【調査資料】解雇規制とは何か(直接の規制と間接的な規制を調べてみた) (original) (raw)

解雇規制について最近話題があがっており、それに伴い様々に解雇規制に関する解説を目にする機会が増えました。

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様々な記事などを読む限り、「解雇規制」の定義が皆同じなのか少し疑問を感じることもあります。

そもそも解雇規制とは何か、参議院調査室及び国会図書館へ解雇規制について浜田聡事務所より調査依頼をしました。

今回は国会図書館の調査資料です。

【依頼内容】

会社都合退職(いわゆる解雇)について
1. 労働者の解雇を行う上で企業や団体が受ける規制の内容と保護法益(目的、立法趣旨)
2. いわゆる解雇(会社都合退職)を行うと申請ができなくなる助成金などについて、網羅的に詳細を知りたい
3. 2 について、これらの助成金の要件が実質的に解雇を抑制する効果が出ているのではないかと思うが、この検証や実態調査を行った資料があるか
4. 会社都合退職を行ったことで受ける企業側の想定リスクについて参考となる資料はあるか(特に中小企業にとってどれほどのインパクト、影響があるものなのか、どの程度の脅威となるのか)

※依頼内容の3は、実際にかつての現場で聞いた事があるものを取り上げました。

【回答】

1.労働者の解雇を行う上で企業や団体が受ける規制の内容と保護法益(目的、立法趣旨)

解雇を行う上での主な規制として、以下のルールが存在します。

(1)解雇権濫用法理(労働契約法第 16 条)【資料 1, pp.1006-1015; 資料 2, pp.503-509】
労働契約法第 16 条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定しています。つまり解雇について、次の 2 要件が課されます。
① 客観的に合理的な理由
② 社会通念上相当であること
これらを欠く場合には解雇を無効とするルールが、解雇権濫用法理です。

①客観的に合理的な理由には、次の 3 類型があります。

(i) 労働者の労働能力の欠如
(ii) 労働者の規律違反行為
(iii) 経営上の必要性

加えて、②社会通念上相当である必要があります。相当性については、次のような裁判例があります。
・ 解雇事由の重大性、解雇回避手段の存否、労働者側の宥恕事由の有無を総合的に考慮する裁判例
・ 解雇が過酷に失しないかという点から、解雇に至る経緯、従前の勤務成績、反省の有無、他の事例との比較などを考慮して判断する裁判例

なお、①客観的合理的理由と②社会通念上の相当性は、必ずしも画然と区別できないことがあり、裁判例でも明確に区別されているわけではありません。

*有期雇用契約における解雇制限(労働契約法第 17 条)*【資料 2, pp.521-525】
解雇権濫用法理に基づいた解雇の有効性の判断は、主として長期雇用システム下に勤続する正規労働者の解雇について看守されます1。一方、有期契約の期間途中の解雇については、労働契約法第 17 条第 1 項において、「やむを得ない事由がある場合でなければ」解雇することができない、と規定されています。
無期契約においては、労働契約の締結自体によって当然に解雇権が発生し、労働契約法第 16条を根拠としてその濫用を規制するのに対し、有期契約においては、やむを得ない事由の存在によって初めて解雇権が発生します。
判例では、経営上の理由に基づく解雇について、無期契約労働者に比べて厳しい判断をする傾向があると評価されます。

(2)整理解雇の 4 要件(4 要素)【資料 1, pp.1015-1024; 資料 2, pp.510-513】
上記(ⅲ)経営上の必要性による解雇(整理解雇)の場合は、労働者側ではなく使用者側の事情に起因する解雇であることから、一般の解雇と比べてより具体的で厳しい制約を課されます。これが、「整理解雇の 4 要件(4 要素)」と呼ばれる整理解雇法理で、法律上の明文規定ではありません。

【1】人員削減の必要性があること
【2】解雇回避努力(解雇以外の手段による人員削減努力)がなされたこと
【3】被解雇者の人選に合理性があること
【4】解雇手続きに妥当性があること
(3)解雇の予告(労働基準法第 20 条)【資料 1, pp.994-998】

合理的な理由がある場合でも、解雇を行う場合には少なくとも 30 日前に予告をする必要があります。また、予告を行わない場合には、解雇予告手当(30 日分以上の平均賃金)を支払わなければなりません。予告の日数が 30 日に満たない場合は、不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。

(4)解雇の禁止【資料 1, pp.999, 1002-1003】
特定の場合について、法律で解雇が禁止されています。主な事項を列挙します。

【一定期間中の解雇禁止】
・ 業務上災害のための療養中の期間とその後 30 日間の解雇(労働基準法第 19 条)
・ 産前産後の休業期間とその後 30 日間の解雇(労働基準法第 19 条)

【一定事由による解雇等不利益取扱いの禁止】
・差別禁止事由を理由とする解雇等の禁止
➢ 国籍・信条・社会的身分を理由とする差別的取扱い(労働基準法第 3 条)
➢ 組合員であること等を理由とする不利益取扱い(労働組合法第 7 条)
➢ 性別を理由とする差別的取扱い(男女雇用機会均等法第 6 条)
➢ 婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い(男女雇用機会均等法第 9 条)

