『ネットワーク・エフェクト』(マーダーボット・ダイアリー) マーサ・ウェルズ (original) (raw)

中原尚哉訳

創元SF文庫

2021 ヒューゴー賞、ネビュラ賞他受賞

またシリーズ全体が2021ヒューゴー賞シリーズ部門受賞

『マーダーボット・ダイアリー』の続編。一つの長編として話は完結しているけれど、登場人物の関係の変化も読みどころなので、前作から順に読むのがオススメ。

前作の感想はこちら。

suzynomad.hatenablog.com

とりあえずプリザベーション・ステーションに腰を落ち着けることになったマーダーボット。悪徳企業のターゲットになっているメンサー博士を警護している。しかし、企業の恐ろしさを知らず、警護の必要性を見出せないメンサーの家族たちとの間で軋轢が生じている。メンサーは隠そうとしているけれど、拉致事件のトラウマでかなり苦しんでいるようだ。

マーダーボットは旧知のアラダ博士を隊長とする惑星調査隊の警備の仕事をすることになった。隊にはメンサーの娘アメナも参加しているが、思春期のアメナとは関係が若干こじれている。調査隊は何とか調査を完了して帰路につくが、途中で突然現れた謎の輸送船から攻撃を受ける。引きずり込まれたその輸送船にマーダーボットは見覚えがあった。

⚠️ネタバレ注意⚠️

多くの読者が待っていたであろうマーダーボットとARTの再会はショッキングな始まりだった。何故かマーダーボット達の乗っていた調査船を攻撃した上に、船の中には敵性侵入者たちがいてART自身の気配が無い。ARTが削除された(=死んだ)と思ったマーダーボットは、ショックで「情緒的破綻」を起こす。

ARTは大切な乗組員を拉致されて追い詰められ、信頼する友人であるマーダーボットに助けを求めるために彼/彼女の乗った調査船を襲わせたのだ。しかし当然この行為は仲間達を危険に陥れるものであり、マーダーボットは激怒。この後の、マーダーボットとARTのケンカを人間達が気まずい思いで見ているところは結構笑える。

敵制御システムに侵入して臨機応変に対応できる知能キルウェアが必要なため、マーダーボットはARTの助けを借りて自分のカーネルのコピーを組み込んだキルウェアを作る。このマーダーボット1.0とソフトウェア版マーダーボット2.0の掛け合いがまた面白い。マーダーボット同士の会話、勿論ですます調。ソフトウェアは単なるコピーだ、と考えていたマーダーボットだが、2.0は人格を持つ自分自身だと分かる。だから2.0が敵制御システムを引きずり込んだユニットを破壊することを躊躇い、心を痛めた。考えてみればARTが削除される前に自分の圧縮コピーを作って隠しておいたおかげで再起動して戻ってこれたわけで、コピーは当然ながら自分自身なのだ。

物語の後半に登場して成り行きから統制モジュールを無効化した警備ユニット三号の今後も気になる。予想もしなかった状況に放り込まれて戸惑う様子が可愛い。三号は自分を「本機」呼び且つ「だ・である調」で話すので、マーダーボットとの違いが上手く出ている。

マーダーボットの仲間たちは、性格色々あるけど基本的に善人なので、読んでいて嫌な気持ちにならない。数々の犠牲者が出る中でプリザベーションの仲間とARTの乗組員だけは無事に危機を乗り越えているあたり、そんなに都合よく上手く行くなんてとは思うけれど、安心して読めるのはいいところだ。

マーダーボットは漸くやりたいと思う事を見つけた。この先ARTとのコンビで色々な冒険をしていくのだろう。ARTの乗組員達とどういう風に関係を築いていくのか楽しみだ。