leave them all behind 2024 @代官山UNIT ライブレポ (original) (raw)

2024年11月10日。15時、恵比寿駅。6月にLIQUIDROOMDos Monosを観た以来だ。当然賑わっているが、前とは違ってエメラルドグリーンのキックボードや自転車がたびたび視界に入ってくる。実際に利用者が増えたのか、個人的に嫌悪感を抱いているから目につくだけなのか。どちらにせよ、今日私が目撃すべきエメラルドグリーンはそれではない!Daymare Recordingsが主催する音楽イベント『leave them all behind 2024』だ。真っ赤な炎を携えた去年のフライヤーデザインに対して、今年はヘッドライナー・Earthのアルバム『Earth 2』を思わせる清々しいエメラルドグリーンの青空を背景に据えたものになっている。Today's エメラルドグリーンはこれ以外ない!現実の空は曇天だが、ライブ会場ではノイジーで清々しい快晴の如きサウンドスケープが繰り広げられるはず。そんなことを思いながら代官山UNITに向かう。

会場到着・待機(15:33~)

着いたーーー!ピテカントロプスになる日も~

道路に面した入り口前に貼られていたボード

代官山UNITはZa Houseというビルの地下にある。LIQUIDROOMのように建物全体がライブハウスになっているタイプではなく、目立つような看板もないので少し分かりにくかったものの、ちゃんと辿り着けて良かった。ちなみに私の整理番号は299番。あまりにも早すぎる到着だが、早いに越したことはない。それに私は心配性なので、精神的にもちょうどいい。

会場前

チケットを持っている人は車道側に列を作って待機。整理番号順に呼ばれるだけで並ぶ順番に指定は無い。これも早いに越したことはないので、2,30人くらい集まったところで並び始める。5分もしないうちに列がぐんぐん伸びた。45分になると予定通りに開場。ここで入場していく人たちを眺めることで、大まかな客層を把握。30~40代の男性が多かった。女性は2割くらい?外国人も結構いた。

まずは5番刻み。「ドリンクチャージの600円を現金で~」とアナウンス。ショルダーバッグをガサゴソ。財布が無い。忘れた…のか?なぜかチャックが半開きになっていたことに気づき、忘れたのか落としたのかすら分からない。不安すぎる。現金については非常用の札がポッケに入っていたので、セーフ。モヤモヤしながら200番台、10番刻みに突入。「300番までの方」の子音sが聞こえた瞬間、GOGOGOGO

入場(15:55~)

チケットちぎり確認後、600円を千円札で払いおつりとドリンク交換用の缶バッジをもらう。壁一面に貼られた色とりどりのポスターを尻目に階段をくるくる下りていく。地下1階にはトイレ・ロッカー・物販会場があるらしく、入場口の扉から階段まで長蛇の列が出来ていた。トイレはさっき行ったし、ショルダーバッグだからロッカーいらないし、物販は見送ることにしていたので、そのままスルーして地下2階へ。ドアを通ると真っ暗な部屋が。ここが代官山UNITか!

左手にドリンク交換所があるし、ここがライブ会場で間違いなさそうだ。とりあえずいつも通り邪魔にならないミネラルウォーター(富士清水)をGETしバッグにしまう。

ステージへ。右側奥にミラーボールがあって面白い。

涼しい。今まで来たことのあるライブ会場で一番狭い。中央最後方でも全然ステージに近いので、安全に楽しむために後ろに行くのもアリか。ただ、好機を逃す訳にはいかないので、視界良好な二列目やや左寄りに位置取り。整理番号299番でこれはラッキー?

青いライトに照らされた舞台にはSLUGのロゴ!機材も用意されている。最初がSLUGなんだ!今回は昨年と異なりタイムテーブルや出演順が発表されていなかった(ビル入口前のボードの出演者欄は出演順に並んでいたが、明確なアナウンスはなし)。でもそれはそれで流れが読めない感じがあって良いかも。

気になる場内BGMをShazam。Flying Saucer Attack『Further』がまるまる流れていた。フィードバックノイズをあしらった心地よいアシッド・フォーク。ノイズやドローンという点で出演アーティストとの親和性が伺える。ハードコアやメタルでなくフォークなのは、幕間で客をリラックスさせる配慮?

