2018年6月○○日 玉蜀黍 (original) (raw)

2018年 06月 27日

2018年6月○○日 玉蜀黍

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昨夜までの雨はやみ、朝は薄陽が射してきて空も少しずつ明るくなってきた。
今日は市場がお休みの日なので、午前中は家にいて午後少し早めにお店に出て仕込みをする。
湿気が多いせいか身体がじっとりと重い。
元気が出るおまじないに、一曲だけ「セント・トーマス」をかける。
ソニィ・ロリンズのテナーサツクス。

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玉蜀黍が甘くなってきたので、今日は玉蜀黍のメニューも加える。
10時過ぎの遅い時間に近くの予備校の先生が3人でいらっしゃった。

「遅い時間まで大変ですね」と言ってお絞りを渡すと
「まぁ自分たちは仕事ですから。こんな時間まで塾で勉強してる子供の方が可愛そうと言うか何というか…。ママ玉蜀黍のすり流しがあるんですね。飲む前にそれを一杯もらおうかな」と仰った。

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私はいしおかさんに習って玉蜀黍のスープは牛乳も生クリームも入れない。
玉蜀黍を皮ごと蒸し焼きにし、実をこそげた後の芯と昆布で出汁をとり、実をFPにかけたものを笊で濾し塩を少し加えるだけ。

「さっぱりして美味しいですね」と言ってくださって、そのあとビールを注文されたのでアコウの昆布締めと共にお出しする。
「ママ、山下先生もう顔を見んでしょう」
「そういえば最近お見えになりませんね」と答えながら、ふとあの夜のことが頭をよぎった。
「ここだけの話なんじゃけどな」他のお客さんが帰られたあとだったので、その中の一人の石田さんが話を始めた。
女子の専売特許のような「ここだけの話」という台詞を男の人も使うんだと思って、私はおかしかった。

「実はなぁ、学生に手を出して東京の予備校に帰されたらしいわ」
「えぇっ、ほんとなんですか?」
「まぁ商売道具に手をだしたらいけんわなぁ。山下先生は何ていうかニヒルというんかなぁ、男前じゃしもてるしなぁ」
「何でも完璧そうに見えるのに女癖が悪いんだけが欠点じゃな」
「山下さん、生活の匂いっていうのが全くしない不思議な方ですもんね」と私が言うと
「ママもくどかれたんじゃないの?」と石田さんは笑う。
「まさか、そんなことはありませんよ」
「いやいや、山下先生は絶対ママに気があったと思うよ」
「あら、勿体無いことしちゃったわね」と惚けて、私は割れたお皿のことを思い出していた。
私は、あまりにも掴みどころがない人は苦手だった。
真っ直ぐ目を見ると真っ直ぐに見返してくれる人のほうがいい。

それから3人で暫く山下さんの噂話をされていたけれど、締めの玉蜀黍のお寿司を召し上がって帰って行かれた。

今日のひと品

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玉蜀黍の押し寿司

・玉蜀黍は皮ごと蒸し焼き(蒸してもよい)にして、できるだけ実が繋がるようにこそげる。
・椎茸は甘辛く炊いておく。
・型の底に玉蜀黍を敷きつめ、酢飯、椎茸、酢飯の順に入れて押さえ蓋で締めて型から抜く。
型は濡らしておくか、ラップを敷いてもよい。

これは結子と行った無量塔で出された小袖寿司をアレンジしたもの。

あの夜の山下さんの話

小説

by syun

メモ帳

人物紹介

奈緒子…ご飯屋「なお」の女将、離婚暦あり、45歳

結子…奈緒子の親友

ひろ…奈緒子の大学時代の恋人

慎介…別れた夫

原田くん…幼馴染み

たみちゃん…大学3年生。月曜日と金曜日のアルバイト

河野さん…保険代理店
小川さん…地元の建築会社の社長

他お客さんいろいろ。

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