腸管出血性大腸菌について (original) (raw)

Y Tambe @y_tambe

そもそもファージが発見されたのも、赤痢菌を溶かす現象からだったはずだし。あと、性線毛による薬剤耐性の伝播だって赤痢菌あたりで研究された。そういう面でも、研究史のいろいろなところに赤痢菌は絡んでくる。

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その後、19世紀になるとヨーロッパで赤痢がしばしば流行するようになる(ナポレオンのロシア遠征のときに発疹チフスとともに赤痢が流行したという話があったり)。

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その後、19世紀末にかけて、コッホやパスツールによって医学細菌学が隆盛する。赤痢菌もまた、1897年に志賀潔によって発見された。

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赤痢はその後もしばしば(日本を含め)世界各地で流行を起こした。ただし衛生環境の改善とともに、先進国では徐々に縮小していき、それに伴ってか、強毒型よりも弱毒型の流行が増えている。

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他方、1950年代にアメリカのいくつかの州で、O111:H–による集団感染が発生し、当時の症例記録から、後にこれがHUSを伴う、EHECであったと考えられている。これがEHEC発生の最初の記録と言われる。つまりこの頃までに、赤痢菌からO111への志賀毒素の伝播が起きた。

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赤痢菌から大腸菌への志賀毒素(ベロ毒素)の伝播は、赤痢菌が持つファージによって行われたと考えるのが妥当だろう。実際、ベロ毒素遺伝子を持ったコリファージ(大腸菌ファージ)の存在が現在は見つかってる。これらのファージは、しばしば溶原化したりすることも知られてる。

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ざっくり言うと、ファージが赤痢菌や大腸菌のゲノムに潜り込み、またあるときはそこから出て行き、そのときついでに別の遺伝子も持ち出したり…そうする過程でさまざまな遺伝子のやり取りに関与してる感じ。

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そういうやりとりが赤痢菌と大腸菌の間で行われたはずなのだが、本来ヒトだけを宿主とする赤痢菌と、ヒトと他の動物の両方を宿主としうる大腸菌が出会える場所は、ヒトの腸内だけ、ということになるわけで…。

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(実は一部のサルも赤痢菌の宿主になりうるのだけど、O111が出現したのが20世紀だと考えるならば、その直前にヒトの世界でしばしば赤痢菌が流行してたのと話は合う。ただ実はもっと古くからあって、赤痢菌の発見以前に「赤痢」と診断されてたものにEHECが混じってた可能性も否定はできない)

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このO111流行の後、1977年に「ベロ毒素」が発見される。このときO111、O26ほかいくつかの血清型の大腸菌が発見された。これらは恐らく、同じ祖先を持つ。

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一方、O157による出血性下痢の集団が最初に報告されたのは、1982年のアメリカだとされてる。ただし1973-82年の間にイギリスとアメリカで2系統、1978-82年にカナダで6系統の、O157(=157番目に見つかった型のO抗原を持つ大腸菌)が分離されている。

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後の調査で、そのうち1975年に分離されたO157の患者で出血性下痢が見られていたため、おそらく1982年以前−1970年代の初期には「腸管出血性大腸菌O157:H7」が出現していたと考えられる。

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この「O157:H7」の祖先は元々、腸管病原性大腸菌(EPEC)という「普通の食中毒性大腸菌」であった。これがさまざまな遺伝子を取り入れていく。EPECのうち、O55:H7が、ベロ毒素2の遺伝子を持つファージに感染して遺伝子を獲得した後、別の遺伝子の働きでO抗原がO157に変化。

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この「最初のO157:H7」はベロ毒素2のみを持ち、ここから枝分かれして、鞭毛を失った非運動性のもの(O157:H-)が生じた。O157:H7の方はその後、ベロ毒素1も獲得。この他にもいろいろな病原因子や遺伝子のやりとりがあって、現在のO157:H7に至る、と。

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…このようにO157は、O111やO26とは起源が異なる。1980年代以降、O157が他の血清型よりも頻度が高かったのは、こうした事情から、ベロ毒素以外の病原因子の違いもあったのかもしれない…けどまぁ、O111とかもそっちはそっちで進化してるようで、今は病原性には大差なさそう。

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昨年、ヨーロッパでアウトブレイクしたO104も、O157やO111とは別途に遺伝子を獲得して、腸管出血性になったものだと考えられてる。

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赤痢菌とは違って、大腸菌はヒト以外のさまざまな動物に常在してる。なので、ベロ毒素の遺伝子は、そうした大腸菌の間を感染するファージ(コリファージ)に、既に取り込まれてる。これが他の型の大腸菌に、遺伝子を伝えることになれば、また新たなEHECが出現する可能性がある。