『侍タイムスリッパー』鑑賞。 (original) (raw)

小規模公開の映画の評判が広まって拡大公開されることがたまにある。そういうケースは2017年に公開され、最初はたった2館から始まり全国に広がっていった『カメラを止めるな!』が記憶に新しい(思ったより最近じゃないな…?)。それと似たような経緯でなんか面白いらしいよ?と最近小耳に挟んだと思ったら、都内で単館上映していた映画がいつの間にか全国数十館にまで広がっていたのが『侍タイムスリッパー』という作品だ。『カメ止め』は低予算ながら脚本に捻りのある変則的な作りで楽しめたし、作り手の映画愛が伝わってくる個人的に好きな映画のひとつだったので、今回の『侍タイムスリッパー』にも多少の期待をしつつ観に行って見ることにしたのである。

物語は幕末の京都、会津藩士・高坂新左衛門が長州藩士を闇討ちしようと待ち伏せしているところから始まる。不意打ちに失敗し敵と正面から斬り合いになってしまうのだが、刀を切り結んだ直後そこに雷が落ちてきて新左衛門は気を失ってしまう。そして目覚めるとそこは幕末ではなく時代劇のセットが組まれた現代の撮影所だった。幕末の常識しか知らない新左衛門は行く先々でトラブルを起こしてしまうのだが、撮影所で働く女性・山本優子に助けられる。優子の作っている時代劇を目にした新左衛門は感動し、侍として身につけた剣術を活かして時代劇の「切られ役」として現代で生きる道を見出す……というストーリー。

ほぼ自主制作映画と言って差し支えない作品のようなので、名前を知っている俳優もいないし映像面でも低予算感を隠しきれていない。しかしこの作品は時代劇への愛に満ちた映画だというのが、これまであまり時代劇に親しんでこなかった自分にも伝わってきた。主人公・新左衛門が「切られ役」で身を立てようとするのも、かつて時代劇の切られ役として名を馳せた故・福本清三の主演映画『太秦ライムライト』を思い出させた。序盤こそ幕末と現代のギャップで笑わせてくるオフビートコメディといった要素が強かったが、本物の侍だった新左衛門はその経歴を活かした殺陣で切られ役として名前が知られるようになった後に、大物俳優が主演の時代劇映画の敵役として抜擢されることになりそこから徐々に作品の空気も変わってくる。現代に生きていれば当然自分が所属していた会津藩がどのような最後を迎えたのかを知ることになるわけで、新左衛門は現代にタイムスリップしたことで江戸幕府会津藩を守れず生き残ってしまったという無念さと、今まさに失われつつある時代劇をなんとか残したいという思いを重ねて映画の撮影に臨むという脚本には、思わず胸に熱いものがこみ上げた。

結構褒めてばかりだが、そもそも論として単館上映の映画を見てるのはシネフィル(映画好き)ばかりだろうし、シネフィルは”映画作り映画”の評価に下駄を履かせがちだと思っているので(自分にもそういう傾向はある)、そういう経緯で広まった作品であるというのはあらかじめ認識しておいてほしいところではある。『カメ止め』のようにギミックの強い捻りのあるストーリーというわけではなく、ただただド直球に時代劇愛を叫んでいる作品だし、クスリと笑えるシーンが全体的に散りばめられているものの上映時間は130分越えとやや冗長に思えたのは個人的にはマイナス。しかしそれらを差っ引いても赤く派手に燃える炎のような大作映画には無い、青く静かに燃える炎のような熱量を感じる映画であったのも確か。たまにはこういうのも悪くない。