【考察】『エイリアン:ロムルス』エイリアンを飼うならこうする ─ 動物専門家が語る驚愕の生態と意外な飼育法 (original) (raw)

もしもフェイスハガーやエイリアンを飼育するとしたら?気をつけるべきことは何か?彼らの恐るべき生態とは?

『エイリアン』シリーズ最新作『エイリアン:ロムルス』が、海外で破竹の勢いで大ヒット中だ。アメリカでは初登場1位スタート、初週末の興行成績はシリーズ前作『エイリアン:コヴェナント』(2017)を大きく圧倒して大暴れ。あの『ドント・ブリーズ』(2016)フェデ・アルバレス監督がシリーズ1作目『エイリアン』(1979)恐怖の原点に徹底的に立ち返った容赦なきホラー描写に、批評家もファンも「これぞ求めていた『エイリアン』映画だ!」と大賛辞を贈っている。

『エイリアン』シリーズといえば、グロテスクな見た目と恐るべき生態をもったクリーチャーの存在が魅力。人間の顔面に張り付いて体内に卵を産みつけるフェイスハガー、体内で成長すると胸を突き破って誕生するチェストバスター、さらに変態して巨大化し、暗闇に潜んでは機敏な動きで人間を襲う冷酷非道の怪物、ゼノモーフだ。2024年9月6日より日本公開となるシリーズ最新作『エイリアン:ロムルス』では、“普通の若者”たちが、密室の宇宙ステーションの中でエイリアンに次々と襲われていく……。

エイリアン:ロムルス

© 2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

THE RIVERでは映画『エイリアン:ロムルス』の公開を記念して、危険生物の専門家をお招きしてフェイスハガーやゼノモーフの生態を徹底考察。お話をお伺いしたのは、NPO法人生物行動進化研究センター理事長などを務め、動物研究施設UACを運営しながらメディア出演歴も多数持つ動物研究家のパンク町田氏。野生動物の生態を探るために世界中で探索を行っており、これまで3,000種類を超える動物を飼育、治療した経験を持つ。あの“ムツゴロウさん”こと畑正憲氏からは生前、「第二のムツゴロウとして名乗っていい」と直接声をかけられている。

フェイスハガーやゼノモーフには「目を持たず、音や温度で周囲を正確に知覚する」「強酸の体液で何でも溶かしてしまう」「身体の一部が金属で構成」など、不思議な生態を持つことで知られる。書籍『さわるな危険! 毒のある生きもの超百科』(ポプラ社)『ヒトを喰う生き物』(ビジネス社)『飼ってはいけない(禁)ペット』(ブライト出版)などの監修や執筆も手がけ、これまで地球上のありとあらゆる危険生物を取り扱ってきた町田氏によれば、なんと同じような特徴を持つ生物は地球上にもいる!という。危険生物のプロ中のプロである町田氏が解説する、恐るべきフェイスハガーやゼノモーフの生態とは?これを参考に、もしも彼らと戦うとしたら、勝機はあるのか?さらに町田氏によれば、“あること”にさえ気をつければ、フェイスハガーやゼノモーフを飼うことも可能だという……!

『エイリアン:ロムルス』を観る人も観た人も、いや、観る予定がないという人も、今すぐフェイスハガーやゼノモーフを捕まえたくなる(?)、パンク町田による魅惑の”危険生物”授業。誰もが恐れるエイリアンを「飼ってみたい!」とまで語る町田氏、その心とは……?

地上の生物から学ぶ!エイリアンの生態、戦い方、そして飼い方?

フェイスハガー考察

まず初めに、フェイスハガーについて検討してみよう。フェイスハガーとは、クモやカブトガニ、サソリを思わせるグロテスクな見た目をした節足動物だ。人間の顔に張り付くと、8本の脚で頭部をホールドし、口の中に管を伸ばし入れ、体内にエイリアンの胚を無理やり注入して寄生させる。

エイリアン2

『エイリアン2』 © 2024 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. ディズニープラス「スター」で見放題独占配信中

もしもパンク町田氏がフェイスハガーを相手にするとしたら?動物の飼育のみならず、その輸入や輸送のスペシャリストとして、これまで数々の獣舎の緻密な設計も手がけてきた町田氏は、「まず、絶対に逃げられないケースの製作から始めますね」とアプローチ方法を考える。「そのために、どれくらいの飼育スペースが必要かどうかを見極める必要があります。動物には、広いところを用意しないと調子を崩すものもいれば、案外狭くしたほうが調子がいいものもいるんです」。

動物によって必要な飼育スペースは異なるというが、「フェイスハガーの場合、狭くても広くてもどちらでも状態よく飼育できそうですね。僕だったら狭いところから飼ってみるかな」と分析する町田氏。その生態について、「まずは節足動物として考える」とアタリをつける。

