衆院選2024 に関する社説・コラム(2024年10月19日) (original) (raw)

地方の衰退 衆院選/一極集中是正する戦略示せ(2024年10月19日『福島民友新聞』-「社説」)

人口が減り、地域産業の衰退で働く場が失われる結果、若者が大都市部に流出する悪循環に歯止めがかからない。各党、候補者は地方の危機を直視し、将来への活路を示すことが重要だ。

石破茂首相は地方を「成長の主役」に位置付け、政府の地域活性化政策「地方創生」を強化するとしている。自民党地域活性化に向け、自治体への交付金の倍増を目指すと公約に掲げた。公明党も地方創生推進の立場だ。

東京圏の転入超過数は地方創生が本格化した2014年よりも23年の方が多い。政府自体が「東京圏への一極集中の大きな流れを変えるに至らず、地方が厳しい状況にある」と地方創生を総括している。成果があったと自己評価したものは移住者増加など限定的だ。

交付金の倍増が地域活性化につながる根拠を示さなければ、与党は選挙対策のばらまきと批判されても仕方あるまい。

立憲民主、国民民主の両党は旧民主党政権下で創設した、地方の裁量で使える一括交付金の復活を打ち出した。ただ地域活性化の具体的な取り組みは、デジタル技術の活用や観光振興など与党と似通った政策の羅列にとどまる。

自治体だけでなく、民間を巻き込んで活力を生み出すことが重要だ。地域の自主性や独自性を引き出す各党の戦略が問われる。

県の昨年の調査では、県内出身の大卒者らの多くが「福島に志望する企業がない」ために、県外に就職したことが分かった。働きたいと思える企業が地方にあれば若者の流出を防げる可能性がある。

地域の中小企業育成と併せて必要なのは、東京などに集中する本社機能の地方移転の促進だ。自民は移転に関する政策を推進するとし、国民は人口密度に応じた法人事業税の減免制度創設などで促進を図るとの公約を掲げている。

魅力ある企業をどう地方に導き、雇用の場を創出するか。各党は知恵を絞り論じてほしい。

国の研究機関の推計では、50年に県内14町村の人口が半減する。将来、行政機能や電気、ガス、水道などをどう維持していくかは今考えなければならない課題だ。

一般ドライバーが客を運ぶ「ライドシェア」の拡大による地域交通の維持、郵政事業が地域を支えるネットワークづくりなど、各党の公約には人口減少対策が盛り込まれている。ただ対症療法的な面があるのは否めない。

人口が大幅に減った地域で暮らし続けるためには、社会の仕組みから変えなければならない。各党は根本的な対策を語るべきだ。

衆院選2024 米中対立下の外交 地域安定に資する戦略を(2024年10月19日『毎日新聞』-「社説」)

キャプチャ

射撃をする機動戦闘車=静岡県東富士演習場で2024年5月26日午前11時42分、渡部直樹撮影

東アジアの安全保障環境が厳しさを増している。そうした中、日本がどのような外交・安保戦略を描くべきかが問われる選挙だ。

海洋進出を強める中国は、沖縄県尖閣諸島周辺の領海に侵入を繰り返す。今夏には中国軍機による初の領空侵犯も起きた。台湾を包囲する形での大規模な軍事演習も実施している。

核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮は、ウクライナ侵攻を続けるロシアに兵器などを提供し、事実上の軍事同盟化を進める。

長らくアジアの安定を支えてきた米国の関わり方も変容しつつある。地域諸国に対して負担や役割の拡大を求める姿勢が目立っており、日本もその例外ではない。

抑止だけでなく対話も

岸田文雄前首相は中国の脅威を念頭に「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と訴え、防衛力の強化を進めてきた。関連予算を2027年度に国内総生産GDP)比2%まで倍増させる計画だ。石破茂首相も岸田外交を踏襲する構えだ。