正面にはMetal ChurchのバンドTを着た人がいて、背後の会話からはDismemberだのMötley Crüeだのバンド名が聞こえる。やっぱりメタル勢力が強いのか。ライブのノリがどうなるかは想像つかないけど、自分はいつも通りにしていればいい。財布の件もたぶん家に置いてきただけで落としてはいない。大丈夫。水を一口飲んで呼吸を整え、ライフセーバーのマイ耳栓Fcking Loud(CRESCENDO)を装着。爆音カモン!!!

SLUG(16:30~17:10)

2020年結成、大阪ハードコアシーンで活躍中のスラッジ・メタル・バンド、SLUGが一番手を務める。メンバー非公表で発表音源も少なく、本日の出演者のうち最も謎に包まれた存在。上手側からノイズ卓、ギター、ドラム、ベース、ギター。真ん中にはスタンドマイク。5つの人影がぬるっと登場。こちらには見向きもせず黙々と楽器の方へ。歓声は上がらない。箱全体に張り詰める緊張。怖い。淡々と音を出し始める。ノイズ卓からは不気味なラジオ音声。『SLUG_TAPE_2』で聴いた感じのやつ!既に演奏は始まっているということか。カッコいい。照明の状態は待機時と1mmも変わらずほぼ真っ暗。覆面をしているわけでもないのに誰一人として顔は見えないが、背の高いベースは立ち姿だけで異様な圧を放っている。じっと眺めていたら、ぶらりと両手を下げてこちらに近づいてきた。ギャー怖い!

竿隊全員がアンプの方を向き、フィードバックノイズを鳴らして静止。準備完了か。ドローンとラジオ音声だけが会場にこだまする。掻き鳴らし開始!グワオアアアアアアアア!ぎゃああ~!身体全体が芯から震える。ブラックメタル由来のいわゆるトレモロリフによる爆音ドローン。すべての音の輪郭がほどけて、一つのどす黒い音の塊が生まれ、一瞬で会場を呑み込んだ。そんな巨大な暗黒の奥で、ドラムが間を取りながらキックとシンバル、タム、スネアをポツポツと鳴らし、静かにビートを刻んでいく。キックはドローンが及ばない超低音域をズムッと突いてきて、内臓に来るので分かりやすい。数分間反復。先ほど暗順応が起きたように、聴覚の方にも変化が訪れる。時間とともに音像にピントが合い、ドローンに埋もれていたドラムがハッキリ聴こえ始め、微細な揺らぎも楽しめるほどになった。

宇宙を楽しんでいると、ボーカルがきた!やはり暗いので顔が見えない。スタンドからマイクを抜いてうろつく。歓声は上がっていたと思うが、よく聴こえなかった。ここでようやく6人体制だということが判明する。竿隊の掻き鳴らしはヘドバンを促す刻みリフに移行し、ドラムは先ほどのテンポを保ちつつそれに追従する。輪郭が戻って音がハッキリ聴こえる。ボーカルは高音のピッグスクイール(他の音にかき消されて低音部しか聴こえなかったのでガテラルの可能性も)でリズミカルに絶叫。終始一貫して同じ声を出し続けるという徹底的な起伏の無さは面白かったが、意図的なのか、バンドサウンドに負けてそう聴こえてしまっただけなのかは分からない。フレーズの途切れ目で地面にバウンドするようなヘドバンを発作の如く繰り返す様子は怖カッコよかった。私はヘドバン…とまではいかず、ゆるく頭を振ってノった。周りを見渡すと、みんな似た感じでゆるくノっていた。驚くことに耳栓をしていない人が多かった。歴戦の猛者たち。

ドラムフィルを軸にリフを変え段階的に速度を上げつつも、音選びはモノトーン気味で最低音Aへの粘り気や重力のようなものは常に存在しているため、非常に長くルーズな時間感覚を保ちつつ熱のこもったハードコア~メタルのノリを楽しむことが出来る。生スラッジ面白い。

加速の途中でドラムがジャジーに崩れる段階を経て、右のギターだけがじっくりとリフを奏でる最初のブレイクダウン!重め~!!からのBPM120で2ビート。こりゃヘドロ(=Sludge)ってより溶岩だ!遅くても高火力って意味で。それからモニターに足をかけて観客側に身を乗り出すボーカル。アチー!ベースも良い。どっかでAからCにスライドした瞬間、下半身から喉らへんにプルプルが移動してヤバかった。

いくつかの展開を経て、存在感の薄かったノイズ卓が暴れ始める。他のメンバーと同様ずっとこちらに背を向けた状態で、まるでジェットコースターに乗っているかのように上半身を右へ左へぐわんぐわん動かしたりしている。同調性のあるヘドバンではなく痙攣。バンドサウンドから視覚的にも聴覚的にも独立していたそんなノイズが、キックの領分だった超低音にまで侵食。そうして音の境目が曖昧になったところを追い打ちのブラストビートでさらにボカす。楽しい!!!

