4月○○日 山菜 (original) (raw)

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花色の春は終わり緑の季節に入ろうとしている。
緑の風が吹き始める。

今日のメニューは三次のおじさんに送ってもらった山菜を主役にする。
6時半から河野さんが事務所の人を二人連れて来てくださることになっていた。

「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
一人はいつも河野さんと来てくださる30代半ばの男性で川口さん。
もう一人は40代の初めてお見かけする女性だった。

「なおさん、うちに新しく入ってくれた営業の吉村さん」
「初めまして。所長からお話し伺ってます」と言って名刺をくださった。
「うちは小さな事務所やし、営業いうてもアフターフォローから何でもやったもらってるんだけど、仕事が早いんだわ」
「まぁ、優秀なんですね。河野さんいい方が来てくださって良かったですね」
「そんなことないんですよ。若い頃保険会社に勤めていたことがあるんですけどね、子供の手が空いたからまた仕事がしたくなっちゃって」
「ちゃんと子育ても済まされて、またお仕事なんて羨ましいわね」
「いいえ、久し振りに社会に出ると分からないことばかりで浦島太郎です」と吉村さんは笑って仰った。

「河野さん、今日は山菜がメインでちょっと地味なお料理なんですけど」
「いやぁ、そういうのが一番嬉しいよ。独りもんはそんなん家で食べることなんてないしね。とりあえずビール貰おうかな」
河野さん4人目のお相手はまだいないようだ。
「麻紀ちゃん、ビールお願いね」
「はい」
「あら、うちの娘と同じくらいの歳かしら」
「麻紀といいます。大学3年になりました」

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・韓国風刺身
白身魚(今回はヒラスズキ)、烏賊、三つ葉
・筍キムチ
下処理をした筍を3時間ほど天日干し、キムチのもと、チャンジャと混ぜ合わせる。
・筍の姫皮のナムル

「筍も姫皮もこんなお料理に変身するなんて。もっと早くこちらに伺っておくんだったわ。姫皮なんかお吸いものの飾りに使うくらいだったもの」
「気に入っていただけて嬉しいです」
「うちも筍は煮物のワンパターンじゃわ」
「あら川口さん、筍はやっぱり季節のものとの炊き合わせが一番だと思いますよ」
「なおさん、やっぱりお酒もらおうかな。僕は熱燗でお薦めのものを」
「あっ、私は冷やで」
と仰ったので、日置の「にごり」を河野さんには熱燗、吉村さんには冷やで。
川口さんはビール。

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お刺身は巻き物でお出しする。
「昆布締めにした蕨とイサキを白板昆布で巻いてみたんですよ」
「これはひと口で食べられるから女性には嬉しいですね~。周りの緑色の粉末みたいなのは何かしら」
「うふっ、舐めてみてくださいな」
「あっ、これ昆布の味がする」
「そうなんですよ。能登の方が送ってくださったメカブパウダーなんです。巻き物につけて召し上がってくださいね」

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それから三人で仕事の話をされていたけれど、そろそろ締めをと仰ったので、芹ご飯をお出しする。
炊きあがったご飯に少々の塩、ひと口大に切った芹を混ぜるだけ。
シンプルだけど、地物の美味しい芹は香りが高く手をかけなくても充分美味しい。

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お昼前に原田くんが結子の差し入れを取りに来てくれたので、残り物の山菜と干し海老で時間に合わせてピザを焼いておいた。
温かいうちに急いで届けてくれたようで安心。

今日のひと品

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・蕨のアク抜き
蕨をバットに並べ、木灰を一握り振りかける。
熱いお湯を回しかけ一晩放置。
水で灰を洗い流し水に浸ける(長時間浸けておくと蕨が固くなるので30分以内)

蕨のアク抜きは重曹と木灰では天と地の違い。
ぜひ木灰を手に入れてアク抜きをしてください。

小説

by syun

メモ帳

人物紹介

奈緒子…ご飯屋「なお」の女将、離婚暦あり、45歳

結子…奈緒子の親友

ひろ…奈緒子の大学時代の恋人

慎介…別れた夫

原田くん…幼馴染み

たみちゃん…大学3年生。月曜日と金曜日のアルバイト

河野さん…保険代理店
小川さん…地元の建築会社の社長

他お客さんいろいろ。

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