石破首相の所信表明に関する社説・コラム(2024年10月5日) (original) (raw)

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演説全文

石破首相所信 新政権の具体像見えぬ(2024年10月5日『北海道新聞』-「社説」)

スローガンとして「全ての人に安心と安全を」「納得と共感の政治」を訴え、地方創生交付金の倍増を目指すなど、地方創生政策の再起動を宣言した。

ただ焦点の裏金事件に関しては、具体策を一切語らず、改革の本気度が感じられなかった。

首相は9日に衆院を解散し、短期決戦で総選挙に挑むという。論戦回避との批判には「所信表明の場で本当の自分の言葉で語りたい」と反論していた。

その結果がこれでは不誠実と言うほかない。新政権の目指す政治があいまいなら有権者は判断材料を失う。首相は言葉通り国民に向き合わねばならない。

10年前に初代の地方創生担当相を務めた首相は、地方政策へのこだわりが強いのだろう。

だが地方創生は交付金の配分で地方を競わせる手法が、結局中央統制につながった側面が強い。これまでの政策を検証し、改めるべきを改めねば悪循環を繰り返しかねない。交付金倍増の財源も明確に示すべきだ。

政治とカネに関しては「国民の信頼を取り戻す」として、裏金議員に対し「一人一人と改めて向き合う」と述べた。そうであるなら、まずは実態解明のための再調査に取り組むべきだ。

改正政治資金規正法を徹底的に順守するとも主張したが、それ自体が抜け穴だらけの欠陥法だ。課題を整理し、どう改めるかを示さなければならない。

持論のアジア版NATOやその枠内での核の共有や持ち込みの検討に関しては、詳細を米シンクタンクに寄稿していたことが首相就任の直前に判明した。

所信表明での国民への説明より、海外での論文発表を優先する姿勢は、議会制民主主義の否定にほかならない。そもそもアジア版NATO憲法違反となりかねず、核の共有や持ち込みは戦争被爆国としての国是である非核三原則に反する。

経済政策では、最低賃金2020年代に全国平均で1500円まで引き上げる目標を示した。急激な対応に経営体力が乏しい中小企業などが耐えられるかといった配慮も必要だ。

今後の国会論戦は質問と答弁が一方通行になる代表質問と、予算委員会に比べ時間が大幅に短い党首討論だけになる。首相は言行不一致などの指摘に対し逃げずに答えねばならない。


持論封印、政権像見えぬ/石破首相の所信表明(2024年10月5日『東奥日報』-「時論」/『山形新聞』ー「社説」・『佐賀新聞」 -「論説」)

だが派閥裏金事件の実態解明、再発防止の具体策は語らない。「問題を指摘された議員一人一人と向き合い反省を求める」と言ったが、9日に衆院解散となれば政界は一気に選挙態勢だ。「裏金議員」を党公認とすることへの世論の批判が時間切れで雲散するのを待つ意図さえ感じる。

前向きだった選択的夫婦別姓、富裕層への課税強化などにも触れなかった。内政、外交は岸田政権をほぼ踏襲。総裁選公約にあった日米地位協定改定、アジア版NATO北大西洋条約機構)創設などの持論は封印した。

16年前から総裁選に挑み、満を持しての登場にしては「石破カラー」は希薄だ。新政権は一体何を目指すのか。スタートの大事な演説でそれが見えなかったのは残念だ。

その中でも、総裁選で公約し、首相がこだわる政策がいくつか示された。

第1に、石破氏が10年前に初代担当相を務めた地方創生の再起動だ。交付金倍増を目指し、今後10年取り組むという。しかし過去10年を巡る政府の報告書は「人口減少や東京圏への一極集中の流れを変えられなかった」と総括している。自治体の自主性に頼り、国が戦略を欠いたため「地域間の人口の奪い合い」に終わったとの指摘も多い。

「創業者」の首相はまず過去を厳しく検証すべきだ。その反省と教訓抜きに、投入予算の倍増を目指すのなら、選挙の目玉狙いのばらまきと言われても仕方あるまい。

第2は防災庁だ。平時から備える機能の強化のため、専任閣僚のいる防災庁の設置を準備するという。首相の長年の持論だが、災害対応は国土交通省防衛省など関係省庁が多く「屋上屋を架す」と慎重論が強い。行政肥大の懸念もあり丁寧な検討が必要だ。

経済・財政政策は「デフレ脱却を最優先」「経済あっての財政」「物価に負けない賃上げ」「貯蓄から投資へ」などを表明。最低賃金の全国平均1500円への引き上げ目標前倒しを除けば、ほぼ岸田政権の受け売りだ。

安全保障は首相の専門分野だ。総裁選では日米地位協定を巡り「冷戦終結後、欧州は改定に即座に取り組んだ。欧州でできたことが、なぜ日本でできないのか」と、厳しい交渉が予想されるにもかかわらず改定検討を主張した。

シンクタンクへの寄稿では、中国などへの抑止力確保のためアジア版NATOを創設して「核の共有や持ち込み」を検討すべきだと訴えている。日米安全保障条約を「米英同盟並みに強化する」ことも掲げた。憲法9条や非核三原則の制約を踏み越えかねない内容だ。

所信表明でこれらへの言及を避けたのは、首相の党内基盤の弱さもあり、実現を公言してもその見通しがつかないことを自覚するからだろう。選挙前に公明党を含め与党内で対立が生じるのも懸念したと思われる。

2001年就任の小泉純一郎首相は初の所信表明で持論の郵政民営化をぶち上げた。80%超の支持率を味方に「反対する勢力はすべて抵抗勢力だ」と絶叫した姿も記憶に残る。裏金事件で「国民の納得と共感」が得られていないと知る石破氏はそれ故に持論を封印せざるを得なかった。

オーストラリアの大学で1927年に始まった「ピッチドロップ実験」は今も続くギネス認定の世界最長の実験である。粘性の高いピッチなる液体の滴がじょうごから落ちる状況を記録し、その性質を確かめている。

落下のペースは8、9年に1回。開始から100年近く経ても10滴に満たず、自然に落ちる瞬間を見た人はいないそうだ。一方でこの50年近く、ピッチの何百、何千倍の涙の滴を落としたであろう人がいたのは容易に想像できる。北朝鮮による拉致被害者と家族だ。

横田めぐみさんがきょう60歳の誕生日を迎えた。連れ去られた当時13歳の少女がもう還暦である。毎年ケーキを用意する母の早紀江さん(88)は「帰ってきてくれたら、黙って抱きしめてあげたい。元気で生きていて」。幾星霜を重ねても娘を思う母の愛は変わらない。

そんな願いをよそに日朝間交渉は停滞したままだ。「政治家は国民の命と財産を守るのが責務だとおっしゃいますけど、実際にはそういう精神が弱いのではないかと思います」。再会かなわぬまま87歳で他界した父滋さんの生前の言葉が著書にある。偽らざる本音だろう。

高齢化する被害者の親世代に残された時間は少ない。政治家が胸につける、被害者救出を願うブルーリボンバッジは単なるアピールではあるまい。決意の繰り返しはもうたくさん、とにかく結果を出さねばならない。


石破首相所信表明 信頼回復、具体策なしでは (2024年10月5日『河北新報』-「社説」)

内閣発足直後の「ご祝儀相場」があっても、支持率はこれまでの政権に比べ決して高くない。懸念されるのは、もともと薄かった国民の期待が失望に変わり、政治不信がさらに深まりかねないことだ。

自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、議員の法令順守(コンプライアンス)意識の欠如があらわになった以上、「政治とカネ」の問題にどうけじめをつけるかが厳しく問われるのは当然だ。

党内の圧力に屈し、国民が求める最低限の回答さえ用意できないようでは、今後の政権運営に混迷を招くのは明らかだろう。

石破茂首相がきのう、就任後初めての所信表明演説を行った。裏金事件について「国民の信頼を取り戻す」と繰り返したものの、政治資金については「限りない透明性をもって国民に向けて公開することを確立する」と抽象的な言葉を並べただけだ。

事件を巡り政治資金収支報告書に不記載があった議員には「反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」と強調したが、この期に及んで個々の心掛けの問題に議論を矮小(わいしょう)化させて済む話ではあるまい。

そもそも公私の区別もできず、収支をごまかすような人物が議員であり続けていることが異常なのだ。

次期衆院選に向け、党執行部は不記載などで処分を受けた議員についても、都道府県連の申請など一定の条件を満たせば原則、公認する案を検討しているという。

党役員・閣僚人事で主要ポストを外された旧安倍派などの反発を恐れ、毅然(きぜん)とした対応を取れないようでは、決して国民の理解は得られまい。

一方、注目された経済・財政政策は、岸田文雄前政権と同様に「経済あっての財政」を掲げ、資産運用立国などの経済政策を踏襲する考えを示したが、成長戦略の具体的な肉付けは物足りない。