ただ、抑止力一辺倒では、相手国の疑心暗鬼を招き、かえって緊張を高める恐れがある。

対話を通じて信頼を醸成し、関係安定化への糸口を探ることが不可欠だ。しかし、各党の選挙公約からは、どのような対中戦略を組み立てようとしているのかが読み取れない。

両国にとって良好な経済関係の維持は死活的に重要だ。だが、米中対立下、経済安全保障を重視する流れが強まっている。行き過ぎれば日中双方の国益を損なう。

中国は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への加盟を希望している。交渉をてこにして、国際ルールを順守するよう促すことも一案だ。

米国の内向き化が顕著となる中で、日米同盟の強靱(きょうじん)性が試されている。

衆院選直後の11月には米大統領選が控えており、日米双方で新政権が発足する。

米国では、民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領が競り合う情勢だ。いずれが勝利しても、中国に対しての強硬な姿勢は変わらないだろう。

自民党立憲民主党は、日米同盟を基軸とする方針では共通している。国益を損なわないために主張すべきは主張しながら、関係を深化させる難しいかじ取りを迫られる。

自民の公約には盛り込まれなかったが、首相は党総裁選でアジア版NATO北大西洋条約機構)の創設を提唱した。米側は「非現実的だ」と冷ややかにみており、今後の議論次第では、日米間のあつれきになりかねない。

問われる日本の主体性

在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の改定については、多くの政党が公約で言及している。米軍基地が集中する沖縄の負担軽減につながる改定にしなければならない。

だが、特権を認められてきた米側との交渉は難航が予想される。与野党は協定見直しの道筋を明確に示すべきだ。

キャプチャ2

唯一の戦争被爆国として、核廃絶に向けて各国に粘り強く働きかけなければならない。その第一歩となるのが、核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加である。しかし、米国の核の傘を含めた抑止力を重視する自民は後ろ向きだ。再考を求める。

首相は米シンクタンクへの寄稿で、アジア地域における米国の核持ち込みや核共有に言及した。日本が堅持してきた「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則と相いれない。

ウクライナ危機などで国際秩序が大きく揺らぐ中、法の支配を掲げる日本が果たすべき役割は何か。各党は選挙戦を通じて提示する責務がある。

対立する米中両国がアジアを舞台に衝突するような事態は何としても避けなければならない。地域の安定を取り戻すため、主体的でしたたかな戦略の構築に向けて議論を深める時だ。


多様性の尊重 人権守る社会への選択(2024年10月19日『東京新聞』-「社説」)

衆院選では女性差別をなくすジェンダー平等や性的少数者(LGBTQ)らの人権尊重も問われている。代表的な争点は選択的夫婦別姓同性婚導入の是非。多様性を尊重する時代の流れを踏まえ、各党・候補の公約を吟味したい。

まずは、石破茂自民党政権における男女比を見てみる。閣僚19人中、女性は2人だけ。自民党衆院選候補者の女性割合も1割台で最低レベルだ。日本はジェンダーギャップ指数で146カ国中118位と厳しい評価を受けており、政権自体が男性優位社会を象徴すると言わざるを得ない。

根強い男女格差は女性に家事・育児を強いた家父長制の名残であり、結婚時の改姓も女性差別としてとらえることができる。

現行法では結婚時に男女どちらが改姓してもいいが、約95%は妻側の改姓で、名義変更など改姓に伴う負担が女性側が一方的に強いられているのが現実だからだ。

最高裁は2021年、夫婦同姓を義務付ける現在の婚姻制度を合憲と判断しつつ、将来違憲となる可能性に言及し、国会に対応を促した。経団連も選択的夫婦別姓制度の早期導入を提言している。

自民党は選択的夫婦別姓に消極的で、立憲民主、公明、共産、国民民主の野党各党は推進の立場。日本維新の会は旧姓使用に法的効力を与える制度を掲げるなど、選択的夫婦別姓の是非は、与野党の違いが鮮明な争点でもある。

同性婚の導入へ向けた議論も、LGBTQの人権を守る上で避けて通れない。現行制度では同性カップルは結婚できず、夫婦に認められる社会保障や税、相続などの権利がないからだ。LGBTQ当事者が国を訴えた訴訟では、地裁や高裁で「違憲」「違憲状態」の判断が相次いでいる。

