ケヤキ並木を樹形縮小で再生:杉並区中杉通り【シリーズ・みどりの現場から】 - 一般社団法人 地域緑花技術普及協会 (original) (raw)

#ケヤキのトンネル #街路樹 #樹形再生 #間引き

「今日のみどりの姿は私たちが本当に追い求めてきたものだろうか?」

そうした想いをもった、長年都市のみどりをつくり、育てる仕事にたずさわってきた「みどりの技術者」たち。 彼らは「都市のみどり研究会」を立ち上げ、「今求められる都市のみどりの姿」について議論を重ねています。

シリーズ「みどりの現場から」。 本稿では、「都市のみどり研究会」のメンバー、中川良雄さんが、みんなに知ってもらいたい「みどりの現場」を紹介します。


堂々たるケヤキのトンネル

中杉通り(都道427 号線瀬田貫井線)のケヤキ並木は、1954 年、地元の有志が苗木を植えたことに始まります。

そして50 年後には堂々たるケヤキのトンネルになりました。

当時、ケヤキのトンネルの紅葉は圧巻でした。
(2006年11月 阿佐ヶ谷駅南側)

樹形再生の決断

しかし、並木が巨大になるにつれ、深刻な問題が次々発生しました。 2005 年、落ち葉が屋上に積もった建物のいくつかが集中豪雨時に浸水し、大きな被害がでました。 2007 年、大枝が裂け、道路交通を遮断しました。さらに事故は免れましたが、台風時に倒木が発生しました。

管理する都はケヤキ並木の取り扱いが喫緊の課題になりました。 地元住民の協力が必須と考えた都は、2008 年、地元に働きかけ協議会をつくり、並木存続のための話合いを重ねます。 そして並木は適正な間隔になるよう間引き、樹形はコンパクトに作り直すことを骨子に並木存続のための計画案をつくり、了承を得ました。

ケヤキの間引きは樹勢・樹形不良木などでおこなわれました。 ケヤキが成長すると、その大きさに比べ互いの間隔が手狭になります。 そして元気よく枝を広げる木とそれに押されて樹勢が衰える木が出てきます。 主に衰えた木を撤去し本数を減らすことで、残ったケヤキは十分な間隔をとれるようになります。 樹形縮小は、はじめに木の高さと幅を大きく切り詰め、その後に吹き出す多数の枝(萌芽枝)を何年にもわたり整理し、新たな樹形をつくりあげる作業です。これには、一貫した考えのもと、長期にわたる熟練の技術を必要とします。

都は樹形縮小が完成するまで長期にわたり事業を継続し、その間、住民は無残なケヤキの姿を見続けることに耐える必要があります。 都はこうした事情を協議会やお知らせ看板、ニュースレター、現場見学会などで説明し「時間はかかるが、必ず並木は再生する」と住民の理解に努めました。

現地に設置した看板(現況、事業実施、将来像までの模式図)

大きなケヤキを樹形再生するには

大きなケヤキを樹形縮小するまでの過程を以下に説明します。

この写真は2006年11月に撮影された阿佐ヶ谷駅北側路線の大きなケヤキです。

続いて、この写真は2015年に樹形縮小剪定が実施され、その3年後の2018年2月に撮られたものです。 幹や枝全体から沢山の萌芽枝が吹き出し、見苦しい姿になっています。

そして、この写真は2019年2月に撮影されたもので、萌芽した枝を利用して更に樹高を切下げると同時に枝抜き剪定を行い、姿を整えたものです。

最後にこの写真は2019年7月に撮影されたものです。 樹高が下がり、枝も全体に回り樹形もコンパクトでがっちりした印象です。

この事例にみるように、現場で樹形や条件を考え、それに即して柔軟に樹形縮小を行う必要があります。 これには豊かな知識と経験をもつ優れた専門家が、一貫して剪定指導をする必要があります。

こうした都の努力と住民の協力により、ケヤキ並木の再生は着実に進んでいます。 2019年現在、事業は11年目を迎えています。

樹形縮小作業を何年も継続して、コンパクトな形に再生されました。
(2019年7月 阿佐ヶ谷駅南側)


中川良雄(なかがわ よしお)

都市のみどり研究会、東京都庁OB

造園職として長年東京都で公園や街路樹等の整備や管理に従事。携わった仕事は「お台場海浜公園」、「城南島海浜公園」、「大泉中央公園」等の計画・設計。 町田・多摩市都道の路線毎の街路樹目標樹形計画。中杉通りのケヤキ再生計画等。 退職後、「都市のみどり研究会」に入会。

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