富山大学 システム機能形態学研究室 Systems Function and Morphology Lab., University of Toyama (original) (raw)

昨年行って大好評でした、「富山大学脳科学研究交流会」を今年も開催します!

10/28(月)の午後、場所は富山大学五福キャンパスの学生会館です。

医学部・精神神経医学講座の高橋努教授が基調講演、その後に希望者による研究内容紹介のショートトークがあります。ショートトークの後はポスターセッションを予定しています。

参加費無料・参加申し込み不要ですので、富山大学の脳研究に興味のお有りの方はどなたもどうぞご自由にお越しください。

2024年5月20日付けで伊藤と小野宗範博士(金沢医科大学)の共著による総説論文がHearing Research誌から出版されました。なお、2024年6月末までこのリンクから論文を読むことができます。この論文はスペイン・サラマンカ大学神経科学講座の教授であったMiguel Merchan博士を記念したHearing Research誌の特集号に掲載されました。

In May 20th, 2024, a review paper written by Ito and Dr. Munenori Ono (Kanazawa Medical University) is published online on Hearing Research. You can read the paper until the end of June 2024 through this link. This paper is included in Special Issue dedicated for Dr. Miguel Merchan (former professor of University of Salamanca).

難聴は全世界で5億人近い人が悩まされている疾患です。高齢化に伴い罹患者数は更に増えることが予想されています。難聴は、音の聞き取りに関わる内耳の感覚細胞の障害(感音性難聴)と、内耳へ音が伝わりにくくなる障害(伝音性難聴)に分類されます。高齢者の多くは内耳の高い音を検出する部位での感音性難聴を有し、加えて神経系そのものの加齢性変化が起こります。

Hearing loss is a common disease with which about 500 million patients suffer. As lifespan is increasing, it is expected that the number of the patient will increase. Hearing loss is further classified into sensorineural hearing loss and conductive hearing loss, which are caused by the damage of inner ear and by the deficit of conduction of sound into inner ear, respectively. Many aged people have sensorineural hearing loss at the high frequency region of the inner ear. In addition, aging of nervous system is another factor for the symptoms.

難聴は単に聞こえにくくなるだけの病気ではなく、様々な症状が付随します。存在しない音が聞こえる耳鳴り、音が少し大きくなっただけで音が割れたように聞こえる補充現象・聴覚過敏、加えて早口ことばが聞き取りにくくなる症状が見られます。これは内耳の障害というより、その先の中枢神経系の変化に伴う現象であると考えられています。本論文では聴覚情報処理における重要領域である下丘という脳領域に注目してどのような変化が起こるのかについて過去の研究を分析、比較調査しました。

Hearing loss is not merely the disease of hearing difficulty, but accompanies various symptoms, including tinnitus, which cause the perception of ghost sound, recruitment and hyperacusis, which cause distortion of loud sound, and hardness for recognizing fast talking. These symptoms are not the direct reflection of cochlear malfunction, but likely of the plastic changes of the central auditory system. In this paper, we analyzed previous papers that studied about the changes in the inferior colliculus, which act as a hub of the auditory system.

すべての難聴に共通して起こる現象として、神経回路の興奮性の上昇が挙げられます。カラオケを考えてみましょう。内耳はマイクのようなものです。音が小さいな、と思ったらボリュームを上げますよね?これが神経回路の興奮性の上昇です。より科学的に言うと、内耳の感覚細胞と感覚神経細胞から放出される興奮性神経伝達物質(グルタミン酸)が減少するので、受け手の中枢神経系の細胞の興奮性神経伝達物質受容体が増加し、結果として活動の低下を補償するのです。神経回路での抑制性神経伝達物質の放出も減り、回路の興奮性は保たれます。この補償メカニズムのおかげで、内耳の障害が相当進行しないと自覚症状は現れません(この段階のことを「隠れ難聴」と呼んだりします)。しかし、この神経回路の活動変化が上述した付随症状を生み出すのです。カラオケでボリュームを上げすぎるとスピーカーからピーンと大きな音がでてきますね(ハウリング)。このようなことが神経回路で起こった状態(発振)が耳鳴りです。また、聴覚神経細胞は上位の脳構造でより音刺激に対する選択性が鋭くなり、これによって大きな音でも小さな音でも同じように感じることができるのですが、この選択性は抑制性神経伝達によるところが大きいのです。したがって抑制性神経伝達の減少によって補充現象や聴覚過敏も引き起こされます。さらに、言語音は時間変化に富む複雑な音なのですが、この時間変化の検出は興奮性と抑制性の神経伝達の相互作用によるため、早口の聞き取りが困難になったりします。

