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2019年 11月 17日 鐘の音  １７時半。東向きの窓から見た外の様子。もうすっかり暗くなって、空だけがほんのり明るい（これは高緯度地域の特徴、薄暮ね）真ん中の縦長のほんのり光は、玄関ホールのような部屋の照明が窓に反射したから。灰色の霧に包まれた薄寒い日が続く１１月の夕暮れ時には、遠くから、あるいは近くから聞こえてくる教会の鐘の音がことさら心にしみる。心が痛むほど淋しいというのでもなく、かと言って心が和むというわけでもなく、メランコリックに響く。前にも色々なところで書いてはいるけれど、いまだに伝えたくなる、鐘の響き。いまだに、これを聞くたびに、もう、何十年も前の遠い昔、この地に初めて来た秋のことを思い出す。この地に知っている人は一人もいなかった。まだ夜も明けない早朝に中央駅に着いて、最初に聞いたのも、大聖堂から聞こえてくるいかめしい鐘の音だった。最初に紹介された部屋は、閑静な住宅地の角にあったけれど、当時は、向かい側が石炭屋の納屋だった。窓から、濃い灰色の石炭置き場を眺めては家族を置いて、こんなところに一人で来てしまって、私は一体何をしているのだろうと自問した。一、二ヶ月のち、ドイツ人の学生たちがシェアして住む家に移り、友達が一挙に増えてからは、そういう思いは消えたけれど、この季節になると、教会の鐘が鳴るたびに、遠くのどこかから引き寄せられるような気分になる。同じ教会の鐘の響きも、機会ごとに異なる。クリスマスミサや大晦日の零時には、かなり派手に、賑やかに響き、心が自ずと華やぐ。それでも、私は１１月の灰色の季節に聞こえてくる胸を締め付けるような鐘の音に惹かれる。かつて石炭置き場があったところには、今では高級住宅が軒を連ねている。私が角っこの部屋に住んでいた古い建物も、中が改築されて、コジェネレーションで発電と暖房温水供給をするモダンでおしゃれ家になり、家の前にはしょっちゅう、美味しいコーヒーを飲ませる屋台が止まって、長い行列ができるほど流行っている。かつての石炭置き場の寂しく侘しい光景は想像できない。折にふれて、遠い過去の様々な光景が蘇る。それでも、故郷に戻りたいなどとは思わないのは不思議。でも、故郷ってどこだろう。もしかして、ここ、この町なのかもしれないな。 29 by Solar18 | 2019-11-17 02:07 |
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Comments(2)  Commented bywaku59 at 2019-11-17 22:05 30年以上も前のこと。ボンの学生寮で近くの教会の鐘の音をまいにち聞いていました。勉強しないで近くのクナイペで飲んだくれてましたが（笑） とっても印象に残ってます。懐かしいです。 0 Commented bySolar18 at 2019-11-18 01:49 > waku59さん日本から来たばかりの頃は、鐘の音の印象はかなり強いですよね。日本の教会はこういう音はたてないし。また、聞きにいらしてください。 0 << 三度の飯より、、、 老人ホーム >> |
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１７時半。東向きの窓から見た外の様子。もうすっかり暗くなって、空だけがほんのり明るい（これは高緯度地域の特徴、薄暮ね）真ん中の縦長のほんのり光は、玄関ホールのような部屋の照明が窓に反射したから。灰色の霧に包まれた薄寒い日が続く１１月の夕暮れ時には、遠くから、あるいは近くから聞こえてくる教会の鐘の音がことさら心にしみる。心が痛むほど淋しいというのでもなく、かと言って心が和むというわけでもなく、メランコリックに響く。前にも色々なところで書いてはいるけれど、いまだに伝えたくなる、鐘の響き。いまだに、これを聞くたびに、もう、何十年も前の遠い昔、この地に初めて来た秋のことを思い出す。この地に知っている人は一人もいなかった。まだ夜も明けない早朝に中央駅に着いて、最初に聞いたのも、大聖堂から聞こえてくるいかめしい鐘の音だった。最初に紹介された部屋は、閑静な住宅地の角にあったけれど、当時は、向かい側が石炭屋の納屋だった。窓から、濃い灰色の石炭置き場を眺めては家族を置いて、こんなところに一人で来てしまって、私は一体何をしているのだろうと自問した。一、二ヶ月のち、ドイツ人の学生たちがシェアして住む家に移り、友達が一挙に増えてからは、そういう思いは消えたけれど、この季節になると、教会の鐘が鳴るたびに、遠くのどこかから引き寄せられるような気分になる。同じ教会の鐘の響きも、機会ごとに異なる。クリスマスミサや大晦日の零時には、かなり派手に、賑やかに響き、心が自ずと華やぐ。それでも、私は１１月の灰色の季節に聞こえてくる胸を締め付けるような鐘の音に惹かれる。かつて石炭置き場があったところには、今では高級住宅が軒を連ねている。私が角っこの部屋に住んでいた古い建物も、中が改築されて、コジェネレーションで発電と暖房温水供給をするモダンでおしゃれ家になり、家の前にはしょっちゅう、美味しいコーヒーを飲ませる屋台が止まって、長い行列ができるほど流行っている。かつての石炭置き場の寂しく侘しい光景は想像できない。折にふれて、遠い過去の様々な光景が蘇る。それでも、故郷に戻りたいなどとは思わないのは不思議。でも、故郷ってどこだろう。もしかして、ここ、この町なのかもしれないな。 29 by Solar18 | 2019-11-17 02:07