後半盛り上がってきたところ、ステージ上手の舞台袖でノリノリになっている謎の人物を発見。手を挙げてこっちを煽ったりフラッシュを焚いて写真を撮ったりしている。スタッフにしては出しゃばってるなと思ってたら、2ビートに切り替わった瞬間にダイブ!自分のちょい右に着地。人口密度が少なく観客も準備が出来ていなかったらしく、とりあえず受け止められはしたものの、クラウドサーフには至らずそのまま地面にふんわり降ろされていた。ビビった。そもそもスラッジメタル自体ハードコアにルーツを持ったジャンルで、SLUGも当然ハードコアのバンドなんだった。テンポが遅いからモッシュは起こらないだろうと思い込んでた。後ろを振り返ると小規模のモッシュが起きていた。最前列の圧縮は起きておらず、中央で数人が暴れている程度だったので、何発か打撃を受けつつ左手後方に避難。

危なかった。舐めてました。それにしても、モッシュ・ダイブが起こるタイミングが分からなさすぎた。一番盛り上がるブレイクダウンって感じでもなかったけど、何か合図してたのかな?現場のアレコレ、勉強しときます。

モッシュが起こってから5分後くらいにイントロ同様ドローン+ラジオ音声へと回帰し、演奏終了。さっきのはラストスパートだったのか。それにしてもあっという間の40分だった。SLUG、ありがとう!!!!!!ハードコア系の初ライブがSLUGで良かった。

極悪サウンドかました彼らは一瞬でスイッチオフ、余韻を味わうことなく速やかに撤収作業へ移る。素っ気なさがカッコいい。このタイミングでようやく照明が明るくなったが、メンバーは後ろ向いてたり俯いてたりで結局謎は謎のまま終わってしまった。

ちなみに、暗かったし怖かったので、写真は一枚しか撮れなかった。

カメラの性能も相まってほぼ何も見えない

良かったな~。各メンバーのノリ方の違いも面白かった。ドラムに対して、ボーカルとベースは前ノリで、ギター2人は余裕のある後ノリで乗っていた(ノイズ卓はリズムが希薄)。このバランスの良いズレがナイスグルーヴを作り出しているのかもしれない。総合暴れ具合は🥇ボーカル🥈ベース🥉ノイズ卓

ENDON(17:30~18:17)

ドラムが下手側に運ばれ、舞台の真ん中がガラリと空いた。ステージ背後の暗幕が開きVJの準備も。SLUGに続いて同じマーシャルアンプとベースアンプを使い、マーシャルの方をベースアンプと同じ高さの二段積みに。その二つのアンプとそれぞれ一対になる形でモジュラーシンセの卓をセッティング。読書灯みたいなのついてて面白い。メンバーも登場。上手マーシャル側には黒シャツ姿の宮部幸宜(以下出演者敬称略)、下手ベーアン側にはニット帽を被った愛甲太郎が登場し、サウンドチェックへ。ようやく演者の顔が見れた。あとスタッフがCRASSのTシャツ着てた。肉体的なスラッジ~ノイズの次は無機質なデス・インダストリアルだあ、初体験の連続。楽しみすぎる。

ENDONセッティング風景

サウンドチェックを終えた二人は舞台から去り、予定時間通りに暗転。まずは愛甲が持ち場につき、新譜『FALL OF SPRING』のイントロ《PRELUDE FOR THE HOLLOW》を流す。クワイアとガシャンガシャンのメタルパーカッション(その手の文章ではメタパーと略すらしい)が遠くで響く。yukako(Hello1103)のVJも同時にスタート。バックスクリーンにモノクロの黒く汚れたテクスチャが現れ、その上にセリフ体で「ENDON」の文字。イエー!!!と歓声。愛甲は機材のツマミをいじりながら緩やかに頭をくねらせ、時折ドリンクカップを口に運ぶ。かなりリラックスしている。すぐに宮部もやってきた。背筋を伸ばしてじっと佇んでいる。今のところ何をどうやって演奏しているのかはよくわからないが、とりあえず音源に忠実なのは確かだ。

