大事なことは忘れないリス (original) (raw)

リスは秋になると冬に備えて食べ物を貯蔵する習性があります。たくさんの木の実を地面に埋めたり、木の又に挟んだりします。そして、餌の少なくなる冬にこれらの木の実を食べ、生き延びるのです。

特に栄養が豊富なクルミの実はリスの大好物です。中でもオニグルミの殻は固く、埋めておいても腐ることはありません。また、この固い殻を割って食べることができる動物は少なく、盗まれる心配もあまりありません。

森林研究所では、秋にクルミをニホンリス与え、そのクルミがどうなるかを調べる実験を行っています。クルミの木の下に餌台を設け、そこに発信機のついたクルミを置くとやがてリスが来てクルミを持っていきます。2年間にわたりリスが持って行った156個のクルミの行方は次のとおりです。

56個はすぐに食べられ、44個を木の上に貯蔵され、地面に埋められたのが47個でした。多くのクルミが15メートル内に運ばれましたが、中には168メートルも運ばれたものもありました。貯蔵された19個が赤ネズミに食べられました。地面に埋められ、残されたクルミのうちリスによって回収されなかったのはわずか3個でした。

冬になり雪が深く積もると埋めた場所が分からなくなりそうですが、リスは木の実をほぼ確実に掘り当てることができます。それの広範囲に埋めた数十個のクルミを覚えているのは他の動物にはない能力です。この優れた記憶力があることにより、リスは餌の少ない厳しい冬を乗り切ることができるのです。

回収されなかったクルミはわずか3個ですが、すべて食べつくされないことに大きな意味があります。回収されなかった実は春に発芽することになります。それによってクルミの木が分布を拡げ世代をつなぐことに役立っているし、ひいてはリスの子孫も重要な食料を確保できることになるのです。リスの記憶力が微妙に完璧でないことが、リストとクルミの繁栄に役立っているようです。

参考文献

森林総合研究所、研究の“森”から(1995)