コレクションされるモノの価値 (original) (raw)
大谷翔平選手が「50-50」を達成したときのホームランボールが、日本円で6億6千万円で落札……こういうニュースを見聞きすると、「コレクションされるモノの価値」というのは、そのモノ自体よりも、その背景にある「物語」「コンセプト」のような付加的な情報なのだと痛感します。
あの6億何千万円のボール自体は、モノとしては、少し汚れた、ただの野球ボールにすぎないのですから。
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ドラえもんのひみつ道具に「流行性ネコシャクシビールス」というのがあります(ビールスは、ウィルスのこと)。設定した特定の流行に、感染した人が夢中になるウィルス。つまり、流行を思いのままに生み出せる道具です(ただし感染の効果は期間限定)。
この道具は、『ドラえもん』のなかで複数回出てきますが、ある話では、「ドリンクの王冠のコレクション」を、このウィルスを使って流行らせています。王冠は、もともとのび太が集めていたのです。
そして、この話では、どんどん流行が過熱していき、最後のほうでは「のび太が8月○日に三河屋で買ったコーラの王冠」を100万円で買いたい、というおじさんまであらわれます。それほど高値なのは、「その日に三河屋で売れたコーラは、のび太が買ったそれ一本だけ」だからです。
そのような、「背景となる物語」にバカみたいな値段がつくというわけです。50年近く前の子ども向けの漫画で、このような文化の本質を突く話を展開している藤子F先生、やはりすごい。
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美術品は、コレクションされるモノの頂点といっていいでしょう。そして、その価値・値段は、作品としての表現のすばらしさだけではないわけです。背景にある物語・コンセプトが、その価値のかなりの部分をなしています。
とくに現代美術は、その傾向が強いです。たとえば、有名なバンクシーの作品などを思い浮かべていただければと思います。
そして、生成AIによるイラスト・絵画などの作品は、その表現としての品質が今後さらに向上したとしても、このような「背景にある物語」という点では弱いです。「誰がつくった」ということ自体がはっきりしないのだから、背景や物語など成立しようがない。
そこで、AIの作品にものすごい高値がつくということはないのではないでしょうか。
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いや、それでも将来的にはどうなることか?
「こんなものがヴィンテージになるなんて、昔は思いもよらなかった」というケースは、結構あるわけです。今の中高年が子どものときのゲームソフトが、場合によっては高価な美術品のような値段で取引されたりしているのですから。
AIが発達すると、「歴史や物語を背負ったAI」「ヴィンテージなAI」というのが何らかの形で成立することがあるかもしれません。
たとえば、架空の世界のことですが、映画『2001年宇宙の旅』に登場する、木星探査の宇宙船に搭載されたAIのHAL9000(映画のなかで重要な役回りで、特別なことがこのAIに起きる)が、地球に戻ってきたとして、このHAL9000が絵を描いたり歌ったりすれば、そのオリジナルデータは、たいそうな値段がつくのでは……
でも、AIの描いた絵に高値がつく世界なんて、あまり待ち遠しくないです。ただ、その可能性を、否定はしないということです。
ブログの著者そういちの新刊。世界史の大きな流れを述べた入門書。