30年で1,000以上の漬物を食べてきた“プロ”が厳選 食卓に常備しておきたい漬物10選 (original) (raw)
はじめまして。東京・千駄木で「やなぎに桜」という漬物専門店を開いている、柳沢博幸と申します。
2011年4月、千駄木の駅前にオープンしました
店内では常時、50種ほどの漬物をそろえています
独立する前は築地市場の漬物屋で働いており、この漬物という世界に「漬(浸)かって」かれこれ30年ほどになります。来る日も来る日も漬物を食べ続け、これまでに食べてきた漬物は1,000は超えているはず。店頭では、そんな私が全国から厳選したとっておきの漬物を販売しています。
今回はそんな私が「店はもちろん、我が家でも毎日食べたい!」と思ったとっておきの漬物を、定番から変わり種まで10種類紹介したいと思います。
この道30年の私でも「食べ続けたい!」と思える漬物は多くない
と、その前に、皆さんは「漬物」のことをどれくらいご存じでしょうか。
私がこの道に足を踏み入れたのは、学生の頃でした。家の近くに築地市場があったこと、父親も築地の魚問屋で働いていたことから、高校生の頃に自然と築地でアルバイトをはじめました。漬物問屋で働くようになったのもアルバイトがきっかけで、最初は「単に時給がよかったから」という理由でした。
それまでは、自分がどんな漬物を食べているのか全く意識したことなく、その当時は「どこにいっても売っているし、食べられる漬物をわざわざ専門店で買う」という意味すら理解できませんでした。あまりにも「漬物」が身近な存在過ぎたのです。皆さんも漬物といえば、たくあんや梅干し、しば漬けといったいわゆる「普通」のものにしか出会ったことがなく、スーパーで売られているパックのものを買ったり、和定食のおまけに付いてきたものを意識せず食べたり、家庭によっては自家製の漬物を食べたり、といった経験がほとんどなのではないでしょうか。
漬物の世界は、予想以上に広くて深い
そんな私が驚いたのはまず、その種類の多さ! 例えば「しば漬け」というと赤しそや赤梅酢などできゅうりを漬けた例のやつですが、「京都」で生産されているイメージが強くありませんか? もちろん、京都発祥の伝統的な漬物であることに変わりはありませんが、京都でしか作ってないのかと思ったら大間違い。今では全国各地で作られていて、ひとくちに「しば漬け」といっても素材や切り方、味もさまざまなんです。
漬物に対して全く知識のなかった私でしたが、そうしていろいろな漬物と出会い食べ比べているうちに、どんどんと世界が広がり「おいしい漬物」が分かるようになりました。働いていたのが築地の問屋ということもあり、お客さまは皆プロの料理人。味の説明ができなければ話になりませんでしたし、お客さまに合った商材を提案できなければ信用は得られないからです。
しかし、プロの料理人に世界には「コスト」が付きもので、本当におすすめしたいものがおすすめできない! というジレンマもありました。そこで、自分が本当にいいと思った商品を扱える店を持とう! と決心、現在に至ります。
すでに漬物と向き合って30年がたとうとしていますが、自分が本当に食べたい! 食べ続けたい! と思えるものはそれほど多くありません。私ですらそんな状態なのですから、漬物と出会うチャンスが限定されている皆さまには、長く付き合えるものと出会うのも難しいかもしれません。ということで今回ご紹介するのは、私が実際に食べ比べた中から厳選して、個人的に好きで食べている漬物ばかり。皆さまにとって、この記事が「良い出会い」になることを願っています。
見た目は予想外、味は“無駄”がない「柚子とまと」(個性派)
・ジャンル:創作漬物
・メーカー:初代 亀蔵(京都)
・価格帯:500〜700円
初めてトマトの漬物があると知ったのは、もう7〜8年前になるでしょうか。それ以降、いろいろと食べ比べてみて思ったのは「まぁこんなもんかな」という感じ。珍しいし、見た目もきれいだし、悪くはないんです。でも、一度食べれば十分。そんな感じです。これに出会うまでは……。
