岸田首相、宏池会のドン・古賀誠氏に「裏金558万円」キックバック疑惑 3059万円の不記載で起訴されたが収支報告書の訂正は2501万円、差額が使途不明 (original) (raw)

自民党の裏金問題について岸田文雄・首相はこれまで「安倍派や二階派の問題」と印象づけようとしてきたが、ここにきて自身が領袖を務めた派閥に重大疑惑が浮上した。しかも、その中身というのが、裏金問題で派閥の政治資金収支報告書を訂正するにあたって、さらに“裏処理”をしていたという疑惑なのだから救いようがない。【前後編の前編。後編を読む

国会答弁と矛盾する訂正に

岸田首相は、自民党の裏金事件関係議員の大量処分を4月10日からの米国訪問前にも決着させる方針だ。

「実態を確認し、本人の説明努力等も勘案したうえで判断する」

岸田首相は処分の内容についてそう語った。であれば、最も重い処分は、岸田首相自身に下されなければならない。岸田派(宏池会)の裏金について重大な問題を国民に隠し続けているからだ。

同派の裏金処理には新聞・テレビが報じない奇妙な問題がある。東京地検特捜部は岸田派が派閥パーティー収入の「3059万円」を政治資金収支報告書に記載していなかった容疑で同派の元会計責任者を1月19日に略式起訴した。

岸田首相は国会で、不記載の3059万円がどこにあったかを追及されてこう説明した。

「岸田派の全てのパーティー収入は銀行口座に入金されていた。元会計責任者が、どの議員の紹介によるパーティー券収入か不明な部分については、別にしていた。これが積もり積もることによって、さらには様々な事務的ミスによって、結果として不記載が生じてしまった。全て銀行口座に存置されている。裏金となったということではない」(1月29日の衆院予算委員会

3059万円は全額派閥の口座に残っており、キックバックはしていないとしたのだ。

岸田派は元会計責任者の略式起訴前日(1月18日)に、収支報告書(2020~2022年分)を訂正した。

特捜部が認定し、岸田首相が「全額派閥の口座に残っている」と説明したのは3059万円。だとすれば、訂正は「派閥の収入が3059万円多かった」という内容でなければつじつまが合わない。

ところが、実際に訂正された同派の政治資金収支報告書を見ると、「収入総額」と「翌年への繰越額」の金額がそれぞれ「2501万円多かった」と修正されただけだ。差額558万円が使途不明なのだ。

しかも、訂正された政治資金収支報告書には、この558万円を寄附したり、何かの支払いにあてたという記載はない。

時系列でいえば、特捜部の捜査から略式起訴の前日までに、岸田派の口座にあった裏金の中から558万円が忽然と消えたことになる。そのカネはどこに行ったのか。

「消えた558万円」疑惑の構図

「消えた558万円」疑惑の構図

カネの移動を辿らせない

奇妙な一致がある。岸田派が報告書を訂正した6日後の1月24日、岸田派前会長の古賀誠・元自民党幹事長が代表を務める政治団体古賀誠筑後誠山会」が政治資金収支報告書を訂正した。

理由は記載漏れで、過去3年分遡って「収入総額」と「翌年への繰越額」「前年からの繰越額」が558万円多かったと上方修正したのだ。

こちらは、“実際は政治団体にカネが多く入っていた”という訂正だが、元会計責任者の略式起訴前に岸田派から558万円の裏金が忽然と消え、略式起訴後に古賀氏の政治団体でカネが見つかった。金額も一致する。偶然にしてはできすぎている。

この訂正当時、地元紙の取材に古賀氏の事務所は、〈派閥からのキックバック(還流)が含まれているかどうかを尋ねたところ、担当者は「それも含めてお答えできない。事務的ミスだった」と説明した〉(西日本新聞1月27日付)と報じられた。

怪しいのは、岸田首相がその後、この裏金について説明を変えたことだ。

前述のように、岸田首相は1月29日の衆院予算委員会では3059万円が「全額派閥の口座に残っていた」と断言したのに、2月29日の衆院政治倫理審査会日本維新の会の藤田文武・幹事長から「不記載だった3059万円はぴったり残っていたのか」と質問されると、こう答えた。

「(政治資金収支報告書を)修正した金額に合う形で口座に残っていたと報告を受けている」

政治資金収支報告書の訂正内容とのつじつまを合わせたのだろう。

一連の自民党裏金問題を告発した上脇博之・神戸学院大学教授は、「現段階では事実関係は不明だが、岸田派が裏金3059万円のうち558万円を古賀氏に渡したのだとしたら」と前置きしたうえで、「そう考えると、今回の岸田派の政治資金収支報告書の訂正には多くの問題が生じる」と指摘する。