最低賃金を現行目標の30年代半ばから20年代に前倒しして平均1500円に引き上げる方針を示した以外は、総じて新味に欠ける内容だった。

総裁選の初期に唱えた金融所得課税の強化は、株価の急落を受けて早々に軌道修正。エネルギー政策でも「ゼロに近づけていく努力を最大限する」と述べていた原発について、所信表明では「利活用」にかじを切った。

衆院選までは党内外で火種になりそうな論点を避けようとの思惑が先に立ち、結果的に政権として何をしたいのかが伝わりにくかった印象だ。

共同通信の直近の世論調査によると、石破内閣の支持率は50・7%。発足直後としては岸田内閣の55・7%を下回り、「疑似政権交代」の効果は限定的だ。

代表質問や党首討論を通じ政治不信の払拭に向けた道筋を明確に示さない限り、国民の期待をつなぎ留められないことを肝に銘じるべきだ。

石破首相所信表明 「納得と共感」に程遠い(2024年10月5日『秋田魁新報』-「社説」)

石破茂首相は就任後初めての所信表明演説を行った。「ルールを守る」「日本を守る」「国民を守る」「地方を守る」「若者・女性の機会を守る」の5本柱が主な訴え。第一に挙げた「ルールを守る」は政治資金規正法を守らなかった自民党派閥の裏金事件を踏まえてのことだ。

石破首相は「政治への信頼を取り戻し、納得と共感をいただき…」と述べたものの、具体的な内容が伴っていなかった。これでは「納得と共感」を得るのはもちろん、裏金問題で高まった国民の政治不信を払拭するには程遠い。

岸田文雄前首相は、裏金事件で国民の政治不信を高めてしまった「責任を取る」として自民党総裁選への不出馬を決めた。だからといってそれで「政治とカネ」の問題が解決したことにはならない。

裏金議員の衆院選の公認問題にどのような対応をするのか。「政策活動費廃止」を目指すのか。石破首相は総裁選で自らが口にした主張も含め、改めて明確に語る必要がある。衆院選を前に政治とカネ問題にどう向き合うのかについて、具体的な対応を示さなければ国民は到底納得できないだろう。

5本柱で特に注目したいのは「地方を守る」。10年になる地方創生を再起動させるとの宣言だ。全国各地の取り組みを支援するため地方創生の交付金倍増を目指し、地方の成長の根幹である農林水産業の振興を図る。

目的やその志はよく伝わってくる。残念なのは「地方創生に取り組む機運を高める」という結びからも分かるように、具体的な肉付けに欠けていることだ。今後、実効性を持つ政策が具体化し、提案されていくことを期待したい。

「国民を守る」の物価高対策などを含む経済政策は岸田政権の継承が目立つ。石破色の強い防災庁設置などの具体策について注視したい。

「日本を守る」の外交・安全保障問題では首をかしげさせられるところがあった。総裁選で力説した日米地位協定の改定、「アジア版NATO北大西洋条約機構)構想」に全く触れられていなかったのには疑問が残る。

「若者・女性の機会を守る」では「社会のあらゆる組織の意思決定に女性が参画することを官民の目標とし、(中略)取り組む」と宣言。ただ岸田内閣で5人の女性閣僚が、石破新内閣では2人だ。言行不一致との批判に応えなくてはならない。

所信表明に対し、野党からは「まれに見るスカスカ」「薄っぺらい」「石破カラーが全くない」など厳しい声。衆院選を前に対決色を強めている。

週明け国会で代表質問が行われ、9日は党首討論の後、衆院解散となる見込み。あまりに短い日程ではあるが、衆院選に向けて有権者にできる限り判断材料を提示できるよう、与野党の活発な論戦を期待したい。

石破茂首相が所信表明演説を行った。首相は「全ての人に安心と安全を」と何度も繰り返し、実現に向けた基本方針、施策を語った。ただ、経済や外交など多くの分野で岸田政権の路線を継承する内容が多く、「石破カラー」を鮮明に打ち出せたかは疑問だ。

まず取り組まなければならないのは、政治に対する国民の信頼回復であることは言うまでもない。首相は「政治家のための政治ではない、国民のための政治を実現する」と語ったが、その通りだ。

しかし国民の信頼を大きく損ねた「政治とカネ」の問題への対応には物足りなさが残った。不正の温床となっている政治資金については「改正政治資金規正法を徹底的に順守し、限りない透明性を持って国民に公開することを確立する」としたが、その具体的な取り組みへの言及はなかった。

派閥の裏金事件で政治資金収支報告書に不記載のあった議員への対応、総裁選でも焦点となった使途公開不要の政策活動費の在り方などにも触れなかった。次期衆院選の大きな争点であり、これでは有権者に十分な判断材料を示したとはいえないだろう。

首相は、少子化と人口減少について国の根幹に関わる「静かな有事」との認識を示し、地方創生の施策を強化すると強調した。人口減や高齢化などで産業が衰退、コミュニティーの維持が難しくなっている地方は危機的状況にある。

首相は、観光産業の高付加価値化、地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増を目指す考えなどを示したが、大きな成果が見られなかった従来の施策の延長線上では心もとない。抜本的な見直しを検討する必要がある。

全国で甚大な自然災害が頻発するなか、専任閣僚を置く防災庁を設置し、平時から事前防災への取り組みを強化するとも語った。災害関連死を防ぐため、避難所の在り方を見直す考えも示した。東日本大震災をはじめ、多くの災害に見舞われた本県の経験や教訓を十分に生かして取り組んでほしい。

経済政策では、物価上昇を上回る賃金増を目指し、最低賃金を2020年代に全国平均1500円とする目標を掲げた。そのためにも企業の生産性向上への支援策を強化し「賃上げと投資がけん引する成長型経済」を実現、危機に強靱(きょうじん)な経済・財政を作るとした。

高齢化社会にあるなか、物価高は最低賃金と関係のない高齢世帯も直撃し、医療や年金などの社会保障制度も難しい課題が山積している。国民を真に安心させる政治を新政権に求めたい。


【首相所信表明】国民の信を得られるか(2024年10月5日『福島民報』-「論説」)

国内外の重要課題が山積する中、臨時国会で初の所信表明演説に臨んだ石破茂首相が真っ先に取り上げたのは政治不信への対応だった。「国民のための政治」の実現を誓ったものの、失われた信頼を取り戻すのは容易でない。政治改革の具体案を早急に示す必要がある。

自民党派閥の裏金事件を巡り、問題を指摘された議員一人一人と向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる考えを示した。自らも説明責任を果たすとしたが、裏金の使途など国民の疑念は解消されていない。信頼回復には真相究明が欠かせないはずだ。

「政治とカネ」の問題は衆院選でも主要な論点になるとみられている。共同通信社世論調査で、裏金問題に関与した議員の公認を「理解できない」とする回答は7割を超えた。石破首相の就任で問題は解決に向かうとの見方は2割程度にとどまるなど、国民の目は依然厳しい。改革に本気で取り組まなければ、国民と政治の距離をさらに遠ざけるだけではないか。

演説では首相の独自色も随所に見られた。自然災害の頻発化、激甚化を受け、専任の大臣を置いた防災庁を設置する。災害関連死ゼロへ避難所の在り方を見直し、速やかにトイレやキッチンカーなどを配備できる体制を構築するとしている。ただ、関連予算や人員の確保が課題となるだけに首相の実行力が問われる。

東日本大震災に関しては「福島の復興なくして、日本の再生なし」との方針を継承した一方、言及した施策は被災地の産業再建と被災者の生活支援のみだった。課題は複雑、多様化している。現状をしっかりと把握し、臨機応変に対処すべきだ。

演説で「原発事故」の言葉を一度も用いなかったのはなぜなのか。東京電力福島第1原発廃炉が本格化する中、風化の進行が懸念される。エネルギー政策では、安全を大前提に原発を利活用すると力説した。13年前の苦い経験を国民の記憶から消し去ってはならない。

「ルール」「日本」「国民」「地方」「若者・女性の機会」の五つを守り、日本の未来を創るとも強調した。発言と裏腹に「党利」を守りだしたら、国民の信を得られないのは明らかだ。(角田守良)

石破首相の所信表明 目指す国家像が見えない(2024年10月5日『毎日新聞』-「社説」)

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衆院本会議で所信表明演説を行う石破茂首相=国会内で2024年10月4日午後2時34分、平田明浩撮影

自民党にあって長く野党的な立場を取りながら、新首相に選出された意味を自覚すべきだ。党内融和を優先し、当たり障りのない抽象論を語るだけでは、政治不信も、暮らしや将来への不安も払拭(ふっしょく)できない。

