「逆立ち日本論」養老孟司、内田樹著 (original) (raw)
本書は養老さん、内田さんという、様々なところで色々な意見を発表されているお二方が日本についてということで対談し、その内容をまとめたというものです。
2006年に季刊誌「考える人」という本の企画で行われたものを2007年に出版されました。
したがって、小泉内閣が掻きまわした日本をさらに安倍がこねくり回している最中だった頃ですが、内容にはそれが少しだけ反映されています。
あちこちに話題が飛びますが、「新・日本人とユダヤ人」「日本の裏側」「溶けていく世界」「蒟蒻問答主義」「間違いだらけの日本語論」「全共闘の言い分」「随所に主となる」といった表題について話されていますが、その中でもそれほど統一した議題というものがあるわけでもなく、口の向くまま気の向くままというところでしょうか。
まあ、あちこちにキラリと光る内容がちりばめられているといった風で、それを楽しめば良いのかなという雰囲気の本となっています。
そんなわけで、そのキラリと光って見える内容をいくつか紹介しておきます。
小泉総理(当時)は中国韓国との関係に水を差してもあえて靖国参拝を敢行しました。
これは中国や韓国に対するものと捉える人が多かったのですが、しかしその来歴を考えてみると、これは絶対に「反米のシグナル」です。
戦後の東京裁判を仕切り、A級戦犯を名指ししたのはアメリカです。
そのA級戦犯を合祀している靖国神社に日本の首相が参拝するというのは、どう考えてもアメリカに対して非礼です。
本来ならアメリカ大統領が「ふざけたことをするな」と言っても良い所なのですが、アメリカはそれは言えない。それを良いことに続けています。
日本の右翼は伝統的にも心情的にも反米であるはずですが、それを公言できない。
先の大戦の敵国であり、国内に基地があり、中が治外法権という状況で、それに対して愛国的情熱が湧き上がるのが本筋ですが、伝統的に反米は左翼、右翼はなぜかアメリカを支持しています。
その抑圧された反米感情が屈折して「靖国参拝」に現れてて「アメリカに対する無意識的ないやがらせ」をしているのだという見立てです。
古い文明国にあった「成熟」という概念が無くなりつつあります。
それはアメリカが「成熟」を持たない国だから。
アメリカには漸進的な改良ということがない。
アメリカでは社会システムが破綻すると必ず「原点に還ってやりなおす」ということになります。
システムが未熟だからより「成熟」させようという考え方ができません。
この考え方がグローバリゼーションとして日本にも入ってきて、若手の連中に浸透してしまった。
システムが未熟だからまずいので、練り直していこうという考え方ができず「もう腐っているから全部捨ててやり直し」としか考えられなくなっている。
基本的な世の中の仕組みというものが分かっていない「ガキ」ばかりになっています。
あちこちに参考となる文が散在している本でした。