『BanG Dream! It's MyGO!!!!! 前編 : 春の陽だまり、迷い猫』鑑賞。 (original) (raw)

2023年の7月から9月までTVシリーズとして放送されていたアニメ『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』の劇場版総集編『BanG Dream! It's MyGO!!!!! 前編:春の陽だまり、迷い猫』が9月27日から公開となった。MyGO!!!!!の聖地でもある池袋のグランドシネマサンシャインDolby Atoms音響による上映をやってくれているのでせっかくなので観に行くことにした。公開初日なのにパンフレットもグッズも売り切れていてさすがに憤慨したが、ライブと同じくわざわざ中国から劇場版を観に遠征してきている剛の者が現地でそこそこ見られたのでそのせいかもしれない。通販で買うしかないか……。

左:アニメイト池袋本店 右:グランドシネマサンシャイン池袋

見た感想を結論から言えば、思っていたよりずっと良かった。どうせ総集編だし新規カットもそれほど多くないだろう……とあらかじめ護身をして観に行ったのだが、それをいい意味で裏切られた形だ。冒頭から「なんで春日影やったの!」で始まり意表を突かれつつも、新規エピソードである楽奈過去編がTVアニメ1話ぶんくらいの尺があって内容共に満足できたし、その後の総集編パートも展開は概ねTVシリーズをなぞりつつも話の切り口を変えていて、TV版はすでに10回以上見ているにも関わらず新鮮な気持ちで見ることができた。前後編でやると聞いたときまず間違いなく7話で切るだろうなと予想していたし事実その通りになったのだが、バンド(CRYCHIC)が解散するのが第1話冒頭という強烈な掴みは今回なくなって、CRYCHICと豊川祥子の謎という最後まで話を引っ張る要素よりも、純粋にガールズバンドのお話としてMyGO!!!!!の形になる前のメンバー5人の物語として楽しめた。そして何より映画館の音響で聴く『春日影(MyGO!!!!! ver.)』がめちゃくちゃ良くて涙が出てきた……。

まず上映が始まる前に専用のMyGO!!!!!メンバーによる映画鑑賞マナー動画があった。初週は燈・立希・楽奈の三人で、マナー違反役は当然楽奈。映画本編における楽奈のフリーダムぶりを思えば納得の人選としか言いようがない。たぶん愛音・そよバージョンも存在していて、そっちのほうがどういう配役になるのか気になるところではある。(後日二回目を見に行ったらあのそよバージョンだったが、さすがに楽奈に比べたら不可抗力のマナー違反に収まっていた)

さて本編だが、TVシリーズではあまり深く掘り下げられなかった”RiNGの野良猫”こと要楽奈の生い立ちがガッツリと追加されており、それ以降に楽奈が登場するシーンの印象も良い意味で違って見えるくらいのものだった。TVシリーズでの楽奈はバンドリアニメ一期に登場したライブハウスSPACEとおぼしき場所に一人で猫と遊んでいたり、年季の入ったギターはおばあちゃんから貰ったものだと言っていたり、もしかしてこの子の言っているおばあちゃんとはSPACEのオーナーこと都築詩船のことなのでは…?というような匂わせがあり、TVアニメ終盤でようやく楽奈に呼ばれたオーナーが実際にMyGO!!!!!のライブにやってくるというサプライズがあったりもしたのだが、今回はそれが最初に全て語られるということになる。これまではMyGO!!!!!の他のメンバーに比べてセリフも少なく、出番も控えめだったのだがそれが逆に自由奔放・神出鬼没の楽奈のミステリアスな魅力にもなっていて、追加エピソードで色々なことが判明した結果もしかしたらその魅力は損なわれてしまうのでは?という危惧もあったが杞憂だった。

授業中にフラっと教室の外に出ていってしまうような奇行が珍しくない小学校時代を過ごしていた楽奈。興味があるのは猫とオーナーの家にあるギターだけといった感じで、燈の幼少期とも似たような境遇ではあったわけだ。一生バンドやる!と言った燈にシンパシーを感じるのも当然だったのかもしれない。基本的に楽奈は自分からペラペラと喋るタイプではないので、オーナーの目線から楽奈のことが描かれることで何を考えているのか分からない…という雰囲気は保たれている。ギターに触るためにオーナーのマンションに勝手に上がり込んだりとこの辺の楽奈の行動がとにかく奇想天外で、家族はおろかオーナーまで手に焼く始末。オーナーが孫を甘やかすからこんな性格になったのでは!?と以前は疑っていたが実際はむしろ厳しくしようとしていた。両親も楽奈のことを案じてはいたようだが、母親は音楽ではなく服飾の道を歩んでいたこともあって本質的な部分では楽奈のことを理解できてはいなかったらしい。それによっておばあちゃん以外には自分のことを理解されない孤独を感じていた楽奈もまた迷子だったのだというのが伝わってきた。それにしてもTVシリーズ終盤でMyGO!!!!!の衣装作るとき、楽奈が型紙や衣装をはさみでジョキジョキしてたのはよっぽど親の仕事に興味なかったんだな~と思って母親との目に見えぬすれ違いにちょっぴり切なさを感じた。