同性婚についても自民は後ろ向きなのに対し、立民、共産、維新は推進派。公明、国民も導入に向けて検討を進めるとしている。

選択的夫婦別姓同性婚も、これ以上先送りはせず、有権者が導入の是非を判断する時期に来ているのではないか。

障害者や外国人らも含め、社会的弱者や少数派の人権をも守られる社会をつくることが、どんな条件の下に生まれても安心して暮らせることにつながるだろう。


地方活性化 人口減論議に本腰入れよ(2024年10月19日『新潟日報』-「社説」)

人口減に歯止めがかからず、本県など多くの地方が苦しんでいる。どう地方を守り、再生するのか。対策に関する論議に本腰を入れてもらいたい。

衆院選では人口減対策、地方活性化が焦点の一つになっている。

本県の人口はピークの1997年に249万人を超えていたが、近年は毎年約2万5千人の減少が続き、今月中に戦後初めて210万人を割り込むとみられる。

一方、東京圏は「転入超過」が進み、一極集中は加速している。

対策として2014年に政府は「地方創生」を打ち出し、地方移住の促進などに取り組んだ。

政府は10年間の成果などを検証した結果、「人口減や一極集中の大きな流れを変えるには至っていない」と総括した。

初代地方創生相を務めた石破茂首相は「もう一度原点に返る」と述べ、新しい地方経済・生活環境創生本部を創設した。今後の基本構想を策定するとしている。自治体への地方創生関連の交付金を当初予算ベースで倍増するという。

人口減対策は一朝一夕で解決できる課題ではない。額の倍増ありきで終わらぬよう腰を据えた多角的な取り組みが必要だろう。

地域活性化では、連立を組む公明党は公約で「住民や官民が協力した『活力ある地域づくり』を進める」と掲げている。

野党第1党の立憲民主党は、公約に「権限や財源を可能な限り自治体に移譲させる地方分権を進める」と記した。ただ、どのように進めるのかは分かりにくい。

日本維新の会は「地方の自立を実現する統治機構改革」を掲げ、分権型社会への転換を目指す。共産党は「地域経済の再生」を訴え、国民民主党は「新しい地方分権」を挙げる。他の野党も地域に目を向けた公約を並べている。

与野党ともに、抽象的な掛け声にとどめず、より具体的に地方の将来像を語ってほしい。

人口減は地方の暮らしに深刻な影響を与えている。

本県では二大医療ネットワークの県立病院とJA県厚生連病院が経営危機に陥っている。県厚生連と県厚生連病院の立地自治体が県に財政支援を求めているが、県も財政難で厳しい状況にある。

特にへき地の医療は構造的に不採算となりがちで、自助努力にも限界がある。

公共交通網の維持も同様だ。全国的に乗客が減った地方の鉄道が災害を機に廃線となるケースがある。県内でもJR米坂線が22年の豪雨以降、復旧していない。過疎地ではバスの減便も相次ぐ。

地方の人口減は国力の低下につながる。国として地方の生活基盤をどう支え、農林水産業や中小企業など地域経済の核をどう再生するか。議論の深化を期待したい。


(2024年10月19日『新潟日報』-「日報抄」)

米国アリゾナ州にノガレスという町がある。背の高いフェンスに面しており、向こう側はメキシコ・ソノラ州のノガレスだ。世帯収入は米国側の3分の1で、道路はひどく荒れている。10代の子の多くは学校に通っていない

▼国家間の格差はなぜ生じるのか。背景には政治や経済といった社会制度の違いがある。ことしのノーベル経済学賞はこうした仕組みを解明した、米国の大学教授3氏に決まった

キャプチャ2

▼このうち2氏の共著「

国家はなぜ衰退するのか

」は、冒頭でノガレスの実情を描く。気候などの地理的条件や文化的な共通点があっても、社会制度の違いにより繁栄の度合いは変わってくるという

キャプチャ

▼3氏の研究は、法の支配が乏しく政治が腐敗したり、国民を搾取するような制度があったりする社会の成長は長続きしないと裏付けた。繁栄には民主主義的な制度が重要という。市民に政治参加の機会があれば、経済発展の果実が広く行き渡る制度の導入につながるからのようだ