石破茂首相の就任後初の所信表明演説があった。党総裁選での主張から後退した内容が目立った。

「政治とカネ」の問題では「深い反省」を表明し、「ルールを守る倫理観の確立」に取り組むと語った。改正政治資金規正法の順守は当然のことだ。「透明性を高める努力を最大限していく」と述べたが、具体策は示さなかった。

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衆院本会議に臨み、言葉を交わす(左から)自民党麻生太郎最高顧問、菅義偉副総裁、岸田文雄前首相=国会内で2024年10月4日午後2時1分、平田明浩撮影

党から議員に渡される「政策活動費」の廃止や、月100万円の「調査研究広報滞在費」(旧文書通信交通滞在費)の使途公開の実現は、先の通常国会からの課題だ。総裁選の論点にもなったが、言及しなかった。

薄まるばかりの独自色

派閥裏金問題で処分を受けた議員を、首相は次期衆院選で原則公認する方針だという。総裁選への立候補表明では、党の選挙対策委員会で徹底的に議論されるべきだとの考えを示した。だが、安倍派議員らから猛反発を受け、発言をトーンダウンさせてきた。演説でもこの問題に触れなかった。

首相はリクルート事件を受けた約30年前の「平成の政治改革」に携わった数少ない現職国会議員の一人だ。その経験を生かし、「政治とカネ」の問題にけじめをつけ、国民の政治不信を解消することが求められている。

だが、政権基盤の弱さも影響して、及び腰の姿勢が目に付く。大胆な「令和の政治改革」に挑もうという覚悟が伝わってこない。

1日に野党各会派へのあいさつ回りをした際のやり取りが象徴的だ。「石破カラーを出して頑張ってください」と声をかけられると、「出したらぶったたかれるでしょ」「出すと国民は喜ぶ、党内は怒る」と語った。

個別の政策でも独自色を抑えざるを得なくなっているのではないだろうか。

アジア版NATOの棚上げは、近隣諸国や米国とのあつれき、実現性の薄さを考慮すれば当然だ。一方、日米地位協定の改定は、米軍基地負担が集中する沖縄の現状を考えれば、主張し続けていくべき問題である。

経済・財政政策は、「賃上げと投資がけん引する成長型経済」の実現など、岸田文雄内閣の路線を継承した内容となった。総裁選では格差是正につながる金融所得課税の強化も主張していたが、取り上げなかった。

金融政策を巡っては当初、日銀の判断を尊重する姿勢を示していた。だが、就任後は一転して早期利上げに慎重な考えを表明するなど、言動が揺れている。金融市場の信頼は到底、得られない。

国民本位の政治今こそ

かろうじて首相のカラーが出たのは、専任の大臣を置く「防災庁」の創設と、自衛官の処遇改善に向けた関係閣僚会議の設置、地方創生の交付金の倍増を表明したことなどである。これだけでは政策の方向性は見えない。

目前の衆院選を意識して、物議をかもすような争点を極力、隠そうとしているようにも映る。

世論調査内閣支持率は、毎日新聞の46%など、歴代内閣の発足直後と比べて低い水準にとどまる。安倍晋三元首相が築いた長期政権のもと、正論を語ってきた首相への期待が裏切られたと感じる人が増えているのではないか。

首相は、本格的な国会論戦の場となる予算委員会を開かず、早期に衆院を解散することを決めた。まだ解散の権限を持たないにもかかわらず、就任前に衆院選の日程を表明したことは、憲政の常道に反する。

石破内閣は、日本政治が安倍路線からの転換期を迎える中で生まれた。しかし、何を目指し、どんな国をつくろうとしているのかがはっきりしない。これでは衆院選で国民は何を基準に投票してよいのかわからない。

首相は「納得と共感」の政治を掲げる。それを実現するには、党内事情優先の内向き姿勢を改めることが不可欠だ。求められるのは国民の目線に立って語り、行動することだ。


戦後の高度成長を推進した池田勇人内閣は…(2024年10月5日『毎日新聞』-「余録」)

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衆院本会議で所信表明演説を行う石破茂首相(手前)=国会内で2024年10月4日午後2時33分、平田明浩撮影

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戦後の高度成長を推進した池田勇人内閣は「寛容と忍耐」がキャッチフレーズだった。由来は諸説あるが、1960年の政権発足にあたり、いずれも後に首相となる腹心の宮沢喜一が「寛容」、大平正芳が「忍耐」を思いついたとされる(「宮沢喜一回顧録岩波書店)。当時池田が国民に与えていた高圧的なイメージを変えるためだ。「池田さんは本来、寛容の人でも忍耐の人でもないタイプ」と宮沢は述懐している

▲「納得と共感」を政権の看板に掲げ、初の所信表明演説にのぞんだ石破茂首相である。9日に衆院解散を控え、どんなビジョンを語るのか注目したが正直、拍子抜けした

▲裏金問題のけじめや、総裁選で語っていた安全保障の持論などはほとんど素通りした。地方創生、防衛力整備など関心分野は詳しいが、全体像がはっきりしない

日米地位協定見直し、紙の健康保険証廃止の行方など、総裁選での発言が注目された課題にもふれていない。「勇気と真心をもって真実を語る」と強調しても、説明不在では納得以前だ

衆院を早期に解散する方針が、前言を翻した言行不一致だとの批判を浴びた首相である。小紙の世論調査で新内閣の支持率は46%。自民党には「あて外れ」との見方もあるという

▲宮沢は回顧録で、池田がキャッチフレーズを言い続けた結果、「(本当に)寛容と忍耐の人みたいになった」と評している。首相が納得と共感を国民から得たいのなら、演説でぽっかり空いた空白部分を自らの責任で埋めるしかない。


所信表明演説 現実路線を重視した安保政策(2024年10月5日『読売新聞』-「社説」)

安全保障環境の悪化や多発する災害を踏まえ、日本や国民を「守る」ことを所信表明演説の柱に据えたことは時宜に 適 かな っている。今後、成果を上げられるかどうかが問われる。

石破首相が衆参両院の本会議で初の所信表明演説を行った。

まず、自民党政治資金規正法違反事件が「国民の政治不信を招いた」ことについて「深い反省」を表明した。収支報告書への不記載があった議員と「向き合い、反省を求める」とも述べた。

所信表明演説は、首相が自ら内閣の重点政策について説明し、どのように実行していくかを語るものだ。その冒頭で政治資金問題に言及したのは、それだけ自民党が厳しい立場に追い込まれていることを表している。

「10月15日公示―27日投開票」の衆院選に向け、自民党執行部は、地元組織の要請や、再発防止を期す議員本人の誓約書の提出を条件に、処分を受けた議員を公認する方向で調整している。

「政治とカネ」の問題で自民党への信頼は失墜している。党執行部は4月、旧安倍派の議員ら39人を役職停止や戒告などの処分とした。これをどう評価するかは、有権者が選挙で判断すべきだ。

内外の政策課題は山積している。首相は重点政策の筆頭に、外交・安全保障を掲げた。日米同盟を基軸としつつ、友好国や同志国を増やすことで、平和と安定の実現を目指すと強調した。

「防衛力の最大の基盤は自衛官だ」とも語り、自衛官の処遇改善に意欲を示した。自らをトップとする関係閣僚会議を設置して具体策を検討するという。

昨年度の自衛官の採用数は、2万人弱の募集計画に対して1万人弱にとどまった。計画に対する充足率は過去最低の51%だった。

防衛予算を増額して最新鋭の装備を導入したとしても、それを扱う人材がいなければ意味がない。首相の問題意識は理解できる。

首相は、アジア版NATO北大西洋条約機構)の創設など独自の構想には触れなかった。理想論はひとまず横に置き、現実的な対処を優先させたのだろう。

首相はまた、内閣府防災担当の機能を強化し、「防災庁」を設置する意向を改めて強調した。

新たな庁をつくれば問題が解決する、というわけではない。近年はデジタル庁やこども家庭庁も設置され、省庁の肥大化が指摘されている。防災庁の設置を急ぐより、総合的な対策を実施できる体制を検討するのが先決ではないか。


石破首相の構想と決意が伝わってこない(2024年10月5日『日本経済新聞』-「社説」)

石破茂首相が国会で初の所信表明演説に臨んだ。自民党派閥の裏金問題などで国民の政治不信を招いたと反省し「国民からの信頼を取り戻す」と繰り返し訴えた。

対象の議員一人ひとりと向き合い、自らも説明責任を果たすというが、衆院解散は9日に迫っている。首相は自民党総裁選などでも「国民は納得していない」と認めており、同党が生まれ変わったと国民にみなされるまでの道は険しいと感じざるを得ない。

経済政策では「デフレ脱却を確かなものにする」と物価上昇を上回る賃上げの定着を掲げた。「資産運用立国」を引き継ぎ産業に思い切って投資する「投資大国」をめざす。「経済あっての財政」「成長と分配の好循環」を含めて岸田文雄前政権の踏襲が際だつ。