この「柚子とまと」は、まったく嫌味がないんです。トマトも柚子ゼリーも、全てに無駄な味がしない。ほんのり甘くて、プルプルで、トマトの酸味とジューシーさが絡んだゼリーもうまい。気が付けば、あっという間に食べきってしまいます。一流レストランのデザートとして出てきても疑わない上品で洗練された味です。
甘さはきつくないですし、程よい酸味もありますので、デザート感覚だけでなく、サラダ感覚でもあります。レタスの上にのせてパスタとあえれば、おしゃれな冷製パスタにもなります。とはいえ、私はいつもそのまま食べてしまうのですけど。変わり種だと思って敬遠せずに、皆さんもぜひ、お試しください! きっと漬物の世界への新しい扉が開くはずです。
砂糖、水分、香り……全てのバランスが最高な「無添加いぶりがっこ」(定番)
・ジャンル:いぶり漬け
・メーカー:松倉農産物生産加工所(秋田)
・価格帯:500〜1,000円
秋田の漬物といえば「いぶりがっこ(いぶり漬け)」というくらい、秋田を代表とする漬物です。一昔前までは秋田のご当地品程度の認知度でしたが、ここ最近はテレビなどのメディアで紹介されることも多くなり「クリームチーズと一緒に食べるとおいしい!」なんて情報は当たり前になりつつあります。
そもそも「いぶりがっこ(いぶり漬け)」って何? ということでお話しいたしますと、「いぶり=燻した」「がっこ=漬物」という意味です。いぶり漬けといえば大根! というイメージが強いですが、「燻した漬物」であれば、実は他の野菜でも該当します。それは置いといて、本来、大根漬けの多くは秋に収穫した大根を冬に外に吊るして乾燥させるのですが、秋田は雪の多い地域で湿度が高いため干せない。だから室内に吊るして木で燻した、というのが発祥だそうです。そして、その干した野菜を糠(ぬか)に漬けると「いぶり漬け」になります。
松倉さんの「いぶり漬け」のすごいところは味のバランス! 実は「いぶり漬け」って苦手という方も珍しくなく、大抵の場合、燻した香りが強過ぎるとか、甘過ぎるとか、バサバサして食べづらいといった理由で嫌になる人が多いのです。しかしそれらを見事なバランスでおいしく仕上げており、香りも甘さも絶妙! 大根のみずみずしさも失っておらず、しかししっかりと干された大根の歯応えもある。これを食べればきっと「いぶり漬け」の印象が変わると思います。
クリームチーズに合うくらいですからワインとの相性もいいですが、個人的には細かく刻んで納豆に混ぜるのが好きです。
【楽天市場】 松倉農産物生産加工所 いぶりたくあんの検索結果
そのおいしさにただただ驚いた「国産 らっきょう 黒酢入り」(定番)
・ジャンル:らっきょう漬け
・メーカー:堀永殖産(福岡)
・価格帯:1,000〜1,500円
商品名だけ見ると「国産のらっきょうに黒酢を入れました!」という印象を受けますが、その通りカレーライスを食べると付いてくるような甘酢漬けのらっきょうに、黒酢が入った漬物です。ただ、お家でピクルスを作ったことがある方は分かると思いますが、ピクルスって砂糖と酢と塩のバランスが少しでも崩れると、途端にパッとしない味になる。言い換えれば、作り手のセンスでおいしさが変わるんです。
さらに「黒酢」という少しクセのある調味料まで使っている。それなのにとってもおいしい。黒酢はもちろん、全ての調味料の配合量をかなり研究されたのだと思います。しかも、驚くべきはこのメーカーさん、漬物をメインの商材として作っているわけじゃないんです。メインでない商品も、誤魔化さず真面目に作っているからこそ、本当においしい!
私はこれまで、かなりの種類の甘酢らっきょうを食べてきましたが、食べてそのおいしさにびっくりしたのは、この商品が初めてです。おいし過ぎて、食べ始めると止まらないほど。価格帯は少し高くなるのですが、皮をむいたり根を切ったり、全てが手作業かつ無添加で作っているということでご理解いただけたらと思います。お茶請けに、ご飯に、晩酌に。おいしくて栄養価も高いって最高じゃないですか!