▼3氏のうちの一人、マサチューセッツ工科大のダロン・アセモグル教授はインタビューで、権威主義国家の中国について「長期的で持続的な成長を達成する上では問題がある」と答えた。実際の先行きはどうだろう

キャプチャ

▼同教授は「私たちの研究は民主主義を支持している」とも述べた。どんな社会制度をつくるか。民主主義の国では選挙の結果が反映される。わが国は今、衆院選の真っ最中だ。投票が私たちの暮らしを左右するのだから、しっかり向き合わなければ。


衆院選・政治とカネ 透明性どう高めるか語れ(2024年10月19日『山陽新聞』-「社説」)

今回の衆院選で主要な争点の一つが「政治とカネ」への対応だ。昨年来の自民党派閥パーティー裏金事件をきっかけに国民の政治不信は、かつてないほど高まっている。

各党は信頼回復へ向けた取り組みを公約に掲げている。重要なのは、それらが実効性を持ち、透明性の高い政治が実現できるかどうかだ。有権者に十分な判断材料となるよう、各候補者は説得力ある道筋を示してもらいたい。

裏金事件を受け、先の通常国会では、パーティー券購入者名の公開基準を引き下げることなどを盛り込んだ改正政治資金規正法が成立した。政党から党幹部ら議員個人に配られ、使途公開の義務がない「政策活動費」については、監査する第三者機関の設置を改正規正法に明記したが、どんな権限を与えるかなどの制度設計は先送りされている。

政策活動費や政治資金をチェックする第三者機関の設置は、自民をはじめ多くの党が公約で掲げている。独立性をどう担保するのかや、設置時期などを具体的に示すことが重要だ。

公約で、自民と他党で違いが際立っているのが、政策活動費の扱いである。立憲民主党日本維新の会公明党、国民民主党、れいわ新選組が「廃止」や「禁止」を明記しているのに対し、自民は「将来的な廃止も念頭に透明性の確保に取り組む」との記述にとどまった。自民の及び腰な姿勢は否めない。

当初、石破茂首相は今回衆院選で政策活動費を抑制的に使うとしていたが、野党の批判を受け「政策の周知や組織強化には使うが、選挙には使わない」と表現を修正した。とはいえ、使途公開が不要な以上、何に使われたのかを検証することはできない。

裏金事件を巡っては、共産党が「自民は裏金問題の真相を一切明らかにせず、再調査をしようとしない」と公約に記すなど野党が自民を批判している。これに対し自民は、ルールを徹底して守る姿勢を打ち出し「(新設した総裁直属の)政治改革本部を中心に政治や党の改革に取り組む」としている。改革の実効性を高めるには、裏金づくりがなぜ始まり、何に使われたのかを明らかにすることが欠かせない。真相解明への姿勢が問われている。

不透明さが問題視されながら、問題解消の先送りが続いているのが、給与とは別に月額100万円支給され、使途の報告義務がない「調査研究広報滞在費」(旧文書通信交通滞在費)を巡る議論だ。

公約では、自民や公明をはじめ立民、国民など野党も使途公開や残金の国庫返納を掲げ、方向性は同じだ。維新は使途公開などに加え、領収書の添付も打ち出している。

ただ、それらを実現する時期については明示していない政党もある。政治資金の透明性向上のため、選挙結果にかかわらず速やかに法整備に取り組むべきである。

2024衆院選・選択的夫婦別姓 男女格差なくす第一歩だ(2024年10月19日『中国新聞』-「社説」)

選択的夫婦別姓制度を導入するか否かは、衆院選自民党と野党の対立軸の一つだ。現行の同姓制度の下、女性に偏って姓を変えさせる現状は男女格差(ジェンダーギャップ)の象徴といえる。とりわけ政治と経済の分野で後れを取る中、変える意思があるのか、見極める材料でもある。

野党の大半は実現に前向きだ。立憲民主党共産党、国民民主党、れいわ新選組社民党は公約に制度導入を盛り込んだ。日本維新の会は、旧姓の使用に法的効力を持たせる形での別姓制度の導入を主張する。参政党は反対だ。

