北朝鮮に出勤します (original) (raw)

お盆は地震や台風で荒れまくった日本を後に1週間海外旅行へ。旅先のKindleはマジ最強、プールサイドなどのふとした隙間時間に活字摂取しまくり。ひとまず最も面白かった本書をレビューしておきます。

北朝鮮に出勤します』 / キム・ミンジュ

北朝鮮に出勤します―開城工業団地で働いた一年間

本屋で見かけて、そのタイトルと帯に惹かれてジャンピング購入。昨年『金正日の誕生日』というバンドデシネを読んだ時、アジアに住む身として韓国と北朝鮮のことを何も知らなかったことに愕然としたことを思い出した。

韓国人女性である著者・キムさんは毎週ソウルからバスで軍事境界線を越えて北朝鮮に出勤し、南北経済協力事業で北朝鮮に造成された開城(ケソン)工業団地で、北の従業員の方と共に栄養士として働く。そこでの日常を綴ったエッセイ/ノンフィクション。

「南から見る北」という構図を実は個人的に初めて知ったことに読みながら気づいた。国家という括り見ると日本人には到底理解できない南北の関係性だが、作中で出てくるキムさんと北の個々人のエピソードを見てると、国という膜で見えない繋がりってあるよな、、と感動と悲しみが同時に来た。

例えば北朝鮮には、一人では絶対に南の人と同じ空間にいてはならないという決まりがあるらしい。エレベーター内でもそれは同じ。そんな風に「ルール」はあるものの「ポリシー」はそう限らない場合があり、時に1対1で話すと南に関してとても興味を持って質問してくれたりする。ちょうどオリンピックシーズンに読んだこともあり、あぁ何故このような個々の繋がりのように、国家同士もうまくワークしないのだとなんとも言えない気持ちになった。

もっと丁寧な別れ方であってほしいと思った。別れたりせず互いに行き来しながら、どんな暮らしをしているか、どうやって歳を重ねていくか、子どもがどれだけ大きくなったかを見ることができればよかったのに。

旅先で読んだのもあり、経済格差の問題も強く感じた。話が逸れるが旅先は平均年収が日本の約1/10の国であり、それはつまり我々が「安い!」と言いながら300円払って買ったコーラや子供服は、現地人にとって3,000円の価値に換算される。本書曰く北と南も似たような格差があり、仕事中に南からのフルーツや日用品の差し入れに喜び、けれど決してその場で消費することなく、貧しい生活を強いられている家族に持ち帰る母親。他国を知って自国を知るとはホントこの事で、比較は良くないと分かりつつも、中を疑って外を知ることは重要であると再認識した。