厚生年金の拡大 負担と給付分かりやすく(2024年8月23日『山陽新聞』-「社説」) (original) (raw)

キャプチャ

厚生労働省はパートら短時間労働者の厚生年金加入を拡大するため、勤め先の従業員数が101人(10月からは51人)以上という要件を撤廃する方針である。新たに保険料を負担する労働者の理解を得るには、負担とともに、給付がどのくらい増えるのかを分かりやすく示すことが欠かせない。

撤廃の方向を示した有識者懇談会の報告を踏まえ、実施時期を検討し、来年の通常国会に関連法改正案の提出を目指す。年金制度の改革では、国民年金(基礎年金)と厚生年金の財源一体化や、賃金に応じて厚生年金の受給額が減る「在職老齢年金」の見直しなども検討されている。

厚生年金は会社員らが対象で、2023年度時点で約4680万人が加入する。短時間労働者が加入するには企業規模のほか、週の労働が20時間以上や月額賃金が8万8千円以上といった要件がある。

厚労省が先月公表した公的年金財政検証では、従業員数の要件を撤廃し、従業員5人以上の個人事業所の全てにも対象を広げると、加入が約90万人増える結果となった。

肝心な給付水準は、65歳時点の年金額が現役世代の平均手取り収入の何%かを表す「所得代替率」が指標となる。過去30年と同程度の経済状況が続く標準的なケースで、50年代半ばに厚生年金の額は全体で51・3%と、現行制度を維持するのに比べ、1ポイントほど高くなると推計された。

厚生年金に加入しやすくして将来の給付を手厚くすることは確かに意義があろう。

気掛かりなのは年金や健康保険の社会保険料と税金の負担が所得に占める割合を示す「国民負担率」が上昇傾向にあることだ=グラフ。

財務省によると、1970年度の24・3%から2022年度は過去最高の48・4%に達した。本年度は所得拡大などで45・1%の見通しだが、高水準が続く状況にある。

主要国との比較では、日本の負担率はフランスやドイツより低く、英国や米国よりは高い。ただ、政府は少子化対策で公的医療保険料に上乗せして徴収する「子ども・子育て支援金」を26年度に創設するため、負担率の上昇に対する懸念は拭えない。

厚生年金保険料は労使折半で、労働者だけではなく、企業の負担が増えるのも課題である。物価高騰などに伴い経営コストが高止まりする中で、保険料の負担が重なることへの危機感は特に中小企業で強い。厚労省は支援を検討する方針で、効果的な対策が求められる。