泥棒と若殿 秋の駕籠 菅笠 山本周五郎 (original) (raw)

2005年4月20日第1刷発行

泥棒と若殿

七万五千石の大炊頭成豊の二男に生まれた若殿成信は化物屋敷同然の廃屋に幽閉されていた。そこに泥棒の伝九郎が侵入するが、盗む物も食べる物も何もない。成信自身が餓死寸前で3日も何も口に入れてない状態だった。縁側の広板を踏み破る素人同然の盗人だったが成信の生活が余りに悲惨な状況のために同情して伝九郎の食事すらすようになる。成信と生活を始めると伝九郎は彼なりに成信との生活に張りを持ち出した。そんな折、成信の父が他界し、重臣の室久左衛門が来訪して、成信に城へ戻るよう説得する。当初これを拒否した成信だったが、おのれ一人の安穏を求めて他の者を見捨てようとするのは人の道に反すると説得されて成信は城へ帰ることになった。成信は命の恩人というべき伝九郎との名残を惜しみ、その晩だけ成信が自ら飯を炊いて汁を作った。伝九郎に別れの宴であることを明かさなかったが、明け方、成信は眠り込んでいる伝九郎に礼をして出て行こうとすると、気配を感じて起きた伝九郎はいっちまうのかと声をかけ、成信は生きる力を教えてくれたおまえのお蔭だ、これからは武士として精一杯生きたい、人間生きているうちはどんなことをしても精一杯いきなければならんと礼を言う。伝九郎はいっちまうんだな、信さん、もうとめねえよ、どうかりっぱに出世してくんな、祈っているからなと声を掛ける。成信の耳には伝九郎の悲しい声がいつまでも聞こえていた。

秋の駕籠

駕籠屋の中次と六助は仲がいいときは一緒に住み、喧嘩すると口もきかず稼ぎにも出ずに隣どおしで別れて住んでいた。六助は固太りで毛深くて脂性、40歳くらいに見えるが中次と同じ27歳。中次は浅黒く、いなせな顔立ちで苦みばしった好い男ぶり。飯はお梅が切り盛りする「魚金」でいつも済ませていた。ある時、箱根まで五両で行ってほしいと頼まれるが、途中の大磯で客が捕まり五両を貰い損ねる。ところが客が駕籠に置いていった金を届け出ると十両が手に入った。大磯は曽我兄弟に縁のある土地だから十両。弟は五郎時致で兄は十郎祐成だからというオチだった。曽我兄弟の仇打ち(父を工藤祐経すけつねに殺された兄弟の仇打ち)の伝説を知らないと訳が分からないかもしれません。

菅笠

女友達と戯れに大酒飲みで暴れん坊の大三郎の許嫁だと嘘を言ったあきつは、ある時、大三郎の母から声をかけられ、戦場に行った家には大三郎はいないが、是非嫁にきてほしいと、喜ぶ母から頼まれると本当のことが言えずに母と一緒に暮らすことに。母からあきつのことを聞いた大三郎は戦地から手紙を寄こす。そして家にいることが許されたあつきは大三郎のために自分が出来ることとして大三郎の畑が放っておくと固くなるで手を入れたいと願う。母は大三郎から畑は自分の気持ちが入っているので他人に触らせないでくれと言われていたので当初は断る。が、あきつは特別だからと考え直して赦す。そのうち日があきつの体を痛めつけるので、大三郎が丹精込めて作った菅笠をあきつに被らせようとするがあきつは大三郎が大事にしていたものだから被れないと断る。その後、戦地で討ち死にした大三郎は魂となって帰ってきたと母はあきつに語り、武士の本望なのだから大三郎の嫁ならば泣いてはらないといい、仏壇の前で手をあわせるあきつは大三郎から菅笠を遣るとかけられた声が聞こえ、母の前で菅笠をかぶり、我が子の死に涙を流さぬ母も、あきつの健気さに涙を流す。