まだ大人しいパートなのに音がデカい。中低音のシンセが内臓を震わす。心地よいアンビエントで癒されていると、攻撃的な《HIT ME》で空気が一転。なるほど、アルバム再現セット。強く歪んだドンシャリ気味の打撃音が身体をリズミカルに痺れさせてくる。激しさを増してもなおノイズ卓の二人はリラックスしている。

ここで、絵画における鑑賞距離の概念が音楽の場合にも存在することに気づいた。鑑賞音量とでも言うべきか。鑑賞者が動くか作品自体を大きくするかという点では異なるが、遠距離=小音量では作品全体の俯瞰とスケール感の把握、近距離=大音量では作品への没入や一体化が実現されるという点で本質的に同じ現象。何が言いたいのかというと、ノイズの鑑賞音量は爆音が一番だということ。

デス・インダストリアル~ダーク・アンビエントを構成する要素としてのノイズがUNITの音響と即興演奏によって前景化し、土台は同じでも全く別の音楽として立ち現れていた。通気性や透明感がある分離の良いサウンドなのでその違いは分かりやすかった。

閑話休題。音源より若干長めにループを長し、ノイズが強まってきた辺りでボーカルの那倉太一が満を持して登場。舞台中央をくるくる歩きながら、羽織っていたフード付きのトレンチコートを脱ぎ捨て、スタンドからマイクを抜き、鼻にかかった唸り声を上げた。ん?強面スキンヘッドというイカツい風貌からは想像の付かない、のぶ代版ドラえもんを甲高くしたみたいな気の抜けた声。これはヤバいぞ。もう狂気がにじみ出ている。それから間もなく、腰を反らしつつ両手でマイクを握ってシャウト。High Fくらいの高音・母音aで声にならない声を絶叫。『MAMA』というアルバムを出していたという記憶のせいで「マ˝ーマ˝ー!」「カーチャーン!」に空耳する。なんにせよイカれてて最高!

続いて《TIME DOES NOT HEAL》。インダストリアルな打撃音が退き、その代わりにくぐもったベースラインが静かに反復する「静」のパート。AutechreみたいなIDM感もある。中盤のアルペジオシーケンスは音源のDsus4と違ってBmの構成音を鳴らす。音源より尺を取って盛り上げ、外(高音ノイズ)はカリカリで中(アルペジオ)はアシッドにプリプリの、海老天みたいな状態に。那倉はそこに「うお~お~お…」と野太い声でふざけた感じの歌を入れていて面白かった。衝動の人。

最後は《ESCALATION》で「動」にスイッチ、沸騰を迎える。グリッチーにゆがみ激しく点滅するバックスクリーンに、眩しく明滅する橙色のライト。爆音も爆音。ビートの反復やアンビエント要素は消え去りハーシュ・ノイズに変貌(音源でも聴けるギターっぽい音はノイズにほとんどかき消されていた)。半ば踊るようにノリノリの愛甲。宮部は前屈み気味に卓を覗き込んで集中モード。ハウリングのような鋭い金切り音を断続的に出したり、握った小さいピックアップ的な何かを力強く振り下ろしてさらにノイズを塗り重ねたり、両者とも無表情とはいえ楽しそうだった。

那倉もヒートアップ。シャウトというよりもはや慟哭。たまに片手で顔を覆う仕草を見せ、目は潤んでいる。これは怒りよりも哀しみの表現なのか、とも思えたが、観客側に中指を立てる場面が二回くらいあって分からなくなった。たぶん、喜怒哀楽の形になる前のプリミティヴな感情をとにかく爆発させているのだ。既存の枠にハマらない、どこにもイコールで結びつかない、だからカッコいい。

…そのほか、愛甲との耳打ちや、観客に向かって「飲み物無くなったからくれ」とジェスチャーで訴える一幕も(そのあと空になった自分のプラカップを舞台床に放り投げていた。ちなみに撤収時しっかり回収していた)。

点滅注意:ストロボVJを背後に絶叫するボーカル・那倉太一
(PCはマウスオーバー、スマホは長押しで再生)

クライマックス、音源とは違って張り裂けるノイズ、ノイズ、ノイズ。それでも終わりは突然やってくる。熱演の末、那倉が姿を消す。嵐が消えて帰ってきたクワイア。たちまちフェードアウトし、虚無へと溶けていった。演奏終了。二人は一礼し、ENDONのロゴがドン!うおおーブラボーーーー!!!!

