【コラム】ミュージカルオタクが98年宙組版『エリザベートー愛と死のロンド』の円盤で初めて宝塚歌劇を観た話 (original) (raw)
先月の2022年10月、私は生まれて初めて日本人キャストで演じられる東宝版ミュージカル『エリザベート』(Elisabeth, 以下一部エリザと表記) を観劇しました。
本日はミュージカル『エリザベート』を帝国劇場で観劇。二桁回数観てる作品ですが、実は日本人キャストでの観劇は初めて、小池さん演出も初めて。ストーリー知っているのに演出が違うとこうも新鮮な気持ちで観れるとは。キャストもとても満足度高くてとても面白かったです。 pic.twitter.com/XLGEHCpV19
— satoko (@_simpleandclean) October 16, 2022
東宝版観劇時のツイート
ちなみに後からちゃんとエリザ観劇回数を数え直したら二桁回には一回足りず、過大申告だったことが判明(爆)
私の『エリザベート』デビューは2012年の作品10周年のウィーン・キャスト来日コンサート。その後2015年ミュンヘン版、同年韓国版をそれぞれ複数回観ているのですが、これまで私が観た『エリザベート』はウィーン版をベースにしたプロダクションばかり。ハンガリーの独立運動と革命家たち、彼らとハプスブルク家の関わりなどの日本のプロダクションの独自要素があり、ウィーン版をベースにしていない独自演出の東宝版『エリザベート』は私にとってとても新鮮で面白く。好みのキャストと良席にも恵まれてホクホク気分でいつもより感想ツイート多めで浮かれていたら、ミュ友さんが宝塚版の『エリザベート』の円盤を貸すよとメッセージをくれました。黄泉の帝王トート閣下が主役だという宝塚版の『エリザベート』には前々から興味もあったので、ありがたくオファーを受けてミュ友さんの推しの姫と宝塚時代のお花様のエリザを観てみました。というわけでタイトルにも書いていますが、今回私が観たのは数多ある宝塚版の『エリザベート』の円盤でも1998年宙組版の姿月あさとさんトートと花總まりさんシシィのものです。主要キャストはこちら。
トート:姿月あさとさん
**エリザベート**:花總まりさん
フランツ・ヨーゼフ:和央ようかさん
ルイジ・ルキーニ:湖月わたるさん
青年ルドルフ:朝海ひかるさん
というわけで前置きがだいぶ長くなりましたから、ここから早速感想を書いて参りたいと思います。「この書き出しで東宝版の感想じゃないのかよ!良かったんちゃうんかい!」というツッコミは甘んじて受けます。宝塚版だけではなく、ウィーン版のネタバレもちょいちょい挟んだ感想となっていますのでご注意を!好き勝手書いているので宝塚ファンのみなさまから怒られるかもだけど石は投げないで!
宝塚版エリザは副題の「愛と死のロンド」を省略してはならない
タイトルには書いていますが、ワタクシ、宝塚大劇場がある兵庫県生まれでミュージカルオタクのくせに宝塚歌劇は正真正銘初体験でございます。男役トップスター様を頂点とした徹底したスターシステムのもと演目が組まれているとは噂に聞いてはいましたが、ここまで徹底しているとはお見それしました。オリジナルがタイトルロールであるオーストリア皇妃エリザベートを主役としている作品だからこそ、目に付くスター様をその座で輝かせるために加えられた「潤色」の数々。ミュージカルにテーマとなる主旋律を繰り返すリプライズはつきものですが、「黄泉の帝王トート様」のために書き下ろされた「愛と死のロンド」のナンバーのリプライズの多いこと、多いこと。本家ウィーン版でも逆輸入されたと聞く「愛と死のロンド」ですが、これだけこのメロディが繰り返し使われるのはヅカ版ならではなのでは?トート閣下が主役であることを明示するためにも宝塚版エリザでは副題の「愛と死のロンド」は省略してはならないと心得ました。
