【源氏物語578 第18帖 松風2】源氏から上京を促されるものの、明石の君は、身分の低さを不安に思う。姫君を田舎に置くこともできない。明石の君も両親も煩悶する。 (original) (raw)
明石へは始終手紙が送られた。
このごろは上京を促すことばかりを言う源氏であった。
女はまだ躊躇《ちゅうちょ》をしているのである。
わが身の上のかいなさをよく知っていて、
自分などとは比べられぬ都の貴女《きじょ》たちでさえ
捨てられるのでもなく、
また冷淡でなくもないような扱いを受けて、
源氏のために
物思いを多く作るという噂《うわさ》を聞くのであるから、
どれだけ愛されているという自信があって
その中へ出て行かれよう、
姫君の生母の貧弱さを人目にさらすだけで、
たまさかの訪問を待つにすぎない京の暮らしを考えるほど
不安なことはないと煩悶《はんもん》をしながらも明石は、
そうかといって姫君をこの田舎に置いて、
世間から源氏の子として取り扱われないような
不幸な目にあわせることも非常に哀れなことであると思って、
出京は断然しないとも源氏へ答えることはできなかった。
両親も娘の煩悶するのがもっともに思われて
歎息《たんそく》ばかりしていた。
🪷波の時刻 written by 藍舟🪷
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