皮付きならではの風味・食感が楽しめる「本造りべったら漬」(定番)
・ジャンル:べったら漬け
・メーカー:鈴木食品(埼玉)
・価格帯:500〜1,000円
スーパーなどに陳列されているべったら漬けは、大根の皮をむいたものが主流です。しかし江戸時代から続く伝統行事「べったら市」では、皮付きも皮むきも売っています。皮付きが最初なのか、皮むきが最初なのかは諸説ありまして、私としてはどちらでもいいのですが、はっきりと味に違いが出るから面白い。
現在一般的な皮むきは、砂糖や塩が浸透しやすいため芯までしっかりと味が入ります。塩の種類や甘味料によっては甘過ぎたり、ややしょっぱく感じたりも。また、漬けてもあまり縮まない「青首大根」という品種を使うものが多いので、シャキシャキとした歯応えになります。
一方皮付きは、砂糖や塩が浸透しづらいため甘みも塩味も柔らかく、大根の風味が残ります。歯応えもカリカリ、ポリポリと干したくあんに近い食感となります。
今回紹介する皮付べったらは、甘味の加減が本当にいい! 古くからたくあん用として使われてきた「白首大根」の甘さや風味を支える絶妙な味の染み具合です。そのままでもいいですが、柚子をすってのせたり、抹茶や梅肉を少し乗せてもおいしいです。また、少し厚め(7〜8mm)に切ると、味と食感がより感じられます。
味噌専門店が作るからこそのこだわり「なすからし漬け」(定番)
・ジャンル:辛子漬け
・メーカー:小川屋味噌店(千葉)
・価格帯:200〜300円(100gあたり)
漬物屋の常識的には、辛子なすは「丸小なす」という直径3cmほどの小さいなすを辛子の漬け液に漬け込んだものを指します。しかしこちらは漬物屋ではなく、味噌屋が作った辛子なすで、長なすを一口大に刻んで使用しています。
漬物屋が漬物を作ると、これまで蓄積されたデータを元にできるだけ安く効率的に作ろうとし、結果似たり寄ったりであったり、ピンと来ない商品にまとまったりしがちです。しかしこの味噌屋のように「漬物は専門でない」ところが作ると、自前の米麹であったりを最大限に生かそうと真面目に作るので、結果、おいしくなる傾向があります。
この辛子なすも、口に入れた瞬間、しっとりと柔らかい茄子の感触と柔らかい甘味が訪れます。そのあとに鼻に抜ける辛子の刺激。思わず、あ! と鼻を抑えて出てしまう声。でも安心してください。その刺激はすぐに収まって、米麹と茄子の旨味だけがじっくりと口の中に残ります。後はそれを日本酒で流し込むだけ。もちろん、ご飯にも合いますが、日本酒や焼酎と一緒にいただきたい(個人的な意見です)。
本漬けなのに薄味、しかも深い旨味がある「本漬野沢菜」(定番)
・ジャンル:野沢菜漬け
・メーカー:信州共同漬物(長野)
・価格帯:200〜300円
長野といったら野沢菜と軽井沢! と言うと「長野はそれだけじゃない!」と地元の方に怒られるでしょうか。しかし、それくらい野沢菜および野沢菜漬けは長野県の代名詞として全国に知られているかと思います。そして「野沢菜漬け」といえば、よく売られているのはあっさりとした「浅漬け」ですが、こちらは「本漬け」になります。
ところで、本漬けや古漬けに対して「酸っぱい」や「しょっぱい」といったイメージを抱き、「本漬けや古漬けはちょっと……」と思われている方も多いのではないでしょうか。しかし、酸っぱくも、しょっぱくもない本漬け野沢菜があったらどうでしょうか。
こちらの商品は、見た目は他の古漬けと何ら変わりませんが、見た目に反して薄味! 醤油の風味もきつくなく、クタクタした食感もありません。原材料には入っていませんが、どことなくカツオだしのような深い旨味を感じます。賞味期限が短い浅漬けのように焦って食べる必要はありませんし、古漬けのように塩分を気にする必要もありません。
そのままご飯と一緒に食べていただくのが一番ですが、お茶漬けにもいいですし、油との相性もいいので炒めものやチャーハンにしてもおいしいですよ!
