テルマ&ルイーズ_傑作ど真ん中 (original) (raw)

テルマ&ルイーズ

1991 リドリースコット

ネタバレあります。

3度目くらいの視聴なんですが、今回が一番響きました。

いや今まで正直言って理解してなかったかもです。

なんであんなルイーズはいつもきいきい怒ってるの?

テルマはめちゃ綺麗だしスタイル抜群だけど、バカっぽいの?

若い頃に観たときは、ブラピも出てるし、ラストが衝撃的だし、ロードムービーエンタメとしても面白いので「まあまあな映画」くらいな位置で、そこまでこの映画の魅力が分からなかったですね。

30年立って。

いやこれ、もっと深くて大きな視野を持って、太い軸のもとに作られた作品やん、と気づきました。

リドリースコットさんは、ブレードランナーとかでも分かるように、なんせ細かい描写にこだわるタイプなのは、この映画でも分かるんですが、

例えば、

スーザンサランドン演じるルイーズが40過ぎて独身のウェイトレスで、一方テルマはこてこてビジネスマンの夫がいてお金にこそ困ってないけど、モラハラな夫に縛られてなんにも自分で行動できない無力な嫁。

そのディテールをスコット氏は割と細かく描いています。

もうこの時点で、この作品を好きになるべきだったなと。

つまり、彼女たちはそもそもあんまりなんにも、「持ってない」んですね。

その中でもルイーズという人は堅実で、サンダーバード買ったり、6000ドル貯めたり、ウェイトレスという仕事でなけなしのお金を貯めてコツコツ生きてきたわけですよ。

とにかくルイーズのこのコツコツがあっての、あのはちゃめちゃなロードトリップにつながることが重要。

だから彼女は、テルマの浅はかな行動が腹が立つし、でも同時に惹かれてもいる。

そして自立した自分と違って囚われの身のような主婦のテルマに同情のようなものもある。

前半のルイーズ=保護者然とした姿。

それがですね、はい。ご存知のように、後半から逆転に近い関係に変わっていく。

これがまたこの作品の大きな見せどころ。

6000ドルをブラピ演じるJDに盗まれ泣き崩れるルイーズに対して、ちょっと待っててと軽く告げて、マーケットと書いてある田舎の売店?でサクッと強盗して戻ってくるテルマ

そこからはもうはちゃめちゃですね。

一線こえて

吹っ切ったというか。

リドリースコット監督が、このあたりをすごく丁寧に描くから、というか全編を通してこの作品はとても丁寧なんですね。

無駄なシーンもセリフも全くない。

だから、2人の関係性の変化や、あれよあれよという間にどんどん救われない、でも痛快な方向に進むことを、すーっと受け入れられるんです。

下手すると、急にどーした?みたいな違和感だったり説明的になったり、なかなか難しいところを、すごく自然に受け入れていける。

で、もう一つ。

アメリカの荒野をサンダーバードで走り続ける2人に、セクハラまがいのちょっかいかけてくるトレーラーの親父への、過激な仕返し。

これもね。ただのやりすぎです。

そら。

でもね、ルイーズがいうんですよ。

あなたの奥さんや娘が同じことされていたら、あなたどう思う?

と。

このセリフはただものじゃないですね。

このシチュエーションでこの2人が、当たり前に、そこらへんに、平和な現代に無造作に転がっている、女性を無意識に貶めてもそれはそーゆーすけべで失礼な人もいるってだけで済ませてきた「男性社会」にものすごい大きな問いかけをしているんだと。

ハリウッドの世界でもどれだけの長いあいだ、男性が「女性」を性的対象以外に対等な尊厳ある存在であるとイマジネーションできる範囲の外に置いてきたかと。

私はこの作品を観ながらはたと思い出したのが、五社英雄作品。

女性がテーマでものすごい丁寧に作られていて、というのが共通している気がします。

私が感銘を受けた「櫂」をはじめとする五社監督の名作も、無駄なセリフもシーンもない類い。

しかし、そーゆー繊細な作品を頑固な職人気質風のおやっさんぽい(それも偏見)巨匠が作るってのもなんか不思議。

話がそれましたが、「テルマ&ルイーズ」は、丁寧すぎるくらい丁寧に作られているのが伝わってきたのが、今回の感動となっています。

2人が旅のなかで徐々にほんとにちょっとずつ、汚れていく感じとか、今回初めて、あ!と気づきましたよ。

でも丁寧に向き合い生み出されたからこそ、こういったジェンダーの問題や「人の尊厳」を、人間が生きる価値の本質を、エンタメのなかにきちんと横たわらせることができるのではないかと。

予算を顧みずそれができるのは、穿ってしまえば、名の知れた存在だからなのかもしれないけれど、

「映画好きなんやなぁ」

ともとても感じます。

映画を信じてるんだと。

余談ですが、リドリースコット監督は映画を作るときはいつも、まず撮影前に俳優たちとたくさん話をするんですって。

そうやって作品の理解や役作りを深めていくそう。

なるほど、だから完成度高いバチっとした映画になるんだろうなぁ。

ということで。

素晴らしかったです。

テルマ&ルイーズ。