一方、自民党は従来通り慎重な姿勢だ。公約は旧姓を使う人の不便の解消を掲げた上で、「制度の在り方については、どのような形がふさわしいかを含め合意形成に努める」とした。不便を強いられる女性たちが長年求めてきた別姓制度について、答えを示していない。連立を組む公明党は「導入を推進する」と明記しており、温度差がある。

制度については、28年も前に法制審議会が導入を答申した。司法では2015年、21年に最高裁大法廷が現行の同姓制度を「合憲」と判断しつつ、重ねて国会の議論を促した。ともに裁判官の一定数が違憲との意見を示した。既に国会で法案を審議すべき段階だと、自覚せねばならない。

衆院選公示前に実施した共同通信社世論調査で、導入に賛成が67%と反対を大きく上回った。30代以下の若年層だと、さらに10ポイントほど高い。現行制度によって生きづらさを感じ、結婚をためらう人も少なくなく、看過できない。

家族の在り方、生き方を自ら選択できる社会を望む人は確実に増えた。だからこそ衆院選の争点とすべきだ。なぜ賛成で、なぜ反対なのか、深掘りする論戦を求める。

法案が国会に提出されないのは、自民党保守系議員らが反対してきたからだ。先の総裁選でも、候補者の賛否は割れた。石破茂氏は前向きだったが、首相に就任して後退した。従来の政府見解に沿って「さらなる検討を要する」と述べるにとどまった。

ならば衆院選では、候補者の賛否をチェックしたい。自民党内でも大きな違いがある。男女格差の解消を進める意識があるのか、現行のままで構わないと考えるのかの試金石だ。本紙でも小選挙区の候補者に問い、一覧で掲載するなどして伝えている。

別姓制度に反対の国会議員は主な理由に「家族の一体感を損なう」を挙げてきた。伝統的な家族観に基づき、性別による役割分担意識にとらわれた考え方があるのは否めない。加えて、与野党とも議員の大半は中高年の男性が占めている。男女格差の解消が、なかなか政治課題に据えられない現実がある。このままでいいわけがない。

格差意識を取り除かなければ、解決できない難題は山積みだ。少子化や賃上げ、パート女性らの働く意欲をそぐ「年収の壁」の解消などであり、国力や経済に直結する主要な政策そのものだ。別姓制度の導入を第一歩とし、格差をなくす政治を求めたい。

【2024衆院選 地方対策】「創生」踏まえ再構築を(2024年10月19日『高知新聞』-「社説」)

地方対策の看板政策として、安倍政権が2014年に「地方創生」を打ち出し10年たったが、東京一極集中の流れは変わらない。取り組みの検証と、それを踏まえた新しいアプローチを急ぐ必要がある。

地方創生で国は、自治体が作った人口減少対策の戦略を交付金で支援したほか、省庁や企業の地方移転などを掲げた。21年に発足した岸田政権は、情報技術で格差を埋める「デジタル田園都市国家構想」を地方対策の処方箋とした。

しかし、東京圏は23年に12万7千人の転入超過となるなど一極集中傾向は続く。一方、大半の自治体で人口減少のペースは加速。高知県も23年までの10年間で約7万人減り、過疎自治体の厳しさは深刻化した。

政策効果が限定的だったのは明らかだ。10年を振り返った政府の報告書は、地方への移住者増加など一定の成果を挙げつつも「厳しい状況」と総括。共同通信が今夏行った自治体アンケートでも、約7割が「成果は不十分」とした。

効果が限られた原因の一つには、自治体の戦略がノウハウや予算の不足で不発に終わったことが挙がる。戦略策定時、それぞれが現状を見つめ直し、知恵を絞ったことには確かに意義があった。しかし結果的に、移住促進策に偏り、人口と交付金の奪い合いの様相を呈した末、かえって疲弊したとも指摘される。