漬物としてはもちろん、調味料としても万能な「青南蛮漬」(個性派)
・ジャンル:青南蛮漬け
・メーカー:大浦食品(青森)
・価格帯:500〜800円
「青南蛮漬け」は青唐辛子の漬物のことで、昔、南部藩(盛岡藩)が治めていた地域(岩手県中部から青森県東部付近)で広く作られています。青森では細かく刻んだ青唐辛子を味噌に漬けるのが最もポピュラーなのだそうで、それをご飯にのせたり、炒め物に混ぜたりと調味料的な使い方をしています。
が、今回ご紹介するのは、味噌ではなく醤油で漬けたものになります。味噌から醤油に変わっても、味の方は申し分なく辛い。細い輪切りの青南蛮を2〜3切れ口に入れただけで、お! っと思わず声が出るくらい辛いです。が、同時にうまい! もう、びっくりするほどうまいです。
唐辛子の辛味と香りが醤油に移っているので、なんでも旨辛味にしてくれる万能調味料としても使えます。私は卵かけご飯にかけたり、納豆に混ぜたり、おでんや湯豆腐にかけたり、ぬか漬けに付けたりして食べています。ぜひ、皆さんも試してみてください。
しょっぱくて酸っぱい中に、素材の味がしみ出ている「田舎漬」(定番)
・ジャンル:たくあん漬け
・メーカー:ホクト(和歌山)
・価格帯:300〜500円
いつからそうなったのかは不明ですが、今どきは「薄味で少し甘口」というのがたくあん漬けの売れ筋です。そんな中、時代を逆行し、昔ながらのたくあんが食べたいというニッチな要望に応え続けているのがこちら。しっかりと干されて固くなった大根を樽の中で長期間漬け込み、乳酸発酵しています。だから、しょっぱくて、酸っぱい。ただし、素材からの旨味も出ているので深みのある酸っぱくて、しょっぱい、なのです。
塩分を気にされるかもしれませんが、噛み応えがあり、味もしっかりしているので、薄切りが3枚あれば、茶わん一杯ご飯が食べられ、量によっては薄味のたくあんをたくさん食べるより、塩分摂取量が少なく済むと思います。もちろんご飯、お茶漬けとの相性最高です! 油で炒めてもいいですし、キャベツや鰹節とあえるのもおすすめ。
子供も大人もとりこになる「みそ漬こんにゃく」(個性派)
・ジャンル:こんにゃく漬け
・メーカー:ぜいたく庵(群馬)
・価格帯:500〜800円
こんにゃくの漬物というと、結構驚かれる方がいるのですが、実はいろいろあるんですよ。醤油漬けや、ぬか漬けなんかもあったりするんですが、今回ご紹介したいのは味噌漬けです。しかも、ただの味噌漬けではありません。群馬県は下仁田の刺身こんにゃくを使用しており、しっかりとした歯応えと、ツルっとした喉越しがおいしいを通り越して気持ちいいです!
芯まできっちり漬かっている甘口の味噌も、こんにゃくと相性抜群。味噌味なのでご飯と一緒にでもいいですが、お茶請けや箸休め、お酒のお供にも。
味噌はモルト(麦芽)系のお酒とも相性がいいので、ビールはもやウィスキー系と合います。もちろん味噌なので日本酒、焼酎とも間違いない。また、この商品はお子さまにも大人気で、お店ではお父さん、お母さんに買って買ってとせがむ姿をよく目にします。そういった意味ではご家族みんなで楽しめる漬物! ぜひお試しください。
塩分ゼロ、味付けゼロな漬物(?)「すんき」(個性派)
・ジャンル:すんき漬け
・メーカー:日義特産(長野)
・価格帯:1,000〜1,200円
よく京都の「すぐき」と間違われますが、こちらは木曽の「すんき」です。ここ数年で何度かテレビなどのメディアでも紹介されている漬物なので、ご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
まず、この漬物(?)のすごいところは塩分がゼロという点。なぜ「?」なのか説明しますと、「すんき」は赤かぶの葉を乳酸菌で発酵させただけのもの指しており、「漬ける」という行程がないため「漬物」と言えるのかどうか微妙なところなのです。しかし発酵保存食という点においては漬物として分類されると思いますし、実際に木曽の伝統的な漬物として扱われています。
発祥については諸説ありますが「赤かぶを出荷した後の葉を樽に入れたまま忘れていて、酸っぱくなっていた。もったいないから味噌汁に入れてみたらおいしかった」という説が個人的には一番納得がいくかな、と思ってます。今は大豆の発酵液を使っておいしく乳酸発酵させているので、ご安心ください。
塩分がなくて、発酵してますからもちろん体に良い! どんな味か想像がつかない方も多いと推測しますが、例えるならば、プレーンヨーグルトのような味です。このたとえもピンとこないかな? とにかく皆さんが思っている以上においしいと思います。木曽では味噌汁に入れたり、蕎麦の具にするのが主流だそう。個人的には、鰹節と醤油を合わせてご飯に乗せたらもう! 最高ですよ。
身近なようで知らない、漬物の世界
漬物は千年以上、日本の食文化として寄り添ってきました。それは単においしいというだけでなく、野菜の有効活用であったり、健康的な一面もあるからこそだと思っています。
私たち漬物屋は、その基本的な部分を大切にしていく必要があると考えていますが、皆さまには、ただおいしく楽しく召し上がっていただききたいと思いますし、そうしていただけるように、これからもおいしい漬物を探して、提案していきたいと思っています。
著者:柳沢博幸
漬物専門店やなぎに桜店主。漬物マイスター。Tシャツデザイナー。築地の漬物卸問屋で20年修行後、東京都文京区に漬物専門店を開業。最近はぬか漬けのアドバイザーや、Tシャツデザインも手掛ける。現在は無添加系の漬物を探すのに注力していますが、世界の漬物にも興味津々。
公式サイト:やなぎに桜 Twitter:@yanaginisakura
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