そしてギターをやるのは中学生までお預けという約束どおり、楽奈は中学校の入学式をボイコット、おばあちゃんの家に侵入し昼間からマンション全体にギターの音を響き渡らせるというトンデモぶりをここでも見せる。小学生から入り浸っていたライブハウスSPACEで自主的に演奏をするようになり、そこでグリグリを始めとする数々のガールズバンドと出会って自分もいつかバンドをやるという憧れを持つようになる。海鈴が掛け持ちしていたバンドのひとつとして名前が出てきたディスラプションなども出てきてファンサービスもたっぷり。この辺はむしろバンドリ・エピソードゼロみたいな雰囲気で初期のファンの方にとってはより熱い描写なんじゃないかと思う。

しかし踏み台・通過点であってほしかったSPACEを最終目標にするバンドが出てきてしまったことや、楽奈にとっての安住の地になってしまいかねないことを危惧するオーナーはSPACEを閉めることを決意。まさかこのような形でアニメ一期のSPACE閉店理由が明かされることになるとは思わなかったが、わりと納得のいく理由かつ楽奈のためを思ってのことだというのが分かって感動してしまった。しかしそれが実際には逆効果になってしまい、自分の居場所を失ったショックで長い間楽奈がギターに触ることもなくなってしまうのだが、RiNGがオープンして久しぶりにギターを弾くことになったとき、オーナーの影響でテクニカルなフレーズをギャンギャン鳴らすタイプだったはずの楽奈の音楽性に二年間の空白だった期間の想いが乗せられたようなメロディだったのは音楽アニメとしていい演出だった。その後春日影という曲に惹かれることになったり、燈の詩の弾き語りをやることになる説得力も感じられた。その立役者になった凛々子さんはSPACEの元スタッフだったこともあって楽奈とは前から面識があり、今回の新規エピソードでも結構出番があってよかった。

TVアニメ1話分ほどの楽奈の話が終わると、この後はTVシリーズの映像を用いたいわゆる総集編パートに入る。小さな変更点としては愛音のイギリス留学の場面などを含めてエピソードが時系列順に整理されたことなどが挙げられるが、大きな変更点はCRYSHIC関連と今後AveMujicaに関わってくるキャラの出番がほぼカットされていることだ。楽奈の謎が最初に明かされたのとは対照的に、この前編の中ではCRYCHICや豊川祥子のことはほとんど分からないのだ(いや見てる方は全部知ってるんだけど)。個人的にはTV放送のときに1話冒頭のCRYCHIC解散でガっと心を掴まれ、3話の燈視点による回想でこのアニメひと味違う!と本腰を据えて見始めたということもあって、それが無いというのは不思議な感覚だったし物語のパンチが弱くなっているのは否定できないのだが、こういうやり方で行くのか!と膝を打つ感じもあった。豊川祥子はMyGO!!!!!とは切って切れない存在なので多少の出番はあるのだが、若葉睦は出てくるもののセリフはなく、八幡海鈴や祐天寺にゃむに至っては出てこないという念の入れようだ。エンドロールの後に流れた後編の予告には3話の映像が使われていたため、CRYSHIC要素は全部そっちに行ったんだなと思うと今回の編集方針にも納得できた。おかげで後編の破壊力はかなり上がるだろう。

音響面に関してはやはりバンドアニメだけあって映画館の環境による加点は大きく、なんで楽奈が春日影を弾いたのかっていうのを分かってる状態で聴く春日影はまた格別のものがあった。楽奈がギターをギャンギャンかき鳴らすシーンも多いのでやかましさも追体験できる。そよが爪いじりする音もまた燈とバンドを組めて嬉しい立希の鼻歌もしっかり聞き取ることもでき新たな気づきも多い。そしてEDで流れた新曲『過惰幻(あだゆめ)』は一見うまく行ったように見えたライブが実は大きな破綻の始まりだったことを暗示するような暗く後ろ向きな曲で、最近の迷子は結構前向きな曲が多いな~と思っていたところに不意にぶん殴られたような衝撃があった。MyGO!!!!!としては『栞』以来のアコースティックな楽曲なこともあって、リアルライブのレパートリーが増えるんじゃないかという期待もある。とはいえ映画館という環境が最大限生かされるのはやはりFILM LIVEのある後編だろう。後編『うたう、僕らになれるうた&FILM LIVE』は11月8日公開されるので、そちらもぜひ観に行きたい。