○○年3月○○日 檮原(ゆすはら) (original) (raw)
2020年 06月 18日
○○年3月○○日 檮原(ゆすはら)
分け入っても分け入っても青い山
種田山頭火
いくつもの深い山を越えて果てしない緑の中を車で走る。
「どこまで行くのかしら。心配になってきちゃった」
「大丈夫だよ、ナビ入れてるから。昔はこの道もなくてね、ぐるっと山を迂回しながら何時間もかかって檮原に行ったらしいよ」
「そうなの。どこか遠くの国に行ってしまうみたいね」
標高1445mの山間に小さな町が現れる「雲の上のホテル」
隈研吾により檮原の豊富な木を使って建てられたデザイナーズホテルである。
「こんな山の中にこんなホテルがあるなんて嘘みたい」
「そうだよね。僕も噂に聞いてはいたけど来るのは初めてなんだよ。便利も悪いしね」
「だからきっと余り有名にならなくていいのかもね」
本館とレストラン棟を繋ぐ木組みの橋は、見上げると圧巻の存在感でこんな大きな橋が木だけで支えられているのに驚く。
まるでいくつもの山を越えて辿り着いた桃源郷のようだ。
木嶋さんは本館から少し離れた別館を予約してくれていた。
(部屋の写真はHPからお借りしました)
「本館の方はスタイリッシュなんだけど、別館は木がふんだんに使われていてね、こちらのほうが落ち着いた感じだったからね」
別館の向いにある図書館も多目的ホールも全て木造りの建物だった。
「老後はこんな所で生活するのもいいかも知れないね」
「うふっ、退屈しないかしら」
「なおさんはまだ若いからね、老後なんてぴんとこないよね」
20年くらい先、私は何処でどんな暮らしをしているのだろう。
山の中の小さな町だけれど通りには一応の店も揃っていて、ここから出なくても生活していけそうな所ではあった。
マルシェには新鮮な野菜やジビエも並んでいたけれど、ぴちぴちの魚は食べられそうにない。
やはり魚に縁遠い生活は私には難しいかもしれないな。
「なおさん、店の休みができたら横浜に来てよね」
「ええ、きっとね」
私は木の香りに満ちた部屋で、木嶋さんの吐息に包まれて眠りに落ちていった。
小説
by syun
メモ帳
人物紹介
奈緒子…ご飯屋「なお」の女将、離婚暦あり、45歳
結子…奈緒子の親友
ひろ…奈緒子の大学時代の恋人
慎介…別れた夫
原田くん…幼馴染み
たみちゃん…大学3年生。月曜日と金曜日のアルバイト
河野さん…保険代理店
小川さん…地元の建築会社の社長
他お客さんいろいろ。
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