【私本太平記3 第1巻 下天地蔵③〈げてんじぞう〉】🍶現執権高時の田楽好きも、狂に近いが、闘犬好みは、もっと度をこしたものである。鎌倉府内では、月十二回の上覧闘犬があり、武家やしきでさえ闘犬を養って‥ (original) (raw)

十数名の武者は、

みな小具足《こぐそく》の旅姿だった。

といってもあらましは、

足軽程度の人態《にんてい》にすぎない。

争いあって、一碗ずつの酒を持ち、

干魚か何かを取ってはムシャムシャ食う。

そしてやや腹の虫がおさまり出すと、

こんどは野卑な戯《ざ》れ口《くち》で果てしもない。

彼らには、片隅の先客など、眼の外だった。

又太郎の方でも、思わぬ光景を肴《さかな》として、

声も低めに、ひそと、ただ杯を守っていた。

「右馬介。……どうやら鎌倉者らしいな」

「さようで。話ぶりでは、鎌倉から紀州熊野へ、

何かの御用で行った帰路の者かと察しられますが」

「む。うなずかれることがある。

先ごろ、熊野新宮へ御寄進の大釜《おおがま》一口に、

大檀那《おおだんな》鎌倉ノ執権《しっけん》北条高時と、

御銘《ぎょめい》を鋳《い》らせたものを

運ばせたとか伺っていた。

それの帰りの一と組だろう、この輩《やから》も」

「さてこそです。どうも最前から、

犬を連れているのは妙だなと、見ておりましたが」

「なに犬を。どこに」

——犬の一語が、ふと彼らの耳を刺したとみえる。

大勢の眼が初めて、ぎょろと、二人を見た。

だが、又太郎の視線とは、

ぶつかり合うよしもない。

なるほど、立派な犬が人々の蔭にいたのだ。

紀州犬としても優れた名犬にちがいなかろう。

琥珀色《こはくいろ》にかがやく眼、

黒く濡れ光っている鼻頭《びとう》のほか、

全身の毛は雪を思わせる。そして大きなこと、

白熊のようなといってもよい。

「ははあ、御献上物だな、この犬殿も」

酒板に頬杖《ほおづえ》ついて眺めつつ、

彼の酔眼にはその犬が、だんだん、

北条高時その人みたいに見えてきた。

高時が、鎌倉御所のうちで、そうであるように、

この犬も、武者足軽の群臣をしたがえ、

旅路にも持ち歩かせているらしい

高麗縁《こうらいべり》の半畳《はんだたみ》を土間に敷かせ、

その上へ、ゆったりと、尻をすえているのである。

首輪は太縒《ふとより》の紅白の絹づな、

銀のかざり鎖《ぐさり》。

わきには、布直垂《ぬのびたたれ》の犬飼が二人、

主に仕えるごとく付添っていた。

そしてここへ着くやいな、

犬殿への供御《くご》の物を、

まず第一にと、ささげていた。

「…………」

滑稽である。じつにおかしい。

おそらく又太郎には、

犬好きな執権の有名なる犬痴性《けんちせい》が、

この奇妙な実在によって、

よけいおかしく思い出されていたものだろう。

現執権高時の田楽《でんがく》(土俗的な歌舞)ずきも、

狂《きょう》に近いが、

闘犬好みは、もっと度をこしたものである。

鎌倉府内では、月十二回の上覧闘犬があり、

武家やしきでさえ闘犬を養って、

それを美食で肥えさすのに、

憂身《うきみ》をやつさぬ者は少ないとか。

だから名犬といえば、

銭《ぜに》百貫から数百貫の高値をよび、

わけて高時自身の愛犬が、

あまたの家来に護られて道を行けば、往来人は笠をぬいで、

路傍にひざまずくといった風な奇観も珍しくはないという。

🍶🎼昨日の酒 written by H.Lang

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