足元の物価高対策は「低所得者世帯への支援」を強調したが、一律のバラマキ型に終わらないよう無駄を省くワイズスペンディング(賢い支出)に徹すべきだ。

外交・安全保障の基軸となる日米同盟を一層強化するとしたのは当然である。同志国のうち真っ先に韓国を挙げ、日韓の緊密な連携が「双方の利益にとって極めて重要だ」と従来より踏み込んだ。

日本人学校男児刺殺事件で中国に責任ある行動を強く求めた。同時に、あらゆるレベルでの意思疎通を重ねて「建設的かつ安定的な関係」の構築へ日中双方が努力すべきだとした。中国の軍事圧力への抑止力を強めつつ、対話も重視する方向性は評価できる。

首相就任後に現実を見据えた政策に軌道修正する判断は妥当だ。ただ安全運転に切り替えたのか、交付金の倍増目標を据えた地方創生や防災、沖縄などは思い入れがにじむものの、全般的に政権の独自色がかすみ、何を本当にやりたいのかがわかりにくくなった。

国家課題の少子化対策やエネルギー政策も差し障りない表現にとどまった。持続可能な防衛力や社会保障の財源確保へ歳出削減に努力し、そのうえで国民に負担を求める可能性があることを率直に認めるのもリーダーの責務だ。

5度目の挑戦でつかんだ首相の初演説としては物足りない。正論や筋論を国民に率直に語りかけるのが持ち味のはずだ。石破政権の構想と決意をみせてほしい。

例えば安全保障政策だ。アジア版NATO北大西洋条約機構)に言及しなかった。構想実現には憲法問題を解決する必要があり、足並みの揃(そろ)わない各国との交渉にも多大な政治的エネルギーを要する。台湾有事の抑止を優先すべきである。

岸田文雄前首相が語った「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」との認識を、石破首相が演説で示したのも妥当だ。安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想を踏襲したのも正しい。防衛力の抜本的強化の熱意と具体策を今後聞きたい。

経済では「賃上げと投資が牽引(けんいん)する成長型経済」を果たすと訴えた。総裁選で触れたものの市場が警戒する金融所得課税見直しなどは封印し、おおむね岸田路線を踏襲した。物価高を克服しつつデフレからの完全脱却を確実にする政策の継続が必要なのは明らかである。

ただし、それだけで十分か。デフレ脱却後も視野に入れ、環境変化に応じた経済・財政政策のあるべき方向性について、考えを明確にしていくべきだ。

エネルギー政策については「安全を大前提とした原子力発電の利活用」に触れた。首相は総裁選の出馬会見で「原発はゼロに近づけていく」と述べ、その後、反原発の姿勢を転換していった。所信表明で政府方針を語った以上、原発の利活用に積極的に取り組んでほしい。

一方、憲法改正には国民的な議論を積極的に深めるよう期待を示した程度だった。岸田氏が過去の国会演説で語った「条文案の具体化」という言葉が消えたのは残念だ。

政治資金問題でも透明性を高める努力を最大限すると約束したが、具体策が見えない。

首相は代表質問と党首討論を実施した後、衆院を解散する方針だ。総裁選時に審議を十分に行った上で解散する姿勢を示していたため、不信を招いた。

演説で首相は「国民の納得と共感を得られる政治を実践することで、政治に対する信頼を取り戻す」と強調した。そうであるなら、党首討論に加え、全閣僚が出席して行う予算委員会を開いたらどうか。

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首相官邸で記者団の取材に応じる石破首相=4日午後

石破茂首相の今年6月14日のブログが野党議員の間で話題である。首相は衆院解散について記している。「天皇の国事行為を定めたに過ぎない(憲法)第7条を根拠として『今解散すれば勝てる』とばかりに衆議院を解散することは、国会を『国権の最高機関』とする憲法第41条の趣旨にも反する」

▼同時にこうも指摘していた。「内閣不信任案の可決や信任案の否決など、内閣と衆議院の立場の相違が明確となった場合に限り、内閣が主権者である国民の意思を問うために行われるべき」。自民党総裁選でも「国民が判断する材料を提供するのは首相の責任だ。すぐ解散するという言い方はしない」と明言している。

▼それがいざ総裁に当選すると、首相就任前の時点で10月9日に解散して27日に投開票とする考えを表明したのである。「過ちては改むるにはばかることなかれ」とも「君子は豹変(ひょうへん)す」ともいうが、そんな立派なものではない。信念を捨てて党利党略に走ったと言われても仕方がないだろう。

▼かと思うと4日の所信表明演説では、年来の主張だったアジア版NATOにも、日米地位協定の改定にも触れなかった。現実路線に修正したといえば聞こえがいいが、できもしないことを国民に訴えてきたのか。それでは、政権公約マニフェスト)詐欺と怒りを買った民主党の政権奪取と選ぶところがない。

▼「flip―flopping(変節)の名手」。国民民主党玉木雄一郎代表は3日、自身のX(旧ツイッター)で首相を皮肉った。これまた首相が従来の主張をたがえて、追加利上げに慎重姿勢を示した件である。

衆院選は政権が国民の信を問う場だが、ころころと意見が変わるリーダーが信用されるだろうか。


首相所信表明 政治改革の熱意どこへ(2024年10月5日『東京新聞』-「社説」)

石破茂首相が就任後初の所信表明演説を行った。政治改革の具体策を欠く内容で、自民党内基盤の弱さから岸田文雄前首相の路線を引き継ぐ姿勢も目立つ。派閥裏金事件で失った政治の信頼回復に向け、9月の総裁選で訴えた政治刷新の熱意はどこに消えたのか。

首相は演説で、裏金事件について「問題を指摘された議員一人一人と向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」と述べるにとどめ、裏金の再調査、衆院選での裏金議員の処遇には全く触れなかった。

裏金議員を公認するのなら、国民の声よりも党内融和を優先させたとの非難を免れまい。

総裁選では、使途公開が不要な政策活動費の廃止を複数の候補が主張し、首相も「一つの考え方」と応じていたが、演説では言及せず、先の通常国会で成立した改正政治資金規正法の順守と、政治資金の「透明性を高める努力」を約束するにとどまった。

石破氏は若手議員当時「平成の政治改革」の論客として自民党を離れ、新しい政治を模索した経験がある。裏金事件にも当初、厳しい姿勢を示していた。その首相ですら就任早々、改革の決意が揺らぐなら、自民党の金権体質は根深いと言わざるを得ない。

政策面でも首相の独自色は乏しい。過去3年間、国民は暮らしが上向いたと実感するには至っていないにもかかわらず、首相は演説で岸田政権の経済政策を列挙し、継承する姿勢を強調した。

総裁選で訴えた金融所得課税強化や法人税引き上げには触れず、かろうじて「石破カラー」と言えるのは、地方創生交付金の倍増くらいにとどまる。

首相がライフワークとして取り組んできた安全保障政策も、これまでの持論をすべて封印した。

首相は週明けの各党代表質問、党首討論を経て9日に衆院を解散する。私たち有権者は、政権の顔を代えた勢いで、27日の投票までの短期決戦に臨む自民党の選挙戦術に惑わされず、政策や主張を十分に吟味して投票したい。


首相の所信表明 「石破カラー」は消えたのか(2024年10月5日『信濃毎日新聞』-「社説」)

これでは「納得と共感」は得られまい。

石破茂首相が初めて実施した所信表明演説である。自民党の派閥裏金事件について「深い反省」を表明。「納得と共感をいただきながら、安全安心で豊かな日本を再構築する」と述べている。

ただし、「問題を指摘された議員一人一人と改めて向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」としただけだ。再調査に触れず、再発防止策はないに等しい。政治資金も「限りない透明性をもって国民に公開する」と抽象論のみである。

首相は総裁選の当初、裏金事件に関係した議員の公認について「徹底的に議論する」と述べていた。その後、党内の反発で発言を後退させていた。首相就任後はさらに慎重になり、問題を解明して責任を追及する姿勢が見えない。「政治とカネ」の問題を棚上げするのなら看過できない。

首相は9日に衆院を解散する方針を示し、臨時国会で「国民に判断材料を提供する」としていた。衆院選の最大の争点は「政治とカネ」問題である。新内閣の姿勢として、この演説の内容で国民に判断を求めるのか。首相は7日からの代表質問などで詳細に説明する責任がある。

演説では、地方創生に関する施策の交付金を当初予算ベースで倍増させると表明。内閣府防災担当を抜本的に強化し、防災庁の設置に向けて準備するとした。経済関連では、物価上昇に負けない賃上げを実現するため、最低賃金を2020年代に全国平均1500円にする目標を掲げた。

