「通信の最適化」に関する高木浩光氏の見解 (original) (raw)
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
並のエンジニアからすれば「通信の秘密」と聞いて「そんなの秘密でなくね?」と違和感を持つのはわかる。だが、ヘッダを見てルーティングすることでさえ一旦「通信の秘密侵害」としたうえで「正当業務行為」として違法性阻却されるという、法律上の考え方なので、技術感覚で文句を言っても始まらない。
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医師による外科手術も構成要件上は傷害罪を構成しているが、医療従事者による医療行為として行われるものは正当業務行為として違法性阻却されるという考え方になっている。そのため、医師であっても医療行為から逸脱する行為をすれば傷害罪を構成する。(同意の下でも傷害罪かという別の論点はある。)
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それと同様に、電気通信事業者が「通信の最適化」を行うことが犯罪でないためには、正当業務行為と言えるものかがまずあり、正当業務行為でないとしたら同意があるかということになる。「悪気はないのだから」と「業務だったら何でも正当業務行為」という勘違いがよくある(例として…
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…(例としてドラッグストアが、客の医薬品販売の事実をCCCに渡す件を、正当業務行為だと主張したことがある。)がそんなわけがなく、かつて電気通信事業について総務省で検討された例として、DPI広告のケースがあり、正当業務行為ではないとされた。
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「通信の最適化」といってもいろいろあり、TCPの中身を変更するものと、しないものがあるところ、変更しない「通信の最適化」については、正当業務行為と判断され得るかもしれない。中身を変更する例として、ガラケー時代のGWによるコンテンツ変換がある。
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ガラケー時代のGWによるコンテンツ変換が正当業務行為となるのは、そういうサービスとして初めから社会に認知されていたからだ。そこでは個々の利用者の同意の有無は関係ない。 他方、今日のスマホに対する「通信の最適化」は、そういうサービスとして社会に認知されていない。なぜなら…
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
…なぜなら、サービスの販売時に、「これはコンテンツ変換サービスです」といった表示はなく、「データ通信サービス」と称して販売されているのであり、データ通信サービスと言えば、TCP通信はデータはそのまま届くという当然の前提が社会の常識として既に確立していたからである。
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したがって、「データ通信サービス」と称して販売している限り、中身の変更を伴う「通信の最適化」は正当業務行為に当たらない。
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
正当業務行為に当たらないとなると、次に同意があるかが問題となる。 通信の秘密について、一方当事者の同意があれば秘密が解除されるとの考え方があるが、これは通信の秘密の保護法益を個人的法益と捉えた発想であり、そうではなく、通信の秘密の保護法益は社会的法益であるとする説がある。
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今般のキャリア各社の「通信の最適化」について、利用者の有効な同意があると言えるかという点は、様々な意見があるところであろう。サインしているのだから契約として成立していることに疑いようもないという意見が強いと考えられるが、実は、そのことはあまり本論に影響しない。なぜなら、…
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
…なぜなら、通信の秘密社会的法益説に立てば、もう一方の当事者であるコンテンツ提供者(Webサイト側)の同意がないから、通信の秘密は解除されないことになるからである。 ここで、「コンテンツは公開なのにどこが秘密なんだ?」という違和感を技術者は感じるだろう。ここで注意したいのは…
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
…注意したいのは、秘密が侵害されているのはコンテンツだけではなく、「通信の最適化」のために中身を取り出して処理する部分である点である。同意があればその秘密が解除され得るというときに、コンテンツ提供者側に同意がないのである。
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
そうすると次の疑問が湧く。コンテンツ提供側に同意がない限り通信の秘密侵害だと言うならガラケー時代のコンテンツ変換GWも通信の秘密侵害になってしまうんじゃ?と。そこは、同意がないかもしれないが、それ以前に、そういうサービスとして正当業務行為に当たるので、同意の有無は問題とならない。
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
総務省が2010年にDPI広告についてまとめた「第二次提言」では、一方当事者の同意で足りるとした上で、「通信の秘密という重大な事項についての同意であるから」という理由により、「その意味を正確に理解したうえで真意に基づいて同意したといえなければ有効な同意があるとはいえない」とした。
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しかし、「有効な同意とされるためには、例えば、…契約の際に行動ターゲティング広告に利用するためDPI技術により通信情報を取得することに同意する旨の項目を契約書に設けて、明示的に確認すること等の方法を行う必要ある」と書かれたため、サイン用の紙に書いとけば足りるという運用が蔓延った。
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
今回の調査で、実態として知らない人がほとんどであることが明らかになっており、それでも有効な同意なのか?と追求するのはアリだが、契約の無効を言うには若干ハードルが高い感じもするところ。 ところが、先の通り、社会的法益説に立つと、一方当事者の同意では足りないので違法となるのである。
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
ここで実質的違法性が問題となり得る。同意が問題となっているのはコンテンツ提供者側であり、そちらに何の実益が害されているのか?という疑問が出るだろう。ここで、著作物の同一性保持権が関係してくる。Exifの切除は当然として、若干の劣化をさせる場合に、いくらかの実害があることになる。
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
この劣化が十分に小さければ、著作権法の同一性保持権侵害を主張しても、訴訟で負けるかもしれない。だが今はその話をしていない。正当業務行為でなく同意もないときに、実質的違法性があるかについてであり、少しでも実害があれば実質的違法性ありと評価され得る。ましてや、…
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
…、Webサーバで提供したビット列は(正当業務行為となるコンテンツ変換GWを通すでもしない限り)そのままダウンロードされるはずとの期待の下で公衆送信しているのだから、それが裏切られるという害があると言える。 (この点は、サーバ側に害のないタイプのDPI広告より違法性が高い。)
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
あとは、混雑時にだけ適用することに(docomoやauがそうしているように)すれば「緊急避難」として違法性阻却されるという主張があり得るが、内容を改変せずともその分通信を遅らせることで重大事態は避けられるのだから、代替手段があるのであって緊急避難には当たらないとも言えるだろう。
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
なお、オプトアウトできるようになっていることは、違法性評価に何ら影響せず、違法性阻却しないし実質的違法性も軽減しない。単に、気づいてしまった客に逃げられるのを回避できる意義しかない。
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
以上はあくまでも私の見解。 どうすれば適法にできるかは、既に出ているように、「そういう変換サービス」として提供すればよい。 ブラウザの機能として提供するのは明確であるが、キャリアがやるとなると、スマホ向けにおいては、どうしても見えにくくなり、社会的に認知されにくい。そこで…
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
…そこで私の提案は、「インターネット接続」でも「データ通信」でもないサービスとして、名称を付けて販売すること。かつての「iモード」や「EZweb」のように。あくまでもiモード、EZwebという機能として販売する。その点、docomoが「spモード」と称しているのは、結果的に良い。
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
docomoは、spモードにおいてのみ「通信の最適化」を行っているとしており、わりとこの点に気づいているのかもしれない。(本来は別の趣旨からspモードと称したのだろうが。) しかし、spモードを「インターネット接続サービス」「データ通信サービス」と呼んだのでは、適法化できない。
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
景品表示法(優良誤認表示)との関係については再掲twitter.com/HiromitsuTakag…
Hiromitsu Takagi @HiromitsuTakagi
「通信の最適化」は景品表示法の優良誤認表示違反。本来当然に内容変更を伴い得ない「インターネット接続」「データ通信」として販売されている。昭和時代に100%果汁でないものをジュースと呼んで販売していたのと同根。清涼飲料水と同様「インターネット」「データ通信」と呼ぶのは認められない。