映し出されたENDONのロゴ

本当に良かった!!!アルバムのダイナミクス豊かな構成がHYPER NOISYに昇華されていた。物理的にも精神的にも刺激的な体験だった。シンプルに音がデカすぎて、耳がオーバーヒートして熱くなってた。なんも付けずに痙攣横揺れしてた人たち、本当に凄すぎる。同じ人間?

Merzbow(18:40~19:29)

ENDON終了直後、観客が一斉に前方へ詰め寄せてきた。後半戦の期待感で会場の温度が上がるなか、ジャパノイズの帝王Merzbowこと秋田昌美が登場。闇に擬態する長髪と黒装束。グラサンや帽子は身に着けていない。大量の機材が並べられた細長い卓と先ほどと同じ左右のアンプが彼の武器。慣れた手つきで一通りチェックを終えて退場したのち再び現れ、ベースアンプのツマミを入念に確認していた。

こちらは足腰に疲労が溜まってきた。邪魔にならない程度に軽くストレッチをして衝撃に備える。最近の作風を全く知らない(聴いたことある一番最近の作品は2002年の『Merzbeat』)ので、全然スタイル違ったりするのかな。みんなどういうノリ方するのかな、音はどれだけデカいのかな、などと期待を膨らませる。20分の空白を経て、演奏が始まった。謎めいた板状の楽器を手に取って肩から提げる。真っ暗な空間のなかでエフェクターのLEDだけが怪しげに光る。

具体的な演奏の詳細はそこまで記憶にない。なぜか。没頭していたから。これまでのSLUG・ENDONと違って、完全に無我夢中になっていた。ゆえに音像を俯瞰して眺めることはできなかった。正確に言うと、しなかった。Merzbowはノイズの素晴らしさを教えてくれたアーティスト。そして、少なくともMerzbowにおいては、冷静な聴取を拒んでノイズと一体化するのが一番気持ちいいと知っていた。だからそうした。肩の力を抜いて娯楽的に楽しませてもらいましあた!

言い訳はこれくらいにして、覚えていることはできるだけ書く。一応ライブレポの体裁をとってるし。先に言ってしまうと、出てくる音自体は想定範囲内だった。だからといって面白味に欠けるパフォーマンスだったというわけでは決してない。

冒頭からあっという間に会場を支配する、激しく潰れた金属的なノイズ。ループ感はない。絶えず自己破壊的に変化し続ける。途切れ目はないがドローンとも違う。デッドで冷ややかな粒子が認知を追い越す速度でジリジリと軋み合う。無機質と同時に生々しい感触もある。まずは中低音域で暴れ、次に下半身を揺らす超低音が荒々しく波打ち始める。次第にヒスノイズもちらつき、高音から低音までを埋め尽くす爆音の壁が完成。音の壁に呑み込まれてノイズの渦と一体化!あ~~!ありがとうございます!!!先月『Noisembryo』を何回も聴いて魅了された身として、この瞬間を待ち望んでいた。無意識のうちに口角が上がってしまった。最高!

他の奏者が身体を揺らして演奏する姿を見せるなか、秋田の佇まいは対照的だった。終始俯き加減で静かに、まるで瞑想するかのように淡々とツマミを操作する。これが長年ノイズと向き合ってきた者だけが到達できる境地!未だ照明にも目立つ動きは無く、視覚情報が少ないぶんよりノイズに浸ることができた。

どこまでも暴力的に変化し続ける音の渦に溺れ、ボブルヘッドの如く首を震わせる。自分以外もだいたいそんなノリ方。しばらく理性を忘れてトリップしていると、雷のように不規則なタイミングで明滅する柔らかな光が見えた。クールな演出!