「次に、呼吸器系を調べたいですね。どういう呼吸器官を持っているのか。エラで動いているのか、気門で動いているのか……。」

エイリアン

『エイリアン』 © 2024 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. ディズニープラス「スター」で見放題独占配信中

フェイスハガーと姿形が似ているクモやサソリは、「書肺」と言う呼吸器を使っているのだと、町田氏は解説する。「エラ状のものが腹の中にしまわれているんです。肺と言いつつ、これはエラなんですよ。エラを陸上生活のために転用して使っている。高めの湿度の方が呼吸しやすいと言う特性があります」。

一方、昆虫は「気門」という呼吸器を使って息をしている。これは、「勝手に空気が入ってきて、勝手に出ていくというイメージ」なのだそう。「だから昆虫は、肺呼吸をする人間のように、吸ったり吐いたりがうまくできない。昆虫が大きくなれなかったのはこの呼吸システムのためで、もしも効率的な呼吸ができていたら、彼らはもっと大きくなっていたはずなんです。一方、水の中で暮らす節足動物が大きくなれたのは、エラを使っているからです」。

フェイスハガーの場合、張り付いた人間の肺呼吸に合わせて器官を膨らませ、生命維持に必要最低限な分の酸素を送り、生体を生かすという恐るべき習性がある。「ということは、肺呼吸をしている動物をターゲットとしているということですね。無酸素の宇宙で肺呼吸をしている動物はいないはず。宇宙に棲んでいながらも、地球やどこかの惑星にいる動物がターゲットになっているのかな。形状も、人間の顔にくっつきやすい形になっていますよね。霊長類を相手にしている。牛や馬にくっつくためだったら、こんな形にはならなかったと思う。恐ろしいね」。

この不気味な生き物には目がないので、熱と音で周囲を知覚する。同じような生態を持つ生き物が、自然界にも存在すると町田氏は紹介する。

「蛇ですね。目はあるのですが、視力はとても弱い。蛇が暗闇でも周囲を判断できるのは、“ピット器官”のおかげ。口の周りに穴が空いていて、そこで温度を測り、サーモグラフィーのように周囲を知覚しているんですよ。実は、ハブやマムシの目を完全に塞いで、お湯を入れた風船をぶら下げると、それを敵だと認知して噛みつくんです。面白いでしょう。フェイスハガーもこれに似ていると言えますし、現実の自然界にもあり得るものだと思いますね。

Image by Dan LeFebvre

そう語る町田氏は、フェイスハガーを観察して一つ気になることがあった。「どこに耳があるのか、ということです」。

「まぁ、耳の定義を何とするかなんですけれど。例えば蛇には耳の穴がありませんが、体全身が耳になっているんですよ。特に腹鱗側、つまりお腹側が耳として発達していて、地面に伝わる振動を感じ取っています。空気が震えるくらいの音があれば、身体で音を感知できるんです。

それから昆虫の場合。バッタは後ろ脚、人間でいう太ももの部分に穴が空いていて、そこが外耳の代わりになっている。つまり耳とは、空気の振動の受容器のことです。サソリの場合は櫛状板(くしじょうばん)というものがある。胸の部分に羽のようなものが2枚ついていて、歩く時にその部分が僅かに地面に触れて、そこから振動を感じている。サソリにも目はあるんですけど、ほとんど明暗しかわからない。だから、まずは櫛状板で獲物の移動を感知する。そして“大体ココにいる”ということが分かったら、今度はそっちにハサミを向ける。ハサミの表面には触毛が生えているので、その毛でミリ単位の微調整をして、獲物を挟んでいるんですよ。おそらくフェイスハガーにも、そういったものに該当する器官があるのだと思います。

ほかにヒントとなりそうなのが、フクロウだ。「フクロウは目もいいのですが、暗闇になるとほとんど見えていないんです。でも、音を頭の中で3Dの画像のようにして捉えているんですね。だから、雪が10センチ積もった下にいる獲物にも、脚を出して正確に捕まえることができる。それは目で見えていなくても、音で立体的な画像として知覚しているから、と言われています。」

Image by cadop

温度や空気振動、音の他にも、生き物が周囲を知覚する方法はある。サメなどの軟骨魚類の場合、ロレンチーニ器官という受容感覚を持っているのだそうだ。聞き慣れないものだが、一体どういうものか。

「ロレンチーニ器官とは、生き物が発する微弱な電流を感知することができる器官です。ヒラメがどんなに地表そっくりに擬態しようと、身体から微弱な電気信号=ロレンチーニは発生している。サメはこれを感知して捕まえるんですよ。サメの頭部の下側に小さな孔がたくさん開いていて、そこで感知しています。見たところフェイスハガーの体にこうした孔は見られませんが、もしかしたら何らかの方法でロレンチーニを受容して、相手との距離を判断しているのかもしれない。」

Image by Gerald Schömbs

実在する自然界の生き物のように、フェイスハガーは温度や音、電気信号などによって、正確に獲物の位置を判断しているのではないかと考察する町田氏。「人間の口を目掛けて正確に飛びついてくるのは、二酸化炭素濃度を見ているのかもしれない。蚊もそうですからね。蚊は二酸化炭素濃度の微弱な変化を感知して、遠く離れたところからでも人間の存在を感知できるんです」。

非常に危険なフェイスハガーだが、もしも飼育できるとしたら、飼ってみたいですか?と尋ねてみると、「飼ってみたい。慣らしてみたいなぁ」と町田氏。心配したのは「餌に何をやれば喜ぶのかな」ということだ。シリーズの劇中で、フェイスハガーが食事をする描写はなく、この生き物は人間などに寄生するためだけの存在として描かれる。町田氏は、動物を懐かせるには給餌によるコントロールがもっとも有効だというが、フェイスハガーには通用しない可能性が高いということだ。

ところで町田氏は、フェイスハガーではないが、実際にはゴキブリを多数飼育している。驚くべきことに、かつては1万匹のゴキブリと共に暮らしていたこともあるのだそう。ゴキブリは人に懐くのだろうか?

「それが、案外懐くんですよ」と町田氏は微笑む。「昆虫には学習能力がないと言われていますが、ゴキブリは頭がいいのかもしれない。エサが出る前のガサゴソという音に反応して出てくるんですよ。フェイスハガーも飼い主に懐くのかどうか、やってみたいですね」。

ゼノモーフ考察

エイリアン

『エイリアン』 © 2024 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. ディズニープラス「スター」で見放題独占配信中

フェイスハガーによって人間に寄生し、体内で成長したエイリアンは、人の体を突き破り、ついに成体となる。脱皮を繰り返しながら恐るべきスピードで成長し、身長2メートルほどの“ゼノモーフ”となるのだ(町田氏によれば、これほどの速さで成長する生物は、おそらく自然界にも存在しないはずだという)。

エイリアン

『エイリアン』 © 2024 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. ディズニープラス「スター」で見放題独占配信中

艶のかかった漆黒の巨体に、昆虫的にも機械的にも見えるゼノモーフについて、町田氏は「フォルムが好きですね」とその魅力を語る。「性器をイメージしているというところも面白いですよね。やっぱり、未確認生物というのはロマンがあって面白い」。

エイリアンの口内には、金属製の第二の顎が存在している。無機質と有機質を兼ね備えた、超自然的な生物だ。町田氏は、「実は地球にも、一部が金属で構成されている動物が存在している」と解説する。「インド洋の深海の熱水噴出域、通常の動物は生きていけない領域に暮らしているウロコフネタマガイという巻貝です。金属の足を持っているんですよ」。ウロコフネタマガイは、あらゆる生物の中で唯一硫化鉄を大組織に用いる珍しい生態なのだそう。つまり、「エイリアンのような生き物は、地球にも存在すると言えるんです」。

Image by Chong Chen

それでは、強酸の体液はどうか?『エイリアン:ロムルス』でも描かれているが、フェイスハガーやゼノモーフを迂闊に攻撃すると、酸の体液が噴出してしまう。これに触れると人体や宇宙船の床や壁はたちまち溶けてしまい、命取りとなる。

「ツノトカゲという生き物が近しい生態を持っています。ツノトカゲは目から血を飛ばして、相手にかけて威嚇するんです。この血液には悪臭が含まれていて、酸性で目に染みる。エイリアンと似ていますよね。」

Image by Alice Wonder

ところで『エイリアン:ロムルス』では、何の専門知識も持たなければ、戦闘訓練も受けていない“普通の若者”6人が、密室の宇宙ステーション内でエイリアンに襲われ、地獄を見ることになる。実は町田氏は柔道経験者でもあり、数々の猛獣と対峙してきた経験を持つ

エイリアンを相手にするのはどうだろうか?尋ねてみると……、「あいつは何キロあるんだ?

「100キロか200キロか、それくらいだったら投げられるかもしれないけど、何体も来たらヤバいよな。一対一だったら?投げて、首でも絞めたら苦しむのかな?だって、呼吸しなくても生きているかもしれないでしょ?首絞めてどうこう、っていう相手じゃないな。勝てないよね。オリンピック選手でも、こいつを倒すのは難しいと思う。一回か二回投げたところで、どうってことなさそう。」

エイリアン3

『エイリアン3』 © 2024 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. ディズニープラス「スター」で見放題独占配信中

歴戦の町田氏も、さすがの“完全生物”には敵わない?「熊だったら、背負い投げでもできれば驚いてどこかに走り去っていくんですよ。けどエイリアンは投げられても、何とも思わねぇだろうな。恐れ知らずだからね。そういう動物は怖いですよ。だって自分が壊れるのが怖くないんだもん。

“自分が壊れるのが怖くない”という習性については、裏付けがあるのだ。「『エイリアン2』にエイリアン・クイーンっていうのが出てくるでしょ?アリやハチと同じだよね。アリやハチは“超個体”といって、巣全体で一つの生き物だと見なされる。つまり、個体が死ぬことに大した意味がなくて、むしろ個体が死ぬことで種の保存になるのだったら、死んでもいいっていう考えですね。人間もそうで、白血球が細菌を殺したら、白血球自身も死ぬわけです。でも、そのことを可哀想だと思わないでしょう?アリやハチはそういうことを一匹一匹が担当してやっているんです」。

エイリアン2

『エイリアン2』 © 2024 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. ディズニープラス「スター」で見放題独占配信中

もしもアリやハチと同じような習性をエイリアンも持っているのだとしたら?「一体が死ぬかどうかは大したことでない。コロニー全体を守れるかどうかが重要なんです。そうだとしたら、エイリアンを相手にするのはかなり恐ろしいですね」。

エイリアンは決して戦いたくない相手だが、それでは飼ってみるとしたらどうか?相当危険な飼育となりそうだが……?

飼えるなら飼って、観察してみたいですねぇ。危険なことはないですよ。どっちみち、間接飼育になりますからね」。間接飼育とは、生き物と飼育係が柵や壁に隔てられ、互いに全く触れることなく飼育する方法のことだ。

「だから、エイリアンよりも犬などの方がよっぽど危ないんですよ。事故も多いでしょう?ライオンに殺される人よりも、犬に殺される人の方が多いくらいです。ライオンに殺される人間なんて、年間で200名程度。それよりも、犬に噛まれて狂犬病にかかって死亡する件数※の方がよっぽど多い。」
※厚生労働省によれば、狂犬病の死亡者数は世界中で年間数万人。

とはいえ、本当にエイリアンを飼育するなら、相当な警戒が必要となりそうだ。町田氏が考えるところによれば、エイリアンの飼育ケージに面積はさほど必要ない。「広くするよりも、狭くして、その分の経費で壁を厚くしたり、酸に強い構造を作ったりする方がいい」と、エイリアンが放つ恐れのある酸対策の方が重要だと説く。

「それに、広ければ広いほど、盲点ができて逃げやすくなってしまう。管理上、必要以上に広くしない方がいいです。チーターの場合は、狭いところで飼育すると繁殖が妨げられるんですけどね。こいつらには、そういうのないでしょう。おそらく、6畳から、広くても12畳で十分だと思う、こんなのは。あんまり広くして暴れられて、激突して怪我をされても困るし。」

エイリアン:ロムルス

© 2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

なお、エイリアンには宿主の種類によって成体の姿が変化するという生態もある。例えば『エイリアン3』では、犬に寄生したことによって、四足歩行型のエイリアン(通称ドッグエイリアン)が誕生した。

宿主によって最終形態の形状が変わるというのはよくあること。地球上の生物に似ているところが面白いですよね。感心しちゃいます」と町田氏。「フェイスハガーもそうですが、実際の生き物の特徴がチラホラと垣間見られるところが興味深いですね。全く似ていない生き物だったら、面白くないと思うんですよ」。

そんな町田氏は、『エイリアン:ロムルス』を鑑賞した感想として「すごく面白かったですよ」と絶賛。もともと1979年の『エイリアン』第1作のファンだったという町田氏は、当時のようにCGではなく特撮を重視して撮影された本作について「1作目の魅力に通ずるところがありました。やっぱり、本物の生き物のような存在感がすごくありましたね」と評した。「『エイリアン』シリーズの生き物は魅力的ですね。もしも現実にいたらと考えさせてくれる。飼えるものなら、飼ってみたいな」。

『エイリアン:ロムルス』でフェイスハガーやゼノモーフたちは、真に迫る恐ろしさと共に襲いかかってくる。ここまで記事をお読みいただいたのなら、彼らが実際の生き物の生態を踏襲したリアルな存在であることがお分かりいただけただろう。劇場の大スクリーンと大音響でなら、奴らの恐怖を最も生々しい形で体験することができる。

果たして君は、生存率0%の絶望に耐えることができるか?全米第1位のサバイバル・スリラー映画『エイリアン:ロムルス』は2024年9月6日、日本公開。