The common feature of plastic changes for all types of hearing loss is increase of excitability of neuronal circuitry. This is somewhat like analogous to Karaoke. Inner ear acts like microphone, and you may increase the volume if you think the sound is small. In the brain, this is done by the increase of excitability. In more scientific words, decrease of excitatory neurotransmitter (glutamate) released from sensory cells and neurons is followed by increase of receptor for excitatory neurotransmitter to compensate the reduction of neuronal activity in periphery. The compensatory mechanism allows to maintain hearing capablity, and the subjective symptom for hearing difficulty occurs only when the inner ear deficit becomes severe. (The stage of the compensated hearing is called as "hidden hearing loss".) The compensation causes some side effects, or accompanying symptoms. In Karaoke, if you increased the volume too much, speaker produces loud sound, or howling, caused by positive feedback between microphone and speaker. In neuronal circuitry, tinnitus is caused by positive feedback between excitatory neurons. Inhibitory neurotransmission is important for making sharpness of neuronal tunings for spectral and temporal aspects of sound. The spectral and temporal sharpness is important to maintain frequency selectivity for wide range of sound loudness and perception of communication sounds, which are characterized by temporal changes, respectivity. Therefore, decrease of inhibitory neurotransmission causes recruitment, hyperacusis, and difficulty of fast speech recognition.

加齢性の難聴はそうでない難聴に比べて症状がより多彩です。内耳の障害に伴う変化と、中枢神経系そのものの加齢変化が複雑に混ざるのがその原因と考えられます。

Age-related hearing loss show more various symptoms. The variety is likely caused by the mixture of inner ear impairment and aging of central nervous system.

 > 間脳は脳幹に含めませんか。

という質問がありました。

昔の本ではこのあたりがあいまいで、本によって異なる分類がされていたことがあります。現在は脳の発生のメカニズムがかなり明確にわかってきた結果、間脳は脳幹に含めるべきでない、ということができます。以下がその理由です。
中枢神経系は神経管が変化してできるわけですが、その前方部が膨れて前から順に、前脳胞、中脳胞、菱脳胞、というふくらみができます。さらに、その前脳胞、中脳胞、菱脳胞にはホメオティック遺伝子の発現パターンに分節性があることから、前脳胞を(後ろから順に)prosomere p1-p3と二次前脳(secondary prosencephalon)、中脳胞は1つの分節 mesomere、中脳胞と菱脳胞の間を菱脳峡r0、そして菱脳胞を(前から順に)rombomere r1-r8と分類できます。中脳胞は中脳に、菱脳胞は橋、小脳、延髄になります。小脳を脳幹の付属物と考えれば、中脳胞と菱脳胞が脳幹を作る、と考えてよいでしょう。

一方、前脳胞の発生運命を調べると、二次前脳の一部が大脳皮質や大脳基底核になり、残りが視床下部や腹側視床、そしてp1-3は背側視床視床上部になります。そして、視床下部、腹側視床、背側視床視床上部を合わせて間脳といいます。このように、前脳胞は大脳と間脳を作るのですが、両者の境界は前脳胞の前方、後方で機械的に分けられるものではないのです(中脳胞と菱脳胞がそのまま脳幹を形成するのと対照的です)。従って、発生学的に見て間脳を脳幹に含めるべきでないといえるのです。

参考文献 Luis Puelles and John L.R. Rubenstein, Forebrain gene expression domains and the evolving prosomeric model. TRENDS in Neurosciences Vol.26 No.9 September 2003 doi:10.1016/S0166-2236(03)00234-0

海馬の神経回路で、CA2に役割等があるのか気になりました。

という質問がありました。

CA2は小さい領域なので、これまではほとんど研究が行われてきませんでしたが、最近になって色々な研究が出てきているようです。
まず、神経回路ですが、CA2もCA3同様歯状回から入力を受け、CA1に出力する領域です。
古典的には、歯状回は感覚情報のパターン分析器、CA3で既存のパターンと対比し、CA1で新奇性を検出するということです。最近の研究では、CA2は社会的認知記憶に重要であるという話が出てきています。さらに、CA2はCA3や歯状回の機能に影響を与え、社会的認知記憶以外の機能にも関与する、という話もあるようで、これから機能が明らかになってくることが期待されます。
ところで、富山大学には海馬を専門とする研究室が複数あり(井ノ口先生、田村先生など)、いずれも世界的に有名です。興味のある人は話を聞きに行くと良いかもしれません。

三叉神経中脳路は三叉神経運動核に投射する線維が走行しているのですか?

という質問がありました。

筋紡錘の反射(膝蓋腱反射みたいなもの)経路という意味では運動核に投射するといえます。感覚伝導路としては、三叉神経主知覚核に投射します。

外側半規管と前半規管、および球形嚢と卵形嚢を区別していらっしゃいますが、バーチャルスライド上でどう見分けてますか。

という質問がありました。

3つの半規管や2つの耳石器は本質的に同じものがそれぞれ3つ、2つあります。従って見た目では区別できません。位置によって区別されるので、この実習の説明では3次元再構築したうえで解剖図譜と比較して同定しています。

人工内耳はどこに埋め込むのでしょうか

という質問がありました。

人工内耳手術は耳の後方から行います。乳様突起内部が空胞状になっていて、乳突蜂巣と呼ばれていることを思い出してください。これは中耳に繋がっていて、ここから蝸牛に電極を挿入します。完全に聾であるときは、岬角周辺に穴を開けますが、聴力が残っている場合は蝸牛窓を切開してそこから電極を挿入します。

以下に詳しい説明があります。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/119/2/119_99/_pdf