競争力強化(国際的地位の観点)

課題②国土のリスクに対応する国土安全保障の確保(災害の観点)

課題③「2024年問題」物流危機の中での安定的な物流の維持(労働力不足の観点)

課題④2050年カーボンニュートラルに向けた低炭素な交通の実現(環境の観点)

(観点は適当です)

また、WISENET2050・政策集の「現状と課題認識」には

課題①都市間移動のサービスレベルは地域によるバラつきが大きい

課題②渋滞により時間ロスが生じ、経済損失が顕著

課題③物流危機への対応

が明記されています。

こちらを課題として論理展開してもOKでしょう。

次世代の高規格道路ネットワークの基本方針として明記されているものは(解決策候補)

①高規格道路の機能要件と目指すべきサービスレベル ← これは直接的な解決策ではないですね

②シームレスネットワークの構築(パフォーマンス・マネジメント)

③徹底したDX・GXの推進と技術創造による進化(データ連携やオープン化による価値の創出)(自動物流道路(オートフロー・ロード)の構築)

上記をうまく整理して論文構成を練ることができれば合格論文が記述できそうです。

(2)の問題文は「前問(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ」となっていますが、最も重要としなければならないものは特にない気がします。それなりに理由が述べられれば、どれを選択しても問題ないでしょう。実際は解決策として記述しやすいもの、リスク対策が記述しやすいものを選択することになるでしょう。

(3)の問題文は「すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対応策について、専門技術を踏まえた考えを示せ」となっています。

新たに生じうるリスク候補は「費用(コスト)関連」「人材不足関連」「ノウハウ関連」などが考えられますが、解決策に合わせて考えなくてはいけません。

また、専門技術を踏まえた話題にする必要がありますので、道路専門技術に関するキーワードも含めることになりそうです。

本来はリスクも対策にも専門技術に関する話題が理想ですが、うまく思いつかない場合は対策だけでも専門技術に関する話題を取り入れましょう。

リスクが「費用(コスト)関連」 → 対策は「国支援」「民間資金活用」「選択と集中で対象を絞る」など

リスクが「人材不足関連」 → 対策は「ナレッジマネジメント活用」「生産性向上」「民間コンサル支援」など

リスクが「ノウハウ関連」 → 対策は「国支援」「民間コンサル支援」「社会実験」「試行運用」など

リスクが「時間関連」 → 対策は「積極的な国主導によるスピードアップ」など

など色々なパターンを準備しておきましょう。

この部分はあらかじめ知識の引き出しを増やしておき、試験本番、臨機応変に対応すべきところだと思います。

また、採点委員は採点マニュアルに沿って点数を付けているものと考えられます。

ということは、オリジナル案ではなく、資料などで公表しているリスクと対応策が評価対象(高得点)になるものと考えられます

資料の最後の方に「おわりに」や「今後のあり方」「検討事項」などが記載されていることが多いので、そちらを熟読しておくと高得点に結びつくでしょう。

以上が問題文を把握し、記述するまでの頭の中の状態です。

〇記述例

実際の記述例を簡単に記載します。

(合格論文ではなく論文イメージであり、たくさんある例の1つです。詳細はご自身で調べ考え、第三者に見てもらうことで上達します。あくまでも参考例(資料抜粋例、文字数無視)であり、これを暗記して対応しようとしても合格はできません)

1.課題

(1)経済再興・国際競争力強化

厳しい経済情勢にあり、国際的地位が相対的に低迷する我が国において、経済成長と国際競争力を取り戻すためには、海外から国内への投資を呼び込むことが重要であり、これまでのアプローチを超えた新たな視点を含めて、その基盤となるネットワークの構築に積極的に取り組む必要がある。

したがって、国際的地位の観点から世界に伍する経済再興・国際競争力を強化することが課題である。

(2)安定的な物流の維持

今後の人口減少下においても、慢性的な人手不足など構造的な課題を抱える我が国の物流を持続可能な形で安定的に維持していくため、交通モード間の連携強化を含め、あらゆる施策を総動員していく必要がある。

