「細野ゼミ」番外編 「HOSONO HOUSE」前編|祝リリース50周年!世界中に愛される名盤の魅力を安部勇磨&ハマ・オカモトと探る (original) (raw)

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細野ゼミ 番外編(前編)[バックナンバー]

祝リリース50周年!世界中に愛される名盤の魅力を安部勇磨&ハマ・オカモトと探る

2023年5月25日 20:00 44

細野晴臣が生み出してきた作品やリスナー遍歴を通じてそのキャリアを改めて掘り下げるべく、さまざまなジャンルについて探求する「細野ゼミ」。2020年10月の始動以来、「アンビエントミュージック」「映画音楽」「ロック」など全10コマにわたってさまざまな音楽を取り上げてきたが、氏の音楽観をより深く学ぶべく前回より“補講”を開講している。

ゼミ生として参加するのは、氏を敬愛してやまない安部勇磨(never young beach)とハマ・オカモト(OKAMOTO'S)という同世代アーティスト2人だ。今回のゼミで取り上げるのは、5月25日にリリースから50周年という大きな節目を迎える、細野晴臣の1stソロアルバムであり名盤として名高い「HOSONO HOUSE」。安部とハマは本作とどんな形で出会い、リスナーとしてどう聴いてきたのか? 前編では細野本人の発言を交えながら探っていく。

取材・文 / 加藤一陽 題字 / 細野晴臣 イラスト / 死後くん

ゼミ生2人が熱弁する「HOSONO HOUSE」の魅力

──今回は、細野さんの1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」がテーマです。1973年に発表され、今年で発売50周年を迎える名盤ですが、5月にはアナログ盤が再発されるということで。お二人が「HOSONO HOUSE」を初めて聴いたのはいつですか?

安部勇磨 僕は10代後半でした。それ以降、本当にずっと大好きな作品で。今日も聴きながらスタジオに来ました。聴き直すたびに気付きがあるんですよね。いつも必死に音を追っていたつもりだったんですけど、聴くたびに「ここでこんな音が鳴ってたんだ」「こんなにリズムが豊かなんだ」とか。

ハマ・オカモト 聴き手の状況や感覚も変わってるだろうからね。僕は高校生の頃です。「はっぴいえんどをやっていた人がソロもやってて、さらにその人は、実はYMOの人でもあります」って同時に知った感じでした。「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」とか「風街ろまん」とか「HOSONO HOUSE」を同時に知るわけで、パニックですよ(笑)。同じ人だと思えないから。

細野晴臣 そうだろうね(笑)。

ハマ その頃はSly & the Family Stoneやニューオーリンズファンクを聴き始めた時期だったので、当時はどっちかというと、はっぴいえんどやYMOよりも細野さんのソロの「HOSONO HOUSE」とか「トロピカル・ダンディー」の音像のほうが好みでした。「ファンキーだな」「カッコいいな」と思ったのが出会いですかね。

──お二人それぞれ「HOSONO HOUSE」のフェイバリットソングを挙げるとすれば?

ハマ 以前、林立夫さん、鈴木茂さん、猪野秀史さんと一緒に「薔薇と野獣」をライブで完コピして、それを細野さんに観ていただいたことがあるんです(2018年6月12日に東京・Billboard Live TOKYOで行われたライブ「猪野秀史x 鈴木茂 Special Support with 林立夫&ハマ・オカモト~Tour 2018~」)。そうやって実際に演奏したからというのもデカいけど、「薔薇と野獣」はホントに好きな曲なのでぜひ挙げたいですね。

安部 僕は時期によって変わるけれど、今は「Choo Choo ガタゴト」ですかね。「2番の頭にクラップが2発入るけど、そのあとは入らないな」「なんだろう、この変な曲は」とか考えちゃう。

細野 林くんが入れたんだよ(笑)。彼はああいうアイデアをよく出してくるんだよね。イヤーキャンディみたいな考え方、というかね。

安部 怪しいけどカッコいいし、遊び心もあってめちゃめちゃいい曲。だから今のフェイバリットは「Choo Choo ガタゴト」ですね。

ハマ 「冬越え」とかは曲名も含めてすごく好きです。「HOSONO HOUSE」はアルバムとしてホントに秀逸だなって思いますね。30分くらいで終わるのもいい。

細野 短い(笑)。

安部 ね、いろんなタイプの曲があってすごく面白いし。

ハマ だから「HOCHONO HOUSE」(※2019年に発表された細野による「HOSONO HOUSE」のリメイクアルバム)で、オリジナルから曲順をひっくり返したアイデアにはびっくりしました。それはそれは「超すげえ」って思いましたよ。そういえば勇磨は、細野さんが「HOCHONO HOUSE」を作るきっかけになった重要人物ですよね。

細野 そうそう。きっかけだったよ。(編集部注:アルバム「Vu Jà Dé」リリース時の細野と安部の対談で、安部が「HOSONO HOUSE」を録り直すという話に関心を持ったことが「HOCHONO HOUSE」誕生につながった)

