チャールズ・ジョーンズ(香西泰訳)『経済成長理論入門 新古典派から内生的成長理論へ』 (original) (raw)
ソロー・モデルから内生的成長理論に至るマクロ経済モデルを、比較的簡易な数式で俯瞰。原著は1998年刊で、原題は”Introduction of Economic Growth”。実際に、本書にあるような理論を応用することでマクロ計量モデルを構築することが可能であり、政策評価や将来推計等に使用される。
モデル構築者の主たる関心は、成長と発展に関するいくつかの「定型的事実」を説明できるモデルを作ることにある。本書でも、最初にこれら「定型的事実」が整理され、特に著名なのは、ニコラス・カルドアに依拠するつぎの事実である。
事実5:米国では過去100年を通じて、
1.実質資本収益率は、上向きの傾向も下向きの傾向も示さない*1。
2.資本分配率、労働分配率もいずれの傾向も示さない。
3.1人当たり産出量の成長率はプラスで、時間を通じて相対的に一定していた-すなわち、米国は定常的かつ持続的な1人当たり所得の成長を示している。
本書が取り扱うモデルは総じて集計的な生産関数により、資本、労働の投入と全要素生産性により、産出額が決定する。
一方、人口増加率が経済成長率をもたらすローマー・モデル(第5章)など、モデルが想定する因果の方向性(逆の因果の可能性など)には、特に関心が示されていない。
ルーカスの開発経済モデル
ルーカスの開発経済モデルでは、最初に、個人の技能レベルを、利用可能な各種の資本財の種類によって規定する。
つぎに、をlabor-augmentingに、また、社会インフラが生産性に与える影響を生産関数に用いることで、国によって異なる成長のためのコストが表現される。
このモデルの帰結は、ジェイコブスの指摘した混合道徳や、アセモグル他『国家はなぜ衰退するのか』が指摘した収奪的制度の問題に相通じる。
AKモデル
本書の最後では、AKモデルという単純な内生的成長モデルについて触れ、その成長のガギが「一次性」にあることを示す。
現在、金融マーケットなどでは、生成AIへの期待が過度に高まっているが、その期待の先にある世界像は、限られた人口だけが産出に寄与し、他の人口はからの収益(配当)で生活を営む極限の市場経済と考えられる。農業の衰退で土地の投入が産出量に寄与しなくなったのと同様、極限の経済では、労働の寄与も産出量に影響しなくなる。そうした世界は、AKモデルの自律的な成長経済によく似合う*3。