『チェリまほ』から、どこへいく?──黒沢優一と交差する町田啓太 (original) (raw)

町田さんは撮影中、いろいろな表情を見せてくれた。

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思慮深さを武器にする

童貞のまま30歳を迎えたサラリーマン・安達清は、触れた人の心の声が聞こえるようになった。ある日、その能力によって同期の“完璧イケメン”黒沢優一が自分に恋心を抱いていることを知る。その好意に戸惑うものの、徐々に黒沢のことが気になるように──。豊田悠による同名のBLコミックを原作としたドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京他)、通称『チェリまほ』が日本を飛び出してアジア各地で人気を博している。

「いくつかの偶然が重なって、いろんなところにお住まいの方たちに広がったことはありがたいです。言葉だけではないところで楽しんでもらえていることにも、僕自身すごく勇気をもらえました」

黒沢を演じた町田啓太はそう語る。ドラマは台湾香港タイフィリピンほか各国で配信され、台湾では配信開始から6週連続でチャンネル内視聴数1位を獲得するほど人気が過熱した。2月末には安達役の赤楚衛二と町田が出演するオンラインファンミーティングがタイで配信され、多くの観客を集めている。

『チェリまほ』がこれほど人気を博したのは、ラブコメとしての面白さはもちろんのこと、作品の中で描かれるキャラクターたちの“距離感”の絶妙さが理由のひとつだ。

「誰にも土足で踏みにじられたら嫌な領域があるし、一方で飛び越えて来てほしいところもある──。人と人との関係性や寄り添い方をすごく繊細に描いた作品だと思います。原作の持つそうした優しい世界観を実写に落とし込むために、セリフひとつとっても、スタッフさんが真摯に取り組んでいるのを感じました。だからこそ、僕たち演じる側も作品に丁寧に向き合おうというスタンスになれたんです。全員が同じ気持ちだったからこそ、原作が持つ優しさや温かさを再現できたのかなと思います」

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このドラマでは、「心の声」が重要なキーになっている。とはいえ、「心の声」は、アフレコで入れたものが放映時に流れるにしても、撮影時には聞こえていない。聞こえない声に合わせた演技をするわけで、そこに、通常の撮影とは異なる難しさがあったのではないだろうか。

「最初は苦労しましたね。とくに、“心の声”が聞こえていることになっている赤楚くんは、やりづらかったと思います。リハーサルで“心の声”をセリフのように読んですり合わせをしていました。慣れてくると、自然と、裏で話し合ってから撮影に臨むようになりました」

黒沢は長年、自分がルックス(だけ)で評価されることに違和感を抱いていた。それゆえに、自分の内面や努力をきちんと見てくれた安達に心惹かれていく。しばしば外見のみで評価されがちなことは、俳優の場合にもあるのではないだろうか。

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「所属事務所にやんちゃなイメージがあるのか、仕事を始めたばかりの頃はヤンキーやアウトローの役がすごく多かったんです。僕自身はそういう感じを避けて生きてきたタイプなので、自分の本質を見てもらえてはいないんだな、と、先入観に苦しんだところはありました。最近は、『真面目なんでしょ?』と言っていただくことも多いんですが、それはそれで、ダメな部分というか、そんなに真面目でもないところを出すのが怖くなりますね。だから、黒沢の気持ちがわかるんです」

町田は「そんなに人間ができているわけじゃないので」と謙遜するのだが、言葉を誠実に選んで話しているのがわかる。

「小さい頃は、頭に浮かんだことをなんでも口にしていました。でもあるとき、祖父に対して良くないことをストレートに言ってしまって、初めて父にものすごく怒られたんです。それで『言葉ってよく考えて発さなきゃダメなんだ』と思うようになりました。以来、そういう気持ちはずっと持っています。誰かを傷つけそうで、ストレートにものを言うのが怖いんでしょうね。言葉の威力って絶大ですから」

恐れを知っているからこその優しさ、慎重さなのだろうか。それは、黒沢もそうなのかもしれない。今年は『青天を衝け』で2度目となる大河ドラマ出演を控える。より大きく花開く未来はもうすぐそこだ。

(『GQ JAPAN』5月号[3月25日発売]掲載)

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町田啓太(まちだ けいた)

俳優

1990年7月4日生まれ、群馬県出身。Netflixオリジナルシリーズ『今際の国のアリス』など数々の話題作に出演。ドラマ特区『西荻窪 三ツ星洋酒堂』では連続ドラマ初主演を務めた。テレビ東京とめちゃコミックのコンテスト「僕を主人公にした漫画を描いてください! それをさらにドラマ化もしちゃいます!!」の主演・審査員を務める。NHKの大河ドラマ『青天を衝け』では、5月9日(日)放送の第13回より土方歳三役を演じている。

『チェリまほ』から、どこへいく?──黒沢優一と交差する町田啓太ギャラリー:『チェリまほ』から、どこへいく?──黒沢優一と交差する町田啓太Gallery5 PhotosBy 斎藤岬

Photos 長坂フミ Fumi Nagasaka
Styling レナード・アルセオ Leonard Arceo@SW’NG
Hair&Make-up Kohey
Words 斎藤 岬 Misaki Saito