それ以外は理念と抽象論が目立つ演説だった。

社会保障にはわずかしか触れず「国民に安心していただける制度を確立する」などとしただけだ。女性参画も「計画的に取り組む」と述べたに過ぎない。総裁選で「個人的に賛成」として「議論を尽くすべきだ」と訴えていた選択的夫婦別姓には言及しなかった。

安全保障関連も同様だ。「日米同盟を一層強化し同志国との連携強化に取り組む」と述べた一方、これまで何度も強調していた日米地位協定改定に触れていない。

「石破カラー」の多くは既に色あせつつある。首相が最後に述べた「政治に対する信頼を取り戻し、日本の未来を創(つく)り、守り抜く」という決意も、むなしく響くだけである。

抽象的な言葉が並ぶだけで具体策が示されなくては、本気度は疑わしい。政治への信頼を回復させ、疲弊する地方の生活を守るために全力を尽くしてもらいたい。

石破茂首相が4日、就任後初の所信表明演説を国会で行った。自民党派閥裏金事件を巡り「政治への信頼を取り戻し、納得と共感をいただきながら安全安心で豊かな日本を再構築する」と述べた。

裏金問題を指摘された全議員に反省を求め、ルールを守る倫理観確立に全力を挙げるとも訴えた。

順守すべき法律を作る立法府で、あえて「ルールを守る」と強調せざるを得ない現状は残念だ。

そもそも与党だけで成立させた改正政治資金規正法は「抜け穴」が多い。演説で言及したのはこの改正法の順守程度で、踏み込んだ中身は示さなかった。

共同通信の直近の世論調査では、首相交代で「政治とカネ」問題が解決に向かうかについて「向かわない」とする回答が73%に上った。信頼回復には、改革の具体像を練ることが不可欠だろう。

少子高齢化にあえぐ地方を元気づける施策は急務だ。

演説で首相は地方創生について「私が先頭に立って国、地方、国民が永続的に取り組む機運を高める」と語り、交付金を当初予算ベースで倍増するとした。推計人口が210万人を割り込む見通しの本県には歓迎すべきことだ。

今夏は本県を含め全国的にコメが品薄状態になるなどし、食料安全保障の在り方が問われた。首相は演説で農林水産業を「地方の成長の根幹」と述べ、活性化に向けた取り組みに意欲を見せた。

物価高に賃上げが追いつかない中、演説では、最低賃金の目標を2020年代に全国平均で1500円とした。経済の好循環に向けた具体的な取り組みが必要だ。

初代地方創生担当相を務めた首相には、地方の実情を踏まえた持続可能な施策を期待したい。

エネルギー政策では、自給率を高めるため「原子力発電の利活用」を進める考えを示した。岸田文雄前政権の方針を踏襲する形だが、本県にある東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題では、地元の意向を無視した判断は許されない。

気がかりなのは、自民総裁選中の訴えと、首相就任後の発言にぶれが見えることだ。

所信表明演説では、安全保障を巡り、日米同盟を基軸にした「現実的な国益を踏まえた外交を進める」と述べた一方、総裁選で主張していた日米地位協定の改定には触れなかった。

総裁選の最中には否定的だった早期の衆院解散・総選挙を、総裁になり、翻した前例もある。

難しいかじ取りが求められる政策課題はあまたある。聞き心地のいい言葉を重ねても、行動が伴わなくては国民の納得と共感は得られぬと首相は肝に銘じるべきだ。


首相所信表明/「納得と共感」には程遠い(2024年10月5日『神戸新聞』-「社説」)

石破茂首相はきのう、国会で就任後初めての所信表明演説を行い、新内閣の基本方針を示した。

自民党派閥裏金事件に言及し、「国民の信頼を取り戻す」と繰り返した。改正政治資金規正法を順守し、政治資金は「限りない透明性をもって国民に公開する」と述べたが具体策は示さなかった。裏金問題の全容解明は新政権の責務である。政治不信が極まる中、本当に改革を断行する覚悟があるか疑わざるを得ない。

看板政策の地方創生については、当初予算ベースで交付金の倍増を目指すと強調した。人口減少や少子高齢化などの課題をデジタルの力も活用して解決するため「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、今後10年間で集中的に取り組む基本構想を策定するとした。地方の期待は大きいが、既存施策の焼き直しに終わらないよう現場の声に十分耳を傾ける必要がある。

防災分野では「石破カラー」がにじんだ。内閣府防災担当の予算と人員を抜本強化し、専任閣僚を置く防災庁の設置へ準備を進めると訴えた。さらに「災害関連死ゼロ」へ避難所の在り方を見直し、平時から官民連携体制の構築を目指すという。ではどんな機能を持たせるのか。他省庁との役割分担など実現への道筋も丁寧に説明してもらいたい。

安全保障を巡り、日米同盟の強化や同志国との連携を強調したが、持論の日米地位協定の改定、北大西洋条約機構NATO)のアジア版創設には一切言及しなかった。

岸田政権の路線を継承するとした経済政策では「物価上昇を上回る賃上げ」の実現へ、最低賃金を2020年代に全国平均1500円とする目標を改めて掲げた。早急に経済対策を取りまとめ、物価高の影響を特に受ける低所得者世帯への支援などを進める考えも示した。しかし自民党総裁選で触れた金融所得課税の強化に関しては明言を避けるなど「分配」政策の中身は物足りない。

一方、総裁選で争点となった選択的夫婦別姓制度導入への賛否は示さなかった。社会保障制度の持続性確保については「多様な人生の選択肢を実現できる柔軟な制度設計を行う」と抽象的だ。岸田政権が先送りした防衛増税少子化対策の財源確保、国民負担の在り方への説明がないのも不誠実ではないか。

首相は9日の衆院解散を表明した。選挙を控え痛みを伴う政策を語らない姿勢は、首相が力説する「国民の納得と共感」とは程遠い。

有権者に判断材料を提示するのは政治の責任だ。代表質問や党首討論だけでなく、予算委員会での議論は欠かせない。野党との論戦に正面から向き合わねばならない。


石破首相の所信表明 地方創生を強力に進めよ(2024年10月5日『山陽新聞』-「社説」)

「ルールを守る」「日本を守る」「国民を守る」「地方を守る」「若者・女性の機会を守る」―。石破茂首相による就任後初の所信表明演説は、自民党総裁選の時からアピールしていたこの5本柱に沿って決意が述べられた。

中でも自治体の首長らをはじめ地方から期待が大きいのが、地方創生を軸とした「地方を守る」だ。人口減少対策や東京一極集中是正の地方創生は、政府が2014年から取り組み、石破氏は初代の担当相を務めた。人口最少の鳥取県選出であり、かねて地方の振興へ目配りしてきた経緯もある。停滞している地方創生の再起を図ってほしい。

演説で石破氏は、「地方こそ成長の主役」と位置づけた。地方の振興を経済成長と絡めたのは特筆すべきことだろう。アベノミクスで東京を中心とした大手の製造業などが業績を伸ばしても、経済効果は大きく広がらなかった。全国的に割合が大きい、地域に密着したローカルな産業に及ばなければ日本の再生にはつながらない。

具体的には石破氏は、地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増を目指すことや、全国の取り組みを支援する「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、今後10年間で集中的に取り組むべき基本構想を策定するとした。地方の成長の根幹とする農林水産業について、最初の5年間に計画的で集中した施策を講じるともした。地方創生と表裏一体だとして「日本を守る」の項目では、若者・女性に選ばれる地方、多様性のある地域分散社会をつくることなども訴えた。これら施策の内容の充実が求められる。

「地方創生の原点に立ち返る」としているだけに、当初に打ち出されたものの中途半端にしぼんだ形の政府機関や企業拠点の地方移転に再び力を注ぎ、着実に結果を出すよう期待する。「私が先頭に立って、国・地方・国民が一丸となって地方創生に永続的に取り組む機運を高めていく」とした決意は、国民との約束と受け止めておきたい。

「国民を守る」で、最低賃金の全国加重平均を2020年代に時給1500円にするとの目標を掲げたのは注目される。現在1055円。5年で達成するにはかつてない約90円もの大幅引き上げが毎年必要となる計算だ。経営の脆弱(ぜいじゃく)な中小企業が耐えられるのか、実現性が問われる。

安全保障分野では、自身が提唱した「アジア版NATO北大西洋条約機構)」構想や総裁選で主張していた日米地位協定の改定といった、踏み込んだ政策には触れなかった。持論を封じた形だが、政権の安定的な船出を優先したと言えよう。

政治資金問題なども含め、「納得と共感を得られる政治を実践することにより信頼を取り戻す」という。党内基盤が弱い中で思い描く政策を貫き通すためには、世論を味方につけることが必要だ。


「じゃない方」内閣の船出(2024年10月5日『山陽新聞』-「滴一滴」)

