寄る波の 心も知らで 和歌の浦に 玉藻《たまも》なびかん ほどぞ浮きたる🌸若紫の乳母の君 少納言に by 源氏の君🌱 (original) (raw)

寄る波の 心も知らで 和歌の浦

玉藻《たまも》なびかん ほどぞ浮きたる🌸

若紫の乳母の君 少納言に by 源氏の君🌱

和歌の浦に寄せる波に なびく玉藻のように

相手の気持ちをよく確かめもせずに従うことは頼りないことです。

🌼第5帖 若紫🌼

「そんなことはどうでもいいじゃありませんか、

私が繰り返し繰り返しこれまで申し上げてあることを

なぜ無視しようとなさるのですか。

その幼稚な方を私が好きでたまらないのは、

こればかりは前生《ぜんしょう》の縁に違いないと、

それを私が客観的に見ても思われます。

許してくだすって、

この心持ちを直接女王さんに話させてくださいませんか。

『あしわかの 浦にみるめは 難《かた》くとも

こは立ちながら 帰る波かは』

私をお見くびりになってはいけません」

源氏がこう言うと、

「それはもうほんとうにもったいなく思っているのでございます。

『寄る波の 心も知らで 和歌の浦

玉藻《たまも》なびかん ほどぞ浮きたる』

このことだけは御信用ができませんけれど」

物馴《な》れた少納言の応接のしように、

源氏は何を言われても不快には思われなかった。

「年を経て など越えざらん 逢坂《あふさか》の関という古歌を

口ずさんでいる源氏の美音に

若い女房たちは酔ったような気持ちになっていた。

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