安部 「HOCHONO HOUSE」も大好きです。最初にバンドメンバーのみんなで車の中で聴いて、「なんだこれ、全然ちげえ!」って。年齢とかは関係ないと思いますけど、これだけ世代が違う人がこんなにチャレンジングなんだというか……曲順を逆転させたり、アレンジをまったく違うものに変えたりとかして、「なんでこんなに遊んでいるんだ!」って。

細野 いつもそうなんだよ。

安部 自分たちのほうが若いのに、細野さんに比べて全然固いんじゃないかっていう。みんなで盛り上がりましたね。

ハマ しかし、曲順をひっくり返したのはすごいアイデア。だいたい好きなアルバムって、曲順や曲間の感じまで記憶されているじゃないですか。それもあって、より仰天したよね。

安部 全部仰天だよ。アレンジもそうだし。

ハマ 強制的に「『HOSONO HOUSE』とは違うんだぞ」ってところからスタートできるじゃん。同じ曲順だったらどうしてもオリジナルとの聴き比べになってしまうけど、逆だからこそ、新作だって感覚も強くなるし。

細野 オリジナルと比べても意味がないと思って、だからこそ曲順を考えるのにすごく苦労したんだよ。普通にオリジナルのままで並べてもみたんだけど、「この順番じゃダメだな」って感じてね。安部くんに「『HOSONO HOUSE』を作り直したら?」と言われて、軽く「できるかも」って思っちゃったのは間違いだった。かなり苦労したよ(笑)。

ハマ ただ録り直したんじゃない。それがホントにすごい。意欲作ですよね。

細野晴臣とハリー・スタイルズの邂逅

細野 そういえば、昨日ここにハリー・スタイルズが来たんだ。話だけしたんだけど(取材は3月末に実施)。

ハマ えええ!

──One Directionのメンバーの。

安部 「HOSONO HOUSE」が好きなんですよね、彼。

──彼が昨年リリースした「Harry's House」というアルバム名が、「HOSONO HOUSE」からインスピレーションを受けたものだと話題になりました。

ハマ 僕、ラジオ局の人に「ハリー・スタイルズの新譜チェックしてる?」って聞かれて、「いや、まだ聴いてないですね」って言ったら「聴いてみな! 『HOSONO HOUSE』の……」って教えてもらって。「いや、偶然でしょ」って思ってた(笑)。それがまさか本人同士でお会いしているとは。

安部 まだ聴いてなかったけど、聴いてみよう。細野さんって、昔からそうですよね。ビル・ラズウェルとか、すごいミュージシャンから「家の近くにいるんだけどお茶しない?」って電話かかってくるとか(笑)。

細野 ハリー・スタイルズはまだ29歳なんだよね。つくづく若いなと思ったよ。見た目はそうでもないけど。

ハマ One Directionなんて10代でデビューしたんだよね。彼の造詣の深さはわからないけど、すごく音楽が好きだってことですよね。いいよね。彼をきっかけに「こういう音楽があるんだ」って広がるわけだから。

安部 その対談は、どこかのメディアに出るんですか?

細野 出ないよ。プロデューサーと来て、こっちは通訳の人を入れて。すごく真面目な人だった。1時間半、全部音楽の話。

安部 One Directionの方が「HOSONO HOUSE」が好きって、どこでどうつながったんだろう。

ハマ 去年アメリカに1週間行ったんですけど、細野さんとかYMOの作品は普通にレコード屋に面出しされてましたからね。日本でどこのレコード屋に行っても「Led Zeppelin II」があるみたいな感じ。だから触れる機会も多いでしょうね。

安部 世界の1つの基準としてレコード屋に並べられている、みんなのスタンダードになっているような作品ですよね。でも当時のテンションを聞いても、細野さんは「作ってって言われたから作ってみたんだよ」って言いそうなのが……(笑)。

細野 まあ人によるだろうけど、僕の中では「HOSONO HOUSE」は“習作”だよね。初めてのソロだったので、やってみなきゃわからなかったから。

安部 ハリー・スタイルズもそうだけどさ、マック・デマルコもデヴェンドラ・バンハートもVampire Weekendも、名だたる海外のアーティストがみんな細野さんの音に反応してるわけじゃん。ハリー・スタイルズが実際に来て、細野さんは当事者としてはどういう気持ちなんですか?

細野 昨日会うまでは「なんでなんだろう?」って思ってたよ。

ハマ でも必然な感じもするけどね。垣根のない時代だし。そもそも、音楽好きだったら聴いている作品として、脈々と存在していたわけで。それを初めて実感した感じ。

細野 それはそうだね。

安部 わかるけどさ、でもけっこう大変なことじゃん。50年前に作られた作品が今でもこうしてカルチャーの一部として脈々と受け継がれているところがロマンというか、すごいよなって。

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