大学の鉄研仲間にいた全盲者から山での撮影会に同行したいと言われ「ついて来てどうするのか」と尋ねてしまった時の返事とその当時の思い出 (original) (raw)

Ryoto Railway @Sakurai227_1000

実際、行った先の山の中で彼は実に楽しそうにしていたが、それだけではなかった。 山間の曲がりくねった線路を俯瞰する撮影地では列車の接近を察知しにくく、時刻表にない列車の撮り損ねも多かったが、彼がいる場合に限ってそれはまずなかった。 彼が1km以上先の列車を察知して知らせてくれるからだ。

Ryoto Railway @Sakurai227_1000

左に見えるトンネルの反対側から迫ってくる列車。右に見える尾根の向こうをこちらへ向かって走ってくる列車。我々晴眼者には見えるどころか、警笛でも鳴らない限り来てることすら分からないその列車を、彼だけが察知できるのだ。これには驚いた。元ツイを見て、そんなことを思い出した。

Ryoto Railway @Sakurai227_1000

そんな彼にも、どうにも太刀打ちできない大敵があった。雪だ。積もった雪は音を吸収するうえ、滑って転びでもすればたちどころに方向を失ってしまう。 大阪・青森間を結んでいた特急「白鳥」が廃止になる直前の冬、彼が言った。 「なあ、一緒に「白鳥」に乗ってくれないか。」

Ryoto Railway @Sakurai227_1000

「白鳥」には私も乗りたかったが、そんな予算は捻出できそうにもない。その旨を告げると、「運賃が半額ならどうだ。介割が使える」と。 「それなら何とかなるが...だが真冬の青森、それも深夜の到着では、宿まで歩くだけでも君の安全を保証できない。介助者としては俺では不適格だろう。」

Ryoto Railway @Sakurai227_1000

「分かってる。だがそれで構わない。自分一人で行くよりずっとマシだし、鉄仲間の中ではRyotoがいちばん先導がうまいんだ。」 「...わかった。一緒に行こう。俺も君も、あれに乗るにはそれしか方法がないようだしな。」 こうして、若さゆえの無鉄砲で二人で真冬の青森へ出かけた。

Ryoto Railway @Sakurai227_1000

念願の「白鳥」車内での楽しい12時間はあっという間に過ぎたが、やはり深夜の青森駅に着いてからが問題だった。予約した宿は駅から400mほどだが、路面は圧雪が固く凍ったアイスバーン。 私の肘を掴む彼の手が珍しく震えている。自分も彼も転ばぬよう、一歩一歩慎重に足の踏み場を選んで進んだ。

Ryoto Railway @Sakurai227_1000

宿までのわずか400mを進むのに、15分ほどかかっただろうか。 暖房の利いた部屋に通され、無事にたどり着いた安堵感で放心する私に、彼は加熱機能付きのカップ酒を2つ取り出して言った。 「こんなお礼しかできなくて申し訳ないけど...連れてきてくれてありがとう。一緒に飲もう。」と。

Ryoto Railway @Sakurai227_1000

「なあに、俺の方こそ...」と言いかけたが、彼の心遣いに胸が詰まってそれ以上は言葉にならなかった。 その後社会人になって、幸いにもそこそこ良い酒を嗜めるようにはなったが、何よりも鮮烈に記憶に残っているのは、あの晩二人で飲んだカップ酒をおいて他にはない。 そんな、若かりし頃の思い出。

ツイート主さんが引用していたツイートの発端となったツイートはこちらにまとめられています

目次

一連のツイートに対する感想

雨水 @amamizu893

@Sakurai227_1000 お二方の友情に心温まる思いでした。 鉄道への思いを同じくし、互いに尊敬し合う心があったからこその体験ですね。若さのかけがえのなさ、素晴らしさが痛いほど伝わりました。 文章も素敵で、まるで小説を読んでいるような気持ちでした。改めて、ありがとうございます

今でもその方はお元気でいらっしゃるようです