架空賢者の名言 スーパーヒーローを育てた“心のビタミン” 【その31】幻海 (original) (raw)

流れのままに生き、そして死ぬ。アタシはそれでいいと、思っている。次の世代に望みを託せればな。

(幻海師範 『幽☆遊☆白書』に登場)

交通事故で死んだ浦飯幽助 。彼 は、エンマ大王の息子 コエンマの計らいにより、この世に蘇り、人々を脅かす妖怪を退治する「霊界探偵」となった。幽助と仲間たちの活躍を描くアニメ『幽☆遊☆白書』(原作:冨樫義博 制作:スタジオぴえろ 、1992年から1995年に放送。今でも根強いファンがいます。

幽助を導く師匠が、霊光波動拳の達人・幻海師範。彼女は70歳ぐらいの老婆ですが、世界最大級の霊力を持っており、浦飯幽助が霊気を指先から発射する霊丸(れいがん)という得意技で岩を砕く程度だとすると、幻海は同じ技で小山のような巨岩も粉砕できるのです。普段はおばあさんなのですが、霊波動を最高に高めることで細胞が活性化し、20歳前後の姿に一時的に若返るのが特徴です。

幻海の容赦ない指導により、幽助は着実に強くなります。幽助も幻海を「ばあさん」と呼んで慕います。しかし、 幽助 仲間たち とともに 強制的に参加させられた「暗黒武術会」で、勝ち進んだ幽助が、次に対戦するチームのことを「肩ならし程度の相手だぜ」と見くびっているのを見た幻海は、「思い上がるな!」と幽助を一喝します。

この大会には、今はもう幻海でさえ勝てないと思われる最強レベルの妖怪・戸愚呂(とぐろ)が出場しています。戸愚呂はサングラスをかけた筋肉隆々の男で、底知れない実力を秘めた化け物です。幻海は幽助に、こう言い渡します。

今のままではオマエは100%負ける。戸愚呂はおろか、アタシにさえな!

幻海は幽助に、「最大の試練」を与えると宣言します。

その試練とは「幻海自身を殺すこと」であった!

幻海は、この先の洞窟で待っている。アタシを殺す覚悟ができたら来い! と言い残して、その場を去ってしまうのでした。

幽助は必死で考えます。「オレがここまでこれたのは、ばあさんのおかげだろうが!」。

だが、幻海は強くなるために自分を殺せと言う。…脳裏によみがえるのは、毒舌を連発し、苛烈なスパルタ特訓を加えつつも、慈愛を込めて鍛えてくれた幻海の姿…浦飯幽助、どうする⁉

(このあと、「幻海からの最大の試練」のネタバレです)

結局、幽助は洞窟に行きます。

そして、こう言うのです。

「ずっと突っ立って考えてた。今まででいちばん頭使ってみた。…やっぱできねえわ。強くなりてえけど! どうやらオレ、弟子失格だな。…ま、1人でなんとかして見せるわ。戸愚呂のグラサンぐれえは壊して見せるぜ!」

「よし合格!」

幽助が言い終わるやいなや、幻海は「合格」と即答。あっけにとられる幽助に幻海は、

自分が強くなるために師匠を殺そうってな結論出すヤツに、アタシが奥義を伝承すると思うかい? …かといって悩みもしないで「やれません」って毒気のないヤツも同じぐらい嫌いだがね!

僕は、このシーンが大好きです。

敵をなめてかかっていた幽助は、自分の弱さを自覚し、謙虚な気持ちになった上で、それでも逃げずに「戸愚呂のサングラスぐらいは壊してやる」と決意をかためています。このへんの幽助の心境の変化がいい。

幻海の言いたかったことは、僕の想像では、次のようなことです

幽助よ、オマエは霊界探偵だ。では、霊界探偵とはどのような前提の上に行動しなければならないのか、これを考えてほしい。霊界探偵とは、世の人々を悪しき妖怪たちから守る正義の戦士。そういう正しい目的のために霊力と武力を磨いてきたオマエが、修行を達成するために、途中で、目的とは真逆のこと、恩人を殺害せよという殺人命令を実行するということが、あってよいのかということを。

ただし、悩みもしないで「できません」というんじゃダメだ。本気で強くなろうと思う人間なら、悩んで当然だ。

「正義の心を失わず、強くなる」。そうであってこそ、アタシの弟子にふさわしいのだ。

これは僕が幻海の気持ちを忖度した勝手な解釈です。

「正しい心を捨てて、結果だけを得ようとする人」は現実にいるかもしれない。

たとえば大学入試で、「受かりさえすればいい」という人。そういう人の中には、違法な形でお金を払い、裏口入学をする人がいます。

「何百万円を支払えば、国立大学の教員にしてあげる」という詐欺にひっかかり、「大学の非常勤講師」という肩書がほしくて、お金を振り込んでしまった人もいます。

それは、本当の学問の道を歩む人のすることだとは思えません。

「目的が達成できれば、不正な手段でもかまわない」と考える人は、人としての本道を踏み外し、大きな間違いを犯すのではないかと思うのです。

幻海は浦飯幽助という男を霊光波動拳の継承者に選び、希望を託したのです。