「アウラ、落語家になれ」アウラが落語家になる『葬送のフリーレン』の二次創作、怪文書なのに秀逸なストーリーが綴られたX文学の名作だった (original) (raw)

陽介 @052ysk

アウラとフリーレン、双方の魔力を秤にかけた服従の天秤《アゼリューゼ》は、果たしてフリーレンへと傾いた。 勝利を確信し敵に背を向けたフリーレンは薄氷の刃の如き声でアウラへ命ずる。 「アウラ、落語家になれ———」 敗北の色に染まる頭が言葉の意味を理解するより早く、アウラの体は戦場から駆け出していた。極東の島国を目指して。 いくつもの船を乗り継ぎ辿り着いたこの国で、土地勘もツテも無いはずのアウラは何かに導かれるまま(あるいはこれもアゼリューゼの力だったのかもしれない)とある落語家の門を叩く。 泣き落とし。癇癪。時には掴みかかるなどしながら七転八倒三日三晩。テコでも動かぬ座り込みの果て、ついに入門を許可される。 これで落語家になれた。やっと解放される。フリーレン許すまじ。様々な感情が湧き上がるも体が言う事をきかない。 ああそうか、自分はまだ入門したに過ぎず落語家になった訳ではないのだと理解した。 ここまできたなら成ってやろう。落語家に。真打に。そしてこの呪いが解けたならフリーレン。必ず貴様の首を掻き切ってくれる。 500年生きた大魔族としての矜持が再び燃え上がった。 ほどなくしてアウラは見習いから前座へ。 師匠宅での雑務はもちろん、寄席でめくりの出し入れ、太鼓の演奏、楽屋でお茶出しも、なんでもやった。はじめて担当した開口一番はさ無惨なものだった。 その屈辱がまたアウラを高みへと押し上げた。 しかしアゼリューゼの呪いは解けぬまま30年。 「師匠、アウラ師匠、起きてくださいもうじき出番ですよ」 去年はじめてとった弟子の少女が肩をゆする。 「ああ、もうそんな時間なのね」 「師匠、楽屋で居眠りなんて昨晩のお酒がまだ残ってるんじゃないですか?」 「少し酔ってるぐらいが私は丁度いいのよ」 真打・立川アウラ、年末最後の寄席には多くの客が詰めかけている。 弟子が奏でる出囃子の音。 ゆっくりと高座へあがる。 演目は芝浜。アウラの十八番だ。 少し茶で口を湿らせ客席に目をやる。 最前列中央。そこには1人のエルフがいた。 フリーレンだ。 腑の底から積年の憎悪と殺意が湧き上がる。と同時に奇妙な感情が鎌首をもたげてきた。 憎いこいつを、笑わせてみたい—— 憎い仇を。氷の様に冷たい表情をしたこのエルフの顔を。笑いで歪ませてみたいと思ったその瞬間、フッと体が軽くなる。 ついにアゼリューゼの呪いが解けたのだ。 アウラはいまこの瞬間、落語家として完成したのだ。 フリーレンの瞳を真っ直ぐ見つめたあと客席全体をゆっくり見渡し、自分の思いついたふざけた考えに思わずフッと鼻が鳴る。 「え〜〜......... 今日はちょいと予定を変更して奇妙な天秤にまつわる噺をひとつ———」 真打・立川アウラ。 伝説の60分がいま、はじまる。 ⠀

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