「問題は訂正された政治資金収支報告書に岸田派から古賀氏側への資金の移動が一切記載されていないことです。特捜部は昨年12月から裏金事件捜査に入り、岸田派に未記載の3059万円の裏金があることがわかった。その段階で裏金は全額岸田派が管理していたわけですから、昨年12月から今年1月18日に岸田派が政治資金収支報告書の訂正を行なうまでの間に、558万円が古賀氏に渡ったのではないかと考えられます。

その場合、岸田派は裏金の3059万円全額を政治資金収支報告書に記載したうえで、558万円を古賀氏の政治団体への寄附として記載する。古賀氏の政治団体も岸田派から寄附を受けたという訂正が必要です。あるいは、岸田派が古賀氏の政治団体から558万円を預かっていて、それを返却したとしても、やはりその旨を記載しなければならない」(同前)

そうした適切な訂正の方法が取られていない疑いがあるわけだ。

「しかし、岸田派と古賀氏の政治団体の訂正内容を見ると、どちらも政治資金収支報告書の公表義務(3年分)がある2020年以前から558万円の過不足があったかのように訂正している。岸田派から古賀氏側への資金移動が辿れないようにしているわけです。そうした訂正は明らかに立件された事実と矛盾する。これを政治資金規正法に照らすと不記載や虚偽記載に相当する。岸田派は立件された裏金問題の政治資金収支報告書の訂正にあたって、さらに政治資金規正法違反となる方法をとっていた疑いが浮上します」(上脇氏)

なぜ岸田派が558万円の資金移動を隠すような訂正をしたのか、そして疑惑に対して岸田事務所はどう説明するのか──。

後編に続く

週刊ポスト2024年4月5日号

岸田首相“宏池会のドン”に裏金558万円キックバック疑惑 岸田事務所に質すと「回答はしないこととしました」、宏池会は「指摘を受けておりません」

自民党の裏金問題について岸田文雄・首相はこれまで「安倍派や二階派の問題」と印象づけようとしてきたが、ここにきて自身が領袖を務めた派閥に重大疑惑が浮上した。しかも、その中身というのが、裏金問題で派閥の政治資金収支報告書を訂正するにあたって、さらに“裏処理”をしていたという疑惑なのだから救いようがない。【前後編の後編。前編を読む

東京地検特捜部は岸田派が派閥パーティー収入の「3059万円」を政治資金収支報告書に記載していなかった容疑で同派の元会計責任者を1月19日に略式起訴した。

岸田派はその前日(1月18日)に、収支報告書(2020~2022年分)を訂正した。特捜部が認定し、岸田首相が「全額派閥の口座に残っている」と説明したのは3059万円。ところが、実際に訂正された同派の政治資金収支報告書を見ると、「収入総額」と「翌年への繰越額」の金額がそれぞれ「2501万円多かった」と修正されただけだ。この差額558万円が使途不明なのだ。

そして奇妙な一致がある。岸田派が報告書を訂正した6日後の1月24日、岸田派前会長の古賀誠・元自民党幹事長が代表を務める政治団体古賀誠筑後誠山会」が政治資金収支報告書を訂正した。理由は記載漏れで、過去3年分遡って「収入総額」と「翌年への繰越額」「前年からの繰越額」が558万円多かったと上方修正したのだ。

元会計責任者の略式起訴前に岸田派から558万円の裏金が忽然と消え、略式起訴後に古賀氏の政治団体でカネが見つかった。金額も一致する。訂正された政治資金収支報告書には、岸田派から古賀氏側への資金の移動が一切記載されていないが、この558万円が岸田派から古賀氏側への裏金キックバックなのではないかと指摘されているのだ。

前会長に頭が上がらない

ではなぜ、岸田派は558万円の資金移動を隠すような訂正を行なったと考えられるのか。

岸田派の裏金は派閥パーティーの収入の中からつくられた。仮に558万円が、古賀氏側がこれまで売った派閥パーティー券代金の一部であり、それを岸田派が古賀氏側に戻したのだとすると、政治資金収支報告書に寄附として記載すれば、「岸田派はキックバックをしていない」という首相の説明がウソになってしまう。

「消えた558万円」疑惑の構図

「消えた558万円」疑惑の構図

それだけではない。岸田首相にとって派閥の前会長である古賀氏は今なお頭が上がらない存在だ。古賀氏は政界引退した2012年に岸田氏に派閥会長の座を禅譲して名誉会長に就任(2020年に退任)したが、引退後も派内に睨みを利かせてきた。