最近メディアで「じゃない方」という表現がよく使われている。元々お笑いコンビのうち影が薄い一方を冷やかし気味に呼んだのが広まったらしい

▼こうした芸人さんはその実、文筆、料理といった別分野で相方とは違う才を見せることも多いから、今の若い人はとげある言葉と捉えないようだ。むしろ、その人らしさを肯定するニュアンスを含む

▼このご仁も、長らく自民党の「じゃない方」であればこそ、期待されたのではなかったか。石破茂首相である。最大派閥を率いた安倍元首相らと距離を置き、率直に物言う姿勢で世論の支持を集めてきた

▼きのう初めて臨んだ所信表明演説でも、真っ先に、派閥裏金事件で失った国民の信頼を取り戻す決意を述べた。それなのに。発言とは裏腹に、これから一気に衆院選になだれ込み、裏金議員を原則公認する気配が強まっている

▼自らが意図する政治を実現しようと思えば、党の都合をおもんぱかり、求心力を高める必要はあろう。だが、新政権に求められるのは、けじめをつけることだ。その上で、地方や弱者への視点を持つ石破色の未来像を描いてほしい

▼首相と同じ鳥取県出身の尾崎放哉は、五七五の定型「じゃない方」、自由律の俳人だった。〈底がぬけた杓(しゃく)で水を呑(の)もうとした〉。難しいと分かっていても、あえて挑む。ぜひとも気概を。


石破首相の所信表明 物足りなさが拭えない(2024年10月5日『中国新聞』-「社説」)

物足りなさを感じた国民は多いのではないか。

石破茂首相がきのう初の所信表明演説に臨んだ。自民党派閥の裏金事件などで失った信頼の回復に向け、自身の覚悟や政治改革のフレームを示す絶好の機会だったはずだ。

首相は「国民の信頼を取り戻す」と繰り返したが、政治資金の在り方は「限りない透明性をもって国民に向けて公開することを確立する」と述べるにとどまった。

他党からは企業・団体献金や使途報告の必要がない政策活動費の廃止などの改革案が出ている。9日に衆院を解散する首相は、その前に有権者の判断材料をそろえるとしていたではないか。改革の具体策を早急に示すべきだ。

裏金を得た議員の処遇も焦点だ。所信表明では「問題を指摘された議員一人一人と改めて向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」と述べた。

共同通信社が石破内閣発足を受け実施した世論調査で、事件に関与した議員の公認を「理解できない」とする回答が75・6%に上った。それなのに身内だけで事を収め、議員に国会での説明を迫る気もないようだ。公認すれば事件を不問に付すのと同じだ。

事件の真相究明と政治資金規正法改正が不十分だったため岸田文雄前首相は退陣に追い込まれた。そのことを忘れているのではないか。

所信表明で語った政策は総裁選の公約をベースとした内容だが、日米地位協定改定などの持論は封印した。実現の見通しがつかないことを自覚するからだろう。経済政策は岸田政権の踏襲だ。総裁選中は前向きだった選択的夫婦別姓にも触れなかった。

石破カラーが薄くなる中で力が入ったのが地方創生である。首相が初代担当相を務め、思い入れも強い。地方重視の姿勢は評価したい。

政府が地方創生を掲げて10年。東京一極集中の流れは変えられなかった。背景にあるのは地方の社会・経済にはびこる男女格差や社会保障の不安だ。結婚や出産に二の足を踏むことにつながっている。

これらは自治体単位での取り組みが難しい。女性参画は「国民的議論を主導して制度改革」、社会保障は「柔軟な制度の再構築」を掲げた。いずれも急ぐ必要がある。

自治体に配る交付金を当初予算比で倍増するのは結構だが、どのような効果を見込むのかが判然としない。ばらまきにならぬよう、改めて地方の創意工夫を呼び起こす制度設計に努めたい。

岸田氏が繰り返し唱えた「核兵器のない世界」への言及はなく、地球規模の課題として「軍縮・不拡散」に触れただけだった点は見過ごせない。首相自身は、日本政府が背を向けてきた核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加を「選択肢」としている。その点を盛り込んでもらいたかった。

石破内閣発足時の支持率50・7%は第2次安倍内閣以降で最も低い。首相の言う「国民の納得と共感」を得るには所信表明で欠いた具体策を国会論戦で示さねばなるまい。


所信表明(2024年10月5日『中国新聞』-「天風録」)

守ることに熱心なのは「国防族」の政治家だからだろうか。きのう就任後初めて所信表明演説に臨んだ石破茂首相。地に落ちた政治への信頼回復に向け、五つのことを守ると強調した

▲ルール、日本、国民、地方、若者・女性の機会。この5本柱を政策の中心に据えるという。当たり前と思える項目ばかりで目新しさを欠く。それでも、多様性のある地域分散型社会や人命最優先の防災立国といった目標に限れば、共感を呼びそうだ

▲気になるのは、派閥の裏金事件に関与した国会議員の扱いだ。衆院選自民党が公認するのは「理解できない」が、世論調査で8割近くに達した。党の処分は甘過ぎて、国民の多くは納得していない証しといえよう

▲それもそのはず、裏金衆院議員の大半は政治倫理審査会への出席要求に応じなかった。やましくないなら、なぜ出席して説明を尽くさなかったのか。衆院解散となれば、「けじめ」を付けないまま逃げ切られてしまう

▲ルール破りを見過ごしていると、周りに悪影響を与えかねない。信頼回復を望むなら、原則公認などあり得ない。そんな判断が示されれば、「ルールを守る」という所信表明の約束を早々と破ることになる。

石破首相が所信表明 前言撤回では期待失う(2024年10月5日『山陰中央新報』-「論説」)

威勢が良かった「石破節」はどこかへ行ってしまったのか。

石破茂首相が就任後初めての所信表明演説に臨んだ。自民党総裁選の公約をベースにした内容で、防災・減災・国土強靱化(きょうじんか)の取り組みを推進するため「専任の大臣を置く防災庁の設置に向けた準備を進める」と持論を挙げ、強い決意を示した。

一方で、総裁選中に提唱した日米地位協定改定や「アジア版NATO北大西洋条約機構)」構想などは封印。前向きだった選択的夫婦別姓や富裕層への課税強化などにも触れず、「石破カラー」は薄れた印象だ。

山陰で暮らすわれわれにとって注目されるのが、地方創生の取り組みだ。

石破首相は「地域が自主性と責任を持って、おのおのの知恵と情熱を生かし、小さな村も大きな町もこぞって地域づくりを自ら考え、自ら実践していく」という故竹下登元首相の言葉を引用。「地方こそ成長の主役」と位置付け、広く知恵を出し合い、地域の可能性を最大限に引き出すため「地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増することを目指す」と意気込んだ。

また人口減少対策で「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、今後10年間で集中的に取り組む基本構想を策定することも表明した。

素直に歓迎したいところではあるが、「言うは易(やす)し、行うは難し」。衆院解散・総選挙の日程決定の経過を見る限り、果たして本当に実現できるのか、と疑念を抱いてしまう。

石破氏は総裁選の討論会で次期衆院選の時期を巡り「本当のやりとり(ができるの)は予算委員会だと思っている」と言及。野党との論戦を通じ、国民に政権選択の審判材料を提示すると表明し、11月以降の投開票を選択肢にしていた。論客を自負しており、野党との政策論争は望むところだっただろう。

ところが、首相就任に当たり「10月9日解散、27日投開票の日程で行う」を表明。7、8日に衆参両院本会議での各党代表質問、9日に党首討論を行い、予算委は実施しないという。

代表質問は質問と答弁をまとめて行う「一方通行」で、通り一遍のやりとりに終始し、議論が深まらない。党首討論は「一問一答」形式で与党党首の首相も質問できるが、通常、時間の制約から議論は進展せず、閣僚が討論に参加することはない。

終日に及ぶこともある予算委であれば、幅広いテーマで突っ込んだ質疑ができる。その分、野党の追及を受ける首相はもちろん、閣僚の見解や資質がつまびらかにされる可能性がある。

石破氏が本来の意思に反して予算委を省くのは、「刷新感」や「ご祝儀相場」で支持率が高いうちに解散を求める与党内の声に押されたから。党内基盤が脆(ぜい)弱(じゃく)なだけに、周囲への配慮が色濃く出た格好だ。

党派閥の裏金事件でも当初は「(関係議員を次期衆院選で)公認するのにふさわしいか、徹底的に議論すべきだ」と勇ましかったが、「党選挙対策本部で判断する」とトーンダウンした。

石破氏は自民党内にあっても臆さずに政権批判を展開し、主張を貫く姿勢を見せてきたからこそ、国民の高い期待を集めたはず。都合次第で前言撤回するようでは「ルールを守る」という所信表明の言葉は軽くなる。


国民の心に響く言葉を(2024年10月5日『山陰中央新報』-「明窓」)