音の壁が消え、高音・低音のバランスが良い「ボボボ↓…キリキリキリキリ↑」という2,3秒ほどのインダストリアルなループだけが流れる。その上でワウをかました謎楽器を激しく擦り、ノイズを放つ。不思議とここだけポップに聴こえた。リフの上でソロを演奏するという構造自体が普遍的なロック~メタルを想起させていたのかもしれない。

暗闇のなか、謎の楽器を掻き鳴らす秋田

明瞭な輪郭を持ったループはいつの間にかノイズに溶け込み、再びカオスへと向かう。もう何が何だかわからない。気持ちいい。サウンドの疾走感を際立たせる照明が全方向からピカピカと放射され、クライマックスの到来を知る。

照明が弱まる。あれ、もう終わりなの!?秋田は端からエフェクターをOFFする作業に入った。ノイズの霧が晴れ、アシッドなシンセループがすっぴん状態で抜け出てきた。優しくブレーキをかけ、リタルダンドして完全にストップ。最後はポチッとボタンを押し、「ポー」とどこか可愛らしい高音で幕を閉じた。ペコッと会釈(したと思う)。即座に沸き起こる拍手と歓声。8888。

この日唯一のソロ演者でありながら、バンド勢に引けを取らない圧倒的なパフォーマンス。音量はもちろん大きかったが、そこまで大きく感じず、想像よりも耳馴染みの良い音だった。

一つ心残りがあるとすれば、「Foo~!(裏声)」みたいなありきたりな歓声しか出せなかったこと。「ありがとう!」とか言って直接感謝の念を伝えたかったけど、雰囲気に圧されちゃった。

Earth(20:00~21:22)

トリを飾るのはヘッドライナー、アメリカからはるばるやってきたEarth。イベント参加を決断したキッカケの一つが、無論『Earth 2』の全編再現セットだ。今日はこれを観に来たと言っても過言ではない。ドローン・メタルの原点がどのように繰り広げられるのだろうか。正直『Earth 2』は何回か聴いてはいるもののまだ完全には理解できていないので、今日こそは。ステージにはベースアンプと持ち込みのギターアンプ2台*1。ドラムセットの背後にはなんと銅鑼が!面白い。

まず現れたのは、いかにもアメリカンなハットを被ったBill Herzog(ba.)。以前はSunn O)))のサポート経験を持ち、2014年作『Primitive and Deadly』で初めてEarthの録音に加わり、現在はツアーメンバーとして活動している。下手側に陣取り、足元に5つほどエフェクターを並べ、持ち込んだ缶ビールを一口。ラフだなあ。

ほぼ同じタイミングでAdrienne Davies(dr.)が中央のドラムセットへ。こちらもラフな服装だ。手伝うスタッフと目を合わせて話し、眩しい笑顔を振りまきながら機材調整していた。素敵。『Earth 2』でドラムが入ってくるのは後半30分、しかもそこまで主張が強いわけではないので、どういうアプローチで参加するのか気になるところ。

最後にDylan Carlson(gt.)。Earthの発起人。短髪であご髭を貯えている。個人的には長髪のイメージがあったので、一瞬誰だか分からなかった。服とIbanezの7弦ギターが水色でお揃い。上手側でこちらに向かって手を上げ「ありがとう」と一言!会場の空気が一気に和らいだ。今夜初めて演者から客側に明確な言葉を投げかけた瞬間であった。

Billはエフェクター群の左側に二枚の紙を貼る。セトリ?いや、全編再現でシームレスな3曲、実質1曲みたいなもんだから流石にないか。じゃあ、細かい指示とかフレーズを繰り返す回数でも書いてあったりするのかな?謎。メンバー全員で話し合う場面も。

顔を合わせて何かを話すEarthの3人

ミラーボールが消えて暗くなり、ついに演奏が始まる!うおー!軽い音出しのあと、ギターの7弦開放がポーンと放たれる。チューニングは音源のA(正確に言うとAより少し高い)より半音低いA♭の模様。Dylanはそのまま撫でるようなストロークでA♭メジャーコードを奏でる。明るい響きと揺蕩い煌めく倍音は神聖な心地さえする。ベースが滑らかに合流し、DylanとBillは背を向けてフィードバックを調節。AdrienneはDylanの頷きで合図を受け、銅鑼を控えめにロール。じわじわと音が膨らんでいく。

一曲目《Seven Angels》。ドローンからメタルのダークな質感に。音源より高音の広がりが豊かで、フレーズも幾分か聴き取りやすい。そして遅い!帰って確認したら音源のおよそ0.7倍だった。それにチューニングが半音低いことも相まって超絶ヘヴィ。音量は産毛と服が震えてかゆくなるほどデカかったが、身の危険を感じるENDONレベルではない。ならば…と、耳栓を半分外すことにした。鼓膜がヒリつく。たまらん。