トップスター様を輝やかせるための演出のため、ウィーン版準拠のプロダクションでは他の出演者の見せ場であるナンバーも閣下が華麗に場を攫っていきます。タイトルロールのエリザベートのビッグナンバーの「私だけに」は初出のソロも一幕ラストのフランツ・ヨーゼフ、トートとの三重唱も重要ですが、オリジナルではシシィが誇り高く歌い上げるラストノートも閣下のもの。「ミルク」でルキーニを差し置いて閣下が率先して民衆を煽り始めたときにはさすがにビビりました。熱心にウィーンのカフェに通って革命家たちと人脈を作ったり、先頭に立ってデモを扇動したりと色々と働き者すぎやないか、閣下。ちなみに私はウィーン版準拠のエリザではトート派かルキーニ派か聞かれたら迷わずルキーニと答える狂言回しキャラ好きなのですが、ヅカ版エリザではそもそも「ルキーニ派」という概念も発生しづらいのやも、と妙にしみじみしてしまいました。
美形ヒーローのライバルたるもの、イケメンでなければならない
さて、ウィーン版に準拠したプロダクションの場合、カーテンコールでの挨拶順はラストから挙げてエリザベート、トート、ルキーニ、フランツという順番が割と一般的だと思います。男役トップスター様を頂点とする宝塚版で主役ポジションが入れ替わるのは想定の範囲内でしたが、三番手扱いがルキーニではなくシシィの愛をトート閣下と競い合うフランツ・ヨーゼフなのもトップスター様に次ぐ二番手男役スターがいる宝塚歌劇ならではなんだろうなぁと妙に感心してしまいました。ルキーニがオーストリア皇帝であるフランツを紹介するときの形容詞は「若くてハンサムな」。別に東宝版、ウィーン版のフランツがそうではないと言うつもりは全くないですが、イケメンがフランツを形容する属性になる程そこは重要要素ではないはず。ただし、この世にあらざる美形でいらっしゃるトート様の恋のライバルであり、トート様の禁断の恋に主眼がおかれた宝塚版においてはここは譲れない必須属性なのだと認識いたしました。すっかりフランク・ワイルドホーン氏の奥様としてのイメージが先行していた和央ようかさんのフランツですが、スラリとした長身から伸びる長い手足がとても素敵でそりゃマザコン属性がかすんでしまいますわね。このことが念頭になかったため、円盤一周目ではプロローグの冥界の場面で完全にフランツとルドルフの見分けがついていなかったです。
一人で踊る宣言は大事
今回私が観た98年宙組版エリザは東宝版初演より前の制作。したがって、日本では東宝版が初出1である二幕のエリザベートとトートのデュエットである「私が踊る時」はこのバージョンにはありません。ハンガリー王国の戴冠式の後にこのナンバーがないのは正直とても物足りない!現在は宝塚版でも追加されているのでこの逆説的な発想は今となっては見当違いなのかもしれませんが、この作品においてシシィが主役として存在感を示すためにはこの曲はすごく大事だったんだなぁと思いました。そう考えるとシシィが主役な初演ウィーン版でこの楽曲がなかったのはとても不思議。「愛と死のロンド」が本家に逆輸入されたことも考えると、エリザベートは初演の1992年から20年の年月でずいぶんと柔軟に変化して進化してきた作品なんですね。
ドレスの裾の膝割りや熱病はすみれコード的にアウト?
トート閣下の見せ場のナンバーを一つだけ挙げよという問いを投げかけた場合、「最後のダンス」を挙げる方はきっと多いはず。私が過去に観たことのあるウィーン版、韓国版、東宝版どれにもあるこのナンバーの演出で私が特に好きなのはトートがシシィのウェディングドレスの長い裾をついた両膝で割ってドレスの上から足下に潜り込む振り付け。不穏でセクシーで大好きなんですけど、この振り、宝塚版ではないんですよねぇ。シシィは純白のウェディングドレスから情熱的な真紅のドレスに着替えているし、なんならトート様はシシィをそっちのけで踊り狂っている。この場面のトート様は黒い軍服っぽい衣装がとても素敵でかっこいいんですけど、基本的に求愛対象であるはずのシシィにずっと背後を向けていて、素直じゃないミュオタである私はそこを突っ込まずにいられない。話は脱線しますが、ヅカ版のトート様はあの手この手を使ってそれはそれは健気に一生懸命シシィの気を引こうと頑張っているのですが、この「最後のダンス」の求愛ダンスを含めて、どこかその方向性がピントを外している気がしてならなくて観ているうちにだんだん可愛く思えて応援したくなりました。あれ、エリザってこんな話でしたっけ?(←)脱線ついでに、「最後のダンス」のラストノートは音を上げて歌ってほしい。上げるバージョンに慣れているからなんかムズムズする!!