国が施策の方向性を決めて交付金事業を選ぶ形は中央集権的でもあり、地方の自主性がどこまで反映されたか疑問も残る。成果が一部にとどまった省庁移転などの取り組みからは、国の本気度も問われた。デジタル構想に至っては単なる看板のすげ替えと言われても仕方ない。これらを振り返った上で地方の人口減少対策を講じる必要がある。

いくつかある課題のうち、重要なのはやはり若者、特に女性が働きやすく、活躍できる環境を整えることだろう。男女の賃金格差や性別による固定的な役割分担意識が女性が地方を離れる原因の一つとされる。

一方、人口構造的には劇的な人口回復を見込むのが難しい現実もある。求められるのは、人口減少ペースを鈍化させつつ地域の持続可能性を高めていく発想だ。

初代の地方創生担当相でもあった石破茂首相は、地方創生の再起動と予算拡充を訴える。地方重視の姿勢は歓迎するが、手法や発想が10年前と同じなら期待感もしぼむ。何を教訓にどう変えるか、具体的に示すことが求められる。

分権社会の中で自治体が率先して取り組むのが理想的だろう。ただ、マンパワーが限られて国への依存度を高めなければいけない自治体が増えているのも現実だ。地方の主体性と国の支援策がかみ合う形を再構築していく必要がある。

改革?改正?(2024年10月19日『高知新聞』-「小社会」)

この4文字がまたぞろ、街頭からテレビから響いている。「政治改革」。今回は最大の争点といわれるが、振り返ってみれば幾度となく選挙で連呼されてきたフレーズになる。

1990年代は、リクルート事件をきっかけに掛け声が大きくなった。自民党は政治改革大綱で「派閥解消の決意」をうたいながら、実行されなかった。そのうちに焦点は選挙制度の変更へ。複雑になった制度で何度か選挙をやるうちに、派閥は力を取り戻していた。

またしても政治資金を巡る事件が起き、衆院選を迎えた。与野党とも改革を訴える。しかし、それが政治資金規正法の改正のみを指すとすれば、違うのでは。

言うまでもなく、国民の多くは派閥の裏金づくりに怒りを向けている。抜け道の多さから「ザル」と評された規正法にさえ引っかかった。ザルの目を細かくするのは立法機関の務め。襟を正すことを改革とは言わない。

もう一つ。近年の政策の大転換はどう表現するのだろう。集団的自衛権の行使容認、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有憲法との整合がまともに問われる論点を、解釈の変更や数の力で押し切った。これを改正だ、ましてや改革だと言わないのは、多少の気後れもあるのかもしれない。

どこか勇ましげな用語が飛び交う選挙が続く。90年代、その裏で骨抜きにされる改革論議にこんな声も上がっていた。「必要なのは、政治改革ではない。政治家改革だ」

少子化対策 若者向けの政策が乏しい(2024年10月19日『西日本新聞』-「社説」)

「静かな有事」といわれる少子化の要因の一つに婚姻率低下がある。

50歳まで結婚したことがない人の割合は1990年の男性5・6%、女性4・3%から年々上昇し、2020年は男性28・3%、女性17・8%まで高くなった。

結婚は個人の自由だ。ただし、経済的理由で諦める人がいる現状は見過ごせない。

国立社会保障・人口問題研究所の21年の調査で「いずれ結婚する」と回答した未婚者に、その障害を尋ねると「結婚資金」が男女とも最も多く4割を超えた。

未婚男性の場合、1年以内に結婚する意思は正規職員が61・9%だったのに対し、所得が比較的低いパート・アルバイトは37・6%で大きな開きがあった。

こうした調査からも、結婚の減少に経済事情が影響していることは明らかだ。

政府はこども・子育て支援加速化プランをまとめ、少子化対策を強化している。児童手当拡充、出産費用の軽減、男性の育休取得推進などを打ち出し、3兆6千億円を投じる計画だ。