したがって、労働力不足の観点から「2024年問題」物流危機の中で安定的な物流を維持することが課題である。

(3)低炭素な交通の実現

2050年のカーボンニュートラル実現のため、全体の約15%を占める道路を走行する自動車から排出されるCO2の削減に向け、道路交通に関する分野において様々な関係者と連携及び他分野との共創領域の深堀を進めていく必要がある。

したがって、環境の観点から2050年カーボンニュートラルに向けた低炭素な交通を実現することが課題である。

2.解決策

上記課題のうち最も重要と考える課題は「(3)低炭素な交通の実現」である。なぜなら・・・(簡単に理由を記述)。以下にその解決策を示す。

(1)シームレスネットワークの構築

低炭素な交通の実現に対する解決策の1つとして挙げられることは、シームレスネットワークを構築することである。なぜなら、シームレスネットワークを構築することで、行政界や道路種別にとらわれず、一定の都市間連絡速度などシームレスなサービスレベルを確保することができ、低炭素で持続可能な社会に貢献できるからである。

具体的には、サービスレベル達成型のパフォーマンス・マネジメントを目指し、相対的に交通容量が低下しているボトルネック箇所には、既設の2車線道路に連続的・断続的に付加車線を設置する「2+1車線」道路の導入や時間的に偏在する交通需要に応じた通行方向の切り替え(リバーシブルレーン)などを実施する。また、時間的・空間的に偏在する交通需要に対しては、需要サイドと連携し、ロードプライシングなどTDMを実施する。

(2)徹底したDX・GXの推進と技術創造による進化

低炭素な交通の実現に対する解決策の1つとして挙げられることは、徹底したDX・GXの推進と技術創造による進化である。なぜなら、徹底したDX・GXの推進と技術創造により、我が国のネットワークを多機能空間へと進化させていくことで、脱炭素化を加速させることができるからである。

具体的には、データプラットフォームを構築し、CO2排出への寄与等を含め、道路のサービスレベルをわかりやすく発信するとともに、交通に関するアプリケーションなど、民間開発を促進するためにも、技術者による工学的探究を加速しつつ、データのオープン化を図る。また、自動車に頼らない新たな物流形態として、道路空間をフル活用したクリーンエネルギーによる自動物流道路を構築する。その際、既存の高速道路空間を最大限活用するとともに、徹底した省人化を図り、低炭素なシステムとするなど、諸外国にもならいながらシステムとしての必要な機能や技術、その実現に要する期間等を明確にして検討を進める。

3.リスクと対応策

上記解決策を実施することで低炭素な交通を実現できるが、高度成長期に整備された橋梁等の老朽化が進む中、インフラの機能を維持し良質なストックを将来世代につなぎつつ、必要なネットワーク整備を、スピード感を持って進めていくためには、地方も含め、適切な整備や管理に必要な財源が必要だが、その財源が確保できないリスクが考えられる。

上記リスクの対策として、受益者負担・原因者負担の原則に沿った財源を検討していくため、事業の内容や効果を明らかにし、国民へも丁寧に説明しつつ、利用者の理解を得た上で実施していく。また、今後の料金徴収技術の進歩も踏まえつつ、現在無料で供用されている周辺ネットワークについても、混雑や環境負荷による外部不経済を内部化することにより社会的な余剰を最大化する観点も考慮し、利用者負担を基本とする料金制度等を導入する。

以上

※内容は資料のコピペなので、実際はご自身の言葉に直して説明してください。

〇まとめ

ざっとまとめてみましたが、これが「正解」というわけではありません。他にもっとよい正解があるかと思います。実際に合格点をもらった論文を研究することも必要です。色々な情報を集め、多くの意見に耳を傾けることによって、更なるレベルアップに努めてください。

※最後まで読んでいただきありがとうございます。