「議員生活38年、多くの足らざることがあり、多くの方の気持ちを傷つけた。嫌な思いをされた方が多かったと思う」。9月27日、自民党総裁選の決選投票前にあった最後の演説。石破茂氏(衆院鳥取1区)のスピーチは「おわび」から始まった

物言う姿勢を貫き、「党内野党」として安倍政権などに批判的だった石破氏。岸田政権の実績に触れ「心から敬意を表する」と述べるなど、5分間の訴えは党内へのメッセージ性が強かった

制限時間を超えても演説を続け、話をまとめきれなかった高市早苗氏と比べ「格が違った」との感想を、石破陣営以外の参院議員から聞いた。決選投票で逆転勝利し、総裁、そして首相の座を射止めた要因の一つだろう

思えば、この頃から党内に配慮する兆しが見えていたかもしれない。1週間後のきのう、首相として臨んだ所信表明演説は、国民に向けた強いメッセージが発信できただろうか。派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡る対応は「まずは問題を指摘された議員一人一人と改めて向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」としたが、政治の信頼回復への具体的な道筋を示したとは言い難かった

政治家にとって「言葉が命」なのは言うまでもない。衆院解散・総選挙を巡る判断など宰相として発言と行動の整合性が早速問われている。党内ではなく国民の心に響く言葉が聞きたい。(吏)

所信表明演説】「納得と共感」は遠い(2024年10月5日『高知新聞』-「社説」)

政治の信頼回復へ「納得と共感」を得ようとしても、具体策が伴わなければ空回りしてしまう。どう取り組むのか、その姿勢に厳しい視線が向けられる。

石破茂首相が就任後初の所信表明演説を行った。自民党派閥裏金事件を巡り、政府不信を招いたとして深い反省を表明し、政治への信頼を取り戻すと述べた。

当然だ。だが、そのために実効性のある対策がとられるのか心もとない。裏金問題を指摘された議員一人一人と向き合い、ルールを守る倫理観確立に全力を挙げるとする。この程度の対応で納得を得られるとは思えない。

改正政治資金規正法の徹底順守も取り上げた。政治資金は透明性を持って国民に公開する制度を確立すると訴えた。改正法は透明性確保には不十分との見方は根強い。詳細な制度設計を急ぐ必要があり、現状で幕引きを図るようなことがあっては不祥事が繰り返されかねない。

そもそも裏金事件は実態が解明されていない。それにもかかわらず、再調査には否定的だ。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係解明も曖昧になっている。

野党と論戦を交わす予算委員会について、石破氏は衆院解散前に開催する必要性に触れたこともあった。ところが、解散は早いほうがいいという声に押されている。本格論戦を避けていては改革への姿勢が疑われる。政治の信頼が高まらず、国会軽視にもつながる。

石破氏は、政治を信頼している国民が決して多くないと言及した。同時に、政治は国民を信じているかとも問い、そのうち国民が忘れてしまうだろうと思っていないかと警告した。重い指摘だ。

もっとも、国民が忘れるのではない。政治が高をくくって課題と正面から向き合わないことが、不信の解消を遠ざけていると受け止めるべきだ。論戦回避もそれに連ならないか、自問してみる必要がある。

地方創生には意欲的だ。再起動させ、自身が先頭に立って取り組むと決意を表明した。全国の取り組み支援へ、地方創生の交付金を増額する考えを示した。「地方こそ成長の主役」と位置付けるのは初代地方創生担当相であり、自身の出身地への思いもあるのだろう。

人口減少克服と東京一極集中の是正を掲げた地方創生は10年になる。しかし、大きな流れは変えられていない。待ったなしの重要施策であり、自治体の主体的な対応と国を挙げた取り組みが必要なのは間違いない。検証を重ねながら成果を重ねていくことが欠かせない。

国民生活に物価高がのしかかる。石破氏は経済対策の取りまとめを閣僚に指示した。裏付けとなる補正予算編成は衆院選後となる。財政出動と財政健全化との兼ね合いをどうするのかも論点となる。

厳しくなる安全保障環境への危機感は強い。抑止力を追求する姿勢をにじませた。これも財源の議論を避けることはできない。


首相の所信表明 「石破色」はどこへ行った(2024年10月5日『西日本新聞』-「社説」)

「石破カラー」が薄い印象は否めない。自民党内の融和と間近に迫る衆院選を意識して、持論を抑えたようだ。

石破茂首相が衆参両院の本会議で、新政権の方針を披露する所信表明演説をした。

国民は大いに注目したはずだ。首相が衆院を9日に解散すると表明し、所信表明演説とそれに対する質疑で「国民に判断材料を示す」と述べていたからである。

その重い意義にふさわしい内容だったとは言い難い。

真っ先に言及したのは、派閥の裏金事件に象徴される政治資金問題だった。「失った国民の信頼を取り戻す」と訴えたものの、具体的な手段が足りない。

法を順守する。透明性を高める。説明責任を果たす。政治家の心構えは聞き飽きた。この程度では、首相が掲げた「納得と共感」を国民から得ることはできまい。

首相が初代担当相を務め、新政権が力を入れる地方創生はどうか。「地方こそ成長の主役」とうたい、地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増すると語った。

地方創生は過去10年にわたり、地方に巨額の交付金が投じられた。使い道と効果には問題点が指摘されている。十分な検証をせずに予算規模を膨らませるようでは、ばらまきの批判は免れない。

首相が目指す防災省については、当面は内閣府防災担当の予算や人員を拡充し、専任の大臣を置く防災庁の設置準備を進めるという。防災力を強化する手段として新たな省庁が必要かどうかは意見が分かれそうだ。

経済関連では物価上昇を上回る賃上げに取り組み、最低賃金2020年代に全国平均1500円にする目標を打ち出した。基本政策は岸田文雄政権から引き継ぐため、新味に欠ける。

自民党総裁選で波紋を呼んだ金融所得課税の強化や、法人税引き上げには触れなかった。党内で少なからず反発があったからだろう。

こうした配慮と慎重な対応は、石破氏が長い政治活動の中で最もこだわりを持つ安全保障政策でも同じだ。

いずれも党内や専門家から実現性を疑問視されている。党内基盤がもろい現状では、反発が広がるのを避けたかったに違いない。

政権発足から1週間もたたないのに、首相は守りに入っているように見える。

持論がトーンダウンしているのは明らかだ。安保政策のような国会論戦の突っ込みどころも引っ込めた。所信表明演説から抜け落ちた論点にこそ「石破カラー」の本質があるのではないか。

衆院選までわずかな時間しか残っていない。首相は政権の理念や具体策をもっと国民に語るべきだ。

首相所信表明 石破カラーどこへ行った(2024年10月5日『熊本日日新聞』-「社説」)

石破茂首相は就任後初めて臨んだ所信表明演説で、外交、経済など多くの課題で岸田政権の方針を踏襲した。政策の安定を重視したのかもしれないが、改革に向けた独自色に欠けた。

自民党派閥の裏金事件など「政治とカネ」を巡る問題に演説冒頭で言及した。国民の政治不信は極めて深刻なだけに、危機感の表れとみたい。だが「信頼を取り戻す」と繰り返すばかりで、具体策をほとんど語らなかった。首相が基本姿勢に掲げる「国民の納得と共感」を得るには程遠い。

裏金事件を受け、首相は「ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」と強調。「限りない透明性」を持ち、改正政治資金規正法を順守すると約束した。ただ、国民が知りたいのは「その先」である。企業・団体献金を禁止するのか。使途の細かな公開義務がない政策活動費を廃止するのか。解散総選挙を間近に控えるからこそ、はっきりさせるべきだった。

政権の最重要課題の一つに「地方創生」を挙げた。地方の取り組みを支援する交付金の倍増を目指し、今後10年間に集中的に実施する基本構想を策定するとした。

「地方こそ成長の主役」との主張に異論はない。主要産業である農林水産業を持続、発展させるほか、観光業の活性化、文化・芸術への支援、移動の足確保などに目を配るという。地域全体でその可能性を引き出し、永続的に取り組むべく「私が先頭に立つ」と述べた。その実行力が問われる。

物価高対策では、2020年代最低賃金を全国平均1500円とする目標を示した。働く人にとって望ましい半面、地方の中小企業には人手不足もあって容易ではないのが現状だ。国策として賃上げを急ぐあまり、都市と地方の賃金格差が広がれば「地方創生」も看板倒れとなりかねない。適切な価格転嫁と生産性向上に向け、中小企業への支援強化を求めたい。

首相はきのう、秋に取りまとめる経済対策の策定を指示した。物価高に苦しむ低所得者向けの給付金などが軸となる。岸田政権の政策をなぞった感は否めない。

経済対策だけではない。外交・安全保障では、自民総裁選で主張した日米地位協定の改定、アジア版NATO北大西洋条約機構)創設の持論を封印した。エネルギー政策でも「原発ゼロに向けて最大限努力する」との主張は後退。脱炭素化を進めながら、原発の利活用を推進するとした。