資金力からもその力の一端がわかる。古賀氏の政治団体古賀誠筑後誠山会」は寄附やパーティーで年間約6800万円の収入があり、繰越金は6億円を超える(いずれも2022年分)。さらに、数多くの岸田派議員のパーティーセミナーに会費を支出していることがわかる。

政治評論家・有馬晴海氏が語る。

「岸田さんは古賀氏から派閥の後継者に指名されなければ、総理大臣への道はなかったでしょう。だから頭が上がらない。しかも、岸田さんが派閥会長になった後、2人は緊張関係が続いています。古賀氏はハト派宏池会会長である岸田さんがタカ派安倍晋三・元首相の言いなりになっていたことに頼りないと不満を募らせ、2020年の自民党総裁選では岸田さんではなく菅義偉・前首相を支持する発言までした。それで岸田さんは大敗した」

岸田首相が総理になってからも、緊張関係は続いているという。

「形式的に解散したとはいえ、岸田派が政権を支えている状況に変わりはない。その中で古賀氏は岸田さんではなく、ナンバーツーの林芳正官房長官の後見人的存在です。岸田さんにとって古賀氏は恩人であると同時に、機嫌を損ねたらいつ政権の足元を揺さぶられるかわからない、気を遣わなければならない存在なのです」(同前)

そうした関係だけに岸田派内には「消えた558万円」について次の見方がある。

「古賀先生の政治団体政治資金収支報告書を訂正したのは岸田派が議員総会で解散を正式に決定した翌日だった。古賀先生は総理が一存で伝統ある宏池会の解散を決めたことに怒っているから、総理は文句を言われないように、解散前に古賀先生がこれまで売ってくれた派閥パーティー券の代金を返還したのではないか」(同派関係者)

岸田首相は岸田派を退会した後も、独断で同派の解散を決めるなど実質的な会長として権限を行使してきた。同派の裏金の会計処理についても逐一報告を受け、同意を与えていたはずだ。予算委員会と政倫審で微妙に発言を修正したのは、558万円の裏金の処理について知っていたからこそではないのか。

同派関係者が語ったように、古賀氏側への資金還流が岸田首相の指示や同意の下で行なわれた可能性は十分ある。

岸田首相、岸田派、古賀氏に「558万円」が岸田派から古賀氏に渡ったものなのか、岸田首相の国会答弁と政治資金収支報告書訂正の額が合致しないことはなぜかといった質問をぶつけると、岸田事務所は「宏池会がお答えするものだと考え、回答はしないこととしました」と丸投げ。岸田派は相当答えにくかったのか、意味不明に思える回答を送付してきた。

宏池会における収支報告書については、東京地検の捜査が尽くされた結果、地検において公表されたとおり、前会計責任者の時代においては収入の記載漏れが存在していたとの指摘がなされましたが、支出については何ら指摘を受けておりません。その後、検察の事実認定に従って所要の修正を行ったものであり、それ以上にご説明申し上げるべきことはありません」

検察の捜査で3059万円の不記載が認定されたのに、なぜ政治資金収支報告書の訂正額は558万円少なかったのか、そのカネが古賀氏に渡ったのではないか、という質問に正対しないので、改めて質問したが、「それ以上説明することはない」の一点張りだ。

古賀事務所は締め切りまでに回答はなかった。

解散の決まった派閥に巨額の“残余金”

岸田派の「消えた558万円」は見逃してはならない重大疑惑だ。

解散を決めた岸田派以外の派閥にも巨額の残余金がある。自民党では岸田派、安倍派、二階派、森山派の4派が解散を決定し、2022年末の段階で安倍派は約1億6000万円、二階派約1億7000万円、岸田派約7833万円、森山派約2195万円、合計ざっと4億円の繰越金があった。

残ったカネを議員で山分けしたり、別の政治団体に移し替えるやり方では国民は納得しない。

各派閥(政治団体)は解散を正式決定後、30日以内に最終的な収支報告書を総務省に提出しなければならない。だが、岸田派のように裏金を実際にあった金額より少なく報告すれば、解散時の政治資金収支報告書でも「残余金」を少なく見せることができる。

総理派閥による“元親分”への還付が認められるとなれば、他派閥も残余金隠しに走りかねない。

岸田首相は疑惑発覚当初から、自分は“党を刷新する側”“安倍派を処分する側”というスタンスできたが、新たな疑惑の浮上で構図は大きく変わる。最も説明責任を果たさなくてはならないのは、岸田首相その人だ。

(了。前編から読む

週刊ポスト2024年4月5日号