・労働関係法規違反の申告等を理由とする解雇等の禁止
➢ 労働基準監督官等に申告したことを理由とする不利益取扱い(労働基準法第 104 条等)
公益通報者保護法上の公益通報をしたことを理由とする不利益取扱い(公益通報者保護法第 3 条)

・法律上の権利行使を理由とする解雇等の禁止
➢ 育児介護休業法上の権利行使を理由とする不利益取扱い(育児介護休業法第 10 条等)
➢ ハラスメントの相談をしたこと等を理由とする不利益取扱い(男女雇用機会均等法第 11 条等)

法の目的、保護法益について【資料 2, p.498】
解雇権濫用法理を規定する労働契約法は、「労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資すること」(第 1 条)を目的とします。
同法による違法な解雇の法的効果は、解雇の「権利を濫用したものとして、無効とする」ものであり、裁判においては、労働契約上の地位確認及び解雇期間中の未払賃金の支払いを請求することが多いとされます。地位確認等請求をせずに、損害賠償請求をすることも可能です。

2.いわゆる解雇(会社都合退職)を行うと申請ができなくなる助成金
多くの雇用関係の助成金には、労働者を解雇した場合に助成金受給を一定期間制限するルールがあります。また、僅かですが、雇用関係の助成金以外にも、解雇した場合に受給を制限するものが見つかりました。このようなルールのある助成金について、その概要と支給要件の概要を下表にまとめました。
雇用関係の助成金については、下記 URL から詳細をご確認いただけます。

▼「雇用関係助成金支給要領」

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001269567.pdf

<表中の語句の定義>
解雇等:労働者の責めに帰すべき理由による解雇等、天災その他やむを得ない理由により事業の継続が不可能となったことによる解雇以外の解雇に、勧奨退職等を加えたもの。雇用保険被保険者資格喪失の確認の際に喪失原因が「3」と判断されるもの。
特定受給資格者:倒産・解雇等の理由により再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた者。具体的な離職理由については資料 3 参照。

▼参考リンク

雇用関係助成金関連 https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001269567.pdf

雇用関係助成金以外 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001238315.pdf

3.これらの助成金の要件が実質的に解雇を抑制する効果が出ているのではないかと思うが、この検証や実態調査を行った資料
今回の調査の限り、ご指摘のような効果について検証や調査を行った資料は見当たりませんでした。
なお、前項2の表でお示ししたとおり、事業主都合の解雇等を行ったことによる助成金不支給は、(各助成金の支給要件によって異なりますが)一定期間に限られます。

4.会社都合退職を行ったことで受ける企業側の想定リスクについて参考となる資料(特に中小企業にとってどれほどのインパクト、影響があるものなのか、どの程度の脅威となるのか)

資料 4 は、解雇の方法が悪い場合には、社員が自尊心を傷つけられ、逆恨みする可能性や、他の社員の士気が落ちる可能性を指摘しています。また、解雇の有効性について紛争が生じるなど、経営者に不都合な結果が生じる可能性があるとします。

解雇が違法・無効とされた場合にはバックペイ(解雇等の時点から違法・無効が確定するまでの間の賃金)の支払いが必要となりますが、紛争解決には時間を要しバックペイの金額は高額になるため、大きな経済的負担を負うことになります。また、被解雇者を職場復帰させる場合には、職場環境や業務処理等に事実上の悪影響が生じる可能性もあります。さらに、いわゆるブラック企業であるとの非難を受け、求人募集の際や取引先との関係等に悪影響を及ぼすことをあり得る、と指摘されています。(資料 5, p.15)

【提供資料】

※URLのない紙資料は著作権の都合でここでは割愛します。

資料1. 水町勇一郎『詳解労働法 第 3 版』東京大学出版会, 2023, pp.992-1033.
資料2. 荒木尚志ほか編『注釈労働基準法・労働契約法 第 2 巻』有斐閣, 2023, pp.496-527.
資料3. 「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」厚生労働省ウェブサイト

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000147318.pdf

資料4. 小島彰監修『事業者必携 労務リスクを減らすための 入門図解 労務管理の法律知
識 実践マニュアル』三修社, 2023, pp.97-102.
資料5. 狩倉博之ほか編著『使用者側代理人の解雇・雇止め紛争の実務対応』学陽書房, 2022,pp.11-16.

また、調査資料ではありませんが、労働政策に関するレポートを一つご紹介します。

▼Works University 15 解雇/労働争議リクルートワークス研究所

https://www.works-i.com/research/labour/item/2024_wu_jp15.pdf

退職推奨などにも触れており、諸外国との制度比較もされています。

規制内容とは直接関係ありませんが、解雇と言えば、、、

以前、解雇の相談を顧客から受ける立場であった頃(法人営業の時代に、たまに相談を受けることがありました。)関連企業の解雇に詳しい担当に繋ぎ、アポイントに同席して話を伺ったことがあります。

解雇において労働者側と円満に解決するには、①金銭的な補償と、②次の就職先を支援する事、そして何より解雇に至った経緯を労働者が納得できるように丁寧に対話していく事だという話があったと記憶しています。当然ではありますが、単に規制によって解決を図るのではなく、このように事業者側と労働者側が適正に話し合い解決する事こそ最も望ましい事であり、それが叶わない時に適正に救済できる制度を検討し、本当に必要な規制とは何かを考え議論を深めることは重要だと思います。