例のSlayer風リフが来た。「デーデー デンデン デーデー デンデン デレレレ~♪」音源と違って、Adrienneのドラムが本格的に絡み始める。先ほどの装飾的なプレイから一転、力強いキックとスネアも使ってフレーズを支える。音源のようなルーズな浮遊感がなくなる代わりに、地に足のついたメタルのノリを生み、アンサンブルとしても安定する。フロア全体がヘドバンで波打つ。この瞬間、キックの抜けの良さを聴いて気づいたのが、ドローンに超低音成分が含まれていない*2ということ。そのせいか爆音でも穏やかな印象を受ける。

姿勢よく堂々と正面を見据え、軽やかにサムピングする不動のBill。優雅なスローモーション・ドラムを披露するAdrienne。クラシカルギターぐらいの急角度でギターを構え、フレーズに合わせてダイナミックに身体を揺らすDylan。思ったより視覚的な動きがあって、それも楽しかった。

《Seven Angels》のリフを演奏するEarth

轟音のなかで執拗に繰り返されるリフに身を委ね続けるうちに、はじめは気が遠くなるほど遅く感じたテンポが身体に浸透する。これを可能にするのは、ミニマルな反復に耐えられるメタルの伝統に裏付けられたリフの強度だ。…そう信じて頭を振り続けた。

二段階目の《Teeth of Lions Rule the Divine》では、リフの刻みが減って持続するパワーコードの割合が多くなる。ドラムもキックとスネアといった主張の強い音を控え、徐々に完全なドローンへと近づいていく。Billはエフェクターをオンオフして微妙な抑揚をつける。Dylanは演奏の傍ら、右腕を上げ指まで使って1,2,3とカウントをとり、その都度フレーズの開始点を指示。音を伸ばす箇所で毎回ギターを天に向けていたのも、そういった指揮の役割を果たしていたんだろう。

やがてリフの展開は完全に無くなり、純然たるフィードバックノイズが広がるフィナーレの《Like Gold and Faceted》へ。竿隊二人がアンプと対峙し慎重に創り上げた倍音が黄金の輝きを纏う。音源では割と前面に聴こえるドラム(特にシンバル)は、繊細な陰影として溶け込むに留まっていた。数十分に亘ってじっくり丁寧に麻痺させられた時間感覚がここで結晶化し、まるで時間が止まったかのような錯覚に陥った。爆音という一種の静寂に包まれ、皆が静かに佇んでいた。燦々と輝く照明は日の出を思わせた。

全員が静止した瞬間もあった

恍惚は永遠でもあり一瞬でもあった。Dylanはストラップを首から外し、ギターを片手で抱えた。Billがベースを左の壁にくっつける動作(なんの効果があるのかはよく分からない)を取ると、Dylanが手を上げ全員が中央に集う。Dylanは1,2,3のカウントでジャラーンと最後の音を鳴らし、一礼してメロイックサイン。Billはベースを急角度で持ち上げて、Adrienneは合掌して感謝を伝えていた。鳴り続けるドローンに負けない大歓声。私も叫んだ。イエーーーーー!!!「One More!」の声で思わず笑ってしまった。

フェードアウト…ではなくブツ切り気味でドローンを止め、Earthの面々はニコニコしながら退場。素晴らしかった。ドローン・メタルの真髄を味わい尽くしたぞ!!!!!貴重な機会に立ち会えて光栄でした。これにて『leave them all behind 2024』は終演。会場の明るさを認識すると共に、激しい疲労が全身(特に足腰)を襲った。

あのドローンは全てを置き去りにして、今もどこかで鳴り続けている気がする。

まとめ

フィードバックノイズで始まりフィードバックノイズに終わった『leave them behind 2024』、すべてが初めての体験で楽しすぎた。衝動で煮えたぎるマグマことSLUG、洗練された劇的大爆発ENDON、激烈無機質ハーシュノイズMerzbow、身体的で神々しかったEarth。Daymare Recordingsさんもありがとうございました。濃い体験すぎて(あとカッコつけたくて)、これを書き終えるのに2,000文字×6日もかかった。それでもまだ全然消化しきれていないので、とりあえず肌感覚だけ忘れないようにして、どこかで点と点が結ばれることを期待して前に進もうと思う。おやすみなさい。

終演後のステージ