防災庁の設置準備こそ明言したものの、自民総裁選で論点となった選択的夫婦別姓、富裕層への課税強化など税のあり方などにも触れなかった。衆院選が迫り、自民の政権公約や党内のさまざまな意見に配慮したのだろう。有権者の賛否が割れる争点をぼかした所信は物足りない。

政治家のためではなく「国民のための政治を実現する」。首相は力を込めたはずだ。国会論戦もそこそこに選挙に臨むのが「国民のため」だろうか。国民の選択を甘く見ていると言わざるを得ない。


所信表明(2024年10月5日『長崎新聞-「水や空」)

過去に例のないスピードで衆院の解散・総選挙に踏み切ることを決めたのは、他でもない新首相自身だ。その決断と引き換えに、就任直後の「ご祝儀相場」や「ハネムーン期間」は、潔く返上する覚悟を固めておられたはずだと推察する

▲それにしても、どこの調査でも支持率が半分に届くかどうか…の厳しい船出は想定外だったかもしれない。前言を翻した、論戦を逃げた、ウソつき。ブーイングの合唱を背に石破茂新首相が昨日、国会の所信表明演説に臨んだ

▲「まずは…国民の政治不信を招いた事態について、深い反省とともに触れねばならない」と始まった演説だったが、信頼回復の具体策には触れずじまい。案の定、野党席から遠慮のないヤジが飛ぶ

▲財政では「ワイズ・スペンディング(賢い支出)」、地方創生では「多様なステークホルダー(利害関係者)」…カタカナ言葉の連発も交えながら、演説は最終盤の聞かせどころへ

▲政治は国民を信じているか、国民を信じない政治が国民に信じてもらえるはずがない-と首相。「勇気と真心を持って真実を語り、納得と共感の政治を」と得意のフレーズに力を込めたが

▲気になる。丁寧に“信じてますよ”と念を押された私たちはこの先、彼の口から何のどんな話を聞かされるのだろう。不安も膨らむ。(智)


石破首相所信表明 国民の納得は得られない(2024年10月5日『琉球新報』-「社説」)

「政治の信頼回復」は石破内閣の命題ではなかったか。この程度の所信表明で国民の納得が得られると考えてはならない。沖縄に関する姿勢も評価できるものではない。

石破茂首相が就任後初の所信表明演説を行った。政治不信の払拭に向けた姿勢は不十分だと言わざるを得ない。「改正された政治資金規正法を徹底的に順守し、限りない透明性を持って国民に向けて公開する」と述べたが、国民はこの法改正で政治の信頼回復が進むとは考えていない。

共同通信が6月に実施した全国電世論調査で、改正政治資金規正法によって「政治とカネ」の問題が解決するか聞いたところ「効果がない」「あまり効果がない」という回答は78・9%に上った。

改正政治資金規正法は政治改革の名に値しないと国民は考えているのだ。石破首相はそのことへの認識が薄いのではないか。国民が求めているのは政治の信頼回復に向けた具体的な施策である。

所信表明は「ルールを守る」「日本を守る」「国民を守る」など5つの柱を立てて、新内閣の政治姿勢を表明した。しかし、総裁選で掲げた公約や発言からは後退している。その一つが日米地位協定改定である。

総裁選で石破首相は候補者の中で唯一、日米地位協定見直しに取り組む考えを表明し、他候補との違いを際立たせた。ところが、所信表明で言及がないのは理解に苦しむ。そもそも、石破首相は地位協定のどの条文を改めるのか具体的に示していない。沖縄県や渉外知事会、全国知事会地位協定改定要求に向き合う必要がある。

沖縄に関しては「基地負担の軽減に引き続き取り組む。在日米軍の円滑な駐留のためには地元を含む国民の理解と協力を得ることが不可欠」と前置きし、普天間飛行場返還に伴う辺野古新基地建設を進める考えを表明した。新基地計画への固執は許しがたい。

完成時期が定まらず事業費が際限なく膨張し続ける辺野古新基地建設を強行し続ける限り、沖縄の基地負担軽減は実現しない。県民が求めているのは早期の普天間の危険性除去である。それは県民の生命・財産を守るためであり、「在日米軍の円滑な駐留」のためではないのだ。

石破首相は「沖縄では、国内最大の地上戦が行われ、多くの県民が犠牲になられたこと、戦後27年間、米国の施政権下に置かれたことなどを、私は決して忘れない」と述べた。ならば、施政権返還から52年を経てもなお基地の重圧に苦しんでいる沖縄の現状を直視し、新基地建設など基地県内移設によらない負担軽減策を模索すべきである。

石破首相は総裁選で「衆院選での判断材料を提供する必要がある」と述べていた。初の所信表明は判断材料にはなり得ない。今後の国会審議で国民の判断材料に足る説明に尽くすべきである。


石破氏を表す言葉(2024年10月5日『琉球新報』-「金口木舌」)

1980年代に人気を博した女子プロレスラーダンプ松本さんを描く動画配信大手ネットフリックスのドラマ「極悪女王」が話題だ。気の優しい少女が「極悪」のヒール役に変化する様をお笑い芸人・ゆりやんレトリィバァさんが熱演する

▼こちらの変化はいただけない。石破茂首相は自民党総裁選で衆院選前に予算委員会での野党との論戦の必要性を指摘していた。だが、首相就任前にはトーンダウン。予算委などは行わず、早期解散し、27日投開票の衆院選日程を打ち出した

▼これは単なる日程変更とは言えない。派閥裏金事件の逆風がある中、内閣発足による「ご祝儀相場」の効果があるうちに選挙へ突入した方が得策だと考えたとみられている

▼総裁選で掲げた日米地位協定見直しも急激にしぼむ。改定に関する外相への指示はなく、首相就任翌日のバイデン米大統領との電話会談でも触れられなかった

▼「党内野党」と言われ、歯に衣(きぬ)着せぬ発言が魅力だっただけに、首相になった途端の変化には落胆する人も多かろう。「自民を変える前に、自身が変わってしまった」。今の石破氏を表す言葉はこれに尽きる。

自民党総裁選や首相就任会見で意欲を示していた日米地位協定の改定は語られなかった。「石破カラー」は早くも消えつつある。

「外交・安全保障」分野で沖縄について触れたが、県民が最も聞きたかった日米地位協定改定への言及はなかった。語られたのは、日米同盟による抑止力・対処力の一層の強化である。

石破氏はこれまで「党内野党」的スタンスで、時の政権批判もいとわなかった。歴代首相が手を付けなかった地位協定改定に踏み込み「運用の改善で事が済むとは思わない。見直しに着手する」と明言していた。

県が求める地位協定改定に近づくのではとの期待もあったが、早くも持論を封印した形だ。

所信では、沖縄戦で多くの県民が犠牲になり、戦後27年間米国の施政下に置かれたことを「私は決して忘れない」とし、基地負担軽減に取り組むと言いつつも「辺野古への移設工事を進める」とこれまでの政権と変わらない姿勢を示した。

沖縄振興の経済効果について「十分に域内に波及しているのだろうか」と問題提起したが、私たちが聞きたかったのは具体的な解決策である。

石破氏は、岸田文雄前首相の派閥の支援で総裁選を勝ち抜いたとされる。党内基盤の弱さゆえ石破カラーを捨てざるを得なかったのか。党内運営と自身が目指す政策の溝をどう埋めるのか。石破氏にはその手腕が問われる。

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所信の冒頭で石破氏は「政治への信頼を取り戻し、納得と共感をいただきながら安全安心で豊かな日本を再構築する」と宣言。「ルールを守る」として自民党派閥裏金事件に触れた。

だが「ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」と抽象論にとどまり、演説後、裏金事件の関係議員を公認するかどうか問われても「何も決まっていない」と濁した。

総裁選で前向きな姿勢を示していた「選択的夫婦別姓制度導入」にも触れず、発言は後退している。

演説で最も分量を割いた地方創生は、当初予算ベースで交付金の倍増を目指し、今後10年間集中的に取り組む基本構想を策定する方針を示した。

だが2014年から10年間の取り組みで目立った成果は出ておらず、前途は多難だ。

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来週、衆参両院で各党代表質問や党首討論が開かれる。

今回の所信表明では、新政権が何を目指し、何をするのかがいまひとつ見えてこなかった。

本来なら、予算委員会を開催し、持論の地位協定改定や「政治とカネ」を巡る問題について具体的に語るべきだ。

説明を果たさなければ、国民にそっぽを向かれ、衆院選にも影響を与えかねない。そうなれば党内基盤はますます弱まり、政権の維持さえ難しくなるだろう。石破氏は逃げずに正面から向き合うべきだ。