子どもを産み、育てたいカップルを後押しする施策として、いずれも重要だ。子育て世帯にはもっと手厚い支援があっていい。

内閣府は22年の日本経済リポートで「所得500万円未満の世帯は子どもを持つという選択が難しくなっている」と指摘した。

世帯主が29歳以下の1世帯当たりの平均所得は、500万円より100万円以上少ない。平均的な所得のある家庭でも、子どもを持つ余裕がない状況だ。

各党は衆院選の公約で最低賃金の引き上げ、リスキリング(学び直し)の推進、高等教育の無償化などを挙げた。財源を含め、実現の道筋を明確にしないと若年層は希望が持てないだろう。

若年層を中心に据えた政策は物足りない。窮状にもっと目を向けるべきだ。

ひとり親などの困窮家庭で育ち、望んだ教育を受けられずに低賃金の職業に就いた人がいる。非正規雇用が広がる中で正規雇用の希望がかなわない人も少なくない。

奨学金の返済が重い負担になり、月々の家計にゆとりがない若者もたくさんいる。

決して自己責任ではない。個人の努力だけでは対処できない社会課題であり、解決するのは政治の役割だ。

生きづらさを抱え、孤立している若者もいる。こうした若者の居場所づくりや居住支援をしているNPOもある。NPOの活動や相談窓口の情報提供には公的支援が欠かせない。

若者が明るい将来展望を描ける社会をつくることこそ、少子化対策の根幹である。


’24衆院選 政治とカネ 政治改革の覚悟を示せ(2024年10月19日『琉球新報』-「社説」)

27日投開票の衆院選の最大の争点は「政治改革」とされている。自民党派閥の裏金事件で浮上した「政治とカネ」の問題をいかに断ち切るか、本選挙戦で各党は覚悟を示さなければならない。

特に深刻な政治不信を招いた自民党の責任は重大である。しかし、掲げた公約を見る限り、政治改革を断行する決意は伝わってこない。

政治改革に関する自民党の公約は「“ルールを徹底して守る政党”に生まれ変わる」と宣言する。国会での石破茂首相の所信表明演説も同様に「ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」と述べた。

長年、政権を担ってきた自民党が裏金事件について国民に謝罪し、「ルールを守る」ことを公約に掲げること自体、国民の政治不信の表れと言わざるを得ない。しかし、その自覚と反省はあるのか。

衆院選に関する報道各社の世論調査を見ても、「政治とカネ」の問題に関して、国民は自民党に厳しい目を向けていることがうかがえる。その理由は(1)裏金問題の究明と責任追及が不十分(2)改正政治資金規正法には抜け道がある(3)政策活動費が温存された―などに集約されよう。

今回の衆院選に際して自民党は12人を非公認とし、34人の比例代表への重複立候補を認めなかった。政権公約では党総裁直属の「政治改革本部」設置や、将来的な廃止も念頭に政策活動費の透明性を確保すると記した。しかし、これでは国民は納得しない。何よりも必要なのは裏金問題の真相究明、政治家の不正を防ぐ政治資金規正法の抜本改正だ。政策活動費の即時廃止も視野に入れる必要がある。

立憲民主党をはじめ野党各党の政権公約は企業・団体献金の禁止、政策活動費の廃止、政治資金規正法の再改正などを掲げている。自民と連立を組む公明党も政策活動費の廃止を打ち出している。いずれも「政治とカネ」に関する国民の厳しい認識を踏まえたものであろう。

自民党が掲げる政治改革の公約が国民の要求に応えるものなのかが問われている。石破首相は9月の総裁選などで「国民に判断材料を示す」と述べてきたが、現在の公約は判断材料となり得ていないと感じる国民もいるはずだ。投開票日までの論戦で、国民の選択基準にかなう方針と覚悟を提示すべきだ。

1970年代の田中角栄元首相の金脈問題、80年代のリクルート事件に代表されるような「政治とカネ」の問題は幾度も繰り返され、政治資金規正法が改正されてきた。それでも問題は後を絶たず、いたちごっこが続いてきた。「政治改革」は中途半端で抜け道が用意されていたのだ。

物価高騰に悩み、暮らしに追われる国民は選挙で「政治改革」を問うことに怒りを覚えていよう。選挙戦を戦う各党はそのことを肝に銘じ、「政治とカネ」問題を根絶する抜本策を論じ合ってほしい。