空港で荷物の超過料金が払えず困っていた日本人研究者に手を差し伸べてくれたモンゴル人。自分の頭で判断することの大切さ。 (original) (raw)

島村一平 @ippeishimamura

文化人類学・モンゴル研究。著書に『ヒップホップ・モンゴリア:韻がつむぐ人類学』(青土社)『憑依と抵抗:現代モンゴルにおける宗教とナショナリズム』(晶文社)『増殖するシャーマン:モンゴル・ブリヤートのシャーマニズムとエスニシティ』(春風社)など。編著に『辺境のラッパーたち』(青土社)など。発言は個人の見解です。

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昔、ロンドンの空港で、荷物の超過料金が払えず途方に暮れていた。ハンガリーで本を買いすぎて、イギリスの学会が終わって帰国の日のこと。手荷物のリュックに20㎏ほどの本。スーツケースにも40㎏ほどの荷物が入っていた。当時の僕は、ポスドクで収入が少なかったのでクレジットカードをつくれなかっ

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た。手元には50ポンドほどの現金。超過料金は約120ポンドだ。「これは、大事な本なんです!見逃してもらえませんか!」私の懇願に対して、アエロフロートのカウンターのブロンドのお姉さんは、「お金が払えないなら、あちらから去りなさい」と入り口を指す。目が冷たい。

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僕は同じロンドン発モスクワ経由成田行に乗る日本人と思われる人に声をかけた。「日本の研究者なのですが、本を買いすぎて超過料金を払うお金が無くなりました。少しだけ本をもっていただけないでしょうか?」50代くらいの二人のマダムは、「私たち荷物がたくさんあるので、ごめんねえ」どうも見ても

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かの女たちの荷物は軽そうだ。次に大学生らしき3人組に声をかけた。「いや、無理ですよ」その後、何人かに声をかけたが同じ結果。せめて服でも捨てて荷物を軽くしよう。日本人に助けを求めるのをあきらめた僕は、ヒースロー空港の広いロビーでスーツケース開けた。そしてビニール袋に服を詰め始めた。

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服を捨てたらその分、本を持ち帰れると思ったからだ。そんな矢先、ふと顔を見上げると向こうから見慣れた民族衣装を着た人々が。しかも著名人。モンゴルの名優S氏だった。とりあえず、声をかけてみた。「サインバイノー!(こんにちは)」相手も返してくる。

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イギリスでモンゴル語を話す日本人に興味を示したのか、しばらくおしゃべりをした。彼らは劇団の公演でイギリスを訪問していた。S氏のほかに劇団員やスタッフなど総勢20人ほどのご一行。ロンドンで公演を終えて、モスクワ経由でウランバートルへ帰国しようとしていた。つまりモスクワまでは同じ飛行

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機だ。ふと、S氏は私を見て尋ねた。「で、君はここで何をしているんだい?」 「僕はモンゴル研究者ですが、本を買いすぎて現金がなくなり、超過料金を払えなくなったんです。仕方ないから服でも捨てて荷物を軽くしようかと」「じゃ、私が持ってあげるよ。チェックインを済ましたら、君に中で本を返すか

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ら」座長のS氏がそういうと、他の俳優やカメラマンといったスタッフが次々、「俺はこの本を持つな」「私はこの三冊」と少しずつ持ってくれた。あっという間に30kg本を分散してもってもらうことになった。僕は胸を張ってチェックインカウンターに行った。いじわるいカウンターのお姉さんは、

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私にきいた。「あなたの重い荷物はどうしたのよ?」「それが友人たちが持ってくれることになりまして。。。」そう答える僕に、彼女は「何だって?」と声を少し荒げた。そして「何か、問題が起こっても私たちは一切、責任をとりませんからね!」と言って、発券してくれた。

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チェックインを終わると、モンゴルの劇団の人々は私に次々と本を返してくれた。そして飛行機を待つ間、彼らと楽しくお酒を飲みながら過ごした。さてこのストーリーで別に僕はモンゴル人はやさしくて日本人は冷たいといいたいわけではない。日本では、

島村一平 @ippeishimamura

「外国に行くと他人の荷物を持ってはいけない」と教えられる。麻薬などを持たされる可能性があるからだ。だから、マダムや大学生は私の本を持ってくれなかった。その情報は、モンゴルの人々も同じように知っている。 問題は

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その情報を鵜呑みにするか、自分の頭で判断するかの違いだ。おそらくモンゴル人の俳優は、日本人の私がモンゴル語を話し、学術書を大量に持っているのを見て、犯罪と関係のある人物ではないと「判断」した。だから持ってくれたのだと思う。長年、モンゴルの

島村一平 @ippeishimamura

人々と付き合っていて思うのは、新聞やニュース、本といった情報を頭ごなしに信じずに、自分で判断する人が多いという点だ。どっちがいいか、悪いかではない。ただ思考パターンが異なる彼らに救われることもあった、という話。 おしまい。

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考えさせられる良い話に共感続々!