エリザベートが器械体操中に倒れてしまう原因がもらいものの熱病(梅毒)から過酷なダイエットのしすぎに変わっているのも印象的で、ここは「清く正しく美しく」モットーとする宝塚歌劇団の規範に抵触したのかなぁと思いながら観ていました。「マダム・ヴォルフのコレクション」の演出も本家ウィーン版とは180度違う方向でテーマパーク的でしたね。本家が廃園寸前の場末のメリーゴーランドだとしたら、ヅカ版は某ネズミーランドのパレード的というか。(言い方)
トート様の恋の迷走っぷりにかき消される世紀末感と政治的緊張感
一幕からその独自路線にワクワクが止まらなかった宝塚版エリザですが、二幕はより一層「俺の知っているエリザじゃない...」感がマシマシですごく面白かったです。曲順も結構違いますしね。ハンガリーの独立運動の背後で暗躍する革命家たちの不穏な動きとか、オリジナルにはない政治的緊張の要素が宝塚版にはあって、東宝版でも受け継がれたその要素が東宝版ではすごく面白かったはずなのに、そのことごとくにトート様が介入するものだからそのすべての政治色がどこかに消し飛んで、シシィに恋焦がれるがゆえの黄泉の帝王の迷走に脳内フィルターで変換されてしまうのです。なぜこうなった。やっぱりフランツの不貞の証拠をつきつけたのにシシィに拒絶されて、打ちのめされて革命に身を投じ始めるからかな。それと閣下が活躍しすぎて、シシィに「パパみたいに(リプライズ)」を歌ったり老いゆく自分を憂う暇も与えてくれないからシシィが閣下に惹かれていっている感も薄く。すごく一生懸命なんだけどちょっとどこかずれているんだよ、閣下。かわいいけど。ドンマイ。
改めて東宝版はいい感じにウィーン版と宝塚版の美味しいとこどりしているんだなぁとヅカ版を観て実感したのでもありました。
その他うまくまとめきれなかった気になりポイント
その他にも気になってしょうがない個人的ツッコミポイントは盛りだくさんだったのですが、上手く文章にまとめられなかったので潔く箇条書きで並べ立ててみます。
- 初っ端から剣を持って現れる閣下に戸惑う
- 突如現れるスタンドマイクに戸惑う
- 「キッチュ」で突如始まるミス・ユニバースに戸惑う
- 子ルドルフが子役じゃない!が、冷静に考えてみれば宝塚においては当たり前だった
- 精神病院で本当にヴァイオリンが弾かれている!が、ジェンヌさんなら確かに弾ける人多そう
- ゾフィー様の死の扱いの軽さに涙目
- ルキーニの得物がヤスリじゃない!
- 引きの映像がちょっと引きすぎなくらい引いているのが気になる
- 結局総勢何名出演されているのかが気になって仕方がない
- トート様の衣装七変化が楽しい。何着召されているのかが気になって仕方がない
個人的宝塚版エリザの醍醐味
「え、そこ???」と言われるかもしれませんが、宝塚版エリザで個人的に一番気に入ったのは本編ではなく、本編後のレヴューでございます。フランツが「愛と死のロンド」を歌ってくれるのも粋だし、大階段にハプスブルク家の双頭鷲の紋章のシルエットが描かれて、そこから男役さんたちが一斉に燕尾服姿で踊り出す姿とかすごくかっこよくて鳥肌!その後の男役スター様たちが踊る「闇が広がる」のダンスもとても素敵でした。双頭鷲の紋章のシャンシャンもなんかかわいいし、姿月さんとお花様のトップのお二人のしっとりとしたダンスにもうっとり。スカート捌きが美しい。なんなら最後のレヴューを観るためだけに観にいきたい。
無理やりまとめにかかる
絶対後で誰かに怒られそうなレベルで好き勝手に書いてきた宝塚版『エリザベートー愛と死のロンド』の感想ですが、思っていた以上に独自路線を爆走していて新鮮でとても面白かったです。正直に書くと、元々はヒロインが主人公である作品がその相手役であるヒーローが主人公になる作品に書き換わっているので、男性と女性のどちらも女性だけで演じられている演目でも女性が軽んじられているように感じられてモヤッた部分も無きにしもあらずです。最初から男性主人公で当て書きされている作品だとまた感じ方も違うのかもしれませんが。ただ、不思議と観ているうちにだんだんとその辺はあまり気にならなくなり、知っている作品も宝塚色に「潤色」されるとかなり趣の異なる作品になるんだなぁというのが純粋に興味深かったです。今回観る前から宝塚デビューはいつかはしたいと思っていたのですが、想像していた以上に楽しかったのでいつどの組のどの作品で大劇場デビューするか楽しみ度がさらに増えました。この感想を踏まえて、おすすめとかありましたら是非教えてもらえるとうれしいです!
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