栃木 LRT 開業1年 想定より早く利用者500万人に 今後の課題は(2024年9月18日『NHKニュース』) (original) (raw)

栃木県の宇都宮市と隣の芳賀町を結ぶLRT(次世代型路面電車)が、去年8月26日に開業してから1年がたち利用者は累計500万人に達しました。

沿線では開発が進む一方で、将来に向けて課題を指摘する声も。

さらなる発展のためには...

(宇都宮放送局記者 宝満智之)

日常の交通手段として定着

日常の交通手段として定着

開業1年を迎えてから、半月後の9月13日。

LRTの利用者数が累計500万人に達し、始発の停留場では、乗客に記念品が配られました。

利用者
LRTはいつも行きも帰りも満員で、生活になじんできていると感じています」

宇都宮市芳賀町を結ぶLRTは、沿線に立ち並ぶ工業団地への通勤や通学などの手段として市民に定着し、沿線の地域では、マンションや住宅地の開発が進んで、人口が増え続けてきました。

平日の利用者数は約1万5000人から1万8000人ほどで、累計500万人に達したのは、事前の想定より3か月以上も早くなりました。

市内に住む大谷里英さんは、LRTの開業を見越して、おととし沿線の地区に引っ越してきました。

職場への通勤に子どもの保育所の送迎と、開業以来、毎日のようにLRTを利用しています。

車社会の宇都宮市で「マイカーがなくても生活に困ることはない」と言います。

宇都宮市民 大谷里英さん
「子どもの保育所の送迎や、私が宇都宮駅に買い物に行くときに、LRTをよく使っています。車は維持費がかかってしまうので、今は考えていません。LRTのない生活は、もう想像できないです」

利用者は増え続けるも...

開業から1年がたち、利用者は増え続ける一方で、将来的な課題も見えてきました。

休日に利用している約1万人のうち、半数近くの行き先が、沿線にある大型のショッピングモールに集中していたことがわかったのです。

宇都宮市と運行会社は、長期にわたって安定した需要を見込むためには、一部の施設だけに頼るのではなく、多様な目的地を生み出していくことが欠かせないと考えています。

そこで市は、「平石」停留場の前に、スケートボードや3人制バスケットボールなどを楽しめる総合公園の整備を計画しました。

2026年3月の開園を目指していますが、行政の取り組みには限界もあると感じています。

宇都宮市建設部 矢野公久部長
「利用者のすそ野を広げて、長期的な目線でLRTを定着させるためには、沿線の地域の人たちと連携して、まちづくりを進める必要があります。LRTと一緒に、街がどんどん変わっていき、沿線に新たな目的地が生まれていくという“相乗効果”を狙っていかなければいけないと考えています」

“成功例は富山市にあり”

“成功例は富山市にあり”

LRTとまちづくりの“相乗効果”。

宇都宮市が、その成功例と見ているのが、18年前に全国で初めて本格的にLRTを導入した富山市の取り組みです。

LRTが走る富山港線の東岩瀬駅から、歩いて5分ほどの場所に広がるのは、江戸時代に海運で栄えた歴史的な町並み。

ことしの夏休みも、大勢の観光客がLRTに乗って訪れていました。

観光客
「古い町並みが残っていて、とてもすてきです。LRTに乗って気軽に来ることができ、駐車場の心配もしないですみます」

この地区のまちづくりを進めてきたのは、地元で酒造会社を営む桝田隆一郎さん。

LRTの導入をきっかけに、古民家の再生やテナントの呼び込みなど、かつての美しい景観を取り戻す事業に取り組んできました。

上が改修前 下が改修後

富山市岩瀬地区 桝田隆一郎さん
「岩瀬を世界に自慢できるような街にしたいと考えたのが、最初の原動力です。LRTの運行をきっかけに、この原動力が私の中で爆発し、まちづくりが進んでいきました」

桝田さんが、地域の人たちを巻き込みながら民間主導で取り組みを進めた結果、街は今、おしゃれなレストランや著名作家のアトリエが建ち並ぶ「食とクラフトのまち」として生まれ変わりました。

この夏のお盆休みだけでも、約2000人の市民や観光客が訪れ、富山市LRTを代表する目的地となっています。

桝田隆一郎さん
LRTができただけで、街がきれいになったり、発展したりするかと言うと、そんなことは絶対にないと思います。LRTをきっかけにして、どのように活用を盛り上げていくか、どのように街に来てもらうかということを企画し、進めていくことがいちばん大事だと思います」

地域住民の取り組みは宇都宮市でも

地域住民の取り組みは宇都宮市でも

富山市のような地域の人たちによる取り組みは、宇都宮市でも少しずつ動き始めています。

市内の清原地区でまちづくりに携わる直井修一さんが、この日、訪ねたのは、地区にたたずむ古い城跡です。

鎌倉時代に造られたとされる「飛山城(とびやまじょう)」の跡は、当時の堀の形がそのまま残され、歴史ファンから高い評価を受けています。

ただ交通アクセスが悪く、これまでは「知る人ぞ知るスポット」にとどまっていました。

近くをLRTが走ることになった今、直井さんはこの城跡を、観光やまちづくりに生かせないかと考えました。

清原地区観光地域づくり特別委員会 直井修一さん
「国の史跡の飛山城を生かして、LRTの利用者が訪れるような場所にしていきたい。ここは景色がいいので、まずは峠の茶屋のようなカフェを作れたらいい」

企業にも支援を求めて

直井さんはさらに、沿線に立ち並ぶ工業団地を訪れて、企業にも支援を求めました。

さまざまな工場を見て回る見学ツアーを企画できれば、LRTを活用した「ファクトリーツーリズム」を創造できるかもしれないと考えたのです。

直井修一さん
「観光客が、工場を見学できるように検討してもらえたらありがたいです」

工場の担当者
「地域のイベントに来たついでに工業団地を回ってもらうとか、いろんな構想が生まれてきますね」

直井さんは、今後もこうした取り組みを続けていくことで、いずれは大勢の人がLRTに乗って訪れる活気あふれた街にしていきたいと期待を膨らませています。

直井修一さん
「この地域には、見えない魅力がまだいっぱいあります。それらをどのように見せるようにしていくのか、時間はかかると思いますが、LRTが通った契機を逃さないようにしていきたいと思っています」

宇都宮市LRTは、少子高齢化や車への過度な依存が進む地方都市で、新たなまちづくりを進めるための切り札として導入されました。

開業から1年がたった今、地域の人たちを巻き込みながら、少しずつ街の姿を変えようとしています。

(9月2日「おはよう日本」で放送)

宇都宮放送局記者
宝満 智之
2020年入局
栃木県政・宇都宮市政担当
休日は時々、LRTに乗って趣味の映画を見に行きます