2018年7月○日 酢 (original) (raw)

2018年 07月 02日

2018年7月○日 酢

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桔梗の花が咲き始めた。
桔梗は秋の七草の一つだけれど、6月頃から咲き初めて秋本番に咲いていることは少ない。
実家の母の桔梗はやはり白。

「紫も植えたはずなんだけど…」と母は言うけれど、いつのまにかそれは消えてしまったようだ。
一本だけ貰って帰ってお店の手洗いに挿す。
昨日までの雨は止み、台風が近づいているとは思えない眩い夏日のような一日だった。

6時半頃、高校の同級生の川村さんと澤田さんがやってきた。
「土曜日、私達も原田くんたちと一緒だったんよ。同窓会の打ち合わせをしてて9時頃お開きになったんで帰ったんだけど、そのあと結子さんとこちらにきたんだってね。そんなことなら私達もくっついてくればよかったわ」
「ほんと、二人で黙ってくるなんてねぇ。だから今日来ちゃった」
「あらそうだったの。わざわざありがとう」
私はあまり同級生とは連絡を取っていなかったので、二人と会うのも何年かぶりだった。

取りあえずビールということだったので、揚げ浸しと共にお出しする。

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夏野菜いろいろに、蛸とシャコも入れて青柚子の果汁を搾り入れて薄切りも加える。
夏の揚げ浸しは少し酸味を効かせるとさっぱりとして食べやすい。

「奈緒子さん、加奈さんて覚えてる?」
「うん、あのお人形さんみたいに可愛い顔の子でしょ。きっと今でも綺麗でしょうね」
「まぁそうなんだけどね、彼女旦那さんがDVで苦労したんよ。DVといってもね、警察沙汰になるほどじゃないの。だから余計にややこしくてね、実家に帰っても直ぐに連れにくるんよ。それも加奈さんの両親に手をついて謝るんだって。でも帰るとまた同じことの繰り返しでね」
私も2度ほどご主人を見かけたことがあるけれど、紳士的な優しい印象でとてもDVなんて想像することはできなかったが、噂でそんなことを聞いたことはあった。
「結局ね、居場所を内緒にして大阪の叔母さんちに身をよせて弁護士をたてて離婚したんだって」
「そう」
お酒の席ではあまり話題にしたい話ではなかったので、私は何とか早く話を切り上げたいと思っていると、お客さんが立て込んできてほっとした。

鯵も何匹か仕入れていたので刺身と南蛮漬けにしたものを二人に出して、私は他のお客さんの注文に移った。
南蛮漬けに添えているのは新玉葱の赤ワイン酢漬け。

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「奈緒子さん同窓会は欠席なのよね、残念だわ。お店の話とかいろいろ聞きたかったのに」
「ごめんなさいね、毎日バタバタなんでお休みの日は雑用がたまっちゃって」と答えると
「こんなお仕事してると、私達の知らない面白い話もたくさんあるでしょ」と言う川村さんの言葉に苦笑しながら二人を見送った。
たみちゃんが「主婦って他人の噂話好きな人多いですね。たみ耳年増になっちゃう」と小さな声で言うので
「こらっ、聞かなかったことにしなさい」と言うと可愛い舌をぺろっと出した。

今日のひと品

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新玉葱の赤ワイン酢漬け

・玉葱は櫛型に切る。
・鍋に赤ワイン、甘酢を2:1の割合で入れ、粒胡椒、ベイリーフ、タイムなどを加えて煮切る。
・玉葱を加えて再度煮立ったら火を止め、荒熱が取れたら汁ごと容器に入れて冷蔵庫で保存する。

小説

by syun

メモ帳

人物紹介

奈緒子…ご飯屋「なお」の女将、離婚暦あり、45歳

結子…奈緒子の親友

ひろ…奈緒子の大学時代の恋人

慎介…別れた夫

原田くん…幼馴染み

たみちゃん…大学3年生。月曜日と金曜日のアルバイト

河野さん…保険代理店
小川さん…地元の建築会社の社長

他お客さんいろいろ。

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