おきく's第3波フェミニズム (original) (raw)

橋下発言について

先週書きました。寝かせていてもしょうがないのでアップします。
急展開していてついていけていないですが、橋下発言そのものよりもそれに引き連れて起動しそうな社会の底層の男性中心的国家主義的「本音」の侵出が懸念されます。

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橋下大阪市長が、「慰安婦制度は必要だった」と発言した。国内外から批判を浴びているが、その発言の問題の本質を十分掘り下げられていないように感じる。
もちろん、「慰安婦」制度が日本軍の設置したものであり、多くの女性たちが詐欺や強制により連行されたものであるという事実を指摘することは大事だ。だが、沖縄の在日米軍幹部に対して風俗業の活用を求めたということも併せて考えると、橋下氏の問題は、単に歴史認識について知識が足りないということだけではなく、性や人権、社会の認識について根本的な問題があることを露呈している。
風俗業がないと「海兵隊の猛者の性的エネルギーをコントロールできない」と氏は発言したが、「コントロールできない性的エネルギー」を向けられた女性のことを氏はまったく考慮していない。風俗業の中であれ多くの女性が性暴力、性犯罪に遭っている。それは橋下氏のような、男性のために女性を犠牲にしてよいという考え方が社会に根強くはびこっているからである。風俗業で働く多くの女性が、仕事の選択肢を奪われ、貧困の中で、危険で抑圧的な労働環境の中にいることを想像してほしい。社会的な偏見も厳しい。風俗業の中から少しずつユニオン等の当事者の声が出てきているが、橋下氏のように当事者たちに「危険な猛者」の欲求のはけ口をさせようという考えは、時代の流れに逆行している。発言を撤回して済む問題ではない。
氏の言葉を借りて、兵士が「コントロールできない性的エネルギー」を溜め込んでしまうとしたら、それはなぜだろうか。それは、軍隊が非人間的な、暴力のためにある組織だからである。
沖縄の風俗業界は、米軍占領時代、Aサイン制度という形で間接的に米軍によって管理され、多数の現地の女性たちが米兵に接客した。Aサインバーという、米軍の厳密な検査に合格した店と女性従業員のみが米兵にサービスを提供できるというシステムである。Aサインは危険な戦闘に命を賭けなければならない米兵たちの唯一の「息抜き」の場となり、とくにベトナム戦争中は大きな利益をあげた。このような巧妙なシステムがあったにもかかわらず、女性従業員たちは、ベトナム戦争帰りで荒れ狂う米兵に暴行を受け、殺害された例も多い。彼女たちは闇の中に消えてしまい、今でも沖縄の癒されない「傷跡」になっているように感じられる。
軍隊という非人間的な組織の中にいる兵士たちをどんなに「コントロール」しようとしても、女性に対する暴力は増えるだけなのである。それは、Aサイン制度や日本軍慰安所の歴史的現実が証明している。橋下氏は、性的エネルギーの解消が必要だと考えるなら、そもそも軍隊という組織の必要性から論じるべきである。少なくとも沖縄の市民は軍隊を望んでいない。
「慰安婦」被害者がちょうど今月に来日し、全国を回る。安倍政権を含め、日本政府のこの間の動きに危機感を抱いた被害女性がふたり、韓国から訪問して、橋下氏にも面会を希望している。大阪にも訪れるので、橋下氏は彼女たちのお話を聞いて、認識を改めてほしい。
その上で、橋下氏のような問題ある発言を許してしまう、今の日本社会の性のあり方、人権意識の低下にわたしたちは教育、マスコミ、社会活動あげて取り組んでいかなければならない。橋下氏は「建前論は不要」だと主張しているが、じっさい、この数日のようにテレビや新聞で「慰安婦」問題や沖縄の風俗業の存在が公的に議論されることは今まであっただろうか。わたしたちは、歴史認識や基地・軍隊が女性に与える暴力について直視して議論することを避けてきたのではないだろうか。橋下氏の発言に支持されるところがあるとしたら、普段私たちが目を背けてしまう社会の「闇」の部分にあえて触れたからだろう。橋下氏はそのタブーを犯し、議論を喚起したとはいえる。
だが、性的な行為や意識、欲求は誰かの犠牲によってしかコントロールできない恐ろしいものではなく、ひとりひとりが自分の身体を大事にし、正確な知識を得て、他者の意思を尊重しながら学んでいける、そうすべきものである。橋下氏の発言をきっかけに、社会的に性と人権について学んでいく機会とできるならば、「慰安婦」問題で国際的に非難されている日本を世界でも誇